「原初の螺旋」良かったら見なおしてちょ。
今回もよろしければお付き合いください。
「・・・?」
(どうかしましたか?)
エイジス上陸後、数ヶ月前シオを月に「送りだす」際に戦場と化した居住区を通過する際にエノハは異変に気付く。
「・・ドームが・・・再生してる?」
エノハは見上げた。
エイジス―センタードーム。
ノヴァが寄生し、シオが飛び立った際にドーム天井が完全に破壊され、骨組みだけを残していたはずのセンタードームがまるで修築されたかのように空を覆う楕円の天井を取り戻していた。
エイジスの繁栄のシンボルとなるはずだったこの建物の威厳、荘厳さを微塵も失う事もなく、光り輝き、佇んでいた。
アーク事件後、ここに乗り込んだ調査隊達に悠長にここを修繕する時間も必要も余裕もない。
では「何」がここを元に戻したのか。
(ああ・・)
レンは事情を知っている口振りで返答し、疑問に応える。
(あそこは言うなれば「バイオドーム」なんです)
―バイオドーム?
(はい。巨大な神機と考えて結構です。ま、ボクらと違って外部からエネルギーを得る方法としての「捕食」はしませんがね?自らを再生可能な「生きている」建物―解りやすく言えば植物に近いですね)
―そんな技術が?
(はい。ドームだけではなく、このエイジスの要所要所にこの技術は採用されています。何らかの支障や事象が起きた際に重要な拠点が破壊されても即再生してエイジスを維持できるように。主に変電所、海水ろ過施設、食物プラント施設・・緊急時の要人のシェルター、当然アラガミ装甲壁などに使われています。そしてエイジスの威光、権威を示すあのドームにも。)
―・・植物ね。じゃあこの施設の「肥料」は・・そういうことか。
(はい。その点に関しては本当に感心します。日本と呼ばれた極東地域の地形、気候、特質を本当に理解した理想的な立地です)
―・・地震、活火山、台風、津波、自然災害を想定し、対策をしながら同時にその莫大な力を利用しているわけか。
(ご明察です。元々この極東地域―かつて日本と呼ばれた島国は太平洋プレート、ユーラシアプレート、北米プレート、フィリピン沖プレート・・世界でも有数のこの地球という莫大なエネルギーの塊の「捌け口」に位置している。それらが引き起こす天災クラスの風力、水力、地熱余すことなく利用出来る最善の地点を選択し、先端技術を結集して建造したのがこのエイジスという施設なんです。自らを脅かす強大なエネルギーを有効利用して自ら再生可能なまさに陸の方舟です・・正直感心しますよ。貴方方ヒトに。)
―・・・。全くだ。血眼になってここの技術を盗もうとする連中が命がけでここに来るわけが解る。
(はい。恐らくですが本当にここを人類の楽園にする為に多くの知識、技術を惜しみなく採用したんでしょう。しかし・・一枚岩ではなく色んな思想や思惑が渦巻いていたワケですが)
―・・くすっ。
(何か?)
―いや・・リッカが楽しそうに、色んな意味で白熱しそうな話題だと思ってさ。
(・・。違いないですね)
もしここエイジス島がこの先、ある程度の安全を確認出来れば一度ここにリッカを連れてこようとエノハは決めた。
彼女こそこのエイジスで得る知識、知恵、ここを建造した技術者たちの様々な清濁混じった思い、思惑を感じ取り、学び、そして課題に向き合える存在だと確信する。
しかし、
その為には
グ・・ゴオアアアアアァアァアアアアッ!!!
―!
