【完結】金木犀匂ふ<鬼殺隊列伝・森野辺薫ノ帖>   作:水奈川葵

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第五章 昔日 -暁風篇- (一)

 東洋一(とよいち)、という名前は、旅回りの大道芸人である父親がつけたものだった。

 父は芸名を『日本一』にしていたので、息子には東洋一とつけたのだと言っていた。

 

「だから、お前の子供は『世界一』ってつけるんだぞ!」

 幼い息子に、そんなことを本気で言っているような父だった。

 

 母は貧乏で、いつまでもお気楽なことばかり抜かしている父に愛想をつかして、父の弟子と駆け落ちしてしまった。それでも父は東洋一を可愛がって、飽きっぽいが飲み込みのいい息子に芸を教えながら、父子二人で旅を続けていた。

 

 その父を失ったのは、十二の時。雨の日の山の中だった。

 

 いきなり現れた異形の者に、父はあっさり殺された。

 東洋一は岩陰と熊笹の中に隠れながら、父が喰われる様を見ていた。

 息を潜めて、見ているしかなかった。

 

 たった十二歳の、いつも腹を空かせていた栄養失調気味の少年に、どうやって化け物から父を助ける術があったというのか。寒さと怖さと父への申し訳なさに震えながら、ただただ見ているしかなかった。

 

 だが突然、その化け物は咆哮とともに首を斬られ、倒れた。

 目の前に飛んできた首の、その死にゆく目と目が合って、東洋一はヒッと声を上げて飛び退った。

 

 (くさむら)から出ると、そこには見たこともない(つや)やかに光る緑色の刀を持った男が立っていた。

 男は東洋一に気付くと、軽く眉を上げた。

 

「無事か?」

 問いかけてくる男に、東洋一は反対に問い返した。

 

「あんた……コイツ、殺したの?」

 問うている間にも異形の化け物は塵となって消えてゆく。

 

「あぁ。もう大丈夫だ。鬼は首を斬れば死んで消える」

 明るく言う男に、東洋一はそれまでの恐怖に反比例する苛立ちで怒鳴った。

 

「……なんでもっと早く来なかったんだよっ!!」

 

 男は目を丸くして、東洋一を見つめた。

 自分でも理不尽なことを言っていると…むちゃくちゃなことで文句を言っているのだとわかっていても、東洋一は自分が父を助けられなかった負い目から、その男に八つ当たりした。

 

「アンタがもっと早く来て、あの化け物を殺してくれたら……親父は死なないで済んだんだっ! なんでもっと早く来なかった!? 助けたような顔すんなよっ! お前は、親父を助けなかったんだ! 親父がいなかったら、俺は死ぬしかねぇんだッ!!!!」

 

 男は怒らなかった。

 その目は、どこまでも見(とお)すかのように澄んで、東洋一を見つめていた。

 

「すまなかった」

 頭を下げると、男は手を差し出した。

「来い。飯を食わせてやる」

 

 その手を取るか、弾いて立ち去るかで、自分のその後の人生が決まるかどうかなど、東洋一は考えもしなかった。

 ただ、父の死が苦しくて、寂しくて、それでも腹はひもじくて、たまらない。

 選択肢は一つしかなかった。

 

 手を繋ぐと、男は安心させるかのように笑いかけた。

 額から右頬にかけて、顔にある大きな引き攣った傷痕を見た時、東洋一は途端に申し訳ない気持ちになった。

 彼もまた自分が襲われる立場になるかもしれないのに、父を助けようとしていてくれたのだと思うと、さっき罵った自分があまりに幼く、馬鹿だった。

 

 だが、その場で謝ることは出来なかった。

 俯いたまま、男の固く暖かい手をキツく握りしめて歩いた。

 

 

◆◆◆

 

 

 男の名は風波見(かざはみ)周太郎(しゅうたろう)

 鬼殺隊と呼ばれる鬼を狩る集団の、精鋭である柱の一人、風柱だった。

 

 

 東洋一は風波見家に引き取られた後、周太郎の弟子の一人として鬼殺隊の隊士になるための修行を積むことになった。

 

