あっても不思議じゃないぐらいの二人なんですけどね。
よろしければまたお付き合いを。
おかしい・・。
最近どーも第一部隊の連中に避けられているような気がする。
アリサも、コウタ君もサクヤさんも、ソーマ君は・・この前の王様ゲームの件で思いっきり私に対する警戒心がアップしている。探りを入れる前に逃げられてはさすがにどうしようもない。
一人涼しい顔をしているエノハも最近妙な行動が多い。整備室ではなくラボラトリに籠もる時間が長くなった。
そしてその怪しい第一部隊を最近よく個人的に召集している、欧州へ赴任中のヨハネス支部長の代理を任された元々怪しさ満開の榊博士。
彼もどこか最近機嫌がよく、彼が言うには「ルンルン気分」(死語)らしい。
時を同じくして一部アラガミの素材の異常な消耗率にそれこそ「誰か食ってるんじゃ?」という噂も立つ。
その度にエノハら第一部隊の出勤がアサイン→アラガミ素材の異常な補充が行われて噂がしぼむ。
このサイクルをここ数日繰り返している。
なんとなくだが、子犬を拾ってきた子供(榊)に無理やり世話をさせられている親(第一部隊)みたいな関係に思える。
リッカは最近「詮索のしすぎかな」と自分を諫めてはいるのだがやはり隠し事をされるのは何となく・・気分が悪い。
元々GEという立場の人間に混ざり、「整備」という違う仕事をこなしているリッカはやはりどことなく疎外感があったのだ。適性はありながら適合神機が見つからず、オペレータという仕事をしているヒバリも近い感情を持っていたらしく、それがきっかけで仲良くなった。
そのヒバリも最近の異常とも言える支部長代理の榊の第一部隊の召集の多さを彼女らしく「お気に入りなんでしょうね」と笑っていたが少し寂しそうだった。
それにしてもこう露骨にされると・・腹が立ってしまうではないか?
支部長室―
「榊博士」
「ん・・?何かなリッカ君」
「最近、榊博士の個人的な第一部隊の出動回数要請の多さが少し気になるんですけど・・」
いつもと違う業務的な口調でリッカは榊に詰め寄った。
「ん・・そうかね?いやぁ・・研究に没頭しているとそういうのに疎くてね。申し訳ない」
「それは構わないんですがまだまだ未知数の新機構の神機を持つ新型二人がいる以上、整備班の負担を考えてほしいんですが・・何かあったら困りますし」
「そうだったね。いや~すまなかった」
「それでももし新型二人を必要としている、第一部隊を抜擢する理由、都合等が作戦上あれば開示して頂けるとありがたいんですが・・こちらも納得できますし」
「いや。すまない。ソーマが・・あれ程居心地よさそうにしているのを見て私も嬉しくなってね。リンドウ君すらも手を焼いていたソーマが・・私は彼を幼少から知っているから今の彼を見ているとつい、ね・・?任務を通してもっと仲良くなってもらいたいじゃないか?うん!」
「それは・・そうかもしれませんね」
確かにあの「いつ死んでもいい」みたいなソーマの神機のキズは最近見なくなっていた。
「ところで・・リッカ君?丁度さっき言ってた整備班の負担を減らす件で・・キミが要望していたあの機器が後日届くよ?」
「え!?本当ですか!?」
「ふふふ・・今支部長がいないからね・・鬼の居ぬ間にと言うやつさ。今極東の財布の紐はこの私が握っているんだよ?・・ぐふふ」
そう言って榊は自らの目の前に膨大な数の企業のパンフレットを置いた。どれも技術者垂涎の一流メーカーの最新機器に関するものばかり。
―キャー!!