(・・・)
エイジスの中心地、フェンリル―ヒトの総力を結集したこの島のシンボル―センタードームに居座ったアラガミの王の咆哮が辺りに響く。
(・・あそこに居ます。お待ちかねみたいですね。位置も把握されています)
「・・リンドウさんらしさが残ってるな。適当に見えて案外隙が無い」
(・・)
「喜ぶべきか悲しむべきか」
出発前
ブリーフィング
「さて・・ここからは精神論でなく、ちゃんとした方法論に基づいてリンドウさんと闘わなくちゃいけないね」
リッカは腕を組んで体調が回復したエノハと向かい合う。
エノハはリッカに起こされるまでの睡眠とリッカに促された睡眠、約合計七時間、加えて軽い食事で栄養補給を終え、軽く体をならしたのち、
「・・よし。問題なし」
と自分のコンディションがこれからのタフな戦闘に耐えうる事を確認する。
―思いの外美味かったな・・オツカレ―ドリンクまんじゅう。
既に空箱と化し、屑かごに入れられたリッカの土産を名残惜しそうに眺める。
エノハはこれをきっかけに今まで敬遠していたリッカの好物―カレードリンクも飲んでみた。
逆にリッカもレンの好物―初恋ジュースを飲用するが
ほぼ二人同時に
「「んべぇ・・・やっぱ無いわ」」
と一口でドロップアウトした。
「やっぱり榊博士には相談するべきかな・・リッカ?」
「・・それなんだけど最近ああ見えて博士ありえないぐらい多忙だからね。支部長室でほぼ常に資料に埋まって何度か助けた。雑務に追われて研究が出来ないってぼやいてた時もあったなぁ」
「・・・」
「なんだかんだいって年だし。おまけにリンドウさんが後がない状況という根拠がエノハとレン君の感応現象だからね。最悪『論理的じゃない』とか言って出撃を許可しないかも」
「ありうるな」
「それに・・リンドウさんと闘うとなるとなんだかんだ言って博士は私らに気を遣うと思うの。だから確実な手段が判明するまで『今は我慢して待機してほしい』って言うと思うのが私の予想」
そう。榊はそういう所がある。シオの件もそうだ。
明日をも知れぬ終末捕食を前にして強行策に走った親友とは対照的に踏みとどまる、終末捕食ぎりぎりの状態で留保させ、対策を確立させるまで先延ばしさせようとした点から考えると。
科学的根拠と論理を重視し、しかし反対に今までは困難、不可能だったことを可能、実現しようという夢、ロマンを持ち続ける気の長さをもつことがいい科学者の条件だ。
それは裏を返せば対応が遅れやすいという両刃の剣である。
実際結果的にいえば先日のアーク計画発動の際、つまり終末捕食がいざ発動した時―彼は完全なお手上げ状態であったのだから。
「あの時はシオが・・奇跡を起こしてくれた。でももうあの子は居ない・・」
「私らがやるしかないね」
リッカはエノハの言葉を信じている。リンドウの神機―レンの事も。それ故リンドウが後がない事、抜き差しならない状況であることを確信している。
榊と同様にリッカもどちらかと言えばかなり慎重で綿密に時間をかけてじっくり事を行う方の性格だ。(そのせいかなんだかんだ言って榊とは波長が合っている)
が、今は彼女の鋭い勘が告げている。
「今動かなければ取り返しが付かない」と。
リッカの迷いがない事を頼もしく思う反面、エノハは迷う。この極東で最も頼りになる科学者―理解者である榊を排して事を進めることによって自分はともかく彼女が築いたキャリアに影響が出るのではないかと。
そして下手をして自分が失敗すれば恐らく共謀した彼女もとばっちりを受ける。
もともと成功しようが失敗しようが今後の立場が微妙になりかねない無茶な行為だ。
独断先行しました。
失敗しました。
では目も当てられない。
「・・・」
「・・。そんな顔しないの。・・私だって何の策も根拠もなくエノハを手伝おうと言ったわけじゃないよ」
