よろしければお付き合いください。
短編でストーリーを大きめに進めていきたいと考えています。
と、言うのも、ここらへんの原作のゲームのストーリーをはっきり言ってほぼ忘れているので時間がかかりそうです。
お話を繋ぐのって難しいなぁ・・。
短編1
御曹司の正体
「いやぁまさかアナグラでかの有名なエノハプラントのご子息にお会いになれるとは思いもよりませんでしたよ!」
「こちらこそ恐縮です」
エノハはにこやかに応対していた。
相手は「たまたま」アナグラに来ていた某企業の役員だった。エノハを見つけるや否や、彼が同僚と雑談しているところを低い姿勢で割り込んで今の状況である。
逆にこれ見せよがしに自分の会社の社章のピンバッジを見せつけて周りの連中を散らしていく所に強引さを滲ましていた。最後に仰々しく、名刺を渡す。
「またよろしければ我が社の製品に関してのパンフレットを送らせていただきますこの機会に・・」
そこまで聞いてリッカは話を聞くのをやめた。エノハのこういう光景が別段珍しいものではないと彼女自身、そしてアナグラの周りの連中にも慣れっこになってしまった面もある。
エノハはいつも彼―そして今まで幾度となく現れた彼らのような連中を邪険には扱わなかった。しかし同時にまともに話を聞いているようにも思わなかった。
しかし、彼にとって迷惑な話であるが「金持ちは大変だよな」「御曹司サマは大変だよな」などのその光景を見ていた周りのやっかみも少なからずは生まれていた。
彼自身もそれが解っており、また慣れているのだろう。特にそのような連中にたいして感情を出したり、彼の仲間やリッカに愚痴を吐いたりするような真似もしなかった。
その数分後、エノハは整備室に来た際、先程男から受け取った名刺を処分していた。
「・・とりあえずお父さんにとりつがなくていいの?」
アナグラに訪れた連中の目的は当然そこである。エノハをとっかかりに彼の父親―エノハプラント代表の榎葉 鮇(エノハ イワナ)にお目通りをかけることである。
「ああ、うん。親父はこういうの相手にしないから」
「そうなんだ」
それ以降、エノハは言葉を発さず、黙々と神機の調整と状態の報告をリッカから受け取っていた。
「・・・う~ん」
リッカは滞りなく報告業務を終えたのち、低く唸った。
「どうした?」
「聞いていい?」
「・・。何を?」
「同じ技術者を父に持つ身として色々と」
「・・どうぞ?」
エノハは少し笑ってそう言った。リッカにしては珍しい詮索が少しおかしかったらしい。
「苦手なの?お父さん?」
もうリッカは直球で行く。
「いや特に」
「今日来てたようなああいう連中は嫌い?」
「それも特に。ちょっと面倒くさくはあるけど」
「でもさ・・確かに愛想は悪くないけど・・全くの無関心だよね。ああいう人達にエノハって」
「・・・親父のがうつってるんだろうね」
「・・どういうこと?」
「なんて言えばいいのかな?ああいう数打って当たれば儲けっていう余裕のある企業の話をまともに聞かないんだ。親父は。特に・・ああいう技術者じゃない人間に用意されたパンフやら資料、んであの人たちが「用意した言葉」で説明されることが好きじゃないみたいだ」
「・・・」
「もちろん興味あったら自らどんどん突っ込んでいくけどね。受け手になるのは基本苦手みたい」
「・・成程。ああいう営業は逆効果か・・」
「ところがそうでもない」
「え?」
「脇目も振らずアポもとらずに体一つで飛び込んできた無名の企業の技術者の話とかを真剣に聞いたりする」
「・・?」
「昔からなんだけど家族全員で食ってるご飯時にね。まるで道場破りみたいに現れるんだ。「頼むウチの技術を見てくれ!」っていう連中。子供の時分の俺から見ても必死で、後が無いってことが伝わる表情でさ。そういう人達が親父は病的に好きなんだ。自分だけ夕食を中断して別室に案内してひたすら討論する。と言っても、ほんの十分ぐらいで帰ってくる」
「それで・・」
「決まって来た人はショボンとした顔で出てくる。親父は楽しそうな顔だけどね。恐らく持ち込んだ技術の欠点、欠陥、合理性、予算、現実性の面とかで親父にボロクソに毎回言われてるんだと思う。そんな落ち込んだ来客をいつも巻き込んで夕食が再開するんだ。母さんがもう一人分の食事を用意してね」
「・・・」
「でも・・不思議とそういう人達は決まっていい技術者になって俺たちのとこに欠かせない人間になってくれるんだ。満たされていない、もしくは後が無い―そんな人達こそ状況を挽回する凄い技術を生み出す気概があったり、逆境に強い所を見抜いて育てるんだ。親父の凄いところだと思う」
・・意外だ。御曹司としての立場が嫌で知らず知らず、的確で妥当ながらしかしある意味素っ気ないと思っていたあの来訪者達に対するエノハの対応は父親を尊敬し、理解してるが故の対応だったのか。
恐らく根っからの技術主義、現場主義だった自分の父親もさぞかしエノハの父親と気があっただろう。と、リッカは思う。
そうすれば・・父のあの「技術」は完成していたのかな?
