11,
「人生って買い物カートみたいな物なの!私たち一人一人好きなものを詰め込めるカートを持ってる、そして世界はスーパーなの!」
「それってつまり、幸せは取り合いってこと?」
◆◇◆◇◆
マーダーの―――零崎人識の話をしよう。
零崎一賊。
殺し名序列第三位。
理由なく人殺す殺人鬼集団。
血脈でなく、流血のみで繋がる家族。
マーダーはそこに生まれた。
かつて『究極』と呼ばれた殺人鬼、零崎零識と、かつて『絶対』と呼ばれた殺人鬼、零崎機織の息子として。
流血のみで繋がるはずである零崎同士の子供として―――それは取りも直さず、零崎唯一の直系として、この世に生を受けた。
と。
ここで少しばかり、零崎一賊について補足する。
『殺し名』と呼ばれる戦闘能力に特化した暴力集団に名を連ねる零崎一賊は、そのなかでも一際変わっている。
否、少しばかり優しい言い方をしすぎた―――そのなかでも一際狂っているのだ。
家族に。
愛に。
殺しに。
殺し名序列第三位。
それは、七位まである『殺し名』のなかで上位でありながらも、中位でもある非常に評価しづらい位である。
いや、戦闘能力だけで考えたら、有名な『
組織としての強大さも、他と比べるべくもない。
人数構成およそ20人前後。
それがただ好き勝手に、殺したり、括ったり、捻ったり、砕いたり、爆破したり、裁断したり、破壊したりするだけである。
大きさで言えば、殺し名序列一位、匂宮雑技団の分家をかき集めるまでもなく、数で劣る。
自由気ままな殺人鬼集団。
そもそも、組織というよりもただの集団と言ったほうが的確な彼らだが、良くも悪くも―――むしろ良い部分が存在しないように思えるが、さておき―――規模の小さい、それが零崎一賊なのである。
では、なぜ序列第三位なのか。
その理由は単純明快。
彼らが最悪だからだ。
先ほどは戦闘能力で殺し名を測ったが、しかし凶悪さを―――つまりは相手に回したくない集団として並び替えるのだとしたら、上から下に視線を動かすまでもなく見つかる―――つまり殺し名第一位に名を連ねることになるだろう。
規律も規則もしがらみさえも殺してしまう彼らだが―――そんな狂っただけの一般人と呼んで差し支えのない彼らだが、しかしそんな零崎一賊にもひとつだけ掟が存在する。
いや、それを掟と呼んでいいものなのか………
呪いのようですらある、それはすなわち。
『家族を大事にしろ』
と。
ただそれだけだ。
一見ほのぼのとした仲の良い家族が、機嫌よく、血迷って、ついでに酒にも酔って、口にしそうなワンフレーズであるが、しかし彼らは最凶最悪の零崎一賊。
その意味というのも、変わってくる。
家族を殺されたら、親類怨恨に至るまで皆殺し。
保身も傷心もなく文字通り、ただ一人の例外もなく全滅するまで仇殺す。
身を投げ出さんばかりの家族に対する凶悪な愛情。
それが零崎一賊の愛であり、厄介であり最悪である所以だ。
―――誰かが言った。零崎一賊は狂っている。殺しにではなく、愛に。
その有り様はまさしく異常そのものと言っても過言ではなく、彼らが一度
だからこそ、彼らは見合わぬ戦闘力でありながら殺し名に名を連ねているのだ。
閑話休題。
人類最強、哀川潤ことバーサーカーをして、「お前は零崎か、と聞かれることは最大限の侮辱に値する」とまで言わしめた忌避の対象である零崎一賊なのだが、得てして彼らの評価は主観的なものが多く、その全容はようとして知れない。
知った時点で死んでいるも同然だから、という意見もあるがそれはさておき。
ただ、彼らを医学的に見たとするならば、印象ががらりと変わることうけ合いである。
つまり。
零崎一賊はその全ての構成員がD.L.L.R症候群であると。
