五条悟の次に強いやつって言われたいじゃん 作:五条悟のディスク
全てに感謝
「ラッキー、ななみんより早く着いたわ」
待ち合わせ場所に指定した看板の前に立ち、携帯電話を開いて現在時刻を確認する。電車の関係上たまたま早く到着したため目的地に一番乗りだったようだ。
待ち合わせの相手は高専一年組の七海と灰原、間違えたななみん。財布に応急キット、いくつかの呪具と携帯電話。最低限のものを詰めたショルダーバッグを肩に掛けなおし、近くにいないかなとあたりを見渡す。
なんで空港にいるのか、それは当然星蒋体護衛の任務によるものである。
あの後、俺がボコした二人以外に呪詛師が何人かいたが学校に侵入させるまえに対応することができた。なので天内の最後の学校生活は満足に送れたようである。
これで万事解決、では高専に行きましょうとなり高専への移動のために車を取りにいった黒井さんが帰ってこないのだ。怪しいと思ったところで天内に不明のアドレスからメールが届き、その内容は黒井さんを預かったというものだった。車を取りに三人と離れたその時を狙ってさらわれてしまったと。
これに対して五条先輩は天内を最優先で高専に輸送、その後に五条先輩と夏油先輩が黒井さんを奪還という作戦を提示。しかし、天内がこれに猛反発。
『助けられたとしても!もし同化までに黒井が帰ってこなかったら?まだ、お別れも言ってないのに...!?』
と。現状俺たちに課せられている任務は星蒋体の護衛と抹消、さらには天内の要求はすべて応えること。であればあとは俺たちが頑張るしかあるまい。
それに伴って俺に下された指示。それは黒井さんの取引場所に指定されている沖縄の空港の防衛。呪詛師に占拠されることを防ぐために、天内一行が到着する前に沖縄に向かえとのこと。
そのために空港にやってきたというわけだ。
「いえ、残念ながら私のほうが先です」
看板の反対側から気だるげな眼をした七三分けこと七海建人と、対照的にぱっちりと開かれた眼の黒髪短髪の灰原雄。今回の空港防衛作戦には俺達一年が担当することとなった。
「看板とはいえ普通に考えれば窓口側でしょう。なんでわざわざ反対側なんですか」
「まあいいじゃないか!!こうして節と合流できたことだし!!」
相変わらず灰原は圧がすごい。焚火の前にいると肌の表面のみが焼ける感じするじゃん、灰原といる時ってマジでそんな感じ。ただまあ何か月も一緒にいればなれるもんだ。同じ
「沖縄の窓の話じゃまだ目立った問題はないそうだね。まぁ何もないのが一番だけどね。ね、ななみん!」
「次そのふざけた呼び方をすればいつもの店で一杯奢りの約束、覚えてますよね」
声をかけながら肩を組みに行くが荷物を持っている反対の手で払われてしまう。ちなみにいつもの店はラーメン屋だ。ななみんはグルメが大好きでラーメンなどはあんまり好きではなかったが、本当においしい店を案内してからはラーメンにもはまってくれた。
まぁ、その約束を判ったうえでやってるんだけどね。一緒にラーメン食べに行くの楽しいし。
「前回僕は仕事で行けなかったからね!今度は僕もつれてってくれよ!!」
「まあその話はあとでいいでしょう。時間に余裕があるわけでもありません、早いところゲートを抜けてしまいましょう」
ななみんがそういうとスタスタと歩いて行ってしまう。
当然ながら、飛行機を乗るにあたって刃物の持ち込みは厳禁だ。俺の呪具もななみんの呪具も一応は刃状のものであるため普通に通れば引っかかってしまう。なので、高専関係者が裏から手をまわして念のため飛行機内にも呪具を持ち込めるようにしてもらうのだ。
そのため、関係者入り口にいる補助監督と合流する必要があるのだ。
「そうだ節!件の少女はどうだったんだい?僕はてっきり夏油さんたちと一緒に護衛に回るのかと思ってたんだけどね!」
「ああそれね。星蔣体の女の子はなんというかまぁ、いい意味でどこにでもいる女の子だったよ。俺がこっちにいるのは、五条先輩と夏油先輩の判断。敵の勢力がはっきりとしていない今、先発組に人員を割いたほうがいいってことらしい」
「...なるほどね。ただまぁ、僕は燃えてるよ!!夏油さんに頼られちゃったら頑張るしかないよね!!」
「いえ、どう考えても一年に務まる任務じゃないでしょう。節君がいるとはいえ、敵勢力もわからないのに我々だけとは」
「そこはあれよ、先輩方に信頼してもらっているということで一つ」
はぁ、と大きくため息をついて足を速めるななみんを追いかけるように俺と灰原も続く。
何の問題もなく、飛行機に乗る。現時点で嫌な感じはしないので、ひとまずは無事に沖縄に到着できることでしょう。
「やっぱ沖縄そばで間違いなかったな」
ずるずると麵をすすり、威圧感を放つ肉を口いっぱいに頬張る。沖縄着の最終便であったためすでに23時を超えてしまっている。そのため空港からいったん外にでて24時間営業のフードコートにて腹ごしらえをしている。
ななみんは窓の人のところに行っている。
「このソーキそばもとてもおいしいよ!!」
「いやいや、灰原。左上の法則って知ってるか?」
そう左上の法則だ。横文字をなぞるとき、文は左上から始まる。日常生活でもそれが染みついているため、一覧表を見た時にも人間は無意識に左上から見る傾向がある(当社比)。そのため、メニューなどの表では一番お勧めしたいものや一番目立たせたいものを左上に配置しやすいのである。