「・・リッカ?」
「キミがリンドウさんの神機に適合したのは確か。でもキミはそれだけじゃない。自分の積み重ねた力の結晶がある」
「結晶・・?」
「彼だよ。君の神機」
リッカは明るく笑って、自分の後方に在るエノハの神機を指差した。
「だけどな・・リッカ?さっきも話したと思うけど今の俺の神機じゃリンドウさんに対抗できない事が今日解った―」
「そう。あくまで『今の』、ならね」
「・・・?」
「・・・察しが悪いなぁ。頭働いてる?もう少し眠る?」
「・・う~ん。解らない」
「大ヒント。キミの神機が持ち合わせた特性って何だと思う?ここに居る神機使いが殆ど持っていない、また持つことが許されていない因子は?」
「・・!神属性か・・!」
「そ。万能でアラガミを殺す為だけに生まれた本来存在しえない属性、要素。たとえ不死のハンニバルであろうと恐らくただでは済まない」
「しかしな・・・あれ以降ウロヴォロスは出現してないしピターはどちらかというと雷属性より・・ハガンコンゴウも同様だ。純粋な神属性の因子の量が圧倒的に少ない」
「キミは大変なことを見落としてる」
「・・・?」
「先日アネットとフェデリコを襲った本来なら接触を禁じられている第一種接近禁忌種―スサノオ・・神属性の塊だよ」
「あ・・!」
「あのスサノオはハンニバルと縄張り争いして追い出された謂わばはぐれアラガミ・・しかしハンニバルは習性上、縄張りに入った者を許さないはず。おまけにスサノオ程の強大でこれ以上ないご馳走のアラガミを喰らうことなく逃した事を考えると・・捕食した時の恩恵とこれ以上闘争した際のリスクを天秤にかけてスサノオを撤退させてそれで良しとした・・と考えられない?」
「つまり・・ハンニバルを捕食し続け、変異したハンニバル侵食種にも・・」
「受け継がれてるかもしれない。神属性に対する脅威が」
「・・成程・・どう思う?レン」
(・・・。確かに神属性がアラガミ化した元適合者に与える影響は未知数です。ひょっとしたらあの時・・ハンニバルになったリンドウが意識と自我を取り戻したのは感応現象だけでなくエノハさんの神機に含まれた神属性によってハンニバルの中のアラガミの部分、つまりオラクル細胞の活動が抑えられたのもあるのかも・・あくまで仮説に過ぎませんが可能性はあると思います。)
「・・・だ、そうだ」
「いや分かんないって。嫌味かコラ」
エノハ、レンの言葉を翻訳する。リッカはふんふんと頷きながら
「成程。試す価値はありそうだね。・・・ついでにあのスサノオはイレギュラーな遭遇でキミが討伐したから幸い本部に報告する必要が無かった。本来なら正式に討伐依頼が出た際、討伐しても殆ど研究の為に本部に持っていかれるスサノオの素材がほぼ丸ごと残ってる。君の神機にかなりの純度の神因子を練り込むことは可能だよ。キミのウロヴォロスの討伐の際は支部長権限で殆ど因子を取り込めなかった。それでもそれぐらいの効果があったと考えると・・」
「・・そんな混じりッ気なしの神属性を大量に取り込んだ俺の神機なら・・」
「やってみる?」
「・・・時間はどれくらいかかる?」
「任しときなって。私以外なら三時間はかかるけど一時間でやってみせるよ。それも完ぺきにね」
―・・・大したもんだ。この子は。
エノハはいつものように。いや、いつも以上にリッカの事を感心した。そして嬉しかった。自分の努力、研鑽の証拠で今までいつも自分の命を守ってくれた神機が今回全くの無力ではなく、何かを成せる可能性を与えてくれる事に感謝した。
エノハは強く頷き、前を見据えた。
「とにかく俺がやる事が決まったな」
「・・・」