リッカは彼女が今まで発したことのない黄色い声を内心上げる。
「そして君の要望通り・・機器納入の際には営業の連中ではなく、各社の研究開発班の技術者の連中を直接来させるように手配しておいた・・楽しみたまえ」
「キャー!!」
・・声はとうとう現実化した。
「・・・しまった・・のせられた・・」
「気分ルンルン」で支部長室を後にしたリッカは直後、自分のツメの甘さを嘆いた。ふらふらと役員フロアを後にしようとしていると・・
「あ、リッカ君!!待ちたまえ!!」
「・・なんですか」
敗北者にさらにムチを打つ気ですかという目でリッカは振り返る。この古狸にもう一度探りを入れるにはテンションが足りない。先程もう使い果たした。
「・・今度また君にちょっと変な仕事を頼むかもしれないが・・いいかね?」
「・・変な仕事?」
「何。そんなに構える必要はない。大丈夫。詳しくはエノハ君を通してまた君に伝えるよ」
「・・・エノハに?」
「すまなかったね。君のことは信頼しているんだが・・もう少し時間をくれたまえ」
「・・はぁ」
数日後・・
榊の言った通りエノハが整備室に顔をだした。一枚のデータディスクをリッカに手渡す。
「榊博士から話を聞いてると思うんだけど・・」
「はい。伺ってます。して、どのようなご要望でしょうか?」
「・・・」
―怒ってるな。
「あの・・普通に話してくれません?」
「そうはいきません。第一部隊隊長エノハどの。貴官は私の上官ですから」
「悪かった・・ごめんなさい・・」
「・・なぜ謝っているのですか?」
「事情があったんだって・・」
「・・・」
それはわかっている。でも何となく理屈じゃない。腹が立つ。
「・・。それを見たら納得してもらえると思う。だから・・」
リッカはその言葉に反応せず黙々とデータディスクを端末に挿入し、画面に映し出されるファイルをめくり始めた。
しかし、つと手が止まる。その榊が作ったデータが示すこの技術への関心と共に、それが意味するものに気付いたからだ。
「これは・・服?」
「そ。そして・・リッカにしか作れない服」
その技術が意味するものにリッカが気付いたことをエノハは理解する。そしてその技術によって生み出される服をどんな「存在」が着用するのか、もだ。
―寸法からして・・女性と言うより・・女の子?でも股下長いな・・ウエストも細いし。隣に並ぶと自信無くしそうなタイプかも・・。
「・・エノハ」
「ん?」
「その子のイメージ教えて?」
口調が戻っていた。同時にリッカの目が輝いているのをエノハは確認する。エノハは一つ大きく息を吐く。
「そうだな・・色白で華奢で・・子供みたいに純粋かな?」
「・・天使みたいだね」
「あ・・そうかも」
「了解。わかったよ。超特急で仕上げるから三日頂戴?」
「三日!?・・・で、いいの?」
「うん」
「了解。本当に悪かった・・」
「ん。まぁ・・仕方ないね。まだ私も驚いてる段階だし。私の推測が正しければ・・だけど」
「今度ちゃんと説明するから」
「いいよ。別に。その代わり二つ約束して。まず一つはこれを着た本人に会わせてほしいこと」
「・・了解」
「そして、もう一つ。これからはもう隠し事も無しってことで・・」
「・・善処するよ。立場上約束はできないけど」
「そこは約束しなよ。嘘でもいいからさ」
そう言ってリッカは微笑んだ。
その後・・デザインを決めるために具体的なイメージをもう少し知りたいというリッカの要望によってエノハはしばし整備室に缶詰めになった。
何枚ものボツ案のデッサンを床にばら撒き、一つのデザインを描き終えたとき、リッカは満足そうにして糸が切れたように眠った。眠る彼女に上着をかけ、エノハはリッカが採用した一枚のデッサンの紙を手に取る。
「こういう才能もあるのか・・」
エノハの伝えた印象を「天使みたい」と彼女は言った。そのイメージを見事に具象化した衣装のラフ絵に心から感心してエノハは目を丸くする。
「・・。しっかし・・この服のデザインを描ける当の本人がいつもこんな無防備でラフな薄着とはどういうことだ?」
「えくしっ」
「・・・」
エノハはリッカの上で少しずれた上着をかけ直してやった。
共犯者
「・・・!!」
リッカは絶句した。
「ん?ん?エノハ~?ハカセ~?コイツダレだ~?」
大きな目、ゆらゆら揺れるその眼には好奇心が所狭しと詰め込まれている。