殺傷症候群であるということになる。
殺傷症候群。
人を殺さないと生きていけない、現代の奇病中の奇病。
こらえ切れぬ殺人衝動を見に宿す、人殺しせざる負えない社会の害悪。
とはいえ、真っ向から零崎に対して「お前らは殺傷症候群なのだ」と言っても、鼻で笑われるだけだろう―――零崎一賊の長男であり特攻隊長でもある『
彼らが抱える殺人に対する思いとはそこまで重いものなのだから。
家族に対する愛は深いのだから。
―――病気で誤魔化される程度のものではないのだから。
しかし、その説明は零崎の本筋には掠らずとも、本道に沿っている。
当たらずも遠からず、なのである。
彼らは病気だ。それはつまり、零崎とは先天的なものではなく、後天的なものだということの証左。
だからこそ、彼らは血脈でなく流血で繋がる―――零崎とは家族でありながら、生き方なのだ。
ということは。
零崎の直系である―――先天的に零崎である零崎人識は正確には零崎であって零崎ではない。つまりは、医学的には殺傷症候群ではない―――零崎が例外なく抱える殺人衝動が存在しないのだ。
だからこそ、隠し子。
殺人鬼の中でも更に異端の鬼子。
零崎になりきれなかった、零崎。
流血のみで繋がるのではなく、血脈でも繋がる殺人鬼。
零崎人識。
とはいえ。
上記のように長々と語ったわけだが、しかしそれはマーダーが零崎ではないと―――殺人鬼ではないということにはならない。
彼は紛れも無く殺人鬼で―――零崎なのだから。
殺人に対する衝動はなくとも―――殺人を行う躊躇いもない。
殺人鬼のなかでも、最も純粋に理由なき殺人を行う。
それが、彼。
それこそが、
だからこそ。
「あ、あ、あ、ああああああああああああああああああああああああぁぁぁああああーーー!!!」
マーダーが連絡役であるというバゼットの仲間―――魔術師を殺したことにさしたる理由もなかった。
ただ、気に食わなかったというだけの話である。
もしくは、彼こそが十三種類目の人間であるかもしれない、という漠然とした予感がそうさせたのかもしれない。
結局のところハズレだったわけだが。
「うるせえ」
「あああああああぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ―――。………………………」
マーダーの振るう刀子のような、薄いナイフは見事に喉を掻き切り、その悲鳴を止めた。
瞬間、静寂が訪れる。
夜深き新都のとある一角である。
バゼットの潜伏先にほど近いそこには、おおよそ三人の人がいた。
過去形である。
今はふたりのみ。
そこにあるのはマーダーに殺されただの骸と化した魔術師とマーダー、そしてそのマスターであるバゼットだった。
「な、な、な―――」
「なんだよ、しりとりか? な、か。そうだな、『ナナカマド』」
「ど、ど、ど―――」
「まるでジョジョの登場シーンの効果音みたいに繰り返すなよ。ど、ねぇ。じゃあ、『ドア』」
「あ、あ、あ―――」
「これ、しりとりになってなくねえか? まるでひとりでやってるような気分だぜ。『あだな』」
「なんで、どうして、あなたは―――ッ!」
「おっと」
激高し振るわれた拳をマーダーは軽くいなした。
そして、そのまま距離を取る。
バゼットの導火線もそろそろ限界だったようだし、爆発するとわかっている爆弾の横には居たくなかったからだ。
―――もちろん、しりとり云々もマーダーの冗談である。バカにしているようにしか思えないが、実際バカにしていたのだ。無理もなかった。
怒りに目を充血させ、震える拳を抑えつけ、英霊をもひるませるほどの眼光でマーダーを睨みつけるとバゼットは大声を上げた。
