キミのためなら死ねる   作:haku sen

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凄い筆が乗って、本編ラストより長くなるっていう……。というか、私も生存ルートの声が多くてビックリしました。どっちも行ける人が多すぎる。ただ、もっと、愉悦を届けなければ……。





IF 生存ルート

 

 

 幸せの最後を迎えることが出来たなら、どれほど良いだろうか。

 誰も死なず、誰も悲しまず、誰もが満足がいく最後を迎えて、めでたしめでたし……なんて。

 全てが大団円で行くことなど、最後がハッピーエンドで終わるなど、そうあることではない。

 一〇〇通りの人の人生があったとして、その中で二人ほど満足のいく最後を遂げることが出来ればいい方ではないだろうか。

 

 現実とはそういうものだ。何もかも上手く行くことなんてありやしない。

 ましてや、“鬼”がいる世界だ。

 明日──否、ほんの数刻前まで笑い合っていた親や兄弟が平然と死んでいく。物言わぬ肉塊へと変わる。

 それも、死体が残ることの方が少ない。

 

 そんな世界で誰もが幸せに終わるなど、無理がある。

 ──だから、そのたった二枠しかない人生を迎えて欲しい人たちがいる。

 彼女たちが心の底から笑える日を迎えられるのならば、自分は……俺は何だってしてみせる。

 

 だって、それは“生きがい”だからだ。

 この天沢(あまざわ)一颯(いぶき)という人間にとって、唯一の成すべきこと。

 

 たとえ、それで死ぬ定めだとしても自分は平然とその命を差し出せるだろう。

 どうしようもなく、狂っているのだ。自分は。

 

「──一颯くんッ!!」

 

 悲痛に満ちた声で名前を呼ばれる。

 どんな時でも笑顔を絶やさなかった彼女の悲痛な叫びが聞こえる。

 何故? ……そんな簡単なことわかりきっているだろうに。

 

 足に力を入れろ。

 もっと血を回せ。

 歯を食いしばり、全集中の呼吸を絶やすな。

 

 まだ、自分が死ぬことは許されない。

 

「──っぉおおおおおおおお!!」

 

 倒れかけていた身体を気合いで起こす。

 呼吸で止血を、筋肉で臓物が飛び出すことを防ぐ。

 

「えーっ、その傷で立っちゃうの? キミ」

 

 立ち上がった一颯の姿に童磨(どうま)は、何処か可哀想な表情を浮かべて言った。

 

 憐れんでいるのだろうか。

 傷の痛みを想像して、共感でもしているのだろうか。

 それともまた別の──

 

「──バカバカしい。腹が立つ。その顔を見てると」

「……ん? 急にどうしたんだい?」

 

 一颯は喉に溜まる血を吐き出しながら、童磨に切っ先を突きつける。

 

「お前のような人面獣心野郎は生きてちゃいけない。他人の痛みも、悲しみも、そもそも感情すらも分からないお前は──空っぽのお前は生まれてきてはいけなかったんだよ」

 

 童磨は心底、訳が分からないと言ったように無言のまま呆けた表情を浮かべていた。

 

「分かった風に笑うな。知った風に喋るな。お前のようなクソ野郎に感情なんて無いだろう? 可哀想な獣畜生が」

「──へぇ、キミはそんなことを言うんだ」

 

 空気が重くなる。肌を刺す冷気が更に分厚く、増した気がした。

 

 本当なら喋る気力も残すべきだったかもしれない。

 喋る時間があったなら、もっと呼吸を深めていくべきだったかもしれない。

 

 だが、気がつけば自然と言葉が出ていた。

 どうやら、自分はキレているらしい。

 それが、痛みによるものなのか、それとも言葉通り童磨の言葉や仕草からくるものなのか。

 どちらにせよ、好都合だ。

 

 どうやら、童磨も似たような(・・・・・)ものらしい。

 

「うん、男と話しても、ちっとも面白くないや」

「同感だな。俺もお前と話していて死ぬほど気分が悪い」

 

 その感情を貼り付けたような顔も、人の神経を逆撫でするその喋り方も、何もかも苛ついて仕方ない。

 

「じゃあ、そのまま死んでくれないかな?」

「その時は、お前も連れて行ってやるよ」

 

 

【──風の呼吸 参ノ型 晴嵐風樹(せいらんふうじゅ)

 

