GOD EATER カスタマ   作:GREATWHITE

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今回もよろしくお願いいたします。

最後は・・お前か。

・・まぁ彼が「こう」なっても誰も怒らないだろうからまぁいいか・・。



かわいいひと

1.

 

「ん。お疲れサマ。はい」

リッカは任務後の定期点検を終えたエノハの神機の報告書をエノハに手渡す。

「ありがと。・・。・・だいぶ調子が戻ってきたと判断して良い?」

報告書に目を通しつつ、提示された神機のデータをややエノハは心配そうに眺め、次には少しすまなさそうにリッカを見る。

リッカは考え込むように目を閉じ、無言になった。

 

エイジスでのハンニバル侵食種との激闘により、酷使されたエノハの神機の消耗は激しかった。

実はしばらくの間原因不明の接続不良、適合率の異常低下など不安定な状態に陥る事もあり、とてもリスクの高い任務に出せる状態では無く、任務を自粛、受ける事が出来てもランク上限を大幅に下げる他なかった。

 

しかし―

 

「ま。俺がその分働きゃ済むこった」

 

その軽薄ながらも頼もしい軽口でアナグラ全体を落ちつかせる「あの男」が帰ってきたのはやはり大きい。

エノハに出されるはずであった第一部隊の高額報酬任務や強力な個体討伐任務などを片っ端から彼は引き受けてくれた。

 

おまけにアラガミ化の結果、彼の腕に「発生」した神機はシオと同じく銃形態に変形可能である。詰まる所第二世代神機に移行したと言えるのだ。新人アネット、フェデリコと共にアリサの下で第二世代のノウハウを学び、同時にエノハに変わって彼らの指導もできるベテランという妙な立場になり、指導するアリサも何となく複雑な感情を隠しきれない。

しかしそんなアリサの複雑な感情も「あの男」はどこ吹く風で淡々と、いつものように軽薄に。

「アリサ先生!!質問があります!彼氏は居るんですか!?居るならどこまでいったんですか!?」などと不良生徒がのたまうようなセクハラ発言をかましつつ、しかし異常な数の任務をエノハの替わりに彼はこなしてくれた。本当に心強い男が復帰してくれたものだ。

 

・・というのも復帰以降、異常なほど彼は食欲がアップ、結果食費が物凄い事になっているという側面がある。

サクヤに「・・はぁ。なんで生きている事が解ったら二階級特進が取り消されるのかしらね?基本のお給金減るじゃない・・」などと洒落にならない愚痴を言われたらしい。よって「あの男」―リンドウは馬車馬のように働く他なかったのである。

結果として安心して部隊を任せられる前隊長、リンドウの復帰により、現隊長エノハは自分の神機の回復を比較的安全な任務をこなしながらじっくりと待つ事が出来たのである。

 

そして今日―

「・・うん。またランク9以上の任務をアサインできるようにヒバリには伝えとくよ」

やや複雑な笑顔でリッカはエノハの手元の報告書のとある欄にサインする。このサインは神機整備士がGEとその神機の出す適合率やその他様々な数値、また各整備士によって異なる独自の判断に基づいて「より高ランクの任務に耐えうる」と判断した際に行うサインである。

つまりこのサインはそのGEと神機のプロモートを表すと同時、より危険な死地に送り出す許可を与える重い責任を持ったサインなのだ。

つい数ヶ月前―彼自身と神機共に最盛期のエノハにこのサインをした時には浮かばなかった感情がリッカを包む。

 

ずいぶんと変わった。

 

状況が。

 

目の前に居る少年の自分にとっての大きさが。

だからこそ再びこのサインをする直前―リッカは手が僅かに震えるのを隠す事に必死だった。

 

―彼の復帰は純粋に嬉しい。

そしてアナグラに、ここに居る全ての人間にとって彼の復帰は喜ばしい事に間違いは無い。それは解っている。

それでも何故か私の眉は内側に曲がる。

困ったような笑い顔になっているのを自覚する。

 

 

 

