金木犀匂ふ<鬼殺隊列伝・森野辺薫ノ帖>   作:水奈川葵

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第七章 宴のあと(四)

 その日、惟親(これちか)は帰ってきて、応接室から聴こえてくるピアノの音に聞き耳を立てた。

 

「もう先生は終わりですよ」

 

 妻の奈津子が声をかけると、惟親は苦笑する。

 

「そんな厳しい顔をしていたか? いや、随分と上手になられた…」

 

 正直、ホッとする。

 薫は千佳子のような情熱的で繊細なテクニックを持たないが、とても素直でまろやかな音色を奏でる。

 

「シューマンですか」

 

 部屋に入って尋ねると、ちょうど薫が『トロイメライ』を弾き終えたところだった。

 

「あ、お帰りなさい、伯爵」

 

 薫はすっかり慣れた様子で惟親に挨拶してくれる。伯爵、という言葉が別の言い方に置き換われば、娘であったとしても違和感がない。

 

「さっきまで、音柱様の奥様達がいらっしゃってて…雛鶴さんがシューマンの『子供の情景』を気に入っていらしたので…少しだけ練習しているんです。習ってない曲も多いので」

「そうですか…まぁ、あまり無理しないように」

 

 肋が折れている上に、左耳の鼓膜も傷ついて少し聴こえにくいらしい。それに貧血状態が続いていて、食事療法をしているものの、元からなのか食欲がないのか食事量も少ない。まだ任務復帰には時間がかかるだろう。

 

「はい。少しずつ体を慣らしていくつもりです。それで、あの…聞きたいことがあるんですが」

 

 薫はおずおずと切り出す。

 惟親が忙しいので、じっくり話せる時間がなかったのだが、今であれば聞けるかもしれない。

 

「なんでしょう?」

「千佳子様のことです。菊内(きくない)男爵と千佳子様は…結託していたのでしょうか?」

 

 惟親の顔が曇る。

 実のところ、今日、そのことについて惟親に声をかけてきたのは、薫だけではなかった。

 

 

◆◆◆

 

 

薩見(さつみ)伯爵!」

 

 人気(ひとけ)のない廊下を歩いていると、突然呼び止められた。

 振り返ると、頭頂部の禿げた、初老の紳士が立っている。西條(さいじょう)侯爵だった。

 一気に惟親は無表情になった。

 

「いやぁ、ようやくお会いできて何より!」

 

 惟親が挨拶する前に、侯爵は大股に歩み寄ってきて、大仰に手を掴んできて握手する。

 

「是非にも誤解を解いておきたかったのだよ!」

「誤解?」

「ホレ…あの……鬼のことだ」

 

 西條侯爵はそっと惟親の耳に近づけて囁く。

 惟親は眉を寄せながら、苛立たしげに手を振り離した。

 

「……なんのことでしょう?」

「伯爵、誤解をしないでくれたまえ。元々はあの鬼…明見(あけみ)夫人が家内の春子を狙ってきおったのだ。我が家にあの女の絵を飾っておいたのが裏目に出たのだろうな。夜中にいきなり襲ってきたのだよ。春子は卒倒してその時のことは覚えておらんが……それで、儂が頼むから妻は助けてくれと、懇願したのだ。そうするとあの鬼が、若い女を自分に捧げろと言うから……」

 

 西條侯爵は早口に弁明しながら、自己保身を欠かさない。

 まったくいちいち浅ましいことだ。

 

 しかし全てが侯爵の言う通りではなかろうが、鬼となった千佳子との最初の遭遇はそのようなものではあったのだろう。

 その後に侯爵がこの出来事を奇貨として利用することを考えついたのは、鬼殺隊への復讐を考えていた菊内男爵からの助言だったのか、それとも侯爵からの指示で男爵が利用されたのか。

 

 いや、侯爵自身も利用されていたのだとすれば、今、こうして惟親に必死に言い繕うのは、今回の事件においての責任を取らされた上で、切り捨てられようとしているのだろう。

 惟親への弁明というよりも、姿()()()()()()への必死の忠義立てといったところだろうか……。

 

