GOD EATER カスタマ   作:GREATWHITE

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今回もよろしければお付き合いお願いします。



孤高と孤独

「・・・。今回に限っては俺も死んだと思ったぜ。でもよ・・それにしてもあいつがあれ程好戦的だとは知らなかったな~。あんなバケモン相手に『逃げんな』って・・大人しい奴だと思ってたのによ」

「おっかねぇおっかねぇ」と言った感じにそう呟くシュンにカレル、タツミの二人は応えない。

あの場に居合わせたシュンを除くこの二人はエノハのあの痛々しいほど無理やり虚空に張り上げたような声に何かまた違うエノハの意図を薄々感じ取っていた。

 

そもそも。

あの凶暴なハンニバルが一時を境に全くアラガミらしい凶暴さを失った姿。

そしてその隣で同様に何かを悟ったように俯くエノハの戦意が喪失した姿。

常に殺しあう他ないゴッドイーターとその宿敵―アラガミが作り上げた光景としては違和感があり過ぎる。

あの光景はやはり異常すぎた。

 

しかしカレルは生来の性格上、そしてこれ以上あの規格外で割の合わない黒い化け物と関わり合いになりたくないという意図から深く詮索はせず、

一方タツミは年長者、先輩として何か一声をかけようと思案を巡らせたものの、詳しい事情を知らない、知らされていない彼は結局何も言えないまま、歯痒さを隠しつつ、いつものエノハに戻った彼に明るく礼を言って別れた。

この三人の中では恐らくシュンのような接し方の方がエノハにとっては有難いだろう。

エノハの言葉や態度、行動の裏を鋭く感じ取る人間よりも表面的にでたものを正直に受け取り、距離を開けてくれる方が今のエノハにとって楽だ。

取り繕う必要が無いのだから。

 

カレル、そしてタツミは何となく今はシュンの単純さ、鈍感さが羨ましかった。

 

足早に去って行ったエノハの後ろ姿を見送りながら二人はそう思う。

それほど普段の自分に戻った「つもり」の今のエノハの表情は痛々しかった。

 

神機整備室―

エノハは愛機を乱雑に開封した新品の培養液につける。リッカはまだ出張った先から帰ってきていないようで好都合だった。

今のエノハの神機にはリンドウ―つまり浸帝の細胞の破片が付着している。これを解析されるとまずい。

浸帝の正体をまだアナグラの仲間達に知らせるわけにはいかなかった。ようやく帰ってくると思っているリンドウが最早「手の施しようがない」、「殺さなければならない」と解った時の彼らの落胆を考えると危険だ。

極東全体の士気にかかわる。

主に第一部隊が怖い。

ソーマ。

アリサ。

そして・・・サクヤ。

例え直接リンドウの討伐を命令されなかったとしても日々常に命の危険にさらされる仕事を請け負うGEの中でも代表格といえる彼らにとってこれ程の懸念事、心配、不安の種を徒に増やすことにいいことなど一つもない。

 

―「敵」はアイツだけじゃない―・・・。・・・っ!!

 

そう考えた時、またエノハの心は沈んだ。最早完全にリンドウを仲間を脅かす「敵」と認識している事に。

ピタリとエノハは神機を洗う手を止め、立ちつくす。

手を止めてしばらくすると手元の異常なほど澄んだ培養液のベタ凪の水面に映った自分の顔を見る。

 

―なんて顔してやがるんだ。

人殺しの顔じゃないか。

こんな顔してお前は今まで殺してきたのか?

アラガミを。

そして

元々人間だったソーマの親父さんを。

 

そして今回は・・リンドウさんを・・・

 

バシャッ!

水面に映った自分の顔を殴りつける。波打った水面に浮かぶ自分の顔がより醜く、そして歪んで見えた。どれだけ水面に映った顔を殴りつけようとその顔は消えてくれない。それどころか新しく水面に映った顔はさらにどんどん凄惨で陰鬱な表情に変わっていくように見えた。そして苦笑した。

まるで殺人の痕跡を必死で隠滅しようとしている様な現状の自分の滑稽な姿に。

 

 

 

(・・本当に貴方はデコボコですね?)