「リッカ?」

「・・うん?」

エノハは敢えてその複雑な笑顔に目を向けずじっと報告書を見ながら明るく笑ってこう続けた。

「リッカって本当に字が綺麗だよな」

報告書に書かれている味気ない中立的で事務的な記入事項、サインに目を通しているエノハが何故か楽しそうでリッカも明るく微笑む。

「・・え。そうかな?」

「うん。凄い達筆だと思う。・・・親父から聞いた事ある。一流の技術者や職人さんはほぼ例外なく字が上手いんだってさ」

「・・ありがと」

「それでさ・・嫌でなかったらでいいんだけど一つリッカに頼みごとがあるんだ。コウタに字を教えてやってくんないか?」

「え?コウタ君に?」

「うん」

「・・。フェンリルに入所する前に一応一般教養として最低限の学習はしているはずだけど・・」

「・・勉強嫌いがたたってるらしくてな・・字が恐ろしく汚いんだよアイツ。俺は立場上コウタが出す報告書読まなきゃならないからさ?その度に気が重いんだよね」

「そんなに?」

「・・はいコレ」

 

エノハは既に用意していた。コウタ直筆、外部居住区避難誘導任務の際提出された報告書にリッカは目を通す。が、すぐに彼女の眉がぐにゃりと八の字に曲がった。不味い飯でも食ったみたいに。

「・・うわっ。これはコウタ君監修の辞典が必要なレベルだね。案外新しく発明された文字じゃないの?これ?」

「結構きついなリッカ・・しかし気持ちはよく解る」

 

「・・・い~よ別に。連れといで」

「助かるよ」

「そのかわり・・条件が一つ」

「条件?」

「エノハ・・はい」

エノハは唐突に紙とペンを手渡された。

「・・?」

「何でもいいからそれにいくつか漢字を書いてみて。出来るなら画数が多めのがいいかな」

「・・・?」

エノハは訝しげながらペンを紙の上に滑らした―が、十秒も立たないうちに

「はいダメ!しゅ~りょ~」

「・・え?」

シュッとエノハの手元から取り上げた紙をひらひらと頭上で舞わせながらリッカはエノハに向き直る。

「書き順が無茶苦茶。書き順ってのは文字を美しく書く為に昔の人たちが試行錯誤の上で選び取った順番だよ。ちゃんと守らなきゃ。一見整っているように見えて実はエノハの字はぐっだぐっだのべろんべろん・・」

「・・酩酊してんのか俺の字・・」

エノハは返された自分の「答案」の字を眺め、あまり指摘された事のない自分の字の酷評に目を丸くする。

「・・仕方ない!コウタ君に教える前に先ず君も字の訓練だ!!部下の前にまず上司が率先して手本を見せないと」

「えー!?」

「黙らっしゃい!!この世の何事も正しい順序という物がある。そこが前後しちゃったり、すっとばしちゃう事で理解が遅れたり、苦手になっちゃったりするの。先人達が試行錯誤の上で編み出した『順序』の大切さをこの「字」というものを通してエノハに叩きこんであげるわ!」

 

リッカの指導の下、エノハは字を書く。

さすがに幼少から染み付いた癖を抜き切るのは難しい。おまけに字の見た目だけを「取り繕う」事に慣れた彼の執筆の修正は中々難しい。延びしろが異常なほどあるコウタに比べれば成長を実感しにくい生徒であるのだがリッカは楽しかった。

 

彼の書く「字」は本当に彼らしいと思う。

 

自分と同じ「イイコ」してきた、カッコだけ取り繕ってきたような「人生」が垣間見えるからだ。

まだ出会って一年と少しの少年。

エノハの事をこれからもまだ知り、理解しなければならない事がたくさんある。

 

一見スマートに納まっているように見えて、案外でこぼこの彼の事を受け入れていかなければならない。

 

―私の全てを賭けて。

 

 

 

 

 

 

2.

「お。アネット・・髪切った?」

「あ。正解です。へへへ似合いますかエノハ先輩!?」

 

いつもは金色の髪を後頭部で巻いていたアネットが今日は髪を下ろし、ショートカットのボブにしていた。

明らかにサイドとバックの長さが短くされ、綺麗に梳(す)かれたのだろう。ふんわりとした空気感のあるヘアスタイルは健康的かつ軽快で重さが無い。綺麗な金髪の彼女によく似合う。

 

「・・うん。いいね!」

「わは~い!有難うございます!!これ・・実はフェデリコに切ってもらったんですよ?」

綺麗に整えられた前髪をつまみ、満足そうに上目遣いでその毛先を見ながらアネットはそう言った。

「フェデリコが?凄いな!」

「はい!結構器用なんですよ。彼。・・・神機の変形以外は。不思議ですよねぇ~あはははは~」

「・・君は相変わらず鈍足が治らないよね」

「あう」

 

 

