GOD EATER カスタマ   作:GREATWHITE

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少し長いです。今回もよろしくお付き合いください。



生きること

「何時から・・気付いてた?」

「・・厳密に言うと何も気づいちゃいないよ。ここにきて、働き始めて以来色々驚くことは多かったけど輪をかけて荒唐無稽な話だし。ただ・・」

「ただ・・?」

「私は君以上にここにいる神機達との付き合いは長い。長く整備し、関わっているうちに解ってくる。この子たちは意志があるって。君らゴッドイーターみたいに接続も出来なければ感応現象も感じることも出来ないけどそれぐらいわかる。彼らはただの機械、兵器じゃない。好きなこと、嫌なこと、嬉しいこと、悲しい事を感じる―喜んだり楽しんだり、落ち込んだり、不機嫌になったり、怒ったり・・・私達と変わらない。それが解るようになった」

そう言ってリッカは労るように解体した直後のエノハの神機の刀身を撫でた。まるで撫でられたネコや犬のように神機が落ち着いているのが解る。

「―で、そんな怪しい私は最近訝しげに思っていることが一つあったワケ」

人差し指を立て、やや自虐的な台詞を吐きながらも少女はカラカラと笑う。

「・・リンドウさんの神機がまるで別人になったみたいに感情が読み取れなくなった。何をしても無感動と言うか本当にただの機械になっちゃったみたいにね」

 

何が原因か?発端なのか?

リッカにはすぐに思い当たる節があった。そう。あの日以来だ。アナグラがアラガミに襲撃された日。

 

エノハがリンドウの神機に触れた日以来だ。あの日からリンドウの神機は別人・・別神(?)になった。

 

「リンドウさんの神機はね。ここでも古株の神機だから実は結構幅利かせてんのよ。そのくせやんちゃでね。寝つきは悪いし、結構甘えたがりってゆーか手のかかる方の神機だからさ」

 

―・・そうなのか。

(・・ノーコメントで)

 

「で、そんなヤンチャな神機がとつぜん悟ったように黙りこくっちゃって思春期の息子を見る母親の様な一抹の寂しさを覚えている時―」

 

―ニヤニヤ。

(・・・)

 

「突如リンドウさんの神機を熱い視線で眺めるようになったり、一人でいる時も妙に楽しそうにしていたり、初恋ジュースをあれほど嫌がりながら『付き合い上仕方なく』みたいな感じで飲んでいたり、その他色々と妙な奇行に走っているエノハに気付いたわけです」

 

―・・・。

(ニヤニヤ)

 

「まるで・・どっかの誰かさんに私の代わりに振り回されているみたいにね」

リッカは優しい目をしてリンドウの神機を見る。そして今度は一瞬悪戯そうな眼をしてリッカはエノハをふふんと睨む。エノハはすくんだようにびくっと体が痙攣した。

「そして今日とうとうエノハにカマをかけてみたわけ。・・見事にひっかかってくれちゃいました」

心底うれしそうにしてやったりな表情でリッカは微笑んだ。

「・・・ハッ」

エノハも苦笑いした。はめられたというのに全く嫌な気分が生まれない。

ほっとした。

 

「で、話を戻すと」

エノハの心根が楽になった事を見届けると少女は一転、

「・・・」

「結局・・なんて言ってるの?リンドウさんの神機・・『レン』君って子は。今エノハが追い詰められているのも、悩んでいるのもそれと関係があるんでしょ」

「・・」

流石にすべてを話すのは抵抗があった。エノハは思案する。どこまでの事をリッカに話していいものかと。しかし、エノハのそんな思惑にリッカは勘付いている。開示する情報を限定しようとしているエノハの思惑にストップをかけるように―

「出来れば全部話して。話せばもっと楽になるかもしれないし、協力も出来るかもしれない」

真摯な視線と声色でリッカはエノハの俯く表情を覗き込む。しかしやはりエノハは性格上基本隠し事をする質だ。まだ黙りこんでいる。そんな煮え切らないエノハに業を煮やしたリッカは次の手に出る。

「・・・別にそこまで話したくないならいいんですけどねー私殴って気絶させて勝手にすれば?そんなことしたらもう二度と口きいてやんないし、アリサ達にもツバキ教官にもチクってやる。社会的に死んだも同然だね。エノハ」

「・・!そこまで気付いてたのか・・」

「テンパリすぎ。キミの神機の刀身にばっちり映ってたよ。背後に忍び寄る陰惨な顔した暴力男の顔がね~」

 

―チクったのはお前かい・・・!

