申し訳ないです!前話、後書きに「おまけ」の追加があります。お手数ですがよろしければ読んでください。
と、言うのも今回の話の方に入れるつもりだったのですが書いてくうちに二千字手前ぐらいで「あれ・・?書く事終わちゃったじゃん・・」となり、切りのいい所となると前話の後書きしか入れられるトコないなと方針転換しました。
ホントに申し訳ないです。
怪物は見上げた。
生まれ落ちてから初めての事だ。
生まれ落ちた時点で高い他を圧倒する力を持ち合わせ、一方的な搾取を行い続けた怪物にとって初めての経験だ。
成す術もなく地に組み伏せられ、こうべを垂れ、恐怖に慄き重く動かない体を引きずり、ようやく目線を上げることしかできない。
その眼に映る者を今はただ見上げることしかできなかった。
小さな。
しかし己より遥かに光り輝く強靭な意志と力を持った己以上の怪物に。
我慢ならない光景―
の、はずだった。
少なくともアラガミ―ハンニバルという種にとって在ってはならない光景。
自分より上の存在を決して認めることを許さない種。
そこからさらに抜きん出たはずの怪物―ハンニバル浸食種である自分の目の前にそれが存在している圧倒的な現実。
己の存在価値、存在意義をすべて否定されたも同然。
元々この浸帝はハンニバル種の中でも特異な存在だ。
その発生自体がかなり特殊である。
ヨハネスがリンドウの暗殺を画策したあの事件の際、リンドウは腕輪を失った。その時出会ったアラガミの少女―シオによって与えられた抑制コアにより、リンドウのアラガミ化は一時的に抑えられた。
シオの体を取り込んだソーマの神機が一部のアラガミを抑制する機能を持っていると同時にシオが精製した抑制コアもまた、その機能の一端を与えられている。
結果―リンドウのアラガミ化は沈静化した。
しかし、
効果は長続きしない。抑制コアはその機能を徐々に失う。
定期的な腕輪からの偏食因子の静脈注射が無い以上、アラガミ化の進行は止められず、リンドウの体―即ち彼の中のオラクル細胞は栄養分を求める。
食欲を満たさなければ暴走し、食欲を満たせば細胞に成長、増殖の火種を与える悪循環に陥り、リンドウのアラガミ化は待ったなしの状態になる。
そこでリンドウの意志が望んだのはシオによって与えられた抑制コアの再生だ。
結果目を付けたのが新種ハンニバルだ。
その目的は異常な再生能力を持つハンニバル因子を取り込むことでシオからもらった抑制コアを再び再生させ、彼の中のオラクル細胞の暴走を抑えることだ。
手当たりしだいリンドウはハンニバルを貪った。
意外にもハンニバルによる人的被害が少なかったのはこの偶然がある。
他のアラガミを圧倒していたハンニバルを喰う「天敵」が存在することでハンニバルの数が制限されていたのだ。
リンドウは図らずもヒトとアラガミの境目で彷徨いながら極東を守っていたと言える。
しかしながら。
極東のアラガミの生態系ピラミッドの頂点にイレギュラーに入り込んだ変異体―リンドウの体の中には徐々にハンニバルの因子が席巻していく。
存在してはならない自分より上の存在にハンニバル種は喰われた後も反撃を続けていた。
その体を乗っ取り、己がとって替わる為に。
再生されたシオの抑制コアも制御できない膨大なハンニバル因子を取り込み過ぎた結果―
生まれたのがこの浸帝・・・ハンニバル侵食種である。
食物連鎖の頂点の者が序列第二位の者を手当たり次第に喰らい、その可能性と素養を反映させたまさに最悪の組み合わせで生まれたハイブリッド。
生まれながらの絶対捕食者である。
だがそんな自分が。
ぐ・・・グッ・・ガッ!
もがく。
しかし、彼の手の甲に突き刺さった神機の切っ先はピクリとも動かない。
この目の前に居るたった一人のチビに全く歯が立たない。
この屈辱は計り知れない。我慢ならない。
が、同時に。
ここでエノハ―ヒトにとって最悪の現象が起きる。
浸帝の中で起きている変化。進化だ。
・・・・・。
「・・・ん?」
浸帝はじっと見ていた。見上げていた。
エノハを。
進化、変化といっても見た目は変わらない。
別に巨大になるわけでも。
さらに力を強くするでもない。
うつぶせのまま佇んでいるだけだ。
ならその変化とは。進化とは何なのか?