 いずれにしろ、菊内男爵は死に、西條侯爵は()()生きている。

 

 惟親は冷たく侯爵を見つめた。

 

「西條侯爵。奥方のご感想はいかがでしたでしょうか?」

 

 宝耳に言われたことをそのまま尋ねる。

 本当はもっと早くに言ってやりたかったのだが、例の宝耳(ほうじ)からの()()()が相当にこたえたのか、西條侯爵はここのところ姿を見せなかったのだ。

 

「む…ん…ん…そ、それは……」

 

 いきなり侯爵の頭頂部は汗でテラテラと濡れた。

 目が落ち着きなく泳ぐ。

 

「侯爵閣下…」

 

 惟親は一歩、近寄った。

 後ずさる侯爵の肩を掴む。

 

「明見侯爵家を断絶させただけでは、足りませんか?」

「な…なに…」

「明見の親族に侯爵家を相続させるのを阻止して、明見家所有の銀山を手に入れただけでは、飽き足りませんか?」

 

 静かに惟親が尋ねると、侯爵はガタガタと震え、顔は青を通り越して紫になった。

 

 そっと惟親は侯爵の肩を離した。

 よろけた侯爵がベタリと無様に尻もちをつく。

 

 睥睨しながら、惟親は冷たく言った。

 

「あなたの欲望に興味はありませんが…分を弁え限度を知ることです」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 侯爵の前では冷静に対応したが、正直なところどっと疲れた。

 つくづく自分はこうしたことに向いてないのだ。だから帰ってきて、薫の奏でるピアノを聴いた時、どんなに心が安らいだことだろう。

 

 目の前で返事を待つ薫を見て、惟親は目を伏せた。

 この子に全てを話すには、あまりにも()()()()

 

「……どうやら、そのようです」

 

 まったくの嘘ではない。

 西條からの指示であるのかは不明だが、直接的に千禍蠱(ちかこ)に生贄である令嬢を送っていたのは菊内男爵だ。

 

「男爵邸には千佳子様の絵がありました。もしかすると、最初に狙われたのは伊都子(いとこ)嬢であったのかもしれませんね」

 

 薫の推理はそう遠くもない答えを探り当てていた。

 

「伊都子嬢は、自分の身を守りたいが為に必死にご令嬢方を鬼に差し出していた…ということでしょうか」

「……そうであったとしても、彼女の行為を正当化はできません」

「えぇ。もちろん……そうです」

 

 薫は静かに頷いた。

 

 自分にとって少しばかり気に入らないだけで、伊都子は明宣(あきのぶ)の妹・薛子(せつこ)までも鬼に襲わせたのだ。

 

 あの封筒にはおそらく薫が見たのと同じ、鍵盤を思わせるカードが入っていたはずだ。

 カードから現れた千禍蠱の操る()()()()が、薛子にとって最も慕わしい人物の姿となって招き寄せた。

 

 千禍蠱は薛子に甘美な夢を見せながら、喰らったのだろう……。

 

 その人にとって最も小さく弱く震える部分を、えぐりとってみせる。

 狂気を帯びた優美。

 美しいものを愛し、美しくあることに固執した千佳子。

 奏でるピアノの音色そのままに、華麗さの中に陰を含んだ不安定さ。

 

 侯爵夫人として何不自由ない生活を送りながらも、彼女は時々虚ろな顔をしていた。

 本来、美しくおおらかで屈託ない千佳子にそんな表情をさせたのは……

 

「もし…千佳子様が父と結ばれていたのなら、鬼とならずに済んだのでしょうね」

 

 薫が冷たい表情で言うと、惟親は眉を寄せた。

 

「そんなふうに考えるものではありません」

「でも…そう思わざるをえません」

 

 

 ――――今度こそ、妾と卓様の子供として生まれていらっしゃい……妾が今度こそ貴女を産んであげるわ……

 