まじでみんなも使ってみて欲しい。とくにラーメン屋にありがちな券売機方式もそうだ。左上におすすめがあることが多い。まぁ本人が食べたいものを食べるのが一番ではあるが。
店がおすすめするものであれば、失敗することもあるまい。
そんなことを考えているうちに汁まで全部飲み切ってしまう。
「随分と良い御身分ですね」
「お、ななみん。窓の人はなんて?」
「節さんにはもう今更という感じですね。窓の方から話を聞いてきました。現状、呪詛師と思わしき人物及び集団は確認できてないとのことです」
「なるほどね。ひとまず交代制で空港を守る感じになるのかな。明日の朝に先輩たち来るから最も気を付ける点は先輩たちの到着の時間と発着の時間だな」
お冷を一気飲みして一息つく。向かいを見れば灰原も汁まで全部飲み干していた。
「とりあえず、ななみんもご飯食べて一休みしてよ。俺先に空港戻ってるから」
そういってトレーを返却口に持っていこうとしたその時、肩をつかまれ歩みを止められる。
「待ってください。あなた今日一日中働きっぱなしでしょ。複数人の呪詛師と戦闘があったと聞いています、まず先に休憩するべきはあなたでしょう」
「そうなのかい!!だったらここは今のところまだ何もしていない僕が頑張る番じゃないか!?」
勢いよく椅子から立ち上がった灰原がななみんとは反対側の肩をつかむ。
「灰原君にも黙っていたと。いいですか、呪術師に求められるのはいついかなる時も冷静な判断ができるような余裕です。それに朝からずっと任務だったんですから、これから夜にかけても動くとなれば疲れも出てくるでしょう?護衛任務は明日までと聞いています。私たちは空港防衛任務だけかもしれませんが、節君。あなたはその後五条先輩と夏油先輩に合流するかもしれません。だったらなおさら今は休んでおくべきなんですよわかってますか。そもそも任務に合流するときも今私に聞かれるまでに状況を黙っていたことにも問題が――」
「あーもうわかったって!!」
かっこつけようとしたが、ななみんにはバレバレだった様子だ。ななみんに正論でボコボコにされるのは精神的に来る。それに、頼りになる同期がここまで言ってくれるんだ、素直に頼っておくとしよう。
「じゃ、お言葉に甘えて仮眠含めてもう少し休憩させてもらうよ。ただ、場所的にも休憩は空港で取らせてもらう。それに黒猫で探索もできるから、ななみんと灰原もしっかり休憩をとること。これでいい?」
完全には納得していない様子のななみん。多分本当だったら式神の運用も止めさせたいんだろうが、じつはそれほど心配するようなものじゃない。黒猫に関しても俺の術式と同様に黒猫が触れている空間の付近でしか術式が使えないという縛りで省エネと強化を図っているのでおそらく一般的な式神よりは負担は少ない。
「今黒猫を空港に送ったから、とりあえずななみんもごはん食べたら?久々に話でもしようよ」
そういって千円札をななみんに押し付ける。それに、何かあってもすぐに対応できる距離だし、俺の術式で初見殺しができる。
それに疲れているのはお互い様だ。この任務に高専の学生が選ばれるということは時間のある呪術師がいなかったということ。五条先輩や夏油先輩、俺は除くが慣れない任務でかつ慣れない飛行機の中にいたのだからそりゃ疲れもするでしょう。
「......まあぁそれでいいでしょう」
俺の千円札を手に、フードコートの受付窓口に向かうななみん。
しばらくしてなんだか俺が想定していた以上のものをトレーにのっけてななみんが帰ってきた。どんぶりからはみ出しそうな肉が乗った沖縄そばを始めとして腕にかけたビニール袋には沖縄限定のお店が提供するビッグサイズのハンバーガーにアイスクリーム。どんぶりの乗ったトレーにハンバーガーが入ったビニール袋とそれなりに重量のあるそれを片手に、もう片手で水を汲んだコップを持ち優雅に席に座る。
「合計1800円です。差分の800円は東京に戻ってからいつもの店でお願いします」
そういうと丁寧に手を合わせていただきます、と口にして割り箸を割る。先ほどの俺や灰原よりも早い勢いでトレーの上のものがなくなっていく。いつも思うが、この細身の体のどこにこんだけのモノをしまっておく胃袋があるのだろうか。不思議だ。
ななみんを待っている間に携帯電話を開く。
着信ボックスの一番上には夏油先輩からのメールがあった。
内容は空港近くのビジネスホテルにいったん泊まり、明日の朝の便で沖縄に向かうというもの。天内は黒井さんがいなくなったことに加え、不安によって終始浮かない様子だったがご飯はしっかりと食べてくれたらしい。
こちらのことは一年組にお任せください、明日の朝沖縄でお待ちしております、と。
「あ、そうだ。ななみーん?」
「なんですか」
パシャ
携帯電話の画面にはななみんがもっしゃもっしゃとハンバーガーを頬張っている姿と、すぐさま反応した灰原のピースサインが映っていた。
「うん、いい
「ちょっと待ってください、勝手に写真を撮るなんて聞いてないですよ。今すぐに消しなさいッ...!」
「一手遅かったね」
そうして携帯電話を奪い取ろうとするななみんにメール送信完了の画面を見せる。
額に青筋を浮かべて、何か言いたげに口を開くがやがて大きなため息をついて残ったハンバーガーを一口で頬張り、何もしゃべらずアイスを食べ始めた。これは少し弄りすぎたかもしれないな。これはいつもの店で特製餃子も追加しなきゃいけないかな、そんなことを考えながらななみんがご飯を食べ終わるのを待つのであった。