GOD EATER カスタマ   作:GREATWHITE

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ウソツキ

時間は遡る―

アナグラの、世界の運命がめぐり始めた切欠の事件のあの時へ。

 

ミッション名。

 

「蒼穹の月」

 

午後四時三十八分。ビル爆破決行時直前―

アナグラに居るヒバリ、リッカの二人と爆破ポイントに着いた第一部隊サクヤとの会話である。

 

『・・時間ね』

「サクヤさん・・」

『ありがとうヒバリちゃんに、リッカちゃん。貴方達の協力でここまで来れたわ。榊博士にもお礼を言っておいて?後は・・やれるだけやってみる・・』

「・・・!こちらの体勢が整い次第すぐにでも救助隊を派遣しますから!!どうか!それまで!」

『ありがとう。頼りにしているわ。ヒバリちゃん・・何時も有難う』

「サクヤさん・・」

『・・リッカさん・・。・・・』

「・・はい?」

 

 

 

 

『もし・・今の私の様な気持ちや想いを貴方にもさせてしまったら・・・御免なさいね?』

 

 

 

「え・・・?」

 

 

―サクヤさんが言っている事が何の事だか解らなかった。その時は。

 

でも今なら解る。

私はサクヤさんがリンドウさんを喪った時の気持ちや想いなど理解しているようで全く理解していなかったんだと。

 

「他人が自分の思った通りの人なんて事はそうない」

あの日エノハに告げた自分の言葉がそっくりそのまま私の胸に突き刺さる。

 

おめでとう私。

改めて大人になったね。

 

 

でもこんなことなら。こんな想いをするぐらいなら。

 

私はずっと子供でよかった。

ずっと子供のままで君と話すの。

いつもの通り、あの場所で。

 

あの席に座って。

 

いつものバカ話をするの。

 

 

いや―

 

それでもきっと今の想いの十分の一ぐらいはこの想いを味わうかもね。

 

嫌なんだ。

 

例えわずかな断片だとしてもこんな想いをするのは。

 

 

 

 

だからこんな想いをするぐらいなら・・いっその事。

 

 

―出会わなければよかった。

 

 

 

 

ミッション名「ナイアガラ・フォールズ」

 

作戦結果 大勝

 

被害

第二、および第七居住区装甲壁小破。

倒壊家屋 0

上記に該当する居住区住民も後日自宅に全員が帰宅許可。

 

第二、三部隊、その他GE部隊―重軽傷者多数。しかしいずれも快方に向かっている。

各神機も損害軽微。

 

第一部隊―一名を除き、いずれも軽傷、装備の損害も軽微。

 

殉職者

 

第一部隊部隊長―一名。

 

 

 

この作戦より一カ月が経過した―

 

「よっしOK!!いってらっしゃい!!」

 

リッカは最近コウタの指導の下で新しく配属された新人数名の神機調整を終え、笑顔で彼らを送り出した。

 

長い。長い一カ月だった。

 

 

その半分以上、ほぼ彼女は一人ではいられなかった。

 

仕事は勿論のこと、彼女の父が亡くなって以来、自分の事は殆ど自分でこなしてきた彼女が日常生活すらまともに送れない状態までに陥った。

食べ物も、・・飲み物すらまともに喉を通らず、有給の溜まっていたヒバリが思わず榊の所へ有休申請用紙を叩きつけ、いつもならのらりくらりと受理を嫌がる榊もほぼノータイムで印を押している。

 

有給期間はヒバリの立場、スキルを鑑みると十日間が限度、その間ほぼ付きっきりでヒバリは完全に自失状態の親友の傍に居続け、親友を支えた。

 

そして彼女を中心に体の開いた主に女性GE達がローテンションでリッカに負担がかからない、自責を感じて頑張り過ぎない程度の頻度で彼女の下を訪れる。リッカはそんな親友、仲間達に支えられ―

 

・・・ながらも彼らの目の前で憚らず、洗面所に駆けこんで食べた物を全て吐きだす。

リッカはそんな時間を一週間ほど繰り返した。

 

 

しかし半月が経過した「ある」時以降、不思議と急に彼女の体調が回復した。

食欲が戻り、睡眠時間も安定。声にも力が戻って思考も落ちつき始める。自分の身の回り、単純な作業もこなせるほどまでに。

 

しかし当然周りの仲間達はそれをまともに受け取らない。

注意深く彼女達はリッカの動向を伺う。

 

 