 当初は旅芸人の息子と兄弟子達に馬鹿にされることもあったが、東洋一は見る間に彼らを追い抜かし、その技量は周太郎も驚かせた。

 

 

◆◆◆

 

 

「お前が隊士になってくれれば、私もちょっとは楽ができそうだな…」

 

 周太郎は任務のない日は必ず東洋一の稽古につき合ってくれた。

 兄弟子達ももちろん一緒なのだが、周太郎の際限ない打ち込み稽古に最後までつき合いきれるのは東洋一だけだった。

 

「隊士になってくれれば……って、そりゃなりますよ。そのために修行してるんでしょ?」

「まぁ、それはそうだが……」

 

 周太郎は歯切れが悪い。東洋一は首を傾げた。

 

「なんか問題ですか?」

「いや。お前がここにいたいならいてくれて構わんが、隊に入ることを強要する気はないんだ。他にしたいことがあるなら…」

「ありませんよ、そんなの」

 

 思いつくのは父とやっていた大道芸だが、東洋一には父ほどの熱意はなかった。あれをしろと言われても、やる気が起きない。

 

「師匠が出てけっていうなら出ていきますよ」

「そんなことは言わん。ま、このままでいいなら…いいんだ」

 

 そう言うと、周太郎は母屋の方へと帰りかけて振り返った。

 

「東洋一。お前、見込みがあるぞ。だから……励めよ」

 いつになく真面目な顔で言ったかと思うと、急にニッと笑う。「私が楽できるようにな!」

 

 東洋一も笑みを浮かべて「はい」と答えると、周太郎はカラカラ笑って母屋へと戻っていった。

 

 柱という重責にあり、なおかつ広範な地域を担当して鬼と対峙しながらも、周太郎はいつも快活で、朗らかで、悠揚としていた。

 

 しかし、先月にも水柱が上弦の鬼にやられたらしく、柱は一時、二人になってしまったらしい。

 すぐに新たな水柱が立ったものの、さすがの周太郎もここ最近の出動回数には疲れが溜まっているようだった。

 

 それでも東洋一の稽古につき合ってくれる。

 さっさと隊士になりたかった。

 周太郎が冗談で言っているとしても、東洋一は早く楽させてやりたかった。

 

 あの日、ひどいことを言った後悔がまだ東洋一の胸の中にあった。

 結局、あのまま謝る時期を逸してしまい、この先も言えそうにない。

 こうなれば、さっさと隊士になって、周太郎を助ける。それが、東洋一なりの謝罪の仕方だった。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 

 

 

「東洋一さん、東洋一さん! かくれんぼしよっ」

 

 あっという間に一年が過ぎて、すっかり風波見家に慣れた東洋一だったが、ここのところ困っているのは、周囲に群がる子供達の事である。

 

「いや、俺は稽古に…」

 言いかける東洋一に、

「稽古なんてしてないじゃない!」

 一番年下の千代(ちよ)が鋭く言うと、

「じゃあ、打ち合い稽古しよーよ。俺らと」

 浩太(こうた)は東洋一が作ってやった小さな子供用の木刀を振り回す。

 

「いやよ! 戦ごっこなんて。私、楽しくない!」

「お前なんか、あっちで人形とオママゴトでもしてろ!」

「なによぉ、また私だけ仲間はずれにしてぇ」

「お? 泣く泣く泣~く。泣き虫千代が泣く~」

 

 囃し立てられ泣きっ面になる千代に、優しく慰めるのは師匠の息子である賢太郎(けんたろう)だった。

「千代ちゃん、大丈夫だよ。うん。さっき皆で決めたものね。かくれんぼしようって。ね、浩太?」

 戒めるように呼びかけられ、浩太は口を尖らせるとプイとそっぽを向いた。

「じゃ、浩太が鬼しなさいよ」

 千代はあっさり泣き止むと、浩太に命令する。

 

「はあぁ? なんで俺? 嫌だね!」

「ずるいわよ。いっつも浩太は鬼しないんだから! いっつも私か賢太郎さんばっかにさせて!」

 

 一旦終わったかと思ったのに、また、ケンカが始まっていた。

 いつの間にか賢太郎が側に来て、東洋一の袂をクイと引く。

 

 何も言わず、ただ懇願する目がじいぃと見上げている。

 東洋一は嘆息した。

 なにげに一番の策士はコイツじゃないのか…?

