【完結】金木犀匂ふ<鬼殺隊列伝・森野辺薫ノ帖>   作:水奈川葵

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第五章 昔日 -暁風篇- (七)

 最終選別へと向かう賢太郎達に請われて、東洋一(とよいち)は久しぶりに風波見(かざはみ)家に来ていた。

 

「……やるじゃねーか」

 東洋一がニヤリと笑うと、賢太郎はスッと力を抜いて木刀を下ろした。

「……ありがとうございます」

 

 お辞儀する賢太郎の後ろから、浩太が肩を掴み、「強くなったでしょ?」と我が事のように言う。

 

「お前が言うな」

「だって、この前、御館様の前でも打合したんだよな? あの花柱と。さすがは風柱の息子だって言われたんだろ? 大したもんだって…」

 

 賢太郎は微かに頬を染めたが、頷きはしなかった。まだ、己に未熟なところがあるのは承知しているようだ。

 

「あぁ…いい勉強になったか?」

 東洋一が言うと、賢太郎はコクリと頷く。

 

「花柱は僕よりも年下ですが、まったく敵いませんでした。おそらく相当手加減されていたはずです」

「そうか? でも、いい筋だって言ってたぞ」

「え?」

「すげーじゃん! あの花柱にそんなこと言われるなんて!」

 

 ポカンとなった賢太郎の肩を浩太がバンバン叩く。

 東洋一は信じられないように見上げてくる賢太郎に笑いかけた。

 

「どうした? 大したもんだって、言われてたんだろ?」

「あ…いえ。それは御館様から言われただけで……」

 

 賢太郎は俯いたが、浩太はまったく意に介さない。

 

「あの花柱に筋がいいって言われるなんて、本当に大したもんなんだよ」

「さっきから『あの』って…なんだ?」

 

 東洋一が尋ねると、浩太が「知らないの?」と聞き返してくる。

 

「花柱って、任務で行った先のあちこちの道場回っては立合稽古するけど、ほとんど誰も相手にならなくて、しょっちゅう『クズ共が』っ言って去っていくらしいよ。子供だってのに、あんまりにも怖くて、木原さんはビビって逃げたんだってさ。なっさけねェの」

 

 浩太はケラケラ笑った。

 

 木原は東洋一の兄弟子で先輩隊士だ。風波見家には時折、賢太郎ら継子達の稽古をつけにやってくるらしい。不思議と東洋一が来ている時には来ない。

 

「その場で相手にできたのは、鱗滝さんという水の呼吸の剣士ぐらいだって仰言(おっしゃ)ってました」

 賢太郎が付け加えると、「あぁ」と東洋一は頷いた。

「左近次な。気に入られてるみたいだな」

 

「東洋一さん、もしかしてその人のことも知ってんの?」

 浩太が丸い目で訊いてくる。

 

「ちょっと前まではけっこう一緒に動いてたからな」

「へぇ。やっぱ強い者同士って集まるんだな」

 浩太が言うと、賢太郎はニッコリ笑った。

 

「煉獄康寿郎さんも、今度柱になられるようですね」

「へ? あ…そうなのか?」

 

 現炎柱である康寿郎の叔父は鬼にやられた傷が元で、今は治療中ではあるが、復帰は難しかろうと言われていた。

 

「はい。父上が仰言(おっしゃ)ってました。炎柱であられた御父上が亡くなられてから、よく精進されていたと…」

「まぁ…なぁ…子供も生まれたし、ただでさえ暑苦しい奴が、余計にやる気になってやがるからなぁ」

 

 許嫁がいたらしい康寿郎は、隊士になって二年後には結婚し、一年後には第一子となる長男が生まれていた。

 何か煉獄家の秘儀があって、赤ん坊も康寿郎そっくりの金の髪だった。

 

「そうか。柱になったんなら、今度誘うか……」

「あー! まーたタカる気だろー?」

 

 浩太があきれたように言うと、賢太郎までが溜息をつく。

 