単純である。人間が、ヒトが困難に直面した際、いつも心の中で行っていることだ。
其れは「考え方」の変化、進化だ。
絶対の王であった自分の価値観を粉々に壊す存在が目の前に現れた。それにどう向き合うのかを変えているのだ。
そこで浸帝が選びとったものは・・・認める感情。
己以上の力、己以上の存在を認める感情だ。
要するに憧れたのだ。目の前の存在に。
この榎葉 山女という少年に憧れたのだ。
自分より知的で理性的、攻撃力も速力も全てが自分を上回る存在。まさしく理想像だ。
既に自分は王座から陥落している。今やることはその現実を否定する事でも、それを嘆いて逃げることでもない。
それに向かい合う為に。
対峙する為に。
勝る為に。
・・・殺す為に。
今何をすればいいのか?
浸帝の巨大な体の中で渦巻く。混ざる。ぐるぐると。
己の中のアラガミの部分―圧倒的な暴力をあてに本能のままに向かいあってはダメだ。それは今やってこの有様だ。
「アラガミ」では勝てないのだ。確実に。
しかし、かといってこの己の中に確実に残る人間の残滓―リンドウの部分を必要以上にあてにしてもダメだ。
その点に関して言えば浸帝は己という存在の一方での異常なほどの不安定さに気付いている。
人間の部分―リンドウの意思が色濃く反映してしまえば攻撃本能を失ってしまうのは「前回」の戦闘時に判明した。
エノハ、リッカ、レン達と同様にこの浸帝もまたアラガミの部分を限界以上に押し消され、リンドウの部分が顕在化して起きる事に関しては全くの未知であり、不安を覚えている。
人の時の記憶、知識を生かそうとしてもそれを行使する意志と体の利権を奪われては元も子もない。
下手をすれば無抵抗のまま逃げる。または無抵抗のまま殺されることになる。それは決して許容できることではない。
ならどうすればいいのか?
簡単だ。
その真ん中を行く。
どちらも否定する事も消し去る必要もない。
第三の。もう一つの「己」を作り上げればいい。
アラガミの荒々しさを。力を。戦う意志を。
ヒトの理性を、冷静さを、知識知恵を。
神と人の生物学的、科学的な意味での融合だけでなく、意識、意志の融合した真のハイブリット。
新たな己を作り上げるのだ。
簡単だ。目の前に「参考」が居る。
全てを兼ね備えた存在が。憧れた存在が。理想像が。
グググ・・・
「・・・とっ!」
ゆっくりと浸帝が起き上がろうとする。しかしその所作に抵抗の意思を感じない為、エノハはゆっくりと刀身を籠手から抜き、間合いを離す。リンドウの意志が顕在化したのではという淡い期待と共に、どちらに転がろうとも対応できる距離を開ける。
―どう思う?レン?
(解りません。けど・・)
―・・けど?
(嫌な予感がします)
エノハは「同感」と呟いて構えをとる。
しかし攻撃を予兆させるそのエノハの構えにも今の浸帝は反応しなかった。ゆらりと立ち上がり、自らの大穴の開いた手の甲から吹きあがる噴水の様な体液を眺めている。
・・・。
そして・・
びしゃあ
「・・・!」
浸帝の足元の彼の体液で出来た黒い血だまりの上に何かが落ちた。それは彼の右腕に装着されていた籠手であった。
―・・・!驚いたな。着脱可能とはね。
(・・・ボクも驚きました。でも・・こっちにとっては悪い事ではないですね。防御力はガタ落ちになるはずです)
その朗報の割に緊迫感が拭えないレンの口調に一抹の不安を覚え、エノハの掌からじとりと汗がにじむ。
じろ
「ん?」
浸帝がエノハを見た。しかし戦闘再開の為に見据えたような視線には到底見えない。直立不動で正直スキだらけだがエノハはあまりの不気味さに攻め込む事が出来なかった。
尚もきょろきょろと浸帝は何かを見ている。その視線の先には?
じろ・・
エノハの神機。
ちら・・
そしてその背後に在るレンの神機だった。
そしてエノハを最後にもう一度見据え、浸帝は再び四つん這いの姿勢に戻る。
意図が掴めぬ行動を繰り返す浸帝に次どのような行動をしても攻撃を仕掛けることをエノハは決心し、構えた足に力を込めた。
―しかし
その力はすぐに脱力する事になる。数秒後の目の前の光景に。
「・・・なっ・・・!!!???」
―・・・・!!!!
思わず力が抜ける声が声が出来る。レンも動揺を抑えきれない。
ピィィィン!!!
浸帝は自分の足元に今だ滴り落ちる体液を自らの体を包む黒い高温のオーラで蒸発させ、血煙りの様に纏うとそれを
ボウッ!
発火させた。
その黒い炎の帯が浸帝の両腕に凝縮、集結、同時に固定化していく。
目の前で両腕を交差させ、X字に払う。
ブンっ!