 

 東洋一は頭を掻くと、「わーったよ」と観念した。

 

 パッと賢太郎が笑う。

 浩太と千代は、即座に駆け始めながら、

「十数えてねー」

と、叫んで、思い思いに散った。

 賢太郎も「ありがと、東洋一さん」と言うなり、駆け出した。

 

「いーち、にーい、さあーん…」

 

 数えながら、東洋一は少しだけ辺りに気を配った。

 今は実は師匠の御内儀(ごないぎ)様であるツネから用事を頼まれている途中なのだ。子供の遊びに付き合ってるなんぞとバレたら、またどやされるに違いない。

 

 こうして稽古の時間がまた削られる……。

 

 兄弟子を凌駕する東洋一の技量からいえば、とうの昔に最終選別に行っても良かったのだが、周太郎にはどうやら自分なりの基準があるらしく、十四歳になるまではいかに技量が優れていようと、藤襲山に行くことは承諾しなかった。

 

 斯くして三人いた兄弟子達は最終選別に向かい、一人は死亡、一人は行方不明、一人は生き残ったものの隊士になることを拒否して、隠になると師匠に告げ、出て行った。

 

 今は入門志願者もおらず、東洋一は風波見家の唯一の弟子として、ツネにこき使われ、子供に振り回され、修行の時間が大幅に減っていた。早急に弟子志願者が来てほしい。

 

「もーいーかぁ?」

「まーだだよー」

 

 じゃれついてこられて鬱陶しいと思うこともあったが、結局のところいつも東洋一はこの三人の遊びにつき合った。

 一人っ子で兄弟のいない東洋一にとって、三人は可愛い弟妹(きょうだい)同然だった。

 

◆◆◆

 

 最初に知り合ったのは賢太郎だった。

 

 周太郎に助けられ、どこの誰とも知らぬまま、風波見家の屋敷に連れてこられた時、東洋一はここで下男として雇われるのかと思った。

 しかし、周太郎は久しぶりに会った息子に開口一番。

 

「賢太郎、兄だぞ。兄と思って接するがよい。お前、兄が欲しいと言うておったろう?」

 

 言われた賢太郎は無邪気に喜んだが、隣にいた師匠の妻であるツネは、顔色を変えて東洋一を睨みつけた。

 妾腹の子供を引き取ったと勘違いしたツネの悋気(りんき)が治まるまで、しばらくかかった上、その最悪の第一印象のせいで、未だにツネの東洋一への当たりは強い。

 

 しかし賢太郎は素直に東洋一を兄のように慕った。

 例え東洋一が年上にも関わらず読み書きをほとんどできないとわかっても、馬鹿にすることはなかった。

 

「僕も手習い中だから、一緒にしよう。一人だと飽きちゃうから」

 

 そんなことを言って誘うが、先に飽きるのはたいがい東洋一で、賢太郎はそんな東洋一に付き合って時にサボり、時に励まして、少しずつ教えていってくれた。

 

 五歳も年下だというのに、どうかすると東洋一より大人びていた。

 

 

 千代は東洋一が引き取られた二ヶ月後に、風波見家にやって来た。

 ツネの縁戚の娘で、両親を流行病(はやりやまい)で喪い、親戚中をたらい回しにされた後に、ツネが周太郎に許可を貰って引き取ったらしい。

 

 利発な娘で、東洋一も賢太郎も、よく言い負かされた。

 ツネは良妻賢母にすべく、裁縫や料理といった女としての修養を身に着けさせようとしていたが、本人はそんなことより、蔵にある古い絵草紙などを読むのが一番好きだった。

 読み書き算盤も、東洋一を追い抜く勢いで習得していった。

 