【──血鬼術 ()蓮華(れんげ)

 

 風を纏った長刀と、冷気を纏った扇が激しくぶつかり合う。

 踏み込みや得物を振うタイミング、その全てがほぼ同時。

 

【風の呼吸 肆ノ型 昇上砂塵嵐(しょうじょうさじんらん)

 

【血鬼術 蔓蓮華(つるれんげ)

 

【風の呼吸 陸ノ型 黒風烟嵐(こくふうえんらん)

 

【血鬼術 枯園垂(かれそのしづ)り】

 

 そこから、技の応酬だった。

 お互いに一歩も退かずに技を繰り出し、得物を振り、しのぎを削り合う。

 一颯が童磨の肉体に傷をつければ、一颯の身体にも傷が付く。

 

 しかし、童磨は鬼だ。そんな傷も直ぐに治る。

 それでも、一颯は退くことは無い。童磨が下がれば一颯はもう二歩進むぐらいの勢いで攻める。

 そして、徐々に童磨の身体につく傷の方が増えていった。

 

 ──()が悪い。童磨は冷静にそう判断する。

 

 一颯が使う日輪刀は通常の刀よりも少し長い。

 パッと見ただけでは分からないだろうが、実際に刀を並べて見れば良く分かるだろう。

 通常の刀より切っ先が一寸ほど飛び出るぐらいの、少しの差。

 

 だが、その差が童磨の肉体を傷つけていた。

 リーチが長いのもそうだが、そのちょっとした違和感の差が感覚を惑わせる。

 これまで多くの鬼殺隊員と戦えば戦うほど、そのちょっとした差に惑わされやすい。

 

 何時もなら避けられるはずの攻撃も、切っ先分当たってしまう。

 

 このままでは面倒だ、と思い童磨は一旦距離を置くことを考える。

 斬り合いを避けるため、童磨は大きく距離を取ろうと飛び退いた──が。

 

「ッツ!?」

 

 咄嗟に頭を後ろに退いて、既の所で頚に迫ってきていた剣を避けた。

 

 速い。距離を詰めるのが異常なまでに速すぎる。

 

【風の呼吸 弐ノ型 爪々(そうそう)科戸風(しなとかぜ)

 

「くぅっ!!」

 

 身体全身を最大限にまで使って童磨は一颯の攻撃を防ぐ。

 腕が痺れ、身体の至る所には細かい傷が付いている。

 踏み込みが速くなった。力が強くなった。

 何故? 

 

 ──いや、そもそも何故、手負いの人間が自分を追い詰めている?

 

 “シィィィァァァ”と聞いたこともない呼吸音が童磨の鼓膜を揺らした。

 

 呼吸が──

 

【迅の呼吸 壱ノ型 疾風迅雷(しっぷうじんらい)

 

 月明かりの下で宙を舞う腕。

 童磨は驚愕の表情を浮かべながら、左腕を肩の根元から斬られていた。

 

「──次は頚だ、クソ野郎……っ!」

 

 一颯の首元から右頬にかけて迫り上がってくるように、伸びる()

 

 その痣は、空に無数の亀裂を入れる雷を彷彿とさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──姉さんっ!!」

 

 時は少し戻り、一颯が童磨と至近距離で斬り合っている最中、何とか駆けつけたしのぶは、今にも立ち上がろうとしている姉、カナエに駆け寄った。

 しのぶは無理矢理にも動こうとしているカナエを支えながらも、刀を下ろさせようともう片方の手で押さえる。

 

「──ゴホッ! ……しのぶっ、私は大丈夫、だからっ」

 

 カナエの視線は常に童磨……否、傷だらけで戦う一颯の後ろ姿を見ていた。

 戦っている。ずっと、私たちを守ろうと戦い続けている。

 

 彼が傷を負うのは誰のため? きっと自分たちのためだ。

 彼が鬼を斬るのは誰のため? それも自分たちのためだ。

 彼が戦うのは誰のため? ……自分たちのためだ。

 

 自惚れではない。

 きっと、それは自惚れなんかじゃなく、あの日、交わした約束のせいで彼は戦っている。

 

 しのぶが危なければ直ぐに駆けつけるだろう。

 

 私が危なくなったら直ぐに助けてくれるだろう。

 

 だから、来た。私の危機にいの一番に駆けつけた。

 