 

 あれは千佳子の本心だ。

 

 ずっと慕い続けていた。

 自分を捨てて、旅芸人の女と駆け落ちした男のことを。

 

「千佳子様が父と結婚していれば、普通に、楽しい家庭を築けたはずです。病気となって見捨てられることも、無惨に騙されて鬼となることもなかった。あの人には、幸せになる権利が十分にあったんです。美しくて明るくて、誰もに愛される人だったはずなのに…」

 

 千佳子の末路を思うほどに、薫は胸が絞めつけられた。ましてその遠因となったのが自分の父であり、母であり、自分はその子供だ。

 

貴女(あなた)はご自分の両親の気持ちを無視するのですか? 今、ここに貴女という人が存在するのに」

 

 惟親は厳しい口調で言った。

 薫が千佳子を懐かしみ、悼む気持ちはわかるが、これ以上、薫に自分自身を傷つけてほしくはなかった。

 

「私…ですか……」

 

 しかし薫は皮肉めいた笑みを浮かべた。

 

 千禍蠱の幻術は本当に正確だ。

 本人ですら忘れていた記憶の奥底を呼び起こす。

 

 

 ―――――ごめんねぇ…ごめんねぇ……薫

 

 

 ボロボロと泣きながら、薫の首を絞めていたのは……母だった。

 

 溺れて息が出来なくなっているのだと…ずっと思っていた。

 けれど違っていた。

 あれは千禍蠱の幻術ではない。

 はっきりと思い出した。

 

 母は、薫を殺そうとしていた。

 

 ずっと不思議だった。

 幼い頃を思い出す時、母に郷愁を感じながらも、薫はどこかで母の存在を忌避していた。

 顔もはっきりと思い出せなかった。

 母に似ていると言われることも、嫌だった。

 

 無意識に、自分は母を恐れていたのだ。

 

 何が…自由恋愛だ。

 結局、逃避行の先で、貧困によって父は死に、母は病に罹り、娘は切羽詰まった母親から殺されるところだった。

 

 赤い、朱い空。

 水の中から見えた空。

 たゆたって、ゆらめいて、自分は川の中で死んでいく……はずだった。

 

「薫さん。あまり明見夫人のことを考えるのはおよしなさい。鬼への同情は、要らざるものです。何があったにしろ、彼らを正当化することはできません」

 

 惟親は厳然として言った。

 

 薫はコクリと頷く。俯いた顔に生気はなかった。

 

「もうお休みになった方がよろしいのでは?」

「えぇ…。あと一曲だけ弾いて…よろしいですか?」

 

 惟親は言外に、一人になりたいという薫の願いを理解した。

 軽く息をついてから、部屋から出ると、ゆるやかなピアノの音色が聴こえてくる。

 

 ベートーヴェンのピアノソナタ第8番『悲愴』第2楽章。

 

 一番好きな曲なのだと言っていた。

 この曲を聴いて、ピアノを習うことにしたのだと。

 

「やさしいけど…どこか物悲しい曲ですわね」

 

 奈津子が少し心配そうに言う。

 

「あぁ…だがレクイエムよりはずっといい」

 

 惟親はその愁いを帯びた、やわらかな旋律を聴きながらつぶやいた。

 

 

◆◆◆

 

 

 ――――懐かしい…

 

 聴こえてきたピアノの音色に、実弥の顔が少しだけ緩んだ。

 

 昔、育手である篠宮東洋一(とよいち)の元へと向かう前に、街で薫を見かけ、追いかけた先で聴こえてきた旋律。

 あの時は切れ切れだったが、こうしてちゃんと聴くと、美しいが寂しげな曲調だ。 

 

 天元に言われて行かないと言ったものの、結局、こちらに来るついでに(という言い訳を自分にしてから)、実弥は薩見邸に入り込んでいた。当然、無許可である。

 薫を探す必要はなかった。ピアノの音色をたどれば、そこに薫がいたからだ。

 