「エノハ」という自分を見てほしい相手が出来たリッカは知らず知らずのうちに自分を見る機会が増えた。

結果自分の表情や仕草を自然と見なおしたり、今日の髪型、顔色、そして少し前までは特に興味の無かった化粧のことも友人達に相談するようになっていた。

鏡を見る事も増えた。

さばさば、さっぱりした性格の少女の急激な変化に周りの少女は驚き、そして同時に微笑ましかった。自分をもっと見て貰いたいと思う願望を基に他の少女達に比べれば無頓着だった物を急激に取り込もうと拙い試行錯誤するリッカの姿は。

 

「何よぉ。笑わないでよぉ。必死なんだからさ!私も!」

 

友人達にお披露目した必死で頑張ったメイクを笑われ、作業用のグローブでぐしぐしと顔を拭い、いつものオイル汚れがついた彼女らしい顔に戻って顔を真っ赤にして怒った時も在った。

急激な変化の中でも根っこの「リッカらしさ」が失われていないことを認識してさらに彼女の友人たちは微笑ましくなる。

 

そんな彼女に懇切丁寧にヒバリ、アリサ、カノン、ジーナ、そして復帰したサクヤを始めとする女性陣は指南していった。元々勉強熱心で真面目なリッカ故吸収は早く、おまけにサクヤ、ジーナの

「リッカちゃんは普段のらしさを全面に出したあまり手を加え過ぎないメイクの方が素敵ね。軽く眉を整えたり、傷んだ髪をケアしたり綺麗なその白い手の爪先や指先を綺麗にしたり・・基礎的な事をこなすだけで十分だと思うわ。これは嫌味でも何でもなく」

「・・そうね。私もそう思う・・。その方がエノハ君も喜んでくれると思うわよ?」

の言葉で方向性もすんなり決まった。

 

「「自然・・それでいて大胆に・・任せといて?エノハ君をドキドキさせる貴方にさせてアゲル・・・」」

リッカは脅えながら姐御二人に。

「お、おおお願いします・・・」

 

結果リッカらしさを残したまま、リッカはさらに魅力的になっていった。

教わった手順をきっちりと実行し、そこに自分の気分、体調や状態、そしてエノハだけでない職業柄出会う色んな人物とコンタクトを取る際に自分でアレンジを加えられる程にまで一気にリッカは成長する。

 

今まであまり無頓着だった世界を見なおした結果、リッカの仕事とプライベート共に充実していった。

 

 

 

・・その矢先だった。

 

エノハが居なくなったのは。

 

急激に失われていく。短期間で彼女が習得していったものが。

彼女が変わっていく切欠となり、同時に見せ、魅せたい最大の相手を喪って。

 

それでも身に付けた物を、懸命に皆が自分に指南してくれた物を見失いたく無かったのだろう。リッカは体調の回復後、新たに加えられた彼女のルーティンを再び行い始める。

 

―しかし

 

心身を喪失した人はえてしてそのルーティンに欠陥、欠損が出やすい。

綺麗な花畑にぽっかりと黒い穴が空いている様な物。

他の所が奇妙なほど整っている為、目に見えてその欠陥が見えやすいのだ。

 

眉の手入れを忘れていたり、爪が延びていたり、目が充血していたり細かい所で物忘れの様に全く手付かずの場所がある。

 

これはつまり「SOS」だ。

リッカがまだ「大丈夫ではない」と言う事の。

 

それを綺麗に丁寧に周りに居る友人たちは修正していく。

あまり腫れものに触る様に扱うと本人が「頑張り」過ぎてしまうので出来る限りやんわりと。

リッカの友人達は奮闘した。

「今度エノハが切ってくれるらしいんだ」と嬉しそうに語っていたかなり延びた髪の毛だけは手を加えず・・否。加える事が出来なかった為、髪は整えるだけに留めながらその後も友人達は彼女の動向を見守り続ける。

 

彼女達だってエノハを喪った動揺や悲しみが全くない訳ではない。

 

アリサ、カノン、ヒバリ、アネットはあまりの突然の訃報に当初は泣きじゃくった。サクヤですらリンドウの支えが無ければ危うく、ジーナも涙は見せないものの伏せ目がちだった。

 

だがそれでも。

「今この見ていられない程痛々しい状態のリッカに比べれば大した事は無い」

そう言い聞かせ、彼女達はリッカを支えた。リッカを支えることで彼女達もまた自分達を支えたのである。

 

一人の女の子としての彼女を支え、結果普段の生活に支障なく、また仕事に臨めるまでの精神状態にまで押し上げた。

 

見事である。

こういう時はとみに男というものが役に立たない事を男性陣は思い知る。

 

 

―しかし

 

彼女達にもどうにもならない事は在る。

 

 

それが今日顕在化した。

 

 

リッカが仕事に戻り、三日目の丁度エノハの殉職から一カ月が経過した今日この日の事であった。

 