人間であれば病的な程の白さの肌である。が、目の前の少女にはまるで後ろ暗さなど感じさせない不思議な活力に満ち溢れていた。
「紹介するよシオ。彼女はリッカ。君が今着てる服を作ってくれた人だよ。で、リッカ。この子がシオだ。ちなみに命名したのは意外にもあのソーマ君」
「おー!このふく作ってくれたのかーすごいぞーこれちくちくしないぞーすごいなーえらいなーありがとなー?」
シオ―アラガミの少女は今ある言葉の知識を総動員してリッカに感謝を伝えようとしてくれた。
ゆらゆらと不規則に体を揺らす。その所作に独特の生物感は残るものの、表情、しぐさ、声色、感情表現は明らかに人間であった。
「・・・」
未だ声の出ないリッカの前にシオはトコトコ歩いてくるといきなりガバリと抱きついた。
「わっ」
肌と肌が触れる。暖かい。華奢で細身の半面、滑らかな曲線を持つその体型はまさしく人間の少女であった。
まだ少しおどおどしているリッカに向けて榊は
「そういう風にして今彼女は君という人間を覚えようとしているんだよ。遠慮なく色々触ってあげたり、話しかけてあげてくれたまえ。大丈夫だから」
「・・・」
「んー?んー?」
感触で、嗅覚で、耳に響く声で。今シオは体全体でリッカという少女を覚えようとしている。
リッカは遠慮がちに少し頭を触る。毛髪が人間の物とまるで違う。しかし、ゆっくりなでるとくすくすと鼻でご機嫌そうに笑った。胸元で漏れる吐息が少しくすぐったい。
「頭をなでられるのは大好きみたい。シオは。その調子かな」
エノハの言葉に少し安心し、今度は彼女の顔を一直線に見据えて挨拶をしてみることにする。
「・・シオちゃん。初めまして。リッカだよ」
「リッカ・・リッカだな。覚えたぞ!」
「うん。えらいね。すごいね!」
なんてかわいいのだろう!それに自分があつらえた服がここまで似合っっているとは。我ながらいい仕事ができたなと自分を褒めたくなる。
「くんくん・・りっか~?リッカってすごくいいにおいがするな~」
「え・・?そう?」
「うん。と~ってもうまそうなにおいがする」
「え・・?」
「このにおいだいすきだぞ~エノハ~つまみぐいしていいか~?」
「・・?あ~リッカ。君はいつもアラガミ素材に触れてるからな。多分その匂いがシオを捕食モードに・・」
「え~!洒落になんないよ!それ!シ、シオちゃんちょっと待って!」
「じゅるり・・」
「ははは。男性につまみ食いされたこともないのに、出会ったばかりの女の子につまみ食いされてはたまらないよね」
「お、お、おお・・」
―さらっとおっとろしいセリフを吐くなぁ?博士・・。
「榊博士!!聞こえてるよ!!」
「はいはい!シオ!ここに食べるものは置いてあるから!リッカ食べるとおなか壊すよ~」
「おー!エノハ!いいやつだな~」
―・・なんだろう?助かったんだけど凄いカチンとくる。
「ごめんな~リッカ~いきなりたべるなんていって~シオえらくなかったな~」
やはりこういう所はアラガミなのだろう。「食べる」という根源的な欲求に素直だ。しかしそれでも食欲が落ち着いた時には自分を律し、改善しようと、食べてはいけないと思う理性を獲得しつつある。
第一部隊との交流がここまで彼女を成長させたのだろう。そこに初めから参加できなかったことにリッカは嫉妬を覚えた。
「ううん。ごめんね。私ももっと気を付けるべきだった。よし!仲直りしよう!握手!」
「あくしゅ?」
「そう。こうやって手と手を・・」
「これは・・なんだ・・?」
「う~んそうだね・・私たちは友達だよって言う合図かな?」
「ともだち・・しってるぞ!アリサとかサクヤとかソーマとかエノハとかコウタとかハカセのことだな!」
「そう・・よかったら私もその中に入れてくれる?」
「おお。いいぞ~」
満面の笑みでシオは応えてくれた。今までリッカの中にあった疎外感をすべて一気に吹き飛ばしてくれるような天使の微笑みをリッカは飽きずに眺めつづけていた。
極東支部アナグラ。
ここは人類の天敵であり、GEの敵であるアラガミを駆逐するために作られた施設である。
その中心でそのアラガミと人間の奇妙な関係があった。
その中心にいる彼ら以外の人間にとっては全く想定外の行為、愚行が行われている。
これは裏切り、罪と言ってもいい。
でもそれが何だというのだ?