 でも、私はそんな彼の横に並び立ちたいと想っていた。

 

 努力して、頑張って、彼が振り返る必要が無いように刀を振って……そして、私は柱になったのだ。

 しのぶも頚が斬れないと言われても、諦めず毒をもって鬼を制した。

 

 私たちはもう守られる存在ではない。

 

 私たちはもう貴方の横に並んで戦える存在だ。

 

 ──そう思っていたのに。

 

「姉さん……」

 

 しのぶは唇を噛み締め、折れた刀を離そうとしないカナエの姿を見て、その気持ちが手に取って分かるように伝わってきた。

 視線を姉から一颯に向ければ、有無も言わせないほど安心する大きな背中が見えた。

 

 きっと、姉さんも同じなのだろう。

 

 どうしてか、あの背中を見ていると酷く安心するのだ。

 

 しのぶの脳裏に懐かしい想い出が蘇る。

 夕日を背にして、一緒に家へと向かう帰り道。

 一颯の背に背負われ、風車がクルクルと回る様子を見て笑う自分を、微笑ましい様子で見る姉と一颯の姿。

 

 兄のような人だった。いつも、その背中を追いかけていた。

 

「──……姉さん」

 

 しのぶは姉を呼ぶ。刀の柄を握り絞めて、ハッキリと呼んだ。

 そして、カナエはしのぶが何をする気なのか、直ぐに理解した。

 

 だからこそ(・・・・)、カナエは無理を押して立ち上がる。

 身体に活を入れ、痛みで気を失いそうになりながらも全集中の呼吸を行う。

 

“フゥゥゥゥ”と花の呼吸の独特な呼吸音が響く。

 

 肺が壊死しかけているからだとして……それがどうした?

 腕は繋がっている。足をはまだ動く。

 呼吸も出来て、刀を振るうことが出来る。

 唯一、懸念することは刀が折れていることだが、頚を斬れないわけではない。

 

 思っているだけではダメだ。

 同じ立場に立っているだけではダメだ。

 

 証明するのだ。

 自分たちはもう守られる存在では無い、と。

 

「……しのぶ。貴方は下がってて──って言いたいところだけど」

 

 見れば、しのぶはムッとした表情で刀の柄を握り絞めている。

 これは、梃子を使っても動きそうに無い。昔からそういう子だった。

 

「胡蝶しのぶ。『花柱』胡蝶カナエが命じます。──『風柱』天沢一颯を二人で援護します。いいわね?」

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死の淵に立たされて、やっと自分にも“痣”が出た。

 他の皆はそんなことをせずとも出したというのに……やはり、自分は弱い。

 ……いや、ただの部外者とも言える天沢一颯(モブ)が、ここまで出来たのだ。充分やってのけたであろう。

 

 だが、正直まだ足りない。

 これで、やっと童磨(ヤツ)と同じ土俵に立っただけだ。

 

 もう一手。後、もう一つ童磨を追い詰めるものがあれば……。

 

 “赫刀(かくとう)”。そんな言葉が脳裏に浮かぶ。

 

 恐らく、今ならば出来る。

 死の淵に立ち、痣も出ている状態である今ならば、出来るはずだ。

 

 だが、隙が無い。やるだけの時間が無いのだ。

 原作同様、刀身を(あか)くするために一度、全ての力を握力に回さなければいけない。

 

 だが、そんな隙を童磨は見逃さないだろう。

 痣……は『上弦ノ壱』である黒死牟(こくしぼう)から聞いているかどうかは知らないが、痣を出した自分を随分と警戒しているように見える。

 どちらにしろ、隙を見せればそこを必ず突いてくるはずだ。

 

 ならば、朝を待つ。朝まで耐える。

 そうすれば、自分の勝ちだ。

 

 ──夜明けまで残り一時間。

 

 “シィィィァァァ”という呼吸音が響く。そして、雷鳴が響き、暴風が吹き荒れる。

 

【迅の呼吸 壱ノ型 疾風迅雷】

 

 神速の一閃。

 雷の如く速く、暴雨のように荒々しい斬撃は童磨の頚に迫った。

 

「ッ!?」

 

 しかし、止められた。受け止められた。

 頚を狙った一閃は瞬時に左腕を再生した童磨によって防がれた。

 だが、その表情は苦々しいものに見える。

 恐らく、見えてはいたが防ぐのに必死なのだろう。加えて、力は拮抗しているわけではなく、徐々に刃が押し込め始めていた。

 