「その・・リッカさん・・?」

「ん・・?どしたの?アネット」

「その・・あの・・」

アネットは動揺が隠しきれない表情で怪訝そうなリッカの顔を見て思わず・・背後に居る今日の彼女の任務の部隊長を担当するソーマを振り返って窺う。

 

―い、いいんですか?黙っておいた方が・・・。

 

ソーマは無言でそのアネットの心の声を却下する。

 

―いいから。

 

「・・・?アネット・・?」

リッカに「その事」の自覚は無かった。アネットは居たたまれず、強く目をつぶる。

気のせいではない。何かの冗談でもない。本当に気付いていないのだ。

 

「あの」リッカが。

 

ソーマは見かね、後輩の少女の肩にポンと優しく手を置き、溜息を吐く。

「御免なさい」と言いたげにアネットは眉をひそめソーマに無言で謝る。

 

―気にするな。やっぱりここは俺が気を遣うべきだった。・・やっぱり・・「あいつ」の様にはうまく行かねぇな。

 

悲しげな目でそう思い耽り、ソーマはリッカを見据えた。やや厳しいまなざしを向けて。

 

「楠・・ここを見ろ。コイツの神機のここ」

ソーマは目を伏せているアネットの手元の銃形態の神機を浅黒い指先で差す。

 

「え・・・?」

―・・・?・・!!??つっっ・・・う・・・あ・あ・・・!

リッカの目は曇り、顔面は蒼白、口をはくはくと呼吸が上手く出来ない。

説明など出来そうもない。変わりにソーマが口を開いた。

 

「ここのボルトが緩むとどうなるか知ってるよな?俺なんかよりも遥かに神機に精通したお前だ」

 

そのソーマが指差した先は通常ボルトとナットが装着されている部位で在る。

神機休眠時、もしくは換装する場合には取り外されるパーツで在り、出撃の前に整備士の手によって再び装着される。

まだ日の浅い整備士であればよく緩んだ調整をして任務後に神機使いに怒られる光景をよく見る程神機の内部や詳しい機構を知らない神機使いでも知っているポピュラーと言える基礎的な部位だ。

 

しかし・・今アネットの手に握られている神機には緩んでいるどころかボルトとナット自体が装着しておらず、リッカの背後のパーツ置き場に置き去りにされていた。

もしこのまま出撃してしまった場合―神機はおそらく戦闘開始後即空中分解である。

 

その事実から逃げるようにすぐにパーツ置き場に走ろうとするリッカの左腕をソーマの力強い右手が掴む。

「・・・っ!!!」

ソーマの手を振り払い、リッカは消しきれない非難の目をソーマに一瞬でも反射的に向けた自分を瞬時に反省し、目を伏せた。

「悪い」

ソーマは特にそのリッカの態度に反応するでなく淡々とそう言った。

 

「・・・!あ・・」

―ごめん・・ソーマ君。違う。違うの・・。

 

嫌悪や怒りがきっかけの反射的行動ではない。拒絶でもない。

でもやはり違うのだ。ソーマの手は。・・エノハとは。

 

そんな事はソーマは百も承知で或る。気にする事でもない。

 

「・・楠。お前はまだ休め。これは命令だ」

ソーマはまた淡々と言った。絶句のリッカを無視して尚も命令を読み上げる。

「タツミやリンドウの知り合いの弟だっていう新しい整備士がこの前配属されたろう。アイツに代理整備主任をやってもらう。榊のオッサンも元々そう計画していたらしい。新しい整備士も何人か配属されてる。焦るこたぁねぇ」

 

普段のリッカならそのソーマの言葉を朗報として受け入れられた事だろう。

しかし今の彼女にはその言葉がどうしても「自分は用済み」的なニュアンスに聞こえてしまったのは致し方ない事である。

ソーマはそれもまた百も承知で在った。

 

しかしここは頑として言わなければならない。エノハならきっとそう言う。

神機整備士は命と向き合う仕事だ。

 

人は間違えを起こすもの。しかし同時に間違えの許されない矛盾した仕事なのだ。

自分の間違え、ミスは即仲間の死に直結する仕事。

もし自分のミスを切欠に誰かが死ぬようなことがあれば完全に、今度こそリッカは壊れる。

おまけに神機自体も整備士を時には危険にさらす物体である。

整備士自身もオール・オン・デッキで在る以上、欠損、手抜かり、欠陥が在ってはならないのだ。

ミスが発覚した後にゆっくりとやんわりとのんびりと修正が出来る事ばかりではない。

取り返しのつかないものというものがこの職業には確実にあるのだ。

 

 

こればかりは最早・・リッカが自分で立ち直る他ない事。

彼女以上の整備士は現状このアナグラに存在しないのだから。

 

そんなソーマの恐らくエノハとも共通するであろうその想いはリッカも百も承知で在った。判断も妥当であると理解もしていた。

 

でもリッカは今は言わないでほしかった。伝えないでほしかった。嘘でもいいから。

自分から唯一の居場所を奪わないでほしかった。

 

 

―お願い。

 

ソーマ君。

 

今の私から・・居場所を・・生きがいを奪わないで・・?