 

―・・・うるさい。レン。

(解っていたはずでしょう?こうなることは。なのになぜ・・貴方は道を間違えたんですか?なぜボクを置いていったんですか?)

―・・・。

(だんまりですか。まぁ・・終わったことは仕方ないです。「次」を考えましょう。)

―・・次?

(当然です。今度こそ確実にリンドウを殺す為に次こそはボクを連れて行って下さい。もうあまり時間がありません。今回の様な幸運はもう無いものと考えてください)

―・・・嫌だ。

(・・その言葉は許されないことが貴方自身が一番よく解っているはずだ。タツミさんやカレルさんクラスで手に負えない相手―当然今度はアリサさん、ソーマさん、サクヤさん、コウタさん、そして貴方のいる第一部隊がまず作戦に駆り出されます。・・おそらくはあのアラガミがリンドウだと言うことが判明した後で)

 

レンの推測は正しい。例えここでエノハが浸帝の正体を隠した所で「ハンニバルの変異種」がでたという報告は既に伝達済み。当然調査が進むことになる。浸帝の正体がアラガミ化したリンドウと判明するのにさほど時間はかからないだろう。

 

(調査部隊が未知の新種調査中に襲われ、犠牲が出ることなど日常茶飯事です。リンドウは・・いずれ近い将来人間を殺してしまうでしょう。いや・・むしろあの「アラガミ」の危険性を鑑みて早速第一部隊に任務をアサインするかもしれませんね?今のところハンニバル種を正式に討伐したのは第一部隊だけだ。そのハンニバルの変異種となれば・・すでにある程度の対ハンニバルの経験を持つ第一部隊に調査と討伐を兼ねた任務が課されてもおかしくないです。あのアラガミがリンドウと知りつつ闘い殺されるか、リンドウだと知らないまま殺されるか・・それだけの差ですが)

―・・怒るぞ。レン。

(・・すいません。)

かなりキツイ言い方をしてきたが、それがレン自身が冷酷に徹しようとしているのが透けて見えた故、エノハは静かに窘める。

レンの口調が変わった。

(でも・・このままじゃ無駄な犠牲が生まれるだけだ!リンドウに仲間を殺させたいんですか!?あのアラガミがリンドウだと知って戦えない皆さんが目の前で成すすべなく殺されていくのを貴方は・・許せるんですか・・?)

―・・・。

(リンドウがかつての仲間を目の前で殺していくのを見るのはボクは・・嫌です。)

こちらがレンの本音なのだろう。さっきまでの挑戦的な口調よりよほど響くその声からエノハは顔を逸らし、眉をひそめる。

―・・・解ってる!全部・・・。

(なら・・)

―・・・。悪い。レン。少 し 眠  らせ て く れ

 

激闘の裏にあった葛藤。

それによってエノハの身体は元より精神もごっそり大きく削られていた。

エノハは洗浄を終えた愛機を両手で抱え、背中を壁にあずけるとそのままずるずると座り込む。

「・・・」

整備室の薄暗い天井をあてもなく見上げて沈痛な表情で眉をひそめて眼を閉じる。

その両手は眠っても尚―レンの神機を持つことを拒むようにしっかりと自分の神機だけを抱いていた。

眠っている間に誰かがやってきて自分の体を操り人形にしてリンドウの神機を握らせ、彼を殺しに行かないか不安―そんなバカなことをエノハの疲れた頭は考えていた。

しかしそんな意識もやがて消えた。

 

エノハは眠る。

 

まるで・・初めて目の前で仲間―エリックが戦死したあの日の彼のように体を小さくして。

 

―もう二度と目を覚まさないかも。

 

そんな不安にレンは苛まれる。

それほどに今のエノハの姿が小さく見えたからだ。消え入りそうに見えたからだ。

 

 

 

 

「・・・ハ・・・ノハ。エノハ!」

エノハは体を揺すられた。そして「いつもの」声が響く。

「・・・ん?」

 

「や」

女の子っぽくなく腰を落とし、立てた右ひざの上に右ひじを預け、気だるそうに汚れたグローブを白い頬に無造作に置き、真ん丸な瞳をエノハに向ける。頬に黒い汚れがついても気にしない。

 