「疑問の答えになったかな・・?ちょっと脱線しちゃったけど」
「ん~まぁ一応。でもちょっと意外かな」
「意外?」
「てっきり私は・・エノハは自分の立場を嫌って家に反抗するつもりで家を飛び出して、たまたま適性があったGEになったタイプと思ってたから。御曹司の、お坊ちゃんのちょっとした由緒正しい御家柄への反抗心ってやつでさ?」
実際はそんな風に思ってはいなかったのだがリッカはからかいの意味を込めてそう言った。
同じ技術者の父を尊敬している彼女にとって、エノハも少し違うが近いものを持っていることが確認できたことがうれしかった。
「・・意地悪だな。まぁ・・全くそういうのが無い訳ではないかもしれないけどね。でもやっぱり・・御曹司やらお坊ちゃんって呼ばれるのは違和感あるな・・ウチビンボーだし」
「へ~・・へっ?ビンボー?」
―・・・。聞き間違い?
「ビンボー?フェンリル屈指の食物プラントの御曹司が貧乏!?何の冗談?嫌味なら笑えないよ?フェンリルの抗議集会開いてる人にボコボコにされちゃうよ?」
「貧乏してるのにボコボコにされちゃ踏んだり蹴ったりだな・・でもホント。ウチに殆ど現金は無いよ。マジで」
「・・ええ?どういうこと?ウチの支部長は功労者に対して見返りを渋るような人間じゃないはずだけど・・」
「うん。確かに入る金は凄いみたいだけど湯水のごとく消えていってるから。片っ端から。俺んちは生まれた時から一階の平屋だしね。兄弟と両親と祖母と住んでた。なかなかに狭いよ」
え?プールは?高級車は?お手伝いさんは?
「・・・もうワケ解んないや・・、何に使ってるの?金持ちの考える事は解んない・・」
「土地はあるんだ。広くてデカイ草原。まぁ殆ど俺達が住むんじゃない場所だけど」
「混乱してきた・・よかったらちゃんと説明してくれる?」
「一応オフレコだから。確かに過激な人が聞いたらボコられるような話かもしれないし・・まぁリッカならいいか」
「・・・!」
―あれ?何だろ?今の。
「・・リッカ?」
「あ、ごめん。続けて」
「そこで牛、馬、羊、豚、鶏を飼って、畑も耕してコメ、大豆にトウモロコシを作ってる。遺伝子組み換えなしの。ちなみに最近小麦も検討中らしい」
現在、食品のほとんどは遺伝子を組み替えされたバイオ食品である。収穫期間の周期、生育の早さ、コスト削減等、遺伝子改良によって徹底的な効率化が図られている。そしてそれを一手に担ってるのが・・当のエノハプラントだ。そんな企業がなぜいつの時代かの〇海道みたいな真似をしている?