「東洋一さんは、ご結婚はされないんですか?」

「は?」

「そーだよ。いつまでもフラフラしてっから駄目なんだよ。東洋一さんはー」

 

 どうやら、あまり面白くない方向へと話が進んでいっているようだ。

 

 東洋一は立ち上がると、

「じゃっ! ま、頑張れよっ!」

と、軽く言って道場を出て行った。

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 

 

 そのまま帰ろうと思っていた東洋一だったが、久しぶりに会った千代から周太郎が在宅であることを聞かされた。それは挨拶をしていかねばならないだろう。

 周太郎の部屋へと向かう間、千代が隣について歩きながら問うてきた。

 

「ねぇ、東洋一さん。賢太郎さんと浩太、大丈夫かな?」

 

 十三歳になった千代は、すっかり幼さが抜けていた。

 ぷっくり膨れて可愛らしかった頬は、すっきりとした卵型の輪郭になって、桃割れに結った髪型ですら少しばかり子供っぽく見えるほどだ。

 幼い頃からこの家で暮らし、最終選別で何人もの弟子が死んできたのを知っているだけに、幼馴染ともいえる二人が行くのは、やはり心配らしい。

 

「まぁ……大丈夫だろ」

「本当?」

「おそらくな。こればっかは運もある」

「あぁ……私も行きたかったなぁ」

 

 千代はいかにも残念そうに言い、唇を噛み締めた。

 

「お前が?」

「だって、花柱の人って私と同じ年の女の子なんでしょ? だったら私も弟子として稽古すればよかった。そうすれば一緒に行けたもの」

「それは……御内儀様が許さないだろう」

「………わかってるよ」

 

 千代はプンとむくれ顔になる。

 おそらくは当人も薄々感じているのだろうが、ツネは最初(はな)から千代を賢太郎の嫁にするつもりで引き取っている。自分に従順な嫁を育てるため、幼い頃から躾けてきた。

 千代は恩義を感じつつも、窮屈だったに違いない。

 

「それにしても、そうか。お前と勝母は同じ年になるんだなぁ」

「花柱に会ったことあるの? 東洋一さん」

「あぁ…任務で一緒になって………」

 

 言いかけた東洋一の声は、鋭く響き渡るツネの声に遮られた。

 

「賢太郎は十分に修練を積んでいるのですから、選別など行かずともよいでしょう!?」

 

 千代は目を見開いて東洋一を見つめ、東洋一は唾を飲み込んだ。

 二人して息を潜めていると、ツネはますます甲高い声で怒鳴っている。

 

「なんのために柱の地位にあるのです!? 御館様だって、賢太郎のことは大層目をかけてくださっているのでしょう? 貴方(あなた)が口利きして……」

 

 東洋一はゆっくりと息を吐いた。

 まるで子供の駄々ではないか……

 

 千代は沈んだ顔になり、そうっと来た方へと戻って行った。

 普段は黙ってやり過ごす周太郎も、いつになく声を荒げている。

 

「馬鹿を言え! 柱であればこそ、そんなみっともない真似ができるか! 僭越も甚だしい!!!!」

「みっともないですって? 親が子の身の安全を願うことが、みっともないと仰言るのですか!? あぁ…! 貴方はやはり賢太郎のことは我が子と思っておられぬのですねぇ……」

 

 ツネの声は震えていた。

 暗い声で呪詛を唱えるかのように言い募る。

 

「浩太はあの女……あの女に産ませた子供でしょう? 友人の息子だなどと偽って……」

「いい加減にしろ!」

 

 ペシリと打つ音。

 

 しばしの沈黙の後、唐突に襖が開くと、ツネが赤く腫らした頬に手を当てて出てきた。

 東洋一の姿を見るなり、ギッと睨みつける。

 東洋一は気まずいまま頭を下げたが、ツネは無視して行ってしまった。

 

 しばらく東洋一は立ち尽くしていた。

 

 ―――――貴方はやはり賢太郎のことは我が子と思っておられぬ……

 

 その吐きつけた言葉の意味を、東洋一は理解していた。たぶん。

 