 電燈の下、ピアノを弾く薫の姿は、以前に比べ少し痩せた気がした。

 顔も白くて、まるで本当に病人のようだ。こんな脆弱な様子では、とても隊務に戻ることなどできないだろう。

 一貫して実弥は薫を辞めさせたいと思っているが、今の薫は鬼殺隊においては中堅の上位に位置しているので、そうそう本部も手放さない。当人からの希望で除隊するのが一番すんなり事は運ぶが、薫が言い出す訳もない。

 

 溜息をついて空を見上げる。

 煌めく星の中に、死んでしまった兄弟子であり、唯一の友の姿が思い浮かんだ。

 

 匡近が生きていたら…東洋一に言う通りに育手となって、薫と二人、穏やかで平凡な暮らしを送っていてくれていたら…こんな心配をする必要もなかった。

 

「……なんでお前が死ぬんだよ……」

 

 匡近を失ったあの日から、何度となくつぶやいた。

 きっと匡近が聞いていたら「ごめんごめん」と苦笑して謝っているだろう。

 

 いつも朗らかで、穏やかな……自分の苦しみなど微塵も感じさせずに笑っていた。そんな男が、死ぬまで実弥にすら話さなかったことを、薫には話していたのだ。

 きっと誰より薫に知っていて欲しかったから……。

 

 実弥は匡近の気持ちが痛いほどわかったからこそ、薫に対して思わず怒りがこみ上げた。

 

 

 ―――――お前が(うん)と言って、一緒になりゃ良かったんだァ。そうすりゃ匡近は……

 

 

 思わず口走ってしまった。

 完全に自分が悪い。まるで匡近の死が薫のせいであるかのように責め立ててしまった。

 

 ごめん、という一言が出てこれば簡単なのに。

 どうして言えないのだろうか。

 薫を前にすると、思ってなかった言葉が出てしまう。

 本当に言いたいことは、いつも一つも言えない。

 

 悶々として沈んでいると、急にダーンとピアノが耳障りな音を立てる。

 実弥はビクッとなって、思わず窓から中を覗き込んだ。

 

 薫がピアノに突っ伏している。

 泣いているのだろうか。肩が細かく震えていた。

 しばらく見ていると、前のめりになって押さえていた手に力が入ったのか、キィとわずかに窓が開いた。

 

「…さん……匡近さん…」

 

 震える声で呼ぶ名前に、実弥の顔が固まった。

 スゥ、と冷たいものが心臓を這いのぼってくる。

 

「どうして…いないんですか? 今…話したいことがいっぱいあるのに…」

 

 その言葉はいつものようにか細く消えるものではなかった。

 切実に求めて、訴えていた。

 

「誰にも言えないんです…誰も知らない……私は…また一人です……」

 

 空虚につぶやく顔は、あの頃…川を眺めていた姿そのままだ。

 

 実弥は拳を握りしめて、そっとその場を離れた。

 自分が匡近なら、あの数歩先にいる薫をそっと抱きしめることができたのだろう。でも、自分は匡近ではない。薫が会いたいと望んでいるのは自分じゃない。

 

 逃げるように走り出す。ひどく惨めな気分だった。

 

 どこかで…無意識に、薫は自分の()()だと勘違いしていた。

 傲慢で思い上がりも甚だしい。

 とっくに薫の心は離れていたし、離れて当然のことをしたと…自分を戒めていたはずなのに。 

 

「ッツ…!」

 

 石に躓き、よろけて塀にドンと体を打ちつける。

 鈍い痛みに顔を顰めながら、ハァと息をついた。

 

 情けない顔を手で覆う。

 本当にどうしようもない。こんなに苦しくなるなんて、どうかしている。もうとっくに諦めていたと思っていたのに……匡近を求める薫に今頃、動揺するなんて。 

 

「クソッ!!」

 

 怒鳴りながら、塀をドシンと叩く。

 土壁に罅が入り、パラパラと土の欠片が落ちた。

 