「っ、ラァ!」

 

 弾く。童磨を吹き飛ばすように弾き、地面を深く蹴った。

 

【迅の呼吸 伍ノ型 裂雷(さくらい)天津風(あまつかぜ)

 

「ガッ、ハァッ!?」

 

 咄嗟に血鬼術を用いて氷の壁を作った童磨であったが、氷の壁は雷が落ちたかのような亀裂が走って割れ、その隙間から天を貫く旋風の刃が深々と胴を切り裂いた。

 

 血を吐き、頭が下がる。

 狙える。童磨の頚はガラ空きだ。

 

 身体を回し、頭と身体を繋ぐ頚を狙って一文字に刀を振るった。

 

 ──しかし、童磨とて上弦の鬼。このまま大人しく頚を斬られているのならば、今頃上弦になってはいないだろう。

 

【血鬼術 ()(くもり)

 

「っ、くそ、がっ!」

 

 血を吐くと同時に振るった扇から出るのは濃密な氷の霧。

 瞬時に空気が冷え、肌が凍り、刀の速度が落ちる。

 

 その一瞬の時間が生死を分けた。

 一颯の刀が届く前に童磨は顔を上げ、傷を即座に再生させていく。

 それで、十分。鬼にとってそれだけあれば、刀を弾くことなど容易い。

 

 一瞬、遅れてきた刀を童磨は扇で弾いた。

 その弾いた力に一颯は身体を預け、そのまま刀と共に大きく飛び退く。

 

 届かなかった。後一歩届かなかった。

 

 改めて対峙する両者。

 片や傷だらけの一颯に対して、もう片方の童磨は無傷のまま。

 そこで、改めて一颯は理解した。

 

 追い詰めてはいるが、体力が保たない。

 夜明けまで待つにしても、手を抜けば直ぐにやられる。だから、倒すつもりで挑んで、やっと均衡状態だ。

 どちらも全力ではあるだろうが、体力が無尽蔵の鬼と体力が有限である人間では、やはり差が出てくるだろう。

 

 後、もう少しだけ保ってくれれば……っ!

 

「──ふぅ、なんか疲れちゃった。ちょっと休憩しようかな」

「……は?」

 

 唐突に童磨はわざとらしく息を吐いて、和やかにそう言った。

 そして、足下に転がっていた自分の腕(・・・・)から緩慢な動きで扇を取ると、二対とも開いて重ねる。

 そして、上下を割くように振って見せて出てくるのは二体の童磨を模した氷の人形。

 

【血鬼術 結晶(けっしょう)御子(みこ)

 

 それを見た瞬間、背筋に冷たいものが走り、焦燥が身を焦がした。

 

「やっぱり、キミ……知ってるよね? 初対面のはずなんだけどなぁ」

 

 一颯の動揺が見て取れたのだろう。

 童磨は目を細めながら、指を立て、自身のこめかみに深く突き刺した。

 ぐじゅる、と柔らかく水分を多く含んだ肉の音が聞こえてくる。

 

「うーん、やっぱり記憶にないや。俺の情報が漏れているとは余り考えにくいんだけど……どうして知っているんだい?」

「……それは──」

「ああ、やっぱりいいや。もうすぐで夜明けになっちゃうもん」

「テメェ、っ!?」

 

【──血鬼術 寒烈(かんれつ)白姫(しらひめ)

 

 結晶ノ御子が扇を振るうと、氷華の蕾の代わりに女性の顔のようなものが形作られ、広範囲に広がる冷気の吐息を繰り出す。

 

【血鬼術 蔓蓮華(つるれんげ)

 

 そして、それに追従するように伸びてくる氷の鞭。

 

 あんな小さい人形が血鬼術を使うなど、ふざけている。

 心の中で酷く罵倒しながら、一颯は氷の蔓を斬り払い、氷の吐息を吹き飛ばすように刃を振るった。

 

【迅の呼吸 弐ノ型 魔風放電(まふうほうでん)

 

 歪な軌跡を描く風が広範囲に広がりながら、氷の弾幕を消し飛ばしていく。

 

【血鬼術 (ふゆ)ざれ氷柱(つらら)

 

 だが、霧状の氷が固形の氷へと変わり、襲い掛かってきた。

 