 

---------------

 

 

 賢太郎がもしかすると周太郎の息子でない…という話を聞かせてくれたのは、ツネの実家から来ていた通いの女中だった。

 

「は? どういうこと?」

 

 聞き返した東洋一に、女は気を良くして話を続けた。

 

「だぁかぁらぁ…元はここの跡取りは旦那さまじゃなくて、旦那様のお兄さまだったわけ。それが鬼に殺されて、旦那様はその後を継がれたのよ。で、お兄さんの嫁だった奥様がそのまま弟である旦那様に嫁いだの。その後で賢太郎さんが産まれた訳だけど、正直なところ、実はお兄さんの子供じゃないのかって………」

「息子じゃなくて、甥っ子ってことか?」

「そうそう」

 

 東洋一はしばらく考えて、フッと笑った。

 賢太郎に稽古をつける周太郎の姿を見て、そんなわだかまりがあるようには見えない。普通に仲の良い父と息子なだけだ。

 

「あら? 信じてない?」

「あぁ、信じない。……だいたいそれが本当かどうかも関係ねぇよ」

「あらそう? でも、奥様はずっと気にかけてらっしゃるのよ。嫉妬深いくせに、旦那様が他所(よそ)に女を作っても、結局なにも言えずにいるのは、そういう負い目があるからよ」

 

 

---------------

 

 

「誰かいるのか?」

 

 中から周太郎が呼びかけてくる。

 東洋一はハッと我に返ると、部屋の前で正座して頭を下げた。

 

「ご無沙汰しております、篠宮東洋一です」

「おぉ、東洋一。なんだ…? 痴話喧嘩を盗み聞いても面白くなかろう」

 

 周太郎は自嘲気味に笑うと、プカリと煙管(キセル)をふかす。

 今更聞いてなかったと嘘つく気にもなれず、東洋一は苦笑いを浮かべた。

 

「相も変わらず…つまらぬことを言いよるだろう? 情けない(さい)だ」

「賢太郎のことが心配なのでしょう」

 

 招じられて部屋の中に入ると、周太郎の前に座る。

 一応、取りなすように言うと、周太郎はフゥーと紫煙を(くゆ)らせた。

 

「………生き残れるだけの技は教えた。あとは胆力と運だ」

「でしたら心配ないですよ。賢太郎はしっかりしてます。ちゃんと先を見据えて行動できる男です。浩太も一緒だし…普段と変わらぬ力を発揮できれば、突破できるでしょう」

「お前もそう思うならそうだろう。だが、アレはわかってない」

「……母親というのは、そういうものなんじゃないですか? 普通」

 

 周太郎は沈黙し、遠い目で立ち昇る煙を見ていた。

 

 正直なところ、周太郎には妾が数人いる。

 それはそうだろう。

 いつも眉間に皺寄せて、口を開けば愚痴と小言が飛び出すばかりの女のいる家に帰っても安らがない。血なまぐさい任務の後であれば尚の事、疲れを癒やしてくれる存在を欲するものだ。

 

 それは東洋一もまた、この仕事を続ければ理解できることだった。

 だが、負い目のあるツネにしてみれば、自分は結局(あによめ)で、妻として相手にされないと僻み、ますます賢太郎(むすこ)への愛情を深めることになってしまった。

 

「……アレのは盲愛というやつだ。本来ならば去年のうちに選別に行く筈だったものを、あのときも……」

 

 去年、十四歳になった賢太郎は最終選別に行く準備を進めていたが、ツネが強硬に反対して実家に戻るという事態になり、その後に賢太郎もひどい腹痛で寝込んでしまったことで、結局、翌年に持ち越したのだ。まだ技量的に甘い部分があったので、周太郎もあえて急かさなかったというのもある…。

 

「賢太郎にも…よくない。浩太のことも、妙に誤解しおって…」

 

 周太郎は溜息をついて、珍しく愚痴をこぼす。

 浩太の父親が、周太郎の友人であったというのは間違いないだろう。だが……

 

