書くことがとても大変な事を知りました
気力が無くなる前に自爆します(冬霊シャーマン並感)
11月某日ステージ裏にて
「お疲れ様です!!」
「おつかれー!!」
騒がしい、まぶしいステージを後にして舞台袖に降りる。観客の声を背にして皆が各々軽く息をつき今回のコンサートの終了に安堵していた。
「これどうぞ」
「ありがとね」
駆け寄ってきた女性からタオルと飲み物を受け取り、今日の反省会をのんびりしながら控え室に向かう。
彼女の名はアイ。少し前についた新人マネージャーである。こんな私に喜んで来てくれたという、熱意の強い女性だ。少し抜けているところはあるが、嫌な顔ひとつせず付いてきてくれる、頭が上がらない存在である。
「この後はソラさんはまたいつものように?」
「そうだよー。ここからしばらくはトランスポーターのソラちゃんですっと」
すこし、んーと伸びをする。コツコツと不規則な音が蛍光灯の続く廊下に響きわたる。
「また、、、いえ、あまり無茶はいけませんよ。ちゃんと休暇をとることです。疲労がたまったりはしていませんか?」
「ははー、大丈夫だよ!元気、元気!それにちゃんと休日は作ってあるでしょ?」
「・・・・」
横をうかがうとで何か言い出そうとしてはやめているアイさんがいた。「そういうことではなくて」と飛んできそうだ。分かっている。小言が来る前に話を変えることにする。
「アイさんもちゃんと休んでる?」
「え?」
「いやほら。いつもだったら、わー!とか、ていやー!とか、がおー!とかいってるよ?」
「言ってません!!今日は・・・今日も、そつなくこなせただけです!!あとがおーとは言いません!!」
「ごめん、ごめん」
いつものような軽口に笑みをこぼす。もしかしたら本当に元気でそうみえただけかも知れない。彼女がここ最近元気が無いのも、彼女の目元に深いクマがあるのも。心配しなければという思いが私に大げさに見せたものだったのかも知れない。
「ごめん」
「?」
廊下の先をみやり軽く息を吐く。ちゃんとしなければ。
「最近少し忙しいですが大丈夫ですよ。ソラさんは自分の心配をしてください!」
いつもの、何度も聞いた優しい言葉だ。彼女は疲れをおくびにも出さない。逆に彼女から元気をもらうことの方が多いだろう。
「ありがとう」
そう言うと私は一歩前に出てクルッとターンし振り返った。キュッと音が響く
「ゴ、ゴホン」
言うべき言葉は今ここで。
「な、何かあったら言ってね?力になるよ!」
「私の台詞ですっ。それは」
控え室はもう目の前だ。
11月某日控え室にて
「来たか。お疲れ様」
「お疲れ様です」
「おつかれさまです」
ここ最近で事務所に大きな変化があった。少し前のゴタゴタと合併やら買収やらで人員が大きく変わってしまった。そのため、私の担当もアイさん以外変わってしまった。
アイは基本的に身の回りの事等で、新しくなった事務所からきた方(ベテランの方らしい。名はサイという)はマネジメント担当だ。
今回の出来の是非、そして今後の予定などをしばらく話し合った。彼は・・・彼はというより彼が引き連れてきた彼等はというべきか、旧事務所とやたらに比べたがるものが多い。今回も以前と比べて~といった話題が多かった。アイと二人して苦笑いするしかなかったけど・・・
そんな流れで彼はこう切り出した。
「前回のこの場所での来場人数を上回る結果になった。前任は分からないが、一過性のブームで終えることはないということだろう。改めてまずおめでとうと言っておこう。」
「ありがとうございます」
「おめでとうございます!」
そう言ってお辞儀をする。自分でも驚くくらい興味が無かった。少し前までは本気で喜んでいたというのに。・・・彼が油断して対話していい者ではないというのもあるのだろうが。
「だが、」
(やっぱりきた)
「想定していたより多くはない。過去のデータから比べても事務所は君にはかなりの力をかけていたはずだ。時期的にも、もっと多くてきていておかしくはない。」
彼は座ったままファイルをパチンと閉じ私の方を向く。見上げているはずだが、それは君は間違っていると言わんとする教師の様であった。こうなるのだろうとは思っていた。そして私は何も出来ないことも。
「君は君自身の噂をどう思っているのかね。」
「いえ些細なことだと思っていたので・・・」
「それが今回の結果、一定数の不信感、そして支持の減少につながっていると私は言いたいのだ」
ファイルを机に叩いた。パチンと音が暫し部屋に響く。
「君は勤務中であれば、若手のアイドルとしては申し分ないだろう。そこは、事務所の皆も認めることだ。」
「だが、君の素行はアイドルとしては全くふさわしいとは言えない。前にも言ったことだが、今の事務所にとって君は重要な存在だ。君にとって良くない噂が出回っていることを私たちは心配しているんだよ。現にすでに私の耳にも入ってきている。原因は分かっているね?」
またこの問いだ。今、私のアイドル以外の活動を悪く思ったものが事務所の大半だ。
「一体何の為に君のトランスポーターの活動を禁じているか分かっているかい?君がね、野蛮な感染者集団とね、あぁロドス製薬だっけ?殺し合いをしてるって噂がね、」
「違います!決して!ロドス製薬は対立を治める側でっ」
「綺麗ごとだけじゃないだろう。君がね、ペンギン急便を通じてそれに関わっている事実をもみ消すのに一苦労してるんだよ、こっちは。武器をもって人を痛めつけるアイドルなんてどこにいると言うんだね?」
「・・・・」
「折角、世情により、身の安全を考慮してトランスポーターの仕事を辞めますという筋書きになったんだ。余計なことをしないでくれ」
今の私はその問いに対する答えを持ち合わせてはいない。沈黙を返すしかない。
ゴシップ記事では私は巻き込まれたのだと解釈されている。以前までは、ペンギン急便の仕事で荒事に関わっても、おおめに見られてきた。と言うよりもタフさを前面に押し出していたし、それで売れてもいた。
だが事務所の形態が変わってから、そして鉱石病感染者に関わる事情が大きく変わってから、それらは全て大きな汚点となってしまっている。
何もしなかったのか。いや必死に説得を試みた。だが、あの一件から、感染者へのイメージが180°かわったあの事件から、いつの間にか世間はそうなって、気づかないうちに周りもそうなっていた。
結局何も出来ないまま、数週間前、ペンギン急便との契約が切れてしまった。
悔しさも怒りもすぎてただただ目の前には諦めがあるばかりだ。何も言えないまま立ち尽くす。
「まぁいい。今日はこれまでだ。お疲れ様。それとアイくん。君は残ってくれ。」
「ぇ・・・でも、この後はソラさんの送迎に・・・」
「君に話があるんだ。君は彼女のことをここでは一番知っている。彼女を説得するには君しかいないんだ!」
「で、でも、、、」
ここまで気にかけてくれるアイさんに申し訳なくなる。負けてしまいそうだ。彼女は、一人になってもアイドルでない私の側にたってくれる。
「アイさん。ありがと。一人で帰るから。大丈夫だよ。ちゃんと鍛えてるんだから。大丈夫、大丈夫」
アイさんのこんなところまで心配するそれを振り切って、壁に掛かっていたロングコートを手に取り、「お疲れ様でした」といって部屋を出る。逃げるように。今ここにいても、何も言えない私にできることはないだろうから。
編集後
2度目の投稿
書き物はとても難しいです