レン君。有能。
長い為二つに分けます。
長々とバトルで申し訳ありませんがよろしければお付き合いお願いいいたします。
真帝は玉座―エイジスドームに帰還した。
そこには今、ただ一つその王の帰還を向かい入れる者が居る。
あの人間―エノハが残した赤い神機が墓標のようにそびえたっていた。
真帝はただそれをじっと眺める。
それはまさしく無敵の自分を屠る事の出来る唯一の存在、天敵。この世には存在してはならないものだ。にべもなく破壊するべきもの。
彼の中の「アラガミ」の部分がやかましく警鐘し続ける。
これを壊せ。
これは存在してはならないものだ。
その点に関して真帝は激しく同意である。即刻今は主の居ないこの物体を破壊し、脅威を一つでも減らしておくこと。自分の優位を盤石にする事は今の真帝の最優先事項である。
しかし―
真帝は暫くの間それを眺め続けていた。
その時である。
―!?
真帝の鋭敏な感覚機能が捉える。高エネルギーの反応を捉えたのだ。
それも真帝を取り囲むように四方八方から感じられる。真帝は最優先事項を放棄し、大穴の空いたエイジスドームの天井に身軽に飛び乗り、
その原始的な双眸でその眼下に広がる光景を凝視した。
―・・・・!
エイジスドームの三百六十度、居住区、各公共施設が光を放ち輝いている。
光っては消え、光っては消える。まるで点滅を繰り返すイルミネーションの様に一定のリズムで。
表向き人類の楽園、理想郷として創造されたこの地の決して実現する事が無くなった未来予想図が今は広がっている。幻想的で美しい光景だ。
実際は人など全くいない魔都にも関わらず、人の息遣い、人の営みが感じられるようなそんな光景である。
その光景を眺めていたのは真帝だけではない。
「・・綺麗」
エイジスから約十キロ―上空
ヘリの扉を全開にし、美しい銀髪を飛ばされそうな帽子と一緒におさえつけながらアリサはそう一言呟き、茫然とその光景を眺めていた。
「ええ。・・本当に」
その隣に居るサクヤも頷く。
「うん・・・やっぱりエイジス計画は間違ってなかったんだって今になっても思うよ。ここを楽園にしようとした想いは絶対に間違ってなかったんだ。・・その裏に何があってもさ」
コウタも同意しながら想いを語る。
「・・・」
―親父。悔しいがやはりアンタは・・すげぇ科学者だよ。
ソーマも頭に被ったフードから覗く憂いを含んだ眼をエイジスに向ける。
かつて父親が理想の為に隠れ蓑にした、しかし実は何処かで本当にこのエイジスを陸の「アーク」として人類を守ろうとしたのではないか?
そんな考えがソーマの中に浮かぶ。
ヘリが目的地に迫れば迫るほど実感するそのスケールのケタ違いな光景を目の当たりにしながら一行は向かう。
エイジスドームへ。
エノハの元へ。
リンドウの元へ。
その光景がエイジス島全域に広がる十分前―
「ぐっ・・・はぁ・・はぁ・・」
何とか真帝の追跡を逃れたエノハは朽ちた駅、プラットフォームベンチに腰掛け、徐々に戻る体の感覚を確かめる。
ただし。
戦闘続行は可能だが到底今の真帝に太刀打ちできる程の余力は残っていない。切り札のレン―リンドウの神機もエイジスドームに放置している。
早く回収に行かないと真帝に破壊される可能性が高い。あれが真帝にとってどういう存在かは既に真帝も理解しているはずだ。
しかし、無策で行ったところで確実に殺される。
急がなければいけない。しかし今行った所でどうにもならないジレンマが苛立たしい。
(リンドウ・・ハンニバル浸蝕種はエイジスドーム方面へ移動中。進行速度からして到着まであと約五分と言ったところでしょうか)
―俺達が奴より早くエイジスドームに戻れるルートは?