「師匠は、浩太の母親に惚れてたんですか?」

 

 東洋一が思い切って聞くと、周太郎は目を丸くしてから、フフッと笑った。

 

「そう思うか?」

「…でなかったら、いくら仲の良い友達だったとはいえ、独り身になった後家御のところへ足繁く訪れたりはしないですよね」

「そりゃ、そうだな」

 

 周太郎はあっさりと認めて、煙草をうまそうに吸った。

 

「師匠……」

「だが、ま、どうにもならなんだ。最期まで毅然とした、美しい(ひと)だった。浩太を引き取ったのは、鏑木(かぶらぎ)の息子というのもそうだが、あの(ひと)の息子であるなら面倒をみようと思ったんだ…」

 

 東洋一は内心溜息をついた。

 そういう綺麗な思い出になっているからこそ、ツネには余計に腹立たしいのだろう。

 

 いずれにしろ、周太郎が『痴話喧嘩』として片付けるのなら、自分がどうこう言う問題でもない。

 

「これで失礼します」

「そうか…ご苦労だった」

 

 東洋一は再び頭を下げて辞すと、玄関からフラリと出た。

 落葉が舞う中を歩き出すと、門の前で千代が泣きそうな顔で立っている。

 

「どうした?」

 千代は東洋一を見るなり、ぐしゃりと顔を歪めて涙をこぼす。

 

「賢太郎さんが……出て行ってしまって」

「は?」

「さっきお母様が騒いでいたでしょう? 聞いていたみたいなの」

 

 東洋一は眉を顰めた。

 どこまで聞かれたのだろう?

 

「浩太が家の中は探してくれたんだけどいなくて……。浩太、またお母様に噛み付いたのよ。お前のせいで賢太郎はいつも謝ってるんだ…って」

 

 東洋一の脳裏にいつも済まなそうな顔をして、微笑を浮かべる賢太郎の姿が浮かんだ。

 

「わかった」

 千代の頭を軽く叩いて、東洋一は笑った。

「俺が連れて帰ってくるから…浩太が戻ったら待っているように伝えてくれ」

 

「どこに行ったか、知ってるの!?」

「さぁ……?」

 

 東洋一はとぼけると、夕闇の中を歩き出した。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 

 

 

 人家が途切れた田圃の畦道を東洋一は歩いていた。

 既に稲刈りが終わり、籾殻の山があちこちにある。

 赤かった西の空もすっかり濃紺に様変わりし、星が瞬きはじめる頃に、小さな丘が前方に黒く見えてきた。

 丘の上には一本の楠と、大岩がある。

 上っていくと、岩の上で賢太郎が座禅を組んでいる。

 

「……心は整えられたか?」

 

 東洋一が声をかけると、賢太郎は驚いたように見た後、哀しそうに笑う。

 

「そういえば……東洋一さんには知られてたんだった」

「すまんな。記憶力がよくて」

 

 小さい頃から、ひどく傷ついた…あるいは疲れてしまった賢太郎がここに来るのを、東洋一は知っていた。

 そもそもは東洋一もまた、日頃の兄弟子からのイジメなどの鬱憤を晴らすために、ここに来ては岩の上で大声で愚痴を吐き出していたのである。

 

「……東洋一さんは、知ってるんだよね? 僕の本当の父親のこと」

 

 その言葉を聞いて、賢太郎もまた、自分が周太郎の息子でないことに気付いているのだとわかった。

 東洋一は大きく伸びて深呼吸すると、賢太郎の横に座った。

 

「賢太郎、お前さ……師匠が、お前を息子でないって思ってると思うか?」

「え?」

「いや……違うか。お前は…どうなんだ? 師匠のこと、親父だと思えねぇ?」

「…………」

 

 賢太郎は俯くと、ひどく寂しそうな表情になった。

 東洋一はフッと笑うと、自分の話を始めた。

 