「・・そういや大豆で思い出したけど俺の子供のころからウチの敷地にずっとキツネもいたっけな?見たことある?キツネ?母さんが大豆で作った油揚げが大好きで何時も食べに来てた。可愛いよホントに。でもあの油揚げ一枚あたりコスト10000fcぐらいかかってるんだよな・・」
〇つ〇ろ〇王〇も混ざり始める。リッカはあきれた。金持ちの考えることは本当に解らない。
エノハ家恐るべし。
「で、この敷地全体を覆うアラガミ装甲壁の維持費がこれまた高くて高くて・・おかげで増改築できないから俺は万年平屋で雑魚寝してた。おかげでどこでも眠れる特技ができたけど」
(少し後の話にはなるがこの技術がサテライト拠点の技術者に提供されたことが後に判明している。フェンリルに見捨てられた集落の人間にもエノハの父親をはじめとするエノハプラント一部の人間が技術供与や食糧提供の見返りを行い、同時にかつての主要産業の田畑や畜産の試用の場としてノウハウを得ていた。雇用や仕事能力の開発の場も生み、フェンリル側の人間としては比較的好意的にむかえられていた。)
「おまけに土地を維持するために結構人雇ってるからな~その人達も平屋に泊まり込みで働くもんだから大家族みたいなもん。常二十人以上平屋にたむろしてたっけ?血縁のある家族は六人しかいないってのにさ」
HAHAHAと笑うエノハの顔をみてリッカは相当彼のキャラクターの認識を改めなくてはいけないなと思った。
結論。エノハの父親は予想以上に豪快で物凄い人のようだ。
現在の技術を高めるだけでなく、かつての産業をも取り入れ、この飢えた時代を科学、そして自然の双方の面で向かい合い、切り開こうとしている。
そんな父親と多くの人間に囲まれ、育てられた少年。
それがエノハという少年だった。
短編2
アリサ復活
アナグラエントランス出撃ゲート前・・
「本日付けで原隊復帰することになりました。またよろしくお願いします・・」
あれだけ強気な少女がえらく殊勝な態度になってしまったものだとエノハは頭をかく。
伏せ目でこちらの顔を見ることなく赤いチェックの帽子の唾を握りながら恥ずかしそうに目だけ隠していた。
「実戦にはいつから復帰なの?」
エノハの隣にいたコウタは嫌みなくそう聞いた。やはり第一部隊で最もアリサと年の近い彼がいることは助けになった。そしてコウタは高飛車だった少女の大きな失敗と落胆を好機としてここぞとばかりに責めるような性格はしていない。いつも彼女の愚痴と辛辣な言葉に最もさらされていた人間にも関わらずだ。いいやつである。
しかし、する奴はする。
聞こえよがしに下の階から声が聞こえた。馬鹿にしたような嘲笑とひき笑い。はっきりとした対象名はぼかしているが間違いなくアリサのことである。
近くにいた受付のヒバリが睨んでくれたのだろう。その声はすぐ止み、軽薄そうな足音と共に離れて行った。エノハはヒバリとコウタ二人の気遣いに感謝しつつも、さらに表情が曇ったアリサを見る。
「あなたも笑えばいいじゃないですか・・」
「俺たちは笑ったりしないよ・・なぁ?」
コウタはそう言って笑った。しかし重い沈黙が響く。
コウタが話題を探そうと例のヴァジュラ亜種―マータの最近の目撃例などで話を繋ごうとしたが結果、
「すまん。エノハ・・後は頼んだ」
と、いい残しそそくさと去っていった。
それでもちゃんとこれからの自分のこと、自分が相対すべき相手のことを話そうとしてくれたコウタの気遣いにアリサは少し顔を上げ、エノハを見た。
「貴方は・・凄い人ですね」
「え・・いきなり何?」
「はっきり言います。私は一方的に貴方と張り合い続けてきました。同じ新型として私のほうが優れていることを証明するために」
「・・・」
「でも貴方は決して私を見ようとしなかった。いえ、見ていたけど私だけを見ていなかった。個人ではなくチームを見ていた。サクヤさん、コウタ、ソーマさん、そしてリンドウさん・・そして今度の戦いではっきりわかりました。貴方は私のはるか先を言っている。個人としても集団のなかの人間としても。・・悔しいです」
「・・悔しい」
