以下極東支部データベース
通称「ノルン」より抜粋
1.
榎葉 山女(18)
2071年フェンリル極東支部入隊。
フェンリル極東支部において、初の新型神機使い。ペイラー・榊博士(47)によるメディカルチェックの結果、非常に高い潜在能力が認められた。現第一部隊、藤木コウタ隊員(15)と同時期に同支部に配属。
使用神機
可変型新型神機
ショートブレード・ブラスト。
または
ロングブレード・ブラスト。
陽動、遊撃、奇襲、強襲、支援など様々な役割をこなせる柔軟性を持ち合わせる。
同支部、同第一部隊に配属されたアリサ・アミエーラ隊員(15)と共に新型第二世代の運用の雛型になる可能性を持つ。
2.
ミッション「蒼穹の月」にてMIA(作戦行動中行方不明)と認定された第一部隊隊長雨宮リンドウの後任として入隊して日の浅いながらも異例の抜擢となる。
経験の浅さ、年齢の若さによる不安は残るものの、新型の柔軟性は元より高い戦闘力、判断力、研鑽を怠らない実直さを持ち合わせ、そして温和な性格で周囲と打ち解ける事が早く、同第一部隊のアリサ・アミエーラ隊員の早期の精神回復と原隊復帰に貢献したことから新人として異例ではあるが権限の強化を行う事を決定された。
3.
全極東支部支部長ヨハネス・フォン・シックザールが秘密裏に遂行していた「アーク計画」の阻止に多大な貢献をしたとして本部より表彰され、ペイラー榊支部長代理兼研究博士による新体制移行後も不動の地位を獲得し、任務についている。
尚、本情報は極東支部外秘とする。
4.
ミッション「蒼穹の月」にてMIA認定、後日ミッション「野獣の黄昏」にてKIA認定とされていた元第一部隊隊長雨宮リンドウ(26)の追跡に貢献、無事に救出することに成功した。尚この件についての規約違反については特別な計らいで不問とされている。意外にも規約違反の数はこの極東支部においても比較的多い人物である為、多くの人物の上に立っている自覚、立場を鑑みて自粛を促してほしい所である。
是より以下
2074年に更新された極東支部データベースより抜粋
榎葉山女(21)
2071年フェンリル極東支部入隊。
独立支援部隊「クレイドル」所属。
彼の配属されていた極東支部第一部隊隊長の権限は彼と同期入隊の藤木コウタ(18)に引き継がれている。現在はクレイドルの任に就き極東支部を離れている。
神機第二世代型の使い手としては世界でも屈指の実力者であり、その存在は半ば伝説と化している。
第二世代型神機が主流になった現在においても彼やその仲間たちが残した戦術は世界の各支部で採用されており、神機使いの殉職やアラガミの被害の減少に貢献し続けている。
極東支部だけでなく、各支部において多大な貢献を色濃く残す功労者である。
以上が元極東支部所属第一部隊隊長―榎葉 山女隊員の一部秘匿情報を含めて「ノルン」に情報開示されている・・
「表向き」の歴史である。
データベースは彼が配属されて一年後の2072年更新されている。
役員、幹部クラスの者にしか開示が許されていない特秘ページにのみ、以下の文は開示されている。
榎葉 山女
(享年 19)
故人。
2072年、極東支部全戦力を結集した大規模なアラガミ掃討作戦―ミッション名「ナイアガラ・フォールズ」においてKIA(作戦行動中死亡)と認定。最終階級は二階級特進に加え、多大な功労を残した恩赦特例としてさらにもう一階級の特別特進を与えられ大佐となっている。
大佐は作戦時、敵味方入り混じる混迷の戦局の中、単独でイレギュラーに現れた複数のアラガミ討伐を滞りなく完遂された後、想定外のアラガミに襲われ亡くなられたと考えられる。
大佐の残された神機、腕輪、そして腕輪と共に残された大佐の右腕の断面と同氏の血液量の半分以上の大量の血痕の中から唾液と思われる体液と未知のオラクル細胞が検出されており、作戦終了後の待機中、新種のアラガミに襲われ、捕食されたものと考えられる。
この未知のオラクル細胞は大佐の右腕と共に本部によって回収され、調査中だが現在も事後報告等は一切されてない。
正し極東支部代理支部長ペイラー榊博士、そしてこの件についての記録を任されている私―雨宮ツバキ立会いの下、残された血液、そして残された右腕のDNAデータから照合を終え、この血液データが間違いなく榎葉 山女大佐その人の物であることを確認している。
極東支部、そして彼の貢献を知る各支部の関係者、各支部のパワーバランス、そして何よりも多大な貢献者である大佐の急逝における混乱と混迷、そして彼ほどの神機使いを屠る新たなアラガミの存在は多大な動揺と望まぬ物議を醸すことを懸念した本部。そして極東支部代理支部長―ペイラー・榊支部長によってこの事は公にされていない。
尚、本情報は極東支部秘匿情報特Aクラスとして許可された者以外の閲覧を厳に禁ずる―
・・余談であるがこの報告書を書き終えた後、今回の作戦における多大な損失の責任をとって私、雨宮ツバキは辞表を提出したが受理される事は無かった。
―君には役目がある。いつもの君に戻り、厳正かつ凛とした態度で彼の仲間達に厳然たる事実を伝えることだ。そして当初の予定通り、混乱を避けるために彼らに緘口令を敷くことだ。
直属の上司であるペイラー・榊代理支部長から非情な宣告ともとれる命令が読み上げられる。
これを・・私は伝えなければならないのか・・?
上司として。
一個の人間として。
淡々と?
冷静に?
凛とした態度で?
ふざけるな。
こんな事実をあいつらに伝えろと言うのか!?
彼の仲間達に!?
・・・・リッカに・・!!!???
「ツバキ君」
「・・!」
「悲しいのは解る。私だって同じだ。悲しいし在りえない程混乱もしている。しかしその顔で彼らに向かい合う事は許さない」
「・・・は」
―・・ダメだ。
出来ない。
声が戻らない。
演技が出来ない。何時もの冷静沈着な上官の演技が。
...出来ない!!
実弟のリンドウの時はほぼ絶望的とはいえ、まだ一縷の望みが在った。それが崩れかけたツバキを支えたが今回は・・ただ伝えるだけだ。
目の前に横たわる厳然とした数字の結果が示す圧倒的絶望的事実を。
「姉上」
支部長室の背後の通路側のドアからいつもの軽薄な声とは違う低く、礼節を整えた声が響く。
リンドウの声であった。
「あいつらには俺が。それぐらいの事はやらせてもらいます。自分は先輩であるにも拘らず大きな借りを作ったまま逝ってしまわれた大佐へせめてもの責任を果たす役目を俺に与えてください」
そう言ってリンドウは泣きじゃくる姉の顔を見る事は無く、支部長室から背を向け、歩き出した。背筋をきちんと正して。
しかし。
役員フロアを後にする直前で彼は足を止め、天井を軽く見上げた。
くわえた煙草の煙がゆっくりと広がり直ぐに
―消えた。
―・・ちっくしょ~・・。
煙草の煙が目に沁みるぞオイ
・・エノハよぉ・・・。