 

私・・なんにも・・なんにも無くなっちゃうよ・・・?

 

 

 

懇願するようにリッカはソーマを見たが・・無駄だった。

ソーマは気丈に告げる。

 

「お前の休暇をあと半月延ばす。・・お前が休んで文句を言う奴などいない。もし居たら俺らがブッ飛ばす・・」

 

ソーマの気遣いの言葉は残念ながら今のリッカには響かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

投げ出した。

 

こんな言う事の利かない頭も体も。

 

自室のテーブルの上で上半身を突っ伏し、光の灯らない瞳がただ一点の物を見つめている。

 

目の前で他の整備士に全てを任せて流れていく神機整備室の風景がやけに他人事で悔しい。あそこに立つのは私の仕事なのに。あそこは私の生きる場所なのに。

思わず居たたまれなくなって自室に逃げてしまった。

長くここアナグラの居住施設に住み込みで働いているが、あまりこの部屋には愛着が無い。

エノハを喪って以来この部屋に閉じこもりきりだった事もあり、完全に腑抜けになった頃の自分を思い出してしまってさらに気分が塞ぐ。

頼りにしていたヒバリも有休期間を終えてしまい、この部屋に通える頻度も減るだろう。

彼女にとって周りは彼女の趣味、興味の対象がぐるりと取り囲んでいる整備室に比べれば殺風景すぎる自分の部屋であと半月も過ごさなければならない事を考えると余計滅入る。

 

そんな部屋に一つだけ妙に輝く物がある。突っ伏したリッカの目の前にあるひときわ派手な装飾、色を施された物体。それに左手で触れる。血の籠もらない冷たい物体であるが今のリッカの気持ちをほんの少し楽にさせる唯一の物体である。

 

白い指先でつぅと撫でる。

 

それはエノハの腕輪であった。一通りの調査を終え、エノハの神機と共に帰ってきたのである。エノハが殉職してから「半月後」に。

 

誰にも触らせなかった。

彼の腕輪も神機も。

 

涙を流しながらいつものように帰ってきた神機をお疲れさまと労い、いつもの手順で整備し、あっという間に静かな眠りにつかせた。熟練の整備士の仕事である事に疑いの無い流麗な手際にその場に居た仲間達、そして整備士共に言葉を失う程の光景であった。

彼の赤い腕輪を彼女に託すのに誰も疑問を差し挟む余地なく、ヒバリに支えられながら自室に戻る彼女を見送った。

 

左手に冷たい腕輪の感触を感じたままその日は眠る。幸福の日々そのままのその感触を。

いつもは邪魔にすら感じていたその武骨で冷たい感触が何よりも愛おしかった。

その感触をそのままに一か月後の今も尚リッカはその物体から離れられずにいる。

 

―・・愛おしい?

 

・・あ。そっか。

 

あはは。私・・馬鹿だ。

 

リッカはほんの少し薄く笑った。

 

―私・・よくよく考えてみるとエノハに「好き」ってちゃんと伝えた事無かったな・・。

 

ホントは気の迷いだったんじゃないか?・・・なんて欠片も思わなかった。

そうでなければ「出会わなければ良かった」なんて絶対思わないはずだから。

 

どこかでちゃんと伝えようとは思っていた。はっきりと。

でも先延ばしにしてた。どこかで安心していたのかも。何時でも伝えられることだと。

 

エノハはいつも帰ってくるし「帰ってくる」とも言った。

 

だから何時でもいいんだと。

 

 

「・・ウソツキ」

 

 

帰ってこない君も。

 

ただ単に照れくさくて言えなかっただけの私も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




その日の真夜中。こっそりリッカは整備室に戻る。
冷却を一旦切り、整備室に照明の光が灯り、起こされた神機達のブーイングの如き機器の駆動音が辺りを包む。

「ゴメンね」
泣き腫らした瞳で彼らに向かって微笑む。

やはりここは落ちつくのだ。自室ではやはり眠れない。
ならエノハの腕輪と共にここで眠ろう。そう考えた。

我ながら未練がましいと思うがそれでも・・今は少しでも浸っていたいのだ。折角時間が在るのだから。
そもそもこれからもっと暇になるかも知れないのだから。
今でこそまだこの部屋に入室を許可されているが使い物にならなくなった整備士などいつまでも最前線のここに置いておくはずが無い。

いつものソファに座り、力無く体を横たえてその何時見納めになるかもしれない目の前の光景を焼きつけようとする。
光景だけで無い。この場所を包む音、機器、オイルの臭いも一緒に。
思い出があり過ぎるこの場所を。

目を閉じ―


ピッ





「ん・・?」

神機の接続した端末が異常を示す反応のランプが灯る。

―これは・・アリサの神機だ。
いけない・・起こしちゃったかな?