「イタリア支部の居住区で彼の妹や弟、その友達の子達の髪を切ってあげてたら自然と身に付いたって言ってました。時々噂を聞きつけて貴族界隈の人とかも来てた位評判だったとか。それでお小遣いを稼いでいたんでしょうね」

なかなか感心できるエピソードだ。この時代美容院に定期的に通うなど貴族のみに許された贅沢であった。その手の教育や職業訓練を受けず、自分で考え、工夫し、結果貴族の目に止まるほど独自のスキルを磨いたとなれば本当に大したものである。

 

・・ただし一応貴族であるエノハ家では髪が延びた時はそんな洒落た所には一切連れて行ってもらえず、庭で家族全員囲んで断髪式である。

母アメノの繊細な断髪は家族、そして住み込みで働いている職員には評判が良かったが、対照的に「芸術は爆発だ」思想の父―イワナによって何度幼い心を抉られるような髪型にされたかエノハは覚えていない。(おまけに金まで要求された)

母似の癖のない髪質を得た事で比較的自分で手入れすることが楽な髪質だったことがエノハにとって不幸中の幸いであった。

「先輩?」

「いや・・何でもない。似合ってるよアネット」

「あは~。良ければ今度お食事にでも~?美味しいお店が・・・」

色気もしくは下心<食い気。約2:8の割合。

「いいよ。フェデリコやコウタとアリサとリッカが一緒で割り勘ならね」

にっこり。

 

 

「ふ~ん。フェデリコはそういうスキルがあるのか・・・」

心底感心し、興味深そうにエノハは頷きながら何か思案するように視線を泳がせた。

「・・?どうかしましたか?先輩」

「いや・・」

 

 

 

「リッカさんの髪を切ってあげてほしい・・ですか?」

フェデリコは意外なエノハの提案に目を丸くした。

 

「そう。最近少し延びて整備作業中にうっとおしそうにしていたからさ」

「そう言えばそんな感じですね・・お忙しくて髪もちょっと痛んでるご様子でしたし」

神機の変形の訓練の為、比較的長く整備室にこもる彼はそういう事情に精通していた。

 

「もちろん構いませんよ。先輩の頼みとあれば喜んでお引き受けいたします!」

「ありがとう」

アネットのキャラが濃すぎてあまり目立たないがフェデリコも素直で真面目でいい子なのだ。

「代金は持つからさ。いっちょ頼むよ」

「代金なんて要りません。お二人にはどれほどお世話になっているか解らないんですしこれくらいはさせてください」

「遠慮すんなって。イタリアで貴族相手にカットしてたぐらいの腕前なんだろ?それなりの対価は貰うべきだって」

「そんな・・大したことないです。第一イタリアに居た時から僕カットの代金を頂いた事が無いんです。例え相手が貴族であっても1fcも」

「・・・マジか?」

心底エノハは感心した。

 

「僕はただ髪を切る事が好きなんです」

 

「・・」

―フェ・・フェデリコ。今俺は君がかつて無いぐらいに輝いて見えるよ・・。

眩しくてフェデリコの顔がエノハは見れない。今はただこの神々しい後輩の声を拝聴するだけだ。

 

 

 

「ただひたすらに・・あの美しい髪を切って切って切りまくり・・足元に堆積していく美しい髪の束を見るだけで僕の心は満たされるんです」

 

 

―・・ん?

 

 

「あの背徳感が溜まらないんです・・・女性の命とも言える髪・・それが僕なんかの手によって切られ、切り刻まれ、ハラハラと堕ちていく光景がもう・・ああ・・」

・・・うっとり❤

 

 

 

「・・・」

―畜生だまされた。

 

極東に新しく派遣されたこの新人二人は限りなく同類だったんだ。

この異様な濃いメンツが揃う極東に置いてそこに現れる新人が必ずしも普通なはずが無い。

俺も心のどこかでコウタやアリサと同様に理想の可愛い新人の妄想を捨て切れていなかったのだろう。

 

若かった。俺は。

 

 

「・・・。フェデリコ」

 

「・・はい?」

恍惚の表情を浮かべたフェデリコがしぱしぱした目でエノハを見る。そこにはかつて見た事も無い表情をしたエノハの姿が映った。

 

「フェデリコ。予定変更だ。リッカの髪は俺が切る。俺に指導してくれ」

 

「ええ!?そ、そんな・・」

 

「安心しろ。タダとは言わない。指導料+アネットが行きたがっている新しい料理店の食事代を君とアネットの分二人分用意してやる。二人じゃキツイだろうから俺とリッカとアリサとコウタがついていってやる」