「私には戦う理由があるのに、立ち止まっちゃいけない理由があるのに」
理由―つい先日彼女からエノハは聞かされた。
彼女が極東に来た理由。
幼いころ両親を彼女の目の前で殺したアラガミをこの手で討伐する・・復讐である。
「それなのに私は遠回りをしていた・・自分だけが先を行く、ついてこれない者、私と志をともにしない者を置いていってでも先に進むことが両親の敵を討つ為の最短の道だと信じて・・でも出来たことは大きな失敗とまた大きな喪失を味わうだけでした」
その後、アリサは照れくさそうに微笑んだ。エノハが初めて見た彼女の笑顔だった。とても素直で・・年相応の、しかし前より遥かに大人びて見えた。
「落ちこぼれだったんですね・・私・・それがとっても悔しいです」
自分が子どもだったと理解した少女は背筋を伸ばして尚も笑った。
「だから・・もうこんな悔しい思いも、もうこんな失敗もしない。したくない。今度こそ私は私の大切なものをちゃんと守れるようになりたい。・・自分の意思で。だから貴方に・・ちゃんと戦い方を教えてほしいんです」
「・・。ぷ・・・」
「・・?」
「はははははは・・!」
「なっ・・!?私何かおかしいこと言いましたか・・!?」
「うん。おかしい」
「・・!?」
「悔しい思いをしたくない?それは不可能だよ。人間は万能じゃないから。だからやっぱりアリサ・・俺は君を笑うよ。コウタは笑わなかったけど俺は笑う。キミを」
「・・・ひどい!!エノハさん!!」
「・・その悔しさ忘れないで?俺は笑った。さっきまで下に居たあいつらと一緒。でもあいつらは言うだけ言って逃げるだけ。でも俺は違う。なぜならキミと俺は一緒に戦うから。見返せるし俺にダメだしだって出来る」
「・・・あ」
「俺だって悔しい。リンドウさんと一緒に帰れなかったことが君と一緒で悔しい。お互い落ちこぼれで出来そこない。当然だ。俺達まだ配属したての新型だよ?」
「エノハさん・・」
「・・強くなろうよ。お互い」
「・・はい!」
エノハを焚きつけることは無理。しかしアリサを焚きつけることは容易だ。そう。この子は生来の負けず嫌いなのだから。
本当に誰かを守りたいという意志を持つのは当然大事だ、しかし守れなかった悔しさや後悔をすべて忘れて捨てる必要もない。人間は失敗から学ぶことのほうが多いのだ。悔しさを糧にすることも用法と分量を間違えなければいいスパイスになる。
―自分に対する反骨心がアリサにあったのならそれを無くすこともない。いざ俺が道ややり方を間違えた時、判断を誤った時、止めてくれたり、助けてくれる。それが仲間というものだ。
と、・・まぁ色々とカッコつけていたエノハであったが・・
後日の任務であっさりとアリサ、ほか第一部隊三名に盛大なダメ出しを食らうことになった。
ヴァジュラ討伐の任務の際、背後から来たアラガミにうっかりやられそうになった所をアリサに間一髪で救われたのである。
その日の夜、整備室にて
「リッカ・・俺は穴があったら入りたいです。あんだけかっこつけといてそりゃねーだろ俺・・」
「溶鉱炉には入らないでね。今のエノハが入ったら金属が腑抜けになりそうだから」
短編3
リーダー就任
先日―教官、雨宮リンドウの姉、ツバキによって第一部隊の新しい辞令が下された。
榎葉 山女
極東支部、第一部隊隊長に任命。
彼は了承した。
諸々の諸作業や挨拶回りを済ました後、彼がまずとりかかったのが隊長専用の個室に移るための引っ越し作業だ。と、言っても家具などの移動はほぼない。元リンドウが使用していた個室に移動するだけだ。
その程度のわずかな作業であったが彼の仲間は快く手伝いを申しでてくれた。
といっても「例の本はどこにありますかね」というコウタの詮索をアリサが肘鉄で阻止してくれた。程度のものだが。
サクヤはもともとリンドウの部屋だった場所が変わっていくのに複雑な表情ながら部屋を掃除するのを手伝ってくれた。
一通りの作業を終えたのち、コウタが就任パーティを開いてくれた。
「ようっしー!今日は騒ぎましょっかね!」
「全く・・ようやく落ち着いた早々に馬鹿騒ぎなんてエノハさんに申し訳ないと思わないんですか?」