「貴方はどうしていつもそうなんですか! 貴方が襲った衛宮士郎の件もそうです―――私は彼を襲うのを許可していない―――勝手な行動を謹んで欲しい!」
―――そう。
アーチャーはマーダーが士郎を襲ったことについて、そのマスターであるバゼットの指示だと判断したが、実のところは違った。
マーダーの独断である。
そも、聖杯戦争における目撃者の排除や後始末というのは聖堂協会の管轄であり、よほどの事情がない限り参加者である魔術師が動くことはない。
むしろ、その程度の雑事のために己がサーヴァントを動かすことを殆どのマスターは嫌う。
情報を秘匿するために、情報の塊であるサーヴァントを動かすなど本末転倒も甚だしいからだ。
―――だからこそ、彼が士郎に告げた「殺すのに理由はない」というのは本心であり事実だった。
これが殺人鬼だと。
これこそが零崎だと。
その証明に他ならないのだ―――
「うるせえな。結果、セイバーのマスターだったんだから良かったじゃん。今日は敵の戦力調査と情報収集―――なにも間違ったことしてないぜ、俺は」
マーダーのやる気ない言葉にバゼットは歯噛みする。
しかし気を取り直すと詰問を続けた。
「………まぁ、その件に関しては良いでしょう―――であるなら、連絡役であり私の味方でもある彼を殺した理由も教えてくれるんですよね?」
バゼットはマーダーに詰め寄った。
嫌そうな顔をしながら、マーダーは一歩下がる。
「理由なんかありゃしねえよ、かはは。ただ、少しだけ―――ほんの少しだけ嫌な感じがしただけだ」
「嫌な、感じ………?」
「直感と言い換えてもいいぜ―――薄気味悪くて気持ち悪い、座りが悪くて気色悪い。しいていうならそんな理由だ」
「貴方はその程度の理由で、人ひとりを殺したのですか………?」
「その程度の理由で人ひとり殺せず、殺人鬼を名乗れるかよ」
―――傑作だぜ。
と。
マーダーは言う。
もうバゼットは我慢の限界だった。
こんな傍若無人に振る舞うサーヴァントと聖杯戦争を生き残る?
これがいかに困難で高潔な考えだったのか、今更ながらに理解する。
―――私には、無理だ。
『時計塔』には悪いが、この聖杯戦争、捨てさせてもらおう。
そんな考えが頭の端を横切る。
そのためにはこのサーヴァントを殺さなくてはならない。
バゼットがマスター権を放棄したところで、また別の誰かが彼を拾うだけだ。そして、そのマスターが善良で無かった時、ことは冬木だけの問題ではなくなるかもしれない。
バゼットはこっそりと―――しかし確かに令呪の宿った手を握りしめる。
サーヴァントに対する最後の切り札。いかに最凶最悪のサーヴァントであろうとも、その力には逆らえない。
バゼットの意思に反応するように明滅し始める令呪の存在を確かに感じながら、バゼットは―――
「しかし、俺の直感も捨てたもんじゃないと思うぜ―――こんな化物が寄生してるなんてよ」
と。
意味不明な言葉をマーダーが呟いた瞬間だった。
確かにそこにあったはずの連絡役の男の骸が消え去った。
「え………?」
否。
正確には違う。バゼットの超人的な視力を持ってすれば、その光景が望めた。
―――彼は蟲に喰われて崩れ去っていた。
内側から食い破るように這い出た、生理的嫌悪を引き起こす形状をした、蟲の群れ。
それに、頭蓋を、内蔵を、皮膚を、筋肉を、骨を、血管を、神経を、骨髄を、そのありとあらゆる人を構成していた要素を喰らい血肉とし、蟲の苗床になり―――男の骸は消え去った。
そして―――
『カカカッ。儂に気がつくとはさすが英霊、といったところかのう』
飛び交う蟲が集合し、ひとりの老人へと変貌した。