果たして気体なのか、固体なのかはっきりと解らなかったその物体が今確固たる硬度を得た事を確信させる風切り音を放つ。
僅かにその切っ先に触れたエイジスドームの床が何の抵抗もなく一筋の線を描いている。その断面は鏡になるほど鋭利に分断されていた。
「・・・!!」
(こんなことが・・)
浸帝は見てもらいたかった。今の自分を。
他でもない。今目の前に居る存在に。
新しく生まれた「己」を。
そしてそんな「己」を生んでくれたも同然の存在に。
あこがれの存在を模したその己の姿を。
そしてその力を今すぐにでも「恩人」に見てもらいたい衝動に駆られながらも必死で今は抑えていた。
元来―
暴君の王とは長く栄えるものではない。歴史上例え暴虐であろうとも冷酷であろうとも在る程度の節度、理性と理知を兼ね備え、施政を行う王ほど栄えた例が多い。
そういう意味で言えばいずれこの浸帝も滅ぶはずの存在だった。
過剰過ぎる力、過剰過ぎる優位性、他を排する自己中心的な性格。
それは他の強過ぎる力を呼び寄せる、または敵対心を煽り過ぎる存在だ。
予め早いうちに滅ぶ事を定義づけられた存在と言えるのかもしれない。
しかし己を知り、他者を知り、己の無知、不徳を知り、柔軟性を持って受け入れ、自らの向上につなげる意志をこの浸帝は手に入れた。
王座に胡坐をかいた孤高の王では決して得ることの無い高み。
その姿が今の浸帝の姿だ。
つい先ほど二刀を構えていたエノハの姿を模倣した姿だ。憧れの者を映し取った姿だ。
「なんだ。ただの模倣か」
そう思うかもしれない。
しかし模倣から始まらない物は無い。多かれ少なかれ生物という物は模倣を繰り返す。遺伝子に刻まれた本能、生まれ持った素養すら過去の血族の記憶や記録、経験などを糧に「選抜」した遺伝情報を模写したものだ。
それもまた周りの環境に合わせて変化していく。
模倣とは全くの同質、コピーになると言いきれないから怖いのだ。
その道筋は進化の如く、多岐、多様性に枝分かれしていく。模倣された元―オリジナルを淘汰するほどに。
模倣、真似を過剰に嫌う、軽蔑すると言うことは裏を返せば模倣されることによって優位性を失ってしまう不安や懸念を押し隠せていない証拠である。
模倣の先の選抜、模倣の先の進化、模倣の先の改進は全く予想がつかない。
エノハの目の前の光景は正にそれだ。
こんな巨大で。
生まれ持った強大な力を持った存在が。
知性と知識、理性を同居させ、挙句の果てには自分の姿を模倣した結果、この先に何があるのか。
どこまでの存在になるのか想像が及ばない。
「・・・・!」
エノハの絶句の表情を見、浸帝は心底満足した。感激した。そして次の感情を抑えきれない。
いくぞ・・
行くぞ?
行くぞ・・!?
行くぞ・・!!
行くぞ!!
「・・・ちっ!!!!」
加速度的に高まる気配、殺気にエノハは思わず後退した。しかし逃げるのではない。迎え撃つ為だ。
(エノハさん!)
―解ってる!
解放状態の異常なほどの速度と飛行距離のバックステップの中左手を伸ばし、振り返らないままエノハはレン―リンドウの神機の柄を掴む。同時に前傾姿勢で両刀を構え、迎え撃つ体勢を取る。
「・・はぁ~っ」
緊張から大きく、そして力強く息を吐く。ここからの攻防が一瞬の油断が死に直結する事を確信した所作である。
そんなエノハを見て嬉しそうに浸帝も構えた。双刀を身をかがめた上半身の後方で構え、強靭な足腰にぎりぎりとばねの様な力を込め、今にも飛び出さんばかりに前のめる。
挑戦者としての気概を現在の浸帝は持っている。玉座に座ってふんぞり返り、ただ無力な餌を口をあけて待つ頃の彼ではない。
・・用意―
ドンッ!
鋭い三叉の右足によって深くエイジスドームの地を抉り、怪物は飛びだした。
生まれて初めて己以外の存在を見上げた、憧れた、またなりたいと願った王は今―全くの別種の生物、存在となってエノハの目の前に瞬時に達し、黒い炎の双刀を振り上げる。
まごうことなき素養と素質、全く以て未知の可能性を持ち合わせた王・・
「真帝」となって。
読了お疲れさまでした。
今回のタイトル「真化」の読みは「シンカ」になります。
「メガ進化」にでもしようかなと思ったんですが「俺ポケモンやんねーしな」となりボツにしました。