 

 浩太は千代の後に程なくしてやって来た。

 周太郎の友人でもあった同僚の忘れ形見だという。ただ、その友人は浩太が生まれてすぐに亡くなり、周太郎は(のこ)された母子(おやこ)の面倒をずっと見ていたらしい。

 

 浩太が七歳(ななつ)の年に母親が病で亡くなり、周太郎が引き取った。

 賢太郎と同じ年で、すぐに二人は仲良くなった。

 

 後に東洋一が聞いたところによると、周太郎が千代を引き取ることを許したのは、その時には具合の悪くなっていた浩太の母親が、いずれ死ぬかもしれないことを考え、予めツネに浩太を引き取るに際して文句を言わさぬため……だったらしい。

 

 本当かどうかは不明だが、確かにツネは浩太を表向き快く受け容れた。だが……

「小さい時から、おじさんはよく(ウチ)に来てたよ」

 屈託なく話す浩太を見るツネの目はひどく剣呑で、陰湿な猜疑心を浮かべていた……。

 

 

◆◆◆

 

 

「………もーいぃかぁい?」

 

 東洋一が大声で尋ねると、後ろで冷たい声が響く。

「……なにをしているのです、東洋一」

 

「すいませんっ!」

 即座に東洋一はビッと背を伸ばしてまず謝った。

 そろそろと振り返ると、ツネがじっとりと睨みつけている。

 

「蔵の片付けは済みましたか?」

「あっ…えっと……今………」

 

 しどろもどろになる東洋一に、ツネはハアァーッといかにも苛立たしげに溜息をぶつけた。

 

「あなたに頼むと、どうしてこう時間がかかるのでしょうね。木原はすぐにやってくれましたよ。まったく。ウチに来て一年にもなるのに、図体と態度だけはやたら大きくなって、いつまで経っても役に立たないこと。だいたい……」

 

「申し訳ありませんっ!」

 東洋一は真っ直ぐに頭を下げて、そのまま静止した。

 チラと見た視線の先に、躑躅(つつじ)の木々の間から、心配そうに覗き込む賢太郎達の姿が見える。

 

「申し訳ないと、何度言うのやら。心にもない謝罪は結構ですよ。さっさと片付けて、ついでに奥の間の障子の修繕も頼みますよ。稽古もせずに遊び呆けて……まったく、旦那様はどうしてこんな子を拾ってきたのしょうね。旅芸人の息子などが、立派な鬼殺の剣士になどなれるものか………」

 

 吐き捨てるように言うと、ツネはスタスタと母屋の中へ入って行った。

 その姿がすっかり家の中に消えるのを見届けてから、東洋一はフーッと息を吐いた。

 

 そろそろと賢太郎達が申し訳なさそうな顔で出てくる。

 

「っとに…あの婆ァ、ネチネチと鬱陶しい」

 浩太はいつも自分が言われているのも思い出してか、忌々しそうにツネの去った先を睨みつけて言った。

「……ごめん」

 賢太郎が俯いて謝ると、ハッとした顔になり、気まずそうにそっぽを向く。

 

「東洋一さんも……ごめんなさい。僕が無理にお願いしたから」

 頭を下げる賢太郎とかぶせるように、浩太が東洋一に喚き立てた。

「俺が最初に言ったんだよ! 東洋一さんが暇そうに歩いてるから」

「そんなの私も頼んだから」

 

 浩太と千代までが謝ろうとするので、東洋一は内心で勘弁してくれ、と言いたくなった。

 

 父と一緒に旅して回っていた時には、面白がって村の子供から石礫(いしつぶて)を投げられたり、酔客に足蹴にされることもあった。

 人は根拠のない悪意を不意に向けてくるものだ。

 ツネの嫌味も、虫の居所で日々変わる。今日は少しばかり居心地の悪い場所にいたようだ…。

 

 賢太郎と浩太と千代の頭をペペペンと叩いて、東洋一はニヤッと笑った。

 