結構にわがままだが寝付きは悪くないアリサの神機が珍しく駄々をこねていた。
周りに誰もおらず、眠らせるぐらいならいいかとリッカは歩み寄ろうと立ち上がる。


が。今は鈍い彼女の体が二歩もしない内に。

ピッ

ピッ

ピピッ

「え。ちょっ・・!!!」

次々と端末が悲鳴を上げ始める。一斉に夜泣きを始めた赤ん坊の様に。

―え。うそっ!ちょっちょっと待ってよ!

あわわと端末に駆け寄り、夢中で端末を操作するが連鎖するみたいに次々に夜泣きが止まらない。

―うう~徹夜コースじゃない?これ~?どうなってんの~?

リッカは違う意味で夜泣きしそうだ。何せ一旦落ちつかせた神機すらも夜泣きが再発するという前代未聞の状態である。

―しかし
ただ一つだけ「夜泣き」も何もせず、不自然に落ち着いている神機がたった一つあった。

「・・・っ?」

悪戦苦闘するリッカがそのあまりの不自然さに手を止める。

その時ひっきりなしに神機達の「夜泣き」に反応してピッピピッピ鳴いていたアラームが突如鳴り止んだ。
まるでリッカに伝えたいメッセージがようやく伝わった事に安堵したように神機達は再び静かに眠りにつく。

リッカは近付いていく。その神機に。

その神機とはエノハの神機で在った。休眠状態で無く明らかに覚醒状態ということを端末が示している。まるで今から即闘いに赴けるような迫力すら感じる。
リッカにはもうワケが解らなかった。
記憶を反芻する。こんな高揚状態の神機を沈める為には何をすれば・・リッカは考える。すぐに結論が出た。

適合者。

・・は、居ない。

なら・・。

「・・これが欲しい?」
リッカは両手で大事にしっかりと持っていた「それ」を神機に見えるように掲げた。
神機が適合者の次に接触する物・・それは腕輪である。消去法。優先順位二番目。

神機は当然の事返事はしない。しかしその「沈黙」を肯定と受け取った。

恐る恐るリッカは腕輪を近づけていく。かなり危険な行為に間違いはない。が、今この行為が今自分が整備士としてやるべき最優先の事だと確信する。

同時にうぞうぞとエノハの腕輪から禍々しい黒い触手が這い出る。接続時の一見おぞましい光景だがリッカに嫌悪感は無い。
初めて父にここに連れられて見た時こそは「怖い」と思ったものの、父の

「リッカ?見た目は怖い、醜いからってそれだけで嫌悪してはいけない。俺はこの光景が好きだ。人が生きよう、足掻こうとする瞬間は時に醜く、惨たらしいものだ。でも見た目、うわべが綺麗なだけよりよっぽど人間らしい光景だと俺は思う」

この言葉でリッカは落ちついた。目を逸らすことなく見届けた。

黒い触手が神機に達し、柄を伝ってオレンジ色のコアに達する見慣れた光景。

その瞬間

ぐばっ!

エノハの神機が突如捕食形態を開いた。
はっきり言って普通の女の子から見れば恐怖以外の何物でもない光景だがリッカは何の動揺も無くしっかりと神機を見据えていた。

その口から・・はらりとリッカの足元に一枚の白い物体が舞い落ちた。

「・・・え?」
目線でそれを追うと同時にエノハの神機が刀身形態に戻り、間もなく眠りにつく。

リッカはその現象への興味と戸惑いを思考の向こうに追いやり、ただ足元に舞い落ちた物体を見る。

白い封筒。

そこには明らかな文字が見て取れた。



「リッカへ」




その文字には見覚えがあった。
あの・・形だけ繕った彼らしさが全開のあの文字。


そして何よりも自分の指導の結果、少し素直になった文字。
けどそれでもまだまだ・・


ウソツキな文字。


当然だ。


今もまだ彼は絶賛ウソツキ続行中なのだから。


「エノ・・・は・・・?」
























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