リッカに撫でられているエノハの神機がふふんとでも言いたげに佇んでいた。

しかし・・その添えられていた手が僅かに震えているのに気づく。

 

「・・・自分が男に殴られるかもしれないって直前の女の子の怖さって解る?」

 

「・・・!・・」

返す言葉もない。

 

―参った。参りました。

 

 

エノハは全ての事をリッカに話した。

事の顛末。

レンの事。・・・今のリンドウの事。

潜伏しているハンニバル浸食種が他でもないリンドウである事だ。

話している最中、別段驚く事はなくリッカはうんうんと聞いていた。内心驚きが無い訳ではない。結構に信じがたい話だ。

が、エノハが自分を殴ろうとするほど追いつめられていた事から彼の話す「事」の信憑性、緊急性を理解している彼女は自分の驚く反応でエノハが話しづらくなり、余計な時間を費やす事を嫌がったのだろう。

 

「・・成程ね」

話が一段落した段階でようやくリッカは足を崩し、腕を組んだ。

「・・リンドウさんの状況はもう取り返しがつかないレベルに達してる。そこにハンニバルの因子を大量に取り込んだ結果輪をかけて厄介なアラガミになった。対抗できるのはかつてのリンドウさんの神機だけ・・今回戦ってみて解った。俺の神機では対抗できないことが」

「聞いたことある。アラガミ化してかなり時間が経過した神機使いは通常の神機の攻撃を受け付けない可能性が高いって」

「それを使えるのは俺だけだ。つまりリンドウさんを確実に殺せるのも・・俺だけってこと」

「・・・」

「これが話せること全部だ・・聞いてくれてありがとう」

「・・ウソツキ」

「え?」

「まだ話せてない事があるよ」

「いや・・全部話したはずだけど・・?」

「エノハの事は」

「・・え」

「今までの話は遅かれ早かれ解る事。調べが進めば殆どの事は解る。でも・・エノハの事は話さないと伝わらないよ。君が何を思っていたのか、そして今どう思っているのか、どうしたいのか。それを私は聞いて無い」

「・・・・」

「話しなよ。ここまで来たんだからさ」

「いや・・それは」

「安心しな。お姉さんはキミの言葉を全て信じているぞ?」

 

「・・・殺したくない」

「だよね」

「でも・・一方で俺がリンドウさんに対して納得できない所を払拭できない事も確かなんだよね。リンドウさんが居なくなってあの人が残したもの、やり残したことの道を引き継いで、なぞって行く上で・・どうしても俺の中で消せない感情が生まれたんだ―なんで俺がこんなつらい思いしなければならないんだって、俺だって痛いこと、辛い事は嫌だし、悲しい事も嫌だ。・・人だって殺したくない。リンドウさん、なんで俺にあまりにも多くの事を教えないままに居なくなっちゃったんだって」

「・・・」

―・・だろうね。だってエノハはまだ配属されて一年足らずでこんなにも色んな事に巻き込まれたんだものね。それも中心になって、矢面に立たされて。

「すげぇ大変だったんだぞって・・面と向かって言いたくなった時もあったな。リンドウさんに」

「・・・そう」

「で、今度はそのアラガミ化したリンドウさんがあろうことか俺の仲間を襲った。リンドウさんの部下でもあった仲間を。そして恐らくこれからも俺の仲間を危機に追いやる。そう考えると頭に血が上ってワケわからなくなっちまった。でもな?さらに一方で俺の冷静で非情な面が言うんだよ。『殺せ』って。『そうしないとお前も仲間も生き残れないぞ』ってさ」

 

―いつものお前の生き方、今までの生き方に何ら変わりないじゃないか。

 

生み、育て、愛で。

 

そして殺し、奪い、食らう。

お前の軸は一切ぶれていない。お前の弱々しい迷いとは裏腹にお前の行動は一貫性がある。

お前は結局奪う事しか能がない。

 

奪うことでしか他者に何も出来ないからだ。大切な他者、大切な自分に何も与えてやることが出来ないからだ。

 

そうやってお前は生きてきた。前の生活であろうと、今の生活であろうと変わらない。

それがお前の

 

本質

 

だ。

 

―これだ。これを認めたくなかった。こんな醜い無力な自分を認めたくなかった。

 

「・・・辛かったね」

どれだけ取り繕うと彼がやっている事をかいつまんで言えば。

全くの慈悲も許容も容赦もなく言えば、間違ってはいない。

 

