【完結】金木犀匂ふ<鬼殺隊列伝・森野辺薫ノ帖>   作:水奈川葵

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遠き日のこと、おもひでばなし。 <参>

「実のりちゃんのときにも思ってたけどさ、玄一にはまたもう一つ輪をかけて子煩悩だったね」

 

 往事を思い出し、律歌(りつか)がやや呆れ混じりに語る。

 

「実のりに出来なかった分も、っていうのもあったのかもしれません。お陰で私も随分とラクをさせてもらえました」

「本当にね……」

 

 律歌はその頃を振り返り、目を細める。

 本当に……()()不死川が、()()風柱が、ああまで子供たちの世話をするなんて思ってもみなかった。それこそ薫が実のりを連れて帰ったときには、

 

「ちょっと不死川。あんた、赤ん坊育てるのは母親だけじゃないんだからね」

 

なんて釘をさしていたくらいだったのだが、そんなことは杞憂であった。

 

 赤ん坊の世話は、むしろ律歌よりも手慣れているくらいだった。

 鬼殺隊に入る前、まだまだ幼かった弟妹たちの面倒をみていたというから、まさしく昔取った杵柄であった。

 

 いまだに思い出す。

 

 温かな光の射す午後。

 薫の弾くピアノを聴きながら、実のりと玄一を寝かしつける元風柱。

 かつては凶悪とまで恐れられたその瞳は、穏やかに微笑み、愛しげに子供たちの寝顔を見つめている。

 幸せそうな……いや、本当に幸せな家族、そのものだった。

 それはきっと多くの鬼殺隊士が思い描いた平和な世界の、一つの姿であったろう。…………

 命を散らした盟友たちが、律歌の胸中を過ぎ去っていく。

 

 不意に涙がこぼれそうになり、律歌はあわてて洟をすすった。

 誤魔化すように辺りを見回して、部屋の奥に鎮座するピアノを見つける。

 

「あのピアノ……懐かしいねぇ。今も弾いてるの?」

「えぇ、もちろん。必ず一日一度は弾くようにしています。今は学校の音楽の授業で弾く曲の練習が多くなってきましたけど」

「そうなんだ。フフッ、このピアノを買うときの不死川ったらさ、店のオヤジさんと喧嘩してて……」

「え? 喧嘩? 実弥さんが……ですか?」

「あれ? 聞いてない? ピアノ買うときに、店のオヤジさんと押し問答になっちゃって」

 

 薫はプルプルと首を振ると、真剣な眼差しで律歌に詰め寄った。

 

「訊かせて下さい!」

「えぇー……そんな大した話じゃないけど」

「いいえ! だって、このピアノいきなり運ばれてきて、なんにも言ってくれなくって……とにかく弾けばいいんだ、って」

「あちゃー。ま、不死川らしいっちゃらしいね。店のオヤジさんにも、とにかく売れ、売れ、って一辺倒でさぁ……」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




引き続き更新します。
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