それが彼女だ。

飾らない。

その姿がとても心地よい。

その声がとても心地よい。

現実から逃れようとする深い眠りからさえ目を覚ましたくなる。

 

「・・。リッカ」

 

「・・・ひどいカオ」

エノハの顔を見ながらそう一言つぶやき、彼女は首をかしげた。肩までの少しトリートメントの行きとどいていない灰色がかった髪を少し揺らし、ちょっと苦々しそうに微笑んだ。

ほおっと息をつく。エノハ、そして・・・彼の「中」にいるレンも同時に。

落ちくぼんだ眼窩の奥で僅かに光の戻った目で顔を傾け、エノハもまた微笑んだ。

 

 

 

「もぐんぐ・・・はい変はっはみはいはへ?(大変だったみたいだね)」

既に出張先のお土産の封を開き、口に入れた茶菓子を茶で流し込みながらリッカは「いる?」とでも言いたげに茶菓子を指差すがエノハは手だけ振ってやんわり断った。

リッカの味覚は少々変わっている。おまけに土産のラベルが「オツカレ―ドリンクまんじゅう」ではただでさえ現在食欲の無いエノハには少々敷居が高い。

「・・まぁ。ただでさえ厄介なハンニバルの変異種だからね。結構本腰入れてかかったんだけどやること為すこと効かない効かない・・。やれることが無くなってさぁどうしようかとなった時に撤退してくれたのは幸運だった」

「ふーん・・。あ、それで事後報告なんだけどさ?え~っと・・調査隊も目標の動きが速すぎてあっという間に撒かれたみたい。まぁ元々勝ち目がないって解っているせいかあまり無茶な接近はしなかったってのもあるらしいけど。で、最後に確認された地点とハンニバル種のテリトリー範囲を考えれば・・」

リッカは手元の端末をいじり、ホログラフィにして極東周辺の地図を出す。そこには浸帝が最後に捕捉された地点から予想される移動範囲を円で囲っている。

そこには海上すら広い範囲が含まれていた。そこにぽっかりと浮かぶ一つの地点がある。

エノハ達にとって因縁深い場所だ。

「ここらへん・・つまりエイジス近辺に潜伏している可能性が高いとか・・ハンニバル種は水陸関係無いから海に逃げられたら正直お手上げって感じらしいよ」

「・・そう」

エノハは少しほっとした。とりあえずリンドウが火の粉を払った結果、出かねない犠牲は避けられたと見るべきだろうか。

潜伏中に浸食がより進んでさらに状況が悪化するのを嘆くべきだろうか。

「・・・。とりあえず無理をせず出現した際に威力偵察を何度かしてじっくり対策を練ろうって感じかな?幸い何故か異常なほど好んで同種を捕食する偏食傾向が強いからハンニバルは減らしてくれるし、人間もまだ積極的に襲う傾向は無いみたいだし。・・うっかりテリトリーに侵入しなければ。だけど」

そう。

タツミ達、そして二匹のコンゴウはテリトリー範囲内に入ったから襲われた。しかし、今回のエノハの乱入で彼は縄張りを変えた。

おそらく僅かにリンドウの思念を取り戻した浸帝は出来るだけ人的被害の出ない地域に移動しようとしたのだろう。その結果恐らくリンドウ、そして彼とせめぎ合うアラガミ両者の利害が一致した場所に移動するはず。

 

つまり、ノヴァが居た影響下でアラガミの出現率が異常に増したあの場所―

 

エイジス本島だ。

 

あの場所は既に立ち入り禁止の超危険区域。アーク計画後、アーク計画の遺産、物資、資材、技術などを目的に何度も調査団、また盗掘を生業とする非法の連中が足を運んだが、次から次に現れる強力なアラガミに撤退を余儀なくされた。

人類の希望のはずだったあの島は皮肉にも今はアラガミの島。魔窟と化している。

人が立ち入らず、また餌のアラガミが向こうから湧いて出る場所。「今」の浸帝にとってこれ程都合のいい場所は無い。

 

 

―エイジス

 

どちゃり!!