「見ーつけたっ……と。俺の勝ちだな。全員、負け!」

 

 賢太郎はキョトンとした後で、ホッとした笑みを浮かべた。

「ええぇぇーーっっ! ナシっ! 今のナシだよおっ」

「ずるいずるいっ」

 

 喚きたてる浩太と千代に、東洋一はへへん、と不敵に笑った。

「うるせぇ。負けた奴は勝った奴の言うこと聞くんだ。お前らも蔵の片付け手伝え」

 

「ええぇ?」

「やだあぁ」

「仕方ないよ。行こう」

 

 賢太郎は不満そうな二人をなだめると、蔵に向かって歩き出した。

 振り返って目が合うと、にっこりと笑う。

 

 文句を言いながらも四人で片付けをするこの時間が、東洋一には嬉しかった。それは、父といた時とは違う、だが家族の団欒と呼ぶに近いものだった。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 

 

 

 それからまた一年ほどが過ぎて。

 

 

 ようやく最終選別に向かうことになった前日、子供達は東洋一にお守りを渡しながら言った。

 

「必ず帰ってきてね」

「鬼なんか倒さなくていいから」

「絶対に……戻ってきて」

 

 三人の泣きっ面を見ながら、東洋一はフッと笑った。 

「なんだよ。これから俺は棺桶にでも入ンのか?」

 

 冗談を飛ばすが、三人の顔は晴れなかった。

 特に賢太郎は幼い頃から、父の弟子達が何人も最終選別に行っては、ほとんど帰ってこなかったことを経験しているせいか、尚の事、暗かった。

 

 やれやれ、と思う。

 こんな暗い顔で送り出されては、こっちまで気が滅入る。

 

 東洋一はガシッと賢太郎と浩太の頭を掴んだ。

 

「オイ、賢太郎。俺は弱いか?」

 いきなり問いかけられ、賢太郎は「え?」と戸惑う。

「弱いか、俺? わりと頑張ったと思うんだぜぇ…この一年は特に。お前らとあんまり遊べなくなって悪かったけどな」

 

 さすがにいつまでも風波見家でタダ飯を食らっているわけにもいかず、今年はなんとしても最終選別に行くために、子供達からの「遊んで」攻撃にも、逃げ回って相手しなくなることが多かった。

 

 もし、最終選別でこのまま死んでしまうとしたら、もっと遊んでやればよかったなぁ……という未練が残りそうだ。

 

「どうだ? 浩太。俺、弱いと思うか?」

 浩太にも尋ねると、浩太は「ううん!」とまっすぐな目で東洋一を見た。

「東洋一さんは強いんだ! 誰よりも強いよ! 他の人なんて誰も敵わないんだから」

 

 周太郎の留守に、東洋一を囲んで集団で打込稽古――――という名の私刑をしていた兄弟子達が、ことごとく東洋一に打ち負かされ、道場に転がっていたのを浩太は知っている。

 

「ありがとよ。賢太郎は? どう思う?」

 もう一度尋ねると、賢太郎はまっすぐに東洋一を見上げた。

「僕も、東洋一さんは強いって思う。でも――――油断しないでね」

「ハハハハッ! さすが! よくわかってんな」

 

 東洋一は二人の頭を乱暴に撫でると、最後にぽん、と軽く叩いた。

「帰ってくるさ。心配すんな」

 

 隊士になって、助けてくれた――――あの日、手を差し出してくれた周太郎に、ここまで育ててくれた風波見家に、恩返しするのが東洋一の願いだった。

 

「東洋一さん。じゃあ帰って来る時に、お土産買ってきてね」

 

 千代がちゃっかりと言うと、東洋一は大笑いし、賢太郎も浩太もようやく笑った。

 

 この三人のために、必ず生きて戻ることを誓って、東洋一は藤襲山の最終選別に臨む。……

 

 

 

<つづく>

 

 

 





次回は2021.06.05.土曜日に更新予定です。

今回より原作時間軸から三十年程前の話になります。しばらく続きます。だいぶ続きます。つき合っていただけると有難いです。

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