「俺のお袋は女義太夫だったって…前、話したか? まぁまぁ人気もあって、正直、男にゃだらしない……まぁ、言やアバズレ女だったんだよ。そんなのだけどさ、顔だきゃ良かったんだろうな。親父は泣いて拝んで頼み込んで、一緒になったんだってさ。その時、腹に俺がいたのにな」

 

 賢太郎は目を見開いた。

「…でも……東洋一さん……お父さんのこと……好きだよね?」

 

 まだ弟子だった頃、東洋一は大道芸人だったという自分の父の話をよくしてくれた。楽しそうに、ひどく愛しそうに話すその様子に、賢太郎は羨ましくさえあった。

 

「あぁ。面白い親父だったからな。ドジで間抜けだったけど、一生懸命だったし………優しかった。親父の息子じゃねぇってお袋に言われた時には……悔しかったなァ。自分には、この優しさがないんだって。お袋と、誰だかわかんねぇ奴の、薄情な性格しか受け継いでねェんだろう……って思ってさ~」

「そんなことない!」

 

 賢太郎は即座に否定した。

 

「いつだって、優しかったよ。東洋一さん」

「おう。そうだろ、そうだろ。俺もそう思う」

 

 東洋一は笑って頷くと、賢太郎の頭をポンと叩く。

 

「親子なんざ、そういうモンだ。お前が、師匠のことを父親だと思っているなら、お前の父親は風波見周太郎なんだよ。俺から見れば、師匠だってお前のことは普通に息子だと思ってるよ。それでいいだろ?」

「…………」

 

 賢太郎はしばらく睫毛を伏せて考えていたが、何かしら吹っ切れたのであろう。

 顔を上げると、ニコと微笑んだ。

 

「……帰ります。準備もあるし」

「おゥ、そうか」

 

 連れ立って歩いて、東洋一が最終選別後に藤家紋の家で酒盛りをした話をして笑い合っていると、向こうから千代と浩太が駆けてきた。

 

「もう! 賢太郎さん…心配させて!」

「馬鹿野郎、どこ行ってんだよ!」

 

 二人ともが賢太郎に怒鳴りつけると、賢太郎は「ごめん」とすぐに謝った。

 

「もう、大丈夫だから…」

 微笑む賢太郎を見て、東洋一は軽く息をつくと、浩太に声をかけた。

 

「じゃ…浩太、頼むぞ」

 浩太はハッとした表情になると、唇を引き締めてコクリと頷く。

 

 去年、賢太郎が最終選別を諦めた時、本来であれば浩太は一人でも藤襲山に向かうことはできた。

 けれど結局、浩太は賢太郎と一緒に行く為に自分も見送ったのだ。

 誰が頼んだというわけでもなかったが、浩太のその決断は東洋一にとっては安心できる材料だった。

 賢太郎に比べて上背もあり、膂力も強い浩太は、共に最終選別を受ける上で、相当な戦力であることは間違いない。

 

「二人とも、生きて戻れよ。………鬼なんか倒さなくていいから」

 

 東洋一が懐かしい科白(せりふ)を言うと、三人とも「あれ?」と思案してから、プッと千代が噴き出した。

 

「やだ…もー、東洋一さん。よく覚えてるわねぇ」

「そうだよ。千代、お前また『土産を頂戴』()って送り出してやんな。俺はそれで帰ってきたんだ。験がイイ」

「そうだよ。それで東洋一さん、本当に土産買って帰ってくるんだもんなァ」

「近くの餅屋のおかきだったけどね」

 

 さっきまでの暗い雰囲気があっという間に取り払われて、三人は楽しげに笑っている。

 

 東洋一はその様子を少し離れた場所から見ていた。背後から、鴉の啼き声が聞こえてくる。

 

「じゃあな、頑張れよ」

 短く言って、東洋一はその場から走り去った。

 

「南南東、南南東ノ村ヘ向カエ。娘ガ喰ワレタ……」

 

 頭上で鴉が告げる。

 

 今日もまた、長い夜が始まった……。

 

 

 

<つづく>

 

 

 






次回は2021.06.26.土曜日の更新予定です。

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