【完結】金木犀匂ふ<鬼殺隊列伝・森野辺薫ノ帖> 作:水奈川葵
「これ。あのときの?」
薫が新しい麦茶を持ってくる間に、居間に飾ってあった写真を見ていた
あの日、産屋敷家で開催されたマドレーヌの会では、
「はい……」
薫も律歌の隣に立って、久々にまじまじ眺めていると、実弥の笑顔が奇妙に引き攣っていることに気付く。同時にまた思い出が去来して、笑みがこぼれた。
「なに? どうした?」
「いえ。このときの写真屋さんが、けっこう厳しい方で、実弥さんにもビシビシ言って無理やり笑わせられたんですよ。だから、ホラ、顔が引き攣ってて」
「あらー、ホントだ。確かに何か笑ってんだか、怒ってんだか、ビミョーだわ」
「でも、この写真を見るたびに
「ハハッ。そりゃ、まさか不死川だって、自分が死んだ後に、また一人息子が生まれてくるなんて予想してなかったろうしねぇ……」
そんなことを話していると、玄関から「ただいまー」と大きな声が響いた。
「おや? ……噂をすればじゃないの?」
律歌が尋ねる間もなく、ドタドタと廊下を走ってくる音がして、真っ赤な顔をした少年が姿を現した。
「あーっ、リッカおばちゃん! 来てたの?! お土産は?」
早々に土産をねだる息子に、薫はキッと睨みつける。
「これ! 匡友!! ちゃんとご挨拶なさい」
「あーっと、いらっしゃいませ。ようこそ、ようこそ! それで、お土産は?」
陽気な節回しをつけた挨拶に、律歌は思わず大笑いした。
「ハハハッ!! 挨拶なんか二の次三の次だわよねぇ、匡友は。お土産は台所にあるよー。あんたの好きな木村屋のあんぱん」
「やったぁぁーッ」
「コレッ、匡友ッ! 靴下を抛り出していくんじゃありません! 廊下は走らないって ―― ……あぁ、もう」
『匡友』と呼ばれた少年は、靴下を脱ぐ間も惜しいとばかりに、歩きながら脱ぎ捨てていくと、ドタドタと廊下を走っていく。薫が叱りつける声も既に遠く、少年の喜びの絶叫が台所から聞こえてきた。
「もう、あの子は本当に……。すみません、律歌さん」
「構わない、構わない。あんなモンでしょ、男の子なんて。幾つになったっけ?」
「十三です。いつまでもヤンチャで……この前だって学校の池で鯉をつかみ取りして、先生に大目玉」
「ハハハッ!! 元気でよろしい! しっかし、あの足の速いこと! 本当に父親似だねぇ、匡友は。顔もそうだけどさ。まさか不死川の生まれ変わりってわけじゃないだろうけど……あの子を見たら、きっと自分そっくりでびっくりするんじゃない?」
「本当に……」
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引き続き更新します。