「かてぇこと言うなよ。アリサちゃんよぉ。極東ではな・・これが慣例なんだ!」
そう言ってコウタはひょいとアリサの帽子をとりあげる。
「!!何するんですか!」
「へへん・・んんっ・・『よくそんなことも知らずに今まで生きてこれましたね!』」
アリサの帽子をかぶったコウタはファサっと髪をなびかせ、胸を露骨に突き出してオネエっぽくそう言った。
「まさか・・私の真似ですか?殺しますよ・・?」
アリサは顔を真っ赤にしてそう言った。極東に来た当時の自分の態度を反省している彼女にとってその怒りと恥辱は計り知れない。
コウタに粛清を加えたのち、「リーダー、アルコールはありますか!?清めのお塩でもいいです!」とアリサがとり返した帽子を両手に涙ながら訴えているとことに
「お邪魔します。既ににぎやかだね」
「失礼しまーす」
リッカがヒバリを連れて部屋に入ってきた。
「リッカ・・ヒバリちゃんも」
「俺が・・呼んだんだ」
コウタが瀕死の状態で嬉しそうにそう言った。
「改めて・・エノハ。このたびは隊長就任おめでとう。はい!差し入れ」
「おめでとうございます。エノハさん」
「ありがとう。えと・・」
「食べるものは私が適当に用意するから・・皆座ってて?」
どうやらこの部屋の勝手を知ってるらしいサクヤは給仕係を申し出た。
そして手伝いを申し出たアリサをヒバリとリッカのコンビネーションで見事に阻止し、ソファに座らせた。エノハは瀕死のコウタに親指を立て、コウタもそれに応える。
一通りの挨拶と慣例を終え、場が一定の落ち着きを取り戻した時。
「あの・・?コウタさん」
「何?ヒバリちゃん?」
「えーと・・ソーマさんは?」
「あぁ・・一応呼んだんだけどやっぱアイツはこなかった。『フッ馴れ合いは・・友達同士でやってください!』・・だって」
「・・ソーマさんの言葉なのになんで途中から私の真似なんですか・・?」
アリサは片手に持ったグラスを握りつぶしそうな声でそう言った。
―・・止めてくれ。そのグラス高いんだ。
エノハが心中で必死にそう訴えかけた。
「そうなんですか・・少しさみしいですね」
「よかったらタツミの兄貴呼ぼうか?兄貴ノリいいし!」
「や、止めてください!」
ヒバリが照れているのか本気で嫌がってるのかが曖昧な反応でグラスを両手でダンと机に置く。
―コウタ・・わざとやっているのか・・?
グラス二つの危機的状況をハラハラしながらエノハの髪が二、三本白髪に代わるころ・・
「・・・」
「・・リッカ?」
エノハの隣に座ったリッカが黙りこくっていた。エノハが思わず声をかける。
「・・・。んあ?ごめん。何?」
「いや。・・ああ。仕事のことが心配?」
「本当にそういうわけじゃないんだ。ゴメン。って言うか・・いるよね。そこ」
「え?」
一同が狐につままれた。
「ドアの外」
「や、止めてよ・・リッカさん」
「そ、そうですよ」
脅える十代少女二人。
「いや、そういう意味じゃなくて・・」
唯一大人な反応の十八の少女。
「・・?・・!成程・・」
「・・・!あー成程ね」
コウタもエノハも合点が言った。
「・・サクヤさん」
小声でコウタがキッチンに立つサクヤに声をかける。
「何?」
「それ・・あるだけとって下さい」
「・・・?・・・!解った。それじゃあ・・これも・・要るわよね?」
「結構遊んでるね?サクヤさん・・」
「軽い女みたいに言わない。あのリンドウと長年付き合ってれば少々は・・ね」
「・・・」
幽霊・・否、ソーマは新リーダーのエノハの部屋の扉の前で気配を殺して立っていた。
―なぜ・・俺はここにいるのだろう。
そ、そうだ。俺は隣の部屋でわいわいがやがや騒ぐこいつらに注意しに来ただけだ。ついでにあの新入りのリーダー就任に皮肉の一言でもかけてやればいい。それで終わりだ。なんだ簡単じゃないか。
ソーマはそう自分に言い聞かせながら部屋を開けた直後の次の自分の言葉を選ぶ。
→「・・うるせえぞ。静かにしやがれ」
「馬鹿見てぇに騒ぎやがって・・」
「・・。俺も混ぜろ・・」
―・・・!?なんだ!?この三つ目は?ふふふふふざけるな!