杖を突き、落ち窪んだ瞳を爛々と輝かせるその姿に、見覚えのあったバゼットは脳裏にある聖杯戦争関係者のデータベースからその名前を引っ張りだした。
「間桐臓硯―――ッ!?」
間桐家現当主にして、実権を握る間桐の『化物』。
それがバゼットとマーダーの目の前にいた。
驚くバゼットに特に気にした様子もなく、臓硯は続けた。
『ただの狂人かとも思ったが―――存外、まともらしいの』
「かはは、傑作だぜ。アンタに比べたら、どんなやつでもまともだっつぅの―――いったい、どうやって殺してきたんだよ、嫌な臭いがぷんぷんするぜ」
『ふぅむ。踏み潰してきた有象無象など数える手間が惜しいほどじゃな』
ただそこにあるだけで周囲を歪めんとするほどの醜悪さ。
なるほど確かに―――薄気味悪くて気持ち悪い、座りが悪くて気色悪い。
と、バゼットは思った。
わずかにかおる腐臭は、男の骸があったゆえか、それとも目の前の老人が放つ瘴気か。
「なるほど、その蟲で私の仲間に取り憑いていたと、そういうわけですか」
『間抜け面を晒しながら歩いていたのでつい、のぅ。久しぶりに魔術師を喰ろうたが、やはり一般人とはものが違う』
カカカッ、と。
臓硯は怖気の走る笑い声をあげた。
なにがそんなに犯しいと言うのだろう。
バゼットは臓硯にマーダーのそれとも違う醜悪さを感じた。
「それで一体、何の用ですか」
『用と言うほどではないがな。そこにサーヴァントに呼ばれたから出たまでのこと―――しかし、ふぅむ』
臓硯は何かを考えるよう手を顎に当てた。
『じゃが、そうじゃの。この際、提案しておこうか。儂らと手を組まんか』
と、臓硯は言う。
仲間である魔術師を殺した老人は何くわぬ顔でバゼットにそう言う。
「………巫山戯ているのですか」
『いいや、至極本気だとも。お主たちも見たじゃろう、アインツベルンが抱えるバーサーカーの力を』
「………………」
『それに加え、弱卒とは言え時間を与えると厄介なキャスターまで有しておる。さらにそれらに直面した遠坂の小娘と貧弱ながらセイバーを携える小僧も手を結んだ―――ふぅむ。いささか、単独で聖杯戦争を生き抜くには不都合があると、思いはせんか』
「それは………」
事実だった。
連絡役がバゼットの前に訪れるまで―――そして、マーダーが彼を殺すまで―――ふたりは使い魔から送られてきたバーサーカーの戦闘を見ていた。
バーサーカーの姿を見た瞬間に、「どんな事があっても、あの赤色には手を出さないほうがいいぜ」とマーダーが断言するほどの敵。
さらに言えば、短期間、それもアーチャーの援護があったからとはいえ、バーサーカーと渡り合ったセイバーの実力は確かに無視できないものだった。
途中、戦いの余波で使い魔がやられたためか、最後まで戦闘を観察することが無かったため、アーチャーとセイバーが手を結んだことと、バーサーカー陣営がキャスターを有していることは知らなかったが、もし本当ならばマーダー単騎での太刀打ちは不可能だろう。
『だからこそ。ライダーを有する儂ら間桐と手を結ばんか。アーチャーとも互角以上に渡り合う実力を持ったサーヴァントならこちらとしても頼もしい』
「………………」
それは、渡りに船と言うべきものである。
臓硯の差し出す醜悪な手は、ともすれば救いの手のようにすら今のバゼットには感じられた。
ちらりとマーダーの姿を横目で見る。
バゼットの横に控える彼は任せたとばかりに、こちらを見返した。その右手にはしっかりと一振りのナイフが握られている。
「………………」
『どうかの。お主らとしても悪い話とは思えんのじゃが』
そして。
仲間を喰い殺し、甘美な誘惑を口にする臓硯にバゼットは―――
◆◇◆◇◆