至れり尽くせりのセッティングにフェデリコはぐうの音もでない。

 

「その代わりリッカの髪の毛に指先一つでも触れたらフェデリコ・・君の席はこの極東に無いと思え。いいね?」

 

「は・・はい」

 

 

 

 

 

 

その夜―

神機整備室

 

「・・何?今日はずいぶん甘えるね」

 

リッカは整備室のソファに座りながら机の上の神機の整備報告内容をまとめつつ、膝の上に寝そべったエノハの頭を乗せ、その髪の毛を優しく、細く白い左手の指先でさくさく梳かす。

整備室の鍵はロック済み。神機は休眠中。

 

二人きりの静かな夜である。

 

「・・・。いや。自分の若さを思い知ったっていうかさ」

「そりゃあ他人が自分の思った通りの人なんて事はそう無いよ。そんな単純なものじゃない。新しく知ったその人の一面が凄く嬉しい事もあれば失望したり、落胆しちゃったりする事もある。だって周りに居る人は当然自分の為だけに存在してるわけじゃないんだからさ?」

「よくよく考えれば当たり前のことなのに解って居るつもりで解って無かったってことか・・」

「おめでとうエノハ。改めて大人になったね。でも・・さすがにそのフェデリコ君の意外な一面には私も閉口かな・・」

「・・・」

「で。勝手に私やアリサ達巻き込んだみたいだけど当然・・私達の分の食事代も出してくれるんだよね?エノハ❤」

「・・お手柔らかにね・・」

「ははは。冗談だよっ。神機の修繕費やら調整費で最近の君の任務報酬ほぼピンハネ状態だからね。そこまで期待してないって。・・・ま。私もアネットが行きたがってるお店行ってみたかったし?喜んでお供させてもらうよ」

「・・本当にすまない」

「そういうとこ無理して意地張らない所は君のいい所だと思うよ。エノハ?」

悪戯そうに歯を見せて笑うリッカの顔をエノハは見つめ、

 

―・・我ながら本当に良い娘を選んだな。

 

そう思いながらリッカの随分伸びた髪に右手を延ばす。気持ち良さそうに目を細め、頬にかかる髪に添えられたエノハの右手に頬を預け、リッカは深く一呼吸し目を閉じる。

「うん・・?」

化粧気の無い顔でエノハを見下ろし、微笑みながら「本当に今日は甘えるね?エノハは」とでも言いたげに首を傾げ、微笑む。

「・・・」

エノハは思わず見惚れて言葉が出ない。

 

先日マツナガが言っていた通りだ。

おそらくこの子はこれからどんどん魅力的に、美しくなる。

綺麗になる。

可愛くなる。

 

―・・責任重大だなこれは。フェデリコにしっかり教えて貰わねば・・。

 

思ったより時間がかかりそうだ。いや。時間をかけねばならない。

 

「リッカ・・。少し待ってくれな・・?今はこれで・・勘弁しといて」

「・・?」

 

ゆっくりと開かれた少年の掌にある「物」を少女は見た。

そして呆れたように深く溜息を吐き、

 

「・・・ま。今は『これ』で勘弁しといたげる❤」

 

末恐ろしい天井知らずの笑顔で少女は微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 






「・・終わったぁ・・」
リッカはあくびを噛み殺しながら大きく伸びをする。
すでに彼女の膝の上で眠りについたエノハの頭の重みで痺れた足も机の下で目一杯ぐぐぐと延ばした。

基本どこでも眠れるエノハだが最近お気に入りの場所が出来た。
他でもない今この場所である。
しかし―

「い~ちちちちっ・・・こっちの身にもなれって~の」
しびびびと痺れた足にやや涙目のリッカは文句垂れながらエノハの寝顔を見る。

「・・一人で気持ちよさそうに寝おって・・」

「・・す~っ」

「・・・。かわい~なぁ」

―私の・・かわいいひと。

でも!

流石にこのままの姿勢じゃ私が休まらない!!よって!

「んしょ!!」
がさ
「ほい!」
ごそ
「・・これでよし」
ぴと
「・・にやり」


仰向けのエノハの胸に耳をコバンザメのようにべったりと引っ付け、「体勢」は整った。
一定のリズムで上下し、波打つ音を。彼がこの場に居る、生きている証、鼓動を直接感じながらリッカは眠る。
エノハの腕輪のついた右手をしっかりと向かい合わせの左手を絡ませて。

―・・・おやすみ。

また明日ね?

エノハ・・









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