【完結】金木犀匂ふ<鬼殺隊列伝・森野辺薫ノ帖>   作:水奈川葵

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遠き日のこと、おもひでばなし。 <漆>

「これ。あのときの?」

 

 薫が新しい麦茶を持ってくる間に、居間に飾ってあった写真を見ていた律歌(りつか)が尋ねてくる。

 

 あの日、産屋敷家で開催されたマドレーヌの会では、輝利哉(きりや)が写真屋を呼んでくれており、全員で記念写真を撮ることになった。そのついでに各家庭での家族写真も撮ってもらえることになり、そのときの一枚がピアノの横の壁に飾ってある。

 

「はい……」

 

 薫も律歌の隣に立って、久々にまじまじ眺めていると、実弥の笑顔が奇妙に引き攣っていることに気付く。同時にまた思い出が去来して、笑みがこぼれた。

 

「なに? どうした?」

「いえ。このときの写真屋さんが、けっこう厳しい方で、実弥さんにもビシビシ言って無理やり笑わせられたんですよ。だから、ホラ、顔が引き攣ってて」

「あらー、ホントだ。確かに何か笑ってんだか、怒ってんだか、ビミョーだわ」

「でも、この写真を見るたびに匡友(まさとも)が妬いちゃって、文句言うんですよ。なんで俺は写ってないんだーって」

「ハハッ。そりゃ、まさか不死川だって、自分が死んだ後に、また一人息子が生まれてくるなんて予想してなかったろうしねぇ……」

 

 そんなことを話していると、玄関から「ただいまー」と大きな声が響いた。

 

「おや? ……噂をすればじゃないの?」

 

 律歌が尋ねる間もなく、ドタドタと廊下を走ってくる音がして、真っ赤な顔をした少年が姿を現した。

 

「あーっ、リッカおばちゃん! 来てたの?! お土産は?」

 

 早々に土産をねだる息子に、薫はキッと睨みつける。

 

「これ! 匡友!! ちゃんとご挨拶なさい」

「あーっと、いらっしゃいませ。ようこそ、ようこそ! それで、お土産は?」

 

 陽気な節回しをつけた挨拶に、律歌は思わず大笑いした。

 

「ハハハッ!! 挨拶なんか二の次三の次だわよねぇ、匡友は。お土産は台所にあるよー。あんたの好きな木村屋のあんぱん」

「やったぁぁーッ」

「コレッ、匡友ッ! 靴下を抛り出していくんじゃありません! 廊下は走らないって ―― ……あぁ、もう」

 

『匡友』と呼ばれた少年は、靴下を脱ぐ間も惜しいとばかりに、歩きながら脱ぎ捨てていくと、ドタドタと廊下を走っていく。薫が叱りつける声も既に遠く、少年の喜びの絶叫が台所から聞こえてきた。

 

「もう、あの子は本当に……。すみません、律歌さん」

「構わない、構わない。あんなモンでしょ、男の子なんて。幾つになったっけ?」

「十三です。いつまでもヤンチャで……この前だって学校の池で鯉をつかみ取りして、先生に大目玉」

「ハハハッ!! 元気でよろしい! しっかし、あの足の速いこと! 本当に父親似だねぇ、匡友は。顔もそうだけどさ。まさか不死川の生まれ変わりってわけじゃないだろうけど……あの子を見たら、きっと自分そっくりでびっくりするんじゃない?」

「本当に……」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




引き続き更新します。
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