今リッカはその罪がこれ以上なく嬉しい。
―今自分の目の前にあるこの可愛い天使の手を握ることが罪だって言うのなら私は・・罪人でいいや。
共犯者もたくさんいることだし・・ね。
おまけ
「リッカ。教えてほしいことがあるぞー」
「んーなにかなー?」
「シオなーわからないんだー」
「ふんふん?」
「ハカセがいうにはニンゲンっておとことおんながふたつあるっていってたんだ~」
「・・うん」
「で、アリサとサクヤはおんなで、ソーマとエノハとコウタとハカセはおとこなんだ~」
その後の展開が読め、エノハは次のシオの言葉を遮ろうとしたが遅かった。
「さっきだきついたけどリッカがどっちかわからないんだ~?リッカはおとこか~?おんなか~?」
数分後・・
「まだ子供なんだ・・許してやってくれ」
「いや・・ぜ、全然気にしてないっスヨ?」
―そりゃそうだ。よりにもよって今までの女性代表が「あの」二人だったんだ。しょうがない、しょうがないよね。むしろ自分は人間の「基準」を改めてアラガミの少女に教えた最初の人間だ。彼女が間違った知識を覚えることを阻止したんだ。そうだ。間違いない。悲しくなんかない。
今回も読了してくれた方、本当にありがとうございます。
つきまして次章のプロローグをこの場を拝借して少し・・
欧州へ出張中の支部長が極東支部へ帰還した翌日、エノハは支部長室に呼ばれた。
その内容は留守中の極東でのエノハの任務遂行に対する労いの言葉達、そして、新たに彼に課される「特務」に関する説明であった。
支部長直轄、守秘義務、単独任務、そして見返り・・端的に簡潔にしかし居心地の悪くなるような妙な迫力を込めて支部長―ヨハネスは最後に激励の言葉とともに締めくくった。
そして次に拍子抜けするほどの笑顔と空気で微笑んだ。
「いや、すまない。必要以上にプレッシャーをかけるつもりはなかったのだがつい・・ね」
「いえ・・」
「と、言うのもすぐに君に任せたい案件があってね・・。こんな急で脅しのような説明になってしまったのを許してくれたまえ」
「・・・!」
「・・早速だが引き受けてくれるだろうか?もちろん、こんな急な話故断ってもらっても構わない。ただ・・」
「ただ・・なんでしょうか?」
「緊急性はそれなりに高い。現れたアラガミがアラガミでね」
「まさか・・ディアウス・ピターでしょうか?」
彼と第一部隊が撤退を余儀なくされたあの四体のマータを操っていた事が先日判明した正体不明のアラガミ・・恐らくリンドウの敵だ。しかしヨハネスは首を振った。
「いや違う。奴は先日斥候部隊の追跡を逃れて行方不明のままだ。確認され次第、君たち第一部隊には知らせる事を約束しよう」
「有難うございます。では・・?」
「ある意味極東地域にとってはディアウス・ピターより厄介なアラガミと言える存在だ・・性質が無機質故、行動が読みにくい。しかしその存在だけで十二分に脅威だ」
ヨハネスはデスクに置かれた彼専用のノートパソコンを開き、あるページを開くとパソコンごとくるりと回してエノハに見えるようにした。
「君の初めての特務はこのアラガミ・・ウロヴォロスを討伐することだ」
不明瞭な画面で妙に光る複数の赤い目がとらえているのは人間などではない。彼らが何に突き動かされて地上を闊歩しているかなど人間には到底うかがい知ることなど出来ない―そんな目をしていた。