・・人間というものは後のほうに本音が出やすい生物らしい。
その時、唐突に扉が開き、そこに躍り出たのは黒い影だった。
―・・・!!何!?
長年染み付いた危機回避の本能によってソーマは反射的に身構える。明らかに影の動作は緊急性を禁じえないほど素早く、そしてソーマに向けて攻撃らしき動作で右手を延ばしてきた。
その手の先にある物体を反射的にソーマは掴む。
「・・・!!てめぇ・・何の真似だ」
「さすが・・・とったね?」
影の正体はエノハだった。ソーマの悪態を気にもせず、にこりと笑って
「よっし!・・皆?行きわたったぞ~!」
「「「は~い」」」
エノハも、そして少し開いた扉からも能天気な声が上がる。
「・・あ?」
コウタが音頭を取った。
「よーうっし!じゃ、王様だ~れだ?」
全開になったドアからソーマからもようやく室内が見渡せた。
全員が手元にある妙な棒を凝視している。そしてそれはソーマの手にもすでに握られていた。
―・・なんだ?これは・・?
ソーマの戸惑いを無視して室内は一喜一憂している。
「私は違いますね・・」
「私もです・・」
「私もね・・」
「俺も・・違うな~」
エノハは横目で自分のものをちらりと見てソーマを見た
「・・俺もだ。ソーマお前のは・・?」
ソーマはまだ意味が分からず自分の手に握られた棒―箸を未だのぞいていない。
「・・。おっと・・私だね」
リッカが手を挙げた。
「わ~リッカさんですかぁ!」
―ちっ・・コウタにピンポイントで復讐してやろうと思ってたのに・・。
「じゃあ王様。ご命令をなんなりと~」
サクヤが意外にノリノリである。意外にこういう耐性は高いのかもしれない。
「おい・・説明しろ」
「王様ゲーム。一番ひいた奴が王様。それ以外の番号の人間は王様の次の命令は絶対遵守。以上!!」
「・・・」
ソーマはあっけにとられながらも本能的に自分の握った箸の番号を覗き込む。
四番・・。いきなりクリーンナップの中軸を任されたような緊張感がソーマを包み、彼の用意してきた言葉はどこかへ消しとんだ。リッカは思い悩みながら・・
「二番・・いや三番かな?三番が・・・」
―いけ!いけ!そのままいけ!
「・・やっぱり四番で」
リッカはソーマを狙っていた。いつもスカしているがリッカはこの少年が思った以上に感情を隠せない人間だと知っている。恐らくカードゲームは死ぬほど弱いタイプだ。
「四番が・・そうだね・・とりあえず今回のエノハのリーダー就任の祝辞を言ってもらおっか!私達代表で。さっきは結局エノハの挨拶だけで乾杯しちゃったし」
「あ。いいですね!で、四番は?私ではないです」
口々に「違う」という言葉が漏れ、次第に候補が絞られる。
まさかエノハ本人ではという疑念も漏れるが、リッカはそれだけはないと思っていた。
エノハの表情にはリッカの思惑に勘付いている節があったからだ。
「・・貸せ」
エノハはソーマの握っている箸を素早くもぎ取り、番号を確認する。
「あ!てめっ!」
「・・照れるね。まさかソーマ君に祝辞を述べてもらえるとは・・」
一同「おおおおお!!??」
「・・・」
今回は一言。
このメンツ・・王様ゲームしても面白くなさそう~。
お付き合いありがとうございました。
新しいバトルを先日思いついたので近いうちに書けたらいいなと思います。
よろしければまたお付き合いください。それでは。