【迅の呼吸 参ノ型 颶風渦雷(ぐふううずらい)

 

 渦巻く雷を伴った竜巻が氷柱を全て弾き、砕き、消し飛ばしていく。

 

「──ッ!?」

 

 しかし、全てを弾いたと思えば目の前で迫る扇。

 正に紙一重で避けるが、微かに触れた扇の先が一颯の頬に赤い筋を作った。

 

「あはっ、やるねぇ! じゃあ、どんどん行くよ!」

 

 そうだった。原作では動いていなかったが、実際は童磨本体もいる。

 この戦いに奴が動かない理由なんて無いのだから、向かってくるのは当たり前。

 

【血鬼術 蓮葉氷(はすはごおり)

 

【血鬼術 ()蓮華(れんげ)

 

【血鬼術 蔓蓮華(つるれんげ)

 

「──くっ……っ!!」

 

 童磨に合わせて二体の御子が血鬼術を発動させる。

 避ける隙が無く、攻撃も鋭い。

 だが、これを捌かなければ自分は死に……カナエも死んでしまうかも知れない。

 ならば、片腕、片足、何処か捨てる覚悟でやるしかない。

 

【迅の呼吸 肆ノ型 避雷迅風(ひらいじんふう)

 

 刀の切っ先を目にも止まらぬ早さで滑らせ、童磨たちの攻勢を何とか弾いて見せるが、余りにも数が多すぎる。

 そして、迫る氷の鞭と華。刀を戻しようにも間に合いそうになく、食らえば致命傷。

 

 捌ききれ────

 

【──花の呼吸 伍ノ型 (あだ)芍薬(しゃくやく)

 

【──蟲の呼吸 蜻蛉(せいれい)(まい) 複眼六角(ろっかく)

 

「……な、え?」

 

 思わず、そんな声が出てしまった。

 パラパラと氷の破片が舞い落ちる中で、一颯の正面に立つ二人の少女。

 美しく、可憐で、とても似ている二人の姉妹はこちらに振り返り少しだけ笑みを零した。

 

「一颯くん、私たちがあの二体を抑えます」

「私は柱とかじゃないんで、さっさとお願いしますよ」

 

 まさか……まさか、守ろうとしていた存在に守られるとは。

 だが、何だろうか……悪い気はしない。寧ろ、何処か胸の突っかかりが取れたような気さえする。

 しかし、それでも二人は自分にとっては守る対象であるには違いない。

 

 ──ギシリ、と音がした。

 

「任せろ。野郎の頚を最速で斬ってやる」

 

 一颯の持つ日輪刀の刀身が赫く染まる。

 

 そして、三人はほぼ同時に動いた。

 無論、それに対して童磨も動く。

 

 あの赫く染まった刀を見て、初めて背筋が凍るというのを体感をした童磨は本能が……自身に流れる血が、あれに対して警鐘を鳴らし続けていた。

 あれで斬られたらマズイ。ただただ、そう感じる。

 

 故に狙うは赫刀を持つ一颯ただ一人。後はほっといてもいい。

 

 アイツだけは近づかせてはダメだ。

 

【血鬼術 ()(くもり)

 

【血鬼術 寒烈(かんれつ)白姫(しらひめ)

 

 二体の御子が出すのは、もはや氷の壁。

 雪崩とも形容出来そうな氷の吐息が前へと進む三人を阻む。

 

 だが、甘い。それでは今の三人を止めることは出来ない。

 一颯が足に力を込め、一人だけ突出する。

 

【迅の呼吸 陸ノ型 閃雷神風(せんらいかみかぜ)

 

 煌めく稲光が氷の壁と化した吐息を一閃し、それによって生じた吹き荒れる風が道を開かせる。

 雲を割った後のように一筋の道が出来た。

 

【血鬼術 枯園垂(かれそのしづ)り】

 

「──しのぶ!」

 

「はい!」

 

 カナエの呼ぶ掛けに応じて、しのぶはその道を塞ぐようにして前へ出た御子に相対した。

 

【蟲の呼吸 蜂牙ノ舞(ほうがのまい) 真靡(まなび)き】

 

 御子の攻撃をすり抜け、深々と鋭い一撃が御子を貫き破壊する。

 だが、その攻撃後の隙を狙うかのように、そして、三人の進行を妨げるように御子が扇を振るった。

 