(一つだけ。エノハさんの現在の最大走力と今のハンニバルの進行速度がこのままだと仮定すると・・後二分ここで立ち往生だと追い付けなくなります)
―・・・そうか。
(エノハさん・・すいません。僕の見立ては完全に外れました。まさかあれ程の力を持っているなんて・・最早今のエノハさんではどうにもなりません。だから―)
―逃げて下さい。
そういう風に続くであろうレンの言葉をエノハは理解していた。
打ち消すようにすっくと立ち上がると同時に
「・・やなこった」
そう言い放った。
―「仲間」を置いていけるか。
(・・・)
―・・黙りこくってないで案内してくれ。一分で追い付いてやる。
(・・解りました。ルートを算出します。かといって追いついても迎え撃たれますからスプリンクラーが作動しているルートを通ります。匂いを消しつつ近付きましょう)
―・・またあの冷水を被るのかよ。
(なんなら濾過機を通さず海水のままぶっかけてあげましょうか?海水のままの方が水温は高いですが)
―あったかいのはいいが、海水だとベタつくのがヤダな・・。
(クス・・どっちか我慢して下さい。早く選んでくださいね。時間が無いんですから)
―真水で温水は無理?
(無理です)
―・・・。
レンは
コンピューター内に侵入できる。
彼が人間のこと、その他様々な知識を吸収しているのはそのためである。
神機整備室で彼に接続された機器からレンはコンピューターにアクセスして侵入、彼は情報の海の中を泳いで一般教養、歴史、人、雑学などなど膨大な知識を学習していた。
リンドウの中にある偏った知識や記憶だけで伝えられる情報では少々彼には物足りなかったようだ。
彼の旺盛な知識欲、そして元主の性格が今のレンという疑似人格を形成するに至っている。
さらにアクセスだけでなくある程度の操作、つまりハッキング行為も可能だ。
現在、彼―リンドウの神機が突き刺さっているエイジスドーム床に走った光ファイバーケーブルから情報端末に侵入し、エイジスの内部構造、網の目状に拡がった地下鉄構内の情報をエノハに与え、逃走を手助けしたのが彼である。
スプリンクラーを地下鉄構内の必要以上の所に作動させ、真帝の追跡を振り切る為、匂いを消させたのも彼だ。
彼の神機としての力と能力、そして知識、情報収集、処理能力。
その手助けが無ければエノハはとっくに墓の中だったろう。
そんな命の恩人、そんな「仲間」が今危機にさらされている。破壊されようとしている事を我慢できるはずが無い。
エノハは走り始める。
彼の行く先、要所要所でスプリンクラーが作動。彼の匂いを覆い隠す。
水しぶきを上げ、エノハはエイジスドームに向かう。
例え勝ち目のない戦いでも仲間を見捨てる事だけはしたくない。
そんな思いが満身創痍のエノハの体を動かしていた。
―が。
「!」
バシャッ!
(!?)
そんなエノハが急に足を止めた。スプリンクラーの雨にさらされながらエノハは無言で立ち止まる。
(どうか・・しましたか?)
そうレンが尋ねても尚エノハは応えない。エノハはスプリンクラーから降りしきる雨の様な水滴を見上げた後振り返り、名残惜しそうに自分が歩いてきた方向の水浸しの道を見る。
その視線の先は―極東支部方向。
彼の帰るべき場所だ。
彼を信じ、彼の帰りを待つ人が大勢いるあの場所だ。
そう考えるといきなりレンはたまらなく不安になった。
(―!)
思わず彼の視界をジャックし、立ちふさがる様に彼の目線の先に立った。
レンの体を降りしきる無数の水滴が触れること無く通過して無数の波紋を創る。
対照的に目の前に居るエノハはずぶぬれだ。
その非対称差が。
自分が本当にはここに存在していない事が。
今は何よりも哀しい。
親に置いてけぼりにされた子供の様な表情をしてレンはエノハを見ていた。
(―まさか・・置いていかれるのかな?)
やっぱり自分は所詮神機で、いざという時には神機使いの命が優先される―
モノなのか僕は。
使い捨ての。
所詮帰りを待っている者など誰もいない存在なのか。
レンは目を塞ぐ。
次のエノハの一言が何よりも怖い。恐ろしい。
「すまない」
「悪い」
「ゴメン」
「帰らなきゃ」
レンの中でそんなネガティブなエノハの次の言葉ばかり候補に浮かぶ。
―置いていかないでください。
思わずそう本音をぶつけそうになった。
「・・レン」
エノハの抑揚のない声色に眼を閉じたままびくりと思わずレンは肩を震わせる。
返す言葉が浮かばない。
「・・・。手伝ってくれ!君の力が必要だ」
(―――え?)
予想外の言葉にレンは目を丸くした。
十分後
エイジスドーム。
眼下に広がった幻想的なほど美しく輝くエイジス市街を眺めながらこの不可思議な現象に真帝は考えをめぐらす。
そして振り返り、エイジスドーム内に佇む一本の神機を睨んだ。
その切っ先が僅かに輝いている。
まさか・・これをあの神機が引き起こしているというのか?