しかしリンドウが居なくなったことで自らにふりかかった理不尽とも言える膨大な責務によって背負わされる重荷に対して少なからず怨嗟の様な感情を覚えることもまた間違いではない。

それを誰もが看過し、受け入れるべきだと。それが責任、責務を受け入れた、逃げなかった者の自己責任だと言うのはあまりにも酷だ。それは傍観者の勝手でそれこそ理不尽な一般論にすぎない。

そこまで人間だれしも聖人君子になれない。なる必要もない。

 

でもそれを振りかざした所で理不尽が消えることは無い。それを結局は誰かが負うしかない事も事実。その適性を持った彼が受け継ぐ他ない事。

それでもこの疑問が消えてくれることは無い。

 

「何故俺なのか」

 

という問いに。

 

 

 

―しかし、それはでも・・・エノハ?

 

「一緒だよ。エノハ。み~んな」

「え・・?」

「皆背負ってるの。理不尽で厄介で問題だらけの先行きを。皆背負ってる。背負わされている。それが人間だから」

 

 

 

 

「人はね。押しつけるの。次の世代に問題も、面倒事も。いい面だけを残していくことは無い。ありえない。次の世代の為に残した良い知識、知恵、そして想いと一緒に悪い事、厄介事、問題も置いていく。いい面だけを受け取って先に進むことは出来ない」

エンジニアとして先人の知恵、知識、技術を受け継ぐリッカらしい言葉だった。

技術は確かに人を豊かにする反面、その技術を利用する事によって生まれる負の点、またその利用の仕方によっていかようにも形を変え、当然新しい恩恵と同時に問題や面倒事を生む。

 

そしてそれだけではない。

リッカ自身もエノハ同様、個人的な重荷を背負わされた者の一人なのだから。だからこそリッカはエノハの今の気持ちが痛いほど理解出来た。

 

彼女は尊敬し、敬愛した父を、技術に全てを捧げた父をある意味技術によって奪われた。

唯一の肉親であり、また実は結構なファザーコンプレックスを抱えていた彼女にとって父を喪った痛手は大きかった。

同時に父がきっかけで始めた技術、父が愛した技術、父の為に愛そうとした技術、・・父を奪った技術。

愛憎渦巻いた。

 

父を失った彼女に残ったのは父から受け継いだ技術と知恵、知識、立場、そして膨大な責任とタスクと山積した問題。

しかし、それに相対する彼女の「目的」は永遠に失われた。

 

ほとんど家に帰ることが無い愛する父の側にいられる居場所だ。愛する父の目だ。愛情だ。そして技術者として一人立ちし、恩を返す未来だ。

 

それを間接的に奪った技術を呪った。しかし同時にそれしか出来ない、残っていない自分を呪った。

おまけに彼女が父から受け継いだこの仕事はどれだけ努力しようと時に仲間の死を、自分の限界や力の無さを思い知る激務―神機整備士である。

逃げ出したかった。

 

「なんで私が」

と。

 

今のエノハと一緒である。

 

しかしリッカは今もその立場に立ち続けている。闘い続けている。向き合い続けている。

 

最初の動機はある意味不純でひどく個人的であってもやはり愛した父の愛した技術を否定し続けることは出来ない。

身につけた技術が人に役立つ事、仲間の命を救う手助けになる事―これを糧に出来ない程彼女はねじ曲がってはいない。

 

一方で憎しみながらも父から受け継いだ知識、技術、知恵を愛する心が確実に彼女にはある。

 

そして今かつての自分と似た立場に立つこの目の前の少年に声をかけることが出来る。力になってあげることが出来る。

 

―存外痛快!!技術士をやってきて良かった。投げ出さないでよかった。ね?

楠 リッカ?