耳障りな水気の混じった肉の音を響かせ、ディアウス・ピターがその巨体を横たわらせる。目が開いたまま最早ピクリとも動かないかつてのエイジスの王の顔に鋭いかぎ爪を擁した両手が添えられた。それは敗者に対する情けをかけた労いではなく、頭骨格をつぶしかねない程の圧力であった。

そこに「在る」のはただ自分の力を誇示し、己の立場を周囲に知らしめる―暴君の姿であった。

 

グ・・・・ガァァアアアアァアアアアア!!!!!

黒い炎を迸らせ、夜空に光る蒼い月に向かって黒き魔獣は吠える。

 

エノハの予想通り、リンドウ―ハンニバル浸食種はその時点ですでにエイジスを席巻していたアラガミを蹂躙。

新たな王となって強力な要塞と化したエイジスに君臨していた。

 

ハンニバルとしての本能―排他的で好戦的。

リンドウの本質―仲間、人々を少しでも危機から遠ざける為、守る為に戦う責任感。そしてその為にアラガミを殺さなければならない使命感。

 

その二つが同居した浸帝はまさしくアラガミが支配する孤島―エイジスの王に相応しかった。

 

しかしその暴君に与えられるのは・・徹底的、完全なる「孤高」。

 

―つまりは完全なる「孤独」だ。

己以外のすべての存在を排除、否定し、かつて彼を愛し、彼が愛した者すらもその手にかける存在にいずれなり果てる。

 

そうなってしまう前にケリを付けなければならない。

そしてそれが出来るのは・・

 

―俺だけだ。

確かに俺にはリンドウさんに対して消しきれない怒りや憎しみに似た感情がある。

だがそれでもやはり・・あの人は俺の恩人なのだ。

リンドウさんがいなくなったことで引き継いだ責任、責務に対して俺の中に出来た曖昧なそれら「しこり」の様なものに比べればそっちの方が余程明確であることは間違いない。

俺達をかばい、救ってくれた。その結果、今のリンドウさんがある。

 

彼を完全な孤独に追いこむきっかけは力の無かった自分達の責任でもある。

なら―

今自分が彼に出来ることはそこから彼を解放してやることではないか。

 

エノハは立ちあがる。

「・・・どうしたの?」

「・・ちょっとあいつとの戦闘で神機のリベットが緩んでるみたいなんだ。リッカ?少し診てくれないか?」

「あ。うん。任しといて」

 

リッカはエノハに背を向け、いつものように端末にエノハの神機をホログラフィに映してそれを流し見ながら手慣れた手つきで解体を行っていく。

 

リッカのことである。今からエノハがあろうことかリンドウの神機を持ち出そうとすれば必死で止めるだろう。怒るだろう。

当然だ。彼女はリンドウの神機がエノハに適合している事など知らない。

 

「・・・」

エノハは無言でリッカの背後に詰め寄る。

彼女には大変申し訳ないが少しの間眠ってもらうしかない。元々戦闘員ではない華奢な少女だ。後に残らない程度に加減して少しの間眠ってもらうことなど造作もない。

―・・女の子に手を上げるのは初めてだな。

これからやるかつての仲間殺し+この行為―何とも損な役回りだ。

 

―全て事を終えた後、皆は許してくれるだろうか?

アリサは怒るだろうな。

ソーマも怒るだろうな。

コウタは気を遣うだろうな。

サクヤさんは・・もう二度と口をきいてくれなくなるかもしれないな。

・・・リッカは許してくれるだろうか?

嫌われるだろうな。

・・・嫌われないといいな。

 

エノハは軽く息を吐く。

 

そして力を僅かに繊細にこめるように呼吸を止めた。

 

「すぅ・・・。っ!」

 

 

 

 

 

 




おつかれさまでした。読了ありがとうございます。

おまけ

「エノハ」

「・・・!ん?」
手刀をリッカの首筋寸前で止め、高温の物を触って反射的に引っ込めるように手を離す。
「んっ?どうした?何か問題でもあった?」




「・・・リンドウさんの神機はなんて言ってるの?」




振り向きざまにリッカはこう言った。



「・・・・!!!???」

「・・・」

「な、ん・・でレンのこと知ってるの・・・?」

(エ、エノハさん!!)

「え。・・!」

「・・?・・・っあ!」

「・・・マジ?」

「あ・・・。あぁ・・・」

不思議と肩から重荷が一気に抜けたようだった。
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