「リンドウさんの中で暴走しているオラクル細胞―アラガミの因子を神属性で極限まで黙らせる。そして感応現象でリンドウさんの意思を呼び起こし、こちらへの攻撃意志を無くさせる。・・そっからは・・」
「・・・」
未知数。
オラクル細胞の暴走を抑えると言っても一時的なものだろう。霧散したオラクル細胞がいずれ再結合して再びアラガミになる様に、いずれリンドウの中のアラガミが活動を再開するはずだ。再生能力の強いハンニバル種ではとりわけその傾向が顕著だろう。
アラガミの因子だけを綺麗に殺しきることはおそらく不可能だ。それほど世の中都合がよくない。
リンドウの意思がいざ再びアラガミに呑まれれば、リンドウの意思が完全に喰われた場合は・・今度こそ覚悟しなければならない。
だから連れて行くのだ。
リンドウの神機も。
「その時」が来れば今度こそ覚悟しなければならない。もう逃げ出すわけにはいかない。
解っていても・・辛いことには変わりない。
「大丈夫」
「・・・?」
「私はね。神機達と同時にリンドウさんともキミより付き合いが長い。後輩がこんだけ頑張って自分を救おうとしているのを、そして自分がまだやるべき事、責任を取らなければならない事、サクヤさんやツバキさん達の元へ帰らなければならない事を知っても尚逃げ出すような人じゃない。生きることから逃げる様な人じゃない。きっと生きて帰る。帰ろうとする」
「・・・」
「それまで頑張って。エノハ。私にはもうそれしか言えない。結局技術者、科学者のはしくれとして不適格な言葉で閉めちゃう私を許して」
少し切ない表情で無理やり微笑んだ少女の頭をエノハは軽く抱き寄せた。
「・・・!」
「・・・何言ってんの」
「え?」
「充分過ぎる・・・もう十分すぎるくらいキミは俺を助けてくれた。後はリンドウさんと俺の仕事だ」
「・・・うん」
―頑張るよ。
エノハ
エイジスの中心地センタードームに侵入。アーク計画発動の際踏み入ったこの地に降り立つ。
今日は後ろから続く仲間達は居ない。
しかし二つの神機―仲間を携えてエノハは自分のコツコツという歩く音が響く不自然な程静かなセンタードームの中心へ移動していく。
王の出迎えは思ったより静かであった。
グルル・・・
元々エイジスの主導者、権力者等の演説スペースとして設置されていた壇の上をまるで玉座のようにして人間くさく座っている浸帝の姿を確認した。
エノハが来るのを待っていたのだ。先程喰らったかつてのここの王より遥かに小さな獲物。
しかし比較にならない程の極上の獲物。
絶対的だったエイジスのかつての王をあっさりと屠り、当分の間王座は揺るぎそうにないことをここに居たアラガミが確信した程強大な新しい王のもとに早速現れた小さな挑戦者。
一見無謀としか思えない光景。
しかし間違いなくこれは最終決戦、頂上決戦。
その頂―エイジスの中心で対峙した両者は皮肉にも
一つは人間。
一つはかつて人間だったモノ。
音もなく王―浸帝は宙を舞った。
柔軟で身軽なその肢体を空中で一回転したのち拳を構え、漆黒の夜を背に天からの鉄槌を振り上げる。
読了お疲れさまでした。
おまけ
神機整備中の一幕
「・・・ま。緊急時とはいえ無許可で貴重なスサノオのサンプルをここまで使いこんだらまずいな~。はっきり言って下手すりゃ私のクビが飛ぶレベルの暴挙だね。これ。あはははははー」
「・・・」
―笑えねぇ。
(笑えません。)
「そうなったら面倒見てくれる?」
(―・・ええ!!!???すすす凄いこと言ってますよリッカさん!!どうするんですかエノハさん!?)
「別にいいけど。それぐらいはさせてもらうよ」
(―おいおいおいおいおおい!!!)
「やった!いいお仕事紹介するようにイワナさんに話通してね?いい仕事するよ?私」
「むしろ親父がリッカをほしがりそうだから」
「ホント!!?嬉しいなぁ」
(―うう。何なんだこの二人は)