 

 

「だから、どんなにつらくても悲しくても私達は受け継がなくちゃならない。背負わなければいけない。そしてほとぼりが冷めたら、今度は自分達が押しつけるの。はいタッチってね?それまでは歯を食いしばって耐えるの。それが私達の宿命。誰一人変わらない。違わない。何かを託された者の宿命。どんなに重くても投げ出したくてもね」

 

 

―それが・・・・「生きること」だから。

 

 

「それが・・例え自分の前に立ってた恩人を殺すことであっても・・か」

 

「・・・違う」

「え・・」

「それは違う」

「でも・・」

 

「確かに人は残された問題や理不尽を背負わされる事がある。でも・・・その問題や理不尽にどう向かい合うかは自由だよね。決まってないよね」

「・・・?」

「それに対する答え、結論はキミ、そしてレンっていうキミの「中」にいるリンドウさんの神機がだしたもの―だよね?」

「ああ・・」

「そんな大事なことをキミ達だけで決めていいと思ってるの!?全く!テンパッててそんな顔してるくせに!」

エノハは面目なさそうに頭を掻く。

「君は仲間を、そして私を甘く見過ぎ。殺す為の努力はして助けようという努力は怠った!」

「でもな?・・俺やレンは解るんだって!!」

「私のここに入っている知識、経験をなめないで。人生の大半安全な所でぽ~っとしてたぼっちゃんとは違うんだから!!」

「ひでぇ言い草だな!俺だって!!」

「君だって助けたいでしょ?殺したくないんでしょ?なら考えるしかないでしょ!」

「そうだけど!」

 

「・・・!・・・?!!!!??」

「・・。・・・!?・・・!」

 

(あわあわ・・お二人とも・・落ち着いてください)

 

この間少し不毛な脱線が続く。レンが立ち入る隙がない。

 

「はーはー・・」

「ぜいぜい・・」

二分ほど口論した後、二人は肩で息をしていた。

 

「第一・・・君はリンドウさんから全部引き継いだ・・責任を背負わされた云々言ってるけど私はそうは思ってない」

「へ?」

「だって考えても見て?リンドウさんいくつだと思う?まだ26だよ?私らよりほんの少し長く生きている程度」

「リッカが何が言いたいかよく解らない・・」

「受け継ぐ?次代に引き継ぐ?『新入りニゲロ』?笑わせないで!!まだまだ貴方はやることあるんだっつーの!!こんな出来そこないの素人隊長に色々丸投げして、悩ませて、ウジウジさせて!挙句の果てにその神機はわがままで甘ったれで手のかかる神機でおまけにこの出来そこない隊長にかつての主を殺せと言ってきてる!!どーいう教育をしてきたんだ!!あの人は!!」

日々の鬱憤とともにエノハの背負わされたものを彼への罵倒とともにリッカは・・・

怒ってくれた。

 

確かに言われてみればそうである。例え神機使いとしては古株、ベテランだとしてもこの平均寿命が極端に下がった時代においても彼はまだまだ若造だ。齢50を過ぎても技術の第一線で戦い続け、志半ばにこの世を去った父のいるリッカには我慢ならない事なのかもしれない。それは現在健在で、今も食糧事情の改善に挑み続けている父を持つエノハにも共感できた。

まだまだ何かを悟って、次世代に受け継がせるには早すぎるのだ。

そして何と言っても

 

「・・サクヤさんもツバキ教官も残して・・何度教官が隠れて泣いていたか、サクヤさんがどれほど苦しんだか、どれほど帰りを待ち望んでいるか!!」

言葉少なだがリッカが何よりもこちらを気にしている事を理解できる語り口調だった。

「・・・」

「エノハ!!」

「・・は、はい!?」

思わず敬語になる。

「殴りに行くよ!!!!リンドウさんを!殺さない程度に!!その為にはまず!!」

「ま、まず・・?」

 

 

 

 

 

「・・・。もう少し眠って。疲れてるでしょ?」

 

 

 

エノハは眠った。どこでも眠られる彼だが久しぶりに・・本当に久しぶりに・・・よく眠った。

 

心地よかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




読了お疲れ様・・ですが今回ちょっとおまけが長い。
ご勘弁を。・・文字数制限ギリだ。端折るしかねぇ。

おまけ

レンは見つめていた。
傍らでエノハが眠る中、あっと言う間に彼の神機の整備を終え、何かを模索し、資料、端末とにらめっこを繰り返すリッカの姿を。
「何か」とは?
決まってる。
リンドウを救う為だ。そしてエノハも救う為だ。

今、レンは彼女の眼には決して映らないと解っていながらリッカの隣に立っていた。

いつも彼女には「神機」として迷惑をかけてきた。本当に自分達を理解し、労り、支えてくれる少女。
声も届かない、意志の疎通も出来ないのに彼女の自分達に対する真摯な気持ちはいつも伝わってきた。届いていた。
これをリンドウの記憶、そしてエノハの記憶と繋がった経験からレンが導き出した言葉に言いかえれば「愛情」と言うのだろう。