「なぁんで撤退したのよ! あのままやってれば、私たちの勝ちだったじゃない!!」
「無理だったんだから仕方ないだろ」
と。
喚き散らすイリヤに戯言遣いはため息を押し殺してそう答えた。
しかし、そんな言葉に納得するイリヤではない。
尚も追い募る彼女に助けを求めるように戯言遣いは顔を巡らせた。
場所は森深きアインツベルンの牙城がひとつである。
その一室に入るのは、イリヤと戯言遣いを含めて都合四人がいたが―――霊体化したバーサーカーを含めるなら、五人だがさておき―――どうやら、他のふたりは助ける気が無いらしく、戯言遣いと目が合うと直ぐ様明後日の方向へと視線をずらした。
無体なものだ。
イリヤの背後に控えるふたり―――ホムンクルスでありイリヤの従者でもあるリズとセラに毒づきながらも、結局のところ戯言遣いがその責任を負うしかないのだと観念した。
あの後。
あの後、とは、バーサーカーがセイバーとアーチャーを追い詰め、更にはそのマスターふたりを拘束するというおよそこれ以上ない勝ちパターンに嵌めたにも関わらず拘りなく、その状況を捨てて悠々自適に撤退した後、ということである。
今回の作戦立案者である戯言遣いは当然のように、雇い主であるイリヤに怒涛のごとく責められていた。
ある程度の目標を達成できた彼としては心外である。
―――だが、理不尽とまでは思わなかった。
それも当然だ。なぜなら、彼女たちには一切説明をしてなかったのだから。
「ああああ―――っ! もう、なんで失敗したのに貴方は澄まし顔なのよ! もう少し悔しがるとかしたらどうなの?」
「そうは言ってもこれ以上はイリヤちゃんの魔力供給が追いつかなかったんだから、仕方ないだろ」
「………………」
確かにその通りだった。
『哀川潤として戦え』
令呪を用いてそう命じた結果、確かにバーサーカーは指示に従うようになった―――戦いを請け負うようになった。
指示も聞かず動かさないようにするだけで精一杯で、一度戦わせれば有り余る性能を振りかざし莫大なイリヤの魔力を持ってしてもほとんど現界させることができなかったころに比べて、それは格段な進歩だった。
ただ。
戯言遣いの策にも穴があった。
最長十分。
それが最強に与えられた戦闘時間だった。それ以上は魔力供給が追いつかないのである。
「………『哀川潤として戦え』っていう貴方の案がが悪かったんじゃないの?」
「とは言ってもね。まさかぼくも哀川さんがこんな戦い方をする人だとは思ってなかったから―――」
―――こんな戦い方で人類最強だなんて思わなかったよ。
と戯言遣いは言う。
そも、『哀川潤』の戦いとは相手の土俵に降りそれを力ずくで捻じ伏せるというもの。生前からバーサーカーのごとき戦い方だったのだ。
まさか、彼女をよく知る戯言遣いも、人類最強ともあろう人が迫り来る敵を全て力づくで薙ぎ払ってきたとは思ってもなかったのである。
それは彼が非戦闘員だったからに所以するのかも知れないが―――それは今論じても先のないことだ。
―――ちなみに余談ではあるが、戯言遣いは知らなかったと言ったが、それは嘘だ。何度も横で戦闘を見てきているのである。知らないほうがおかしい。彼は単にそのことを忘れているだけだった。
戯言遣い。
実は記憶力のない男である。
単純に忘れっぽいだけかもしれないが………
閑話休題。
と上記のように説明すると、バーサーカーの戦闘時間は随分短いように感じられるが、しかしM78星雲から来る光の巨人もおよそ三分で怪獣一体を撃退するのだ。
人類最強の名を欲しいままにするバーサーカーにとって、英霊一騎を片付けるには十分過ぎる時間だろう、と戯言遣いは思っていた。
「それに、