逃げるように市街の人混みの中へ躍り出る。一応アイさんに言われた通りに帽子を深くかぶて顔を隠す。近頃この地域では、この地域でも団体による活動が増えてきていて、つい先週にも負傷者が出るまでの大事になったそうだ。
団体、鉱石感染者による団体、それによる、感染者の地位改善運動は現在最もセンシティブな問題であり、最近になって急激に増加し過激になり始めている。必死に横断幕を掲げる人、声をからして演説する人、見せしめに路上で自決する人、非感染者を攻撃する人、中には自らの団体をレユニオンと名乗る人もいる。
その中で、やはりロドス製薬。その存在も大きく広がっているらしく、以前までは何の問題も無かったが、私がロドスに関わることをよく思わない人々が増えた。
今までは、ただ感染者が死にゆくのを路上で眺めてるだけだったのに、私達は知ったんだ。彼等が牙をむくことを覚えたことを。その牙の向け先が正しくあるのならそれは喜ぶべき進歩だ。皮肉にもチェルノボークの一連の事件が彼等の意識に大きなものを与えたのは事実だと思う。
そして今、彼等は畏怖の存在だ。強引にバスを、店を追い出していた私達は今では自ら逃げ出し避けるばかりだ。ここでは政府が、源石感染者に対して平等に扱うと表明したらしいが、それはただ張り紙が消えただけで、新たな不文律が大々的に掲げられる結果になった。「関わるな」たったこの4文字がいま感染者と非感染者を分ける大きな溝だ。
それをどうにかするのが、本当に今私が、、、
「あ、すいませんっ」
「あぁ、お気になさらず」
前方の黒い壁にぶつかってしまった。辺りをみれば似たような格好の人々がゆっくりと流れるように往来している。今立ち止まっている自分が時間に取り残されたようであった。
つい最近、一人になるとどうしても同じような思考の沼にはまってしまう。私は何ができるのだろうか。決して軽い気持ちじゃなかったのに。確かにあのときは強い意思があったのだ。
その気持ちも、熱く燃えていた心も、今吹いている冷たい風が体をそのまま突き抜けていくから、もうたいした熱を持っていないんだろうけど。
電車にしばらく乗っていると、空を眺めるのにも苦労はなくなり、空席も大分ふえてきた。先ほどまで無機質にそびえ立つビルが私を取り囲んでいるようであったが、今では家屋が並ぶばかりだ。風の通りが良いはずだが、なぜか暖かく感じる。そろそろ空いた席に座わろうか。
「お隣、いいですか?」
「え、あ、はい、ど、どうぞ」
女性の隣に一言断ってから腰をかける。
深くかぶっていた帽子をあげて、席に座ると、無意識のうちに大きくため息をついてしまった。その事実に少し恥ずかしさもあり情けなさもあり、居住まいを正し目深に帽子をかぶり直す。