しかし何の目的で?
真帝に答えは出ない。
しかし結論は出した。
何か不気味だ。最早アレをすぐに壊しておいて損はない。真帝はそう結論付けた。
ボウっ!
真帝は右の掌から炎刀を形成する。そして跳躍、空中で振りかぶって一気に体ごと突っ込んでいった。
この不気味で、目障りな神機を跡形もなく消滅させるために。
切っ先が突き刺さり、黒い業火が立ち上る。
―!!??
しかし―手ごたえは無かった。
当然無いはずだ。
真帝の目の前で炎刀の切っ先が神機に達する直前、その神機を掠め取って行った黒い影を確認したのだから。
じろりと影が走った方向を真帝は睨む。影の正体は解っていた。
エイジス全域に広がっていた幻想的なイルミネーションの如き光は止むと同時に彼は再び真帝の目の前に現れた。
「・・・俺の「仲間」に何しやがる」
右手に握った「仲間」―赤い神機の切っ先を再び床に突き刺し、佇む一人の少年を真帝は凝視した。
真帝は嬉しそうにぐるりと体を向ける。
先程仕留め損ねた王に相応しい獲物が逃げること無く目の前に舞い戻ってきた。
今度こそ仕留める。仕留めないといけない。
自らを滅ぼす可能性を持った神機とそれを操る事の出来る存在。
その二つを携えた唯一無二で強大な存在を同時に葬るチャンスが再び巡って来た事に真帝は歓喜する。
この存在を葬る事こそ最大の己の存在価値を高める瞬間であると真帝は確信している。
至福の瞬間、悦楽の瞬間。
この時、この為にこそ、この「真帝」は生まれたのだ。
その真帝を、自分が産み落としたと言っても過言ではない存在をエノハは眺めた。
そして少し悲しそうに、恥ずかしそうに笑った。
―悪い。
―今の俺には今のお前を倒す力はない。
―今のお前とまともに闘える力すらももうない。
―だから。
「―堕ちてきてくれ。俺の今居る所まで」
エノハがそう呟いたと同時だった。
ザアァァァッ!!!!
!!!????
バケツをひっくり返したような雨をさらに凌ぐ滝の様な雨がエイジスドーム内に降り注ぎ、あっという間に床を水浸しにし、真帝、そしてエノハを溺れる程に包み込んだ。。
否。
雨ではなくドーム天井に設置されたスプリンクラーから大量の水がエイジスドーム内を完全に覆っている。
炎を消すには水を。
そんな安易な原理を鼻で笑うくらいの業火を持つ真帝に水など無意味だ。
体に付着した水滴を瞬時に沸騰させながら蒸気を上げ、なんの真似だと言わんばかりに真帝は豪雨の中エノハを睨む。
当のエノハは床に突き刺した赤い神機の柄の先端に足を乗せて立っていた。
右手には変わりに彼自身の神機が握られている。
そして頭上から降り注ぐ大量の水を見上げながらこう呟いた。
「・・・しょっぱいな。この雨」
そう言って目線を真帝にむけ、またすまなさそうに、恥ずかしそうに眉をひそめた笑顔をした。
「・・・・悪いな。我慢してくれ。レン、リンドウさん」
―俺も・・耐えるから。
ガコン・・
エノハは彼の神機を銃形態に変形。その砲身を真帝に向ける事なく・・床に向けた。
―――!!!???
意図が掴めぬまま真帝はその光景を眺める他なかった。
水浸しの地面、次から次へと天井から降り注ぐ大量の「しょっぱい」水。
そこに向かってエノハの砲身から一発の放射が発射される。
属性は・・
雷属性。
バチチチチッ!!!!!
グ・・ガァアアアアアアア!!!!
「ぐっ・・・!!!」
(ううっ・・!)
青白く光る巨大な放電現象。
それがエイジスドーム全体を包む水―海水を伝って一気に空間を支配する。
膨大な電気量がその場に居る真帝、そしてエノハ、リンドウの神機―レン誰一人例外なく透過していく。
ドーム内は今や巨大な電気エネルギーの塊と化している。
その中心で二人と一頭はひたすら耐え忍んでいた。
―・・レン。耐えてくれ。
そして一緒に帰るんだ。
俺と。
君と。
リンドウさんと一緒に。
皆の所へ。
続きます。良ろしければお付き合いを。
おまけ
―・・・あの子の所へ。