「・・何してんだか」
「え?」
(・・エノハさん。起きていたんですか)
「・・いや。『こっち』の話」
「『こっち』・・?あぁ・・『レン』君ね?」
「今そこにいるんだよ。リッカの隣にね?レンが」
(エ、エノハさん・・・!)
「え!?レン君って出てこられるの!?」
興味深々にリッカの目が輝く。
「厳密にいえば俺の視覚をジャックしてるだけだから居ないんだけどね。・・わざわざ俺の視覚に邪魔して何がしたいんだか」

途端リッカは作業を止め、きょろきょろと周りを見回し始めた。
「どこ?出といで~」
「いや・・犬、猫じゃないし。そもそも居ないし」
「それでも彼には見えてるんでしょ?いいから教えてよ!」
「・・OK」
(・・エノハさん)
―照れんなって。動くなよ。
(・・はい)
照れながらも間違いなくレンは嬉しそうだった。

「もう少し右・・そうそこ辺り・・目線はもう少し上かな。顔なら」
「こんな・・感じ?」
(・・・)
「うん。そこ。くすっ」
「何・・笑ってんの?」
「いやね?正直言ってかなり緊張してんだよレンが。かつて無いぐらい」
(いちいち伝えないで下さいよ・・)
―いや伝えなきゃダメだろ。
(全くもう・・)

「・・触ってみてもいい?」
「・・レンが嬉しそうな顔してるから良いってことだと思うよ」
(先読みしないで下さいよ)
―図星かよ。

「もう少し上、身長はリッカより少し高いぐらいだから」
「ここ・・らへん?」
恐る恐るリッカは右手を虚空に延ばす。
「あ、そこ口」
「え」
「あ。噛んでる」
「え!?」
「もぐもぐしてる。そして・・あ?!あ~っ!?駄目だってそれは!レン!?」
「何やってるの!?」
―ちっくしょ~見えないからって二人して!!楽しそう!羨ましい!

「・・OK。そこいらだな」
「撫でていいかな。レン君」
「・・。「どうぞ」だってさ」

「初めまして・・レン君。リッカだよ」
当然少し戸惑いがあるのか恥ずかしそうに、しかし柔らかくリッカは微笑んだ。
その笑顔を目の前にしたレンは動悸がおさまらなかった。
触れられた頭が、実際は触れられていないはずなのにレンはとてもくすぐったかった。彼女の白い手のある側の左目をレンは細め、彼も今までにない柔らかい微笑みを見せた。
この顔をリッカは決して見ることは出来ない、見せてやることが出来ないのが本当に惜しいとエノハはその光景を見て思う。

レンも想う。
彼は神機だ。
そしてアラガミの一種だ。
殺し、喰らう事を義務付けられた兵器だ。
無から生まれた。当然親は無い。
強いて親は言うなれば榊博士や科学者でアラガミの基準で言うなればノヴァだが・・彼らでは決して今のレンの中に在るこの思いは生まれてはいない。

これが・・「母親」というものなのだろうか。
人じゃなく、ましてまっとうな生物でもない自分に無償の愛を提供し続けてくれる彼女の様な存在が。


そして子を思う母が戦場に子を送り出す気持ちが理解出来た。
いつも不安に想っているんだろう。
送り出した神機使い達を。
そして送り出した僕ら・・神機の事も。

今もそうだ。はっきりと感じ取れる。

出陣のこの時も。

「・・本当に適合しているんだね」
ガチャリ・・
リンドウの神機を軽々と持ったエノハの姿を見てリッカは不安そうに、しかし少しの沈黙の後、くすりと微笑んだ。
「・・?どした?」
「いや、なんか何となくリンドウさんの神機が・・レン君がようやく前に戻ったみたいな感じがして嬉しかったからさ。やっぱり本当にキミの中にレン君が居たんだって確信できたよ」
「そっか」
「「おかえり」・・にはまだ早いけど」
「・・うん。じゃあ。行くよ」
「うん。気をつけて・・『二人』とも」

―なんて嬉しい事を言ってくれるんだろう。このヒトは。

「・・おっとゴメン」

「ん・・?」

「『三人』・・だね」

エノハの右手には赤いレン―リンドウの神機。

そして左手には・・彼の本来の神機。

―感じ取れる。彼女の想いが。
「三人分」
だから僕「達」は帰ってこなければならない。
絶対に。彼女の元に。

「・・行ってきます」

(・・行ってきます。)

・・・。

「・・・行ってらっしゃい」

最終決戦 

発つ。






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