【血鬼術 蓮葉氷(はすはごおり)

 

 それに加えて童磨も扇を振るう。

 

【血鬼術 蔓蓮華(つるれんげ)

 

「一颯くん、合わせて!」

 

「ッ、ああ、任せろ!」

 

【花の呼吸 肆ノ型 紅花衣(べにはなごろも)

 

【迅の呼吸 弐ノ型 魔風放電(まふうほうでん)

 

 一颯の刀が童磨と御子の攻撃を全て弾き、その空いた隙間を縫ってカナエが御子を砕いた。

 残るは童磨ただ一人。一颯は一直線に童磨へと踏み込んだ。

 

【──血鬼術 霧氷(むひょう)睡蓮菩薩(すいれんぼさつ)

 

 その踏み込みを阻むようにして、現れたのは菩薩の氷像。恐ろしく、巨大で凍てつくような冷気を発していた。

 しかも、それが動くのだ。巨大な氷の質量が動き、一颯を押し潰さんと腕を振り上げた。

 

「──おおおおおおおおおおおおっ!!」

 

【迅の呼吸 壱ノ型 疾風迅雷(しっぷうじんらい)

 

 ただ真っ直ぐ。

 ただただ、菩薩の肩の上に座る童磨の元へ真っ直ぐ、一直線に。

 振り下ろした腕を避けると同時に、それを伝って一気に走って行く。

 そして、童磨へ刀を振るい、その腹部を深々と切り裂いた。

 

「──これ、は」

 

 ドロリ、と止めどなく溢れ出る血。

 違う。これは違う。こんな灼けるような痛みは初めてな上に、全く傷が再生しない。

 

 ──いや、知っている(・・・・・)……?

 

 睡蓮菩薩(すいれんぼさつ)に罅が走る。

 そして、それを起点として一気に崩壊が始まった。

 

「一颯くん!」

 

「そのまま行って!」

 

 一颯は二人の呼びかけに答えるように、一颯は崩れる睡蓮菩薩の氷塊を足場にして、少し上で落ちてくる童磨を捉えた。

 

【──迅の呼吸 漆ノ型 業風(ごうふう)閻雷太刀風(えんらいたちかぜ)

 

 一閃。

 

 童磨の頚を一文字に切り裂いた一筋の風は、空すらも切り裂いた痕を残すかのように、何処までも……何処までも天高く切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──一颯くん、柱合会議だって?」

「うん、どうも鬼を連れた隊員がいるとか、何とかで……そんな、詳しいことは書いて無かったよ。ほら」

 

 しのぶは今朝、一颯の鎹鴉──朝十郎(ちょうじゅうろう)から届けられた手紙をカナエに見せる。

 

「へぇ、鬼を連れた子かぁ……」

「……ちょっと、姉さん。その()に会いたいなんて言わないでよ」

「え? ダメ?」

「ダメに決まってるじゃない!」

 

 何を言っているのだろうか、この脳天気な姉は。

 鬼は悪。人を殺し、喰い、仇なす存在である。それに例外はない。

 

「うーん、一颯くんに言ったら会わせてくれないかなぁ?」

「だから、ダメって言ってるでしょう!? それに、義兄(にい)さ──んんっ、『迅柱(・・)』様はただでさえ多忙なんだから、さらに厄介ごと増やさないのっ」

 

 ただ、しのぶは心の中で思う。カナエが言えば直ぐにでも連れてきそうだな、と。

 

「そうね……でも言ったら帰ってきてくれるし、そんな忙しいの?」

「そのとばっちりが私に来るの! というか、姉さんも『元柱』だったでしょう!? もう、姉さんが言えば直ぐに仕事を放り出して帰るんだからっ! 全く、あの人は……もうっ!」

 

 何時ぞやのことを思い出し、しのぶは怒りを露わにした。

 そんなしのぶの様子をカナエは微笑ましく思いながら、空を見上げる。

 

 その日の天気は清々しいほど良い蒼色の空だった。

 

 

 

 




何とか今年中に投稿できて満足です。
本当はそのままの関係で行こうかと思っていましたが、どうせ本編じゃあ死んでいるんで、IFぐらいは良いかなって思って、カナエとオリ主を結ばせて見ました。
正直、違和感があったので鬼化ルートではもう色々とやりたいです。彼女たちの曇り顔で飯がうまい! うまい!

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