 濃紺の空に浮かぶ半月を見上げながら、実弥は心底自分に失望した。 

 

 

◆◆◆

 

 

 薫は最後まで弾き終えることはできなかった。

 急に心細くてたまらず、叫びたくなる。

 

 バァーンと鍵盤に苛立ちをぶつけて、不協和音が静寂に響いた。

 そのまま突っ伏して、涙が止まらなくなる。

 

 脳裏に去来するものは、薫にはもう受け止めきれなかった。

 胸をえぐるようなことがいくつも重なって、窒息しそうだ。

 

 昼に天元の嫁達と楽しく過ごした反動なのか、夜になるとひどく気持ちが落ち込む。

 

 

 ―――――もし、あなたの知っている人が鬼となってしまったら、どうする?

 

 

 また、カナエが問うてくる。

 いつか薫がこの問いを現実として考えねばならないことを、予想していたのだろうか。

 自分はなんて浅はかであったのか…と、薫は自分が情けなかった。

 

 

 ―――――鬼となれば、容赦はしません

 

 

 まるで盲目的に、鬼だから斬る、そう答えただけだ。

 何も考えていなかった。

 それがこんなに虚しく悲しく苦しいものだとは。

 

 薫は心の中でカナエに呼びかけた。

 

『お願いします。叱って下さい。なんて馬鹿な子だと…カナエさん。お願いです、一言でもいいから言葉を聞かせて…』

 

 けれど薫の中のカナエは沈黙している。

 何の返事もない。

 

『先生…お願い。大丈夫だと、笑って。どんなに苦しいことでも、必ず立ち直れると…励まして……』

 

 いつもなら思うだけで東洋一の懐かしい笑顔が脳裏に浮かぶのに、今日は姿を現さない。

 

「先生…カナエさん……匡近さん……」

 

 薫はいつの間にか声に出して、呼びかけていた。

 

「どうして…いないんですか? 今…話したいことがいっぱいあるのに…。誰にも言えないんです…誰も知らない……私は…また一人です……」

 

 虚ろにつぶやく。

 濡れた頬に、風が触れた。

 

 窓へと目を向けると、少し開いていた。

 

「………宝耳さん? あなたですか?」

 

 薫はあわてて指で涙を拭った。

 返事がないので、訝しみながら窓からテラスに出る。

 キョロキョロと辺りを見回すが、誰の気配もない。

 

 スン、と鼻を啜ってから、薫は深呼吸をした。

 危ないところだ。こんな感傷的になっていたら、宝耳であっても弱音を吐いてしまうところだった。

 

 ザァァ、と葉擦れが波のような音をたてる。

 強い風が薫の髪をたなびかせた。

 

 ふ…と、見えない風の中に実弥の姿が思い浮かんだ。

 

 

 ―――――自分の身も心も捧げる代わりに、あの男の心を欲したのではないの?

 

 

 本当に…真実はなんて鋭く、深く、心を抉るのだろう。

 

 千佳子の言う通りだ。

 

 あの日…最終選抜に向かう前日。

 いきなり変貌した実弥に驚き、恐怖しながら、薫は思ったのだ。

 

 彼は自分を選んでくれたのだと…。

 選んで、求めているのだと………信じた。

 

 あの日、誰より貪欲だったのは薫自身だ。

 彼の痛んだ心も、傷ついた体も、狂おしい熱も、その先の未来もすべて、手に入れようとしていた。手に入ると…勘違いしていた。

 

 

 ―――――薫……ずっと…一緒にいよう……

 

 

 幻影が囁いた夢のような言葉。

 

 あれが、あの時も今も変わらない薫の本心だ。

 一番、求めた言葉だ。

 

「………馬鹿ね。言うわけないのに…」

 

 ポツリとつぶやいて、薫は震える唇を噛み締めた。

 

 見上げた空に半月が浮かんでいた…。

 

 

 

第四部 了

 

<第五部につづく>

 





これにて第四部終了です。第五部再開まで、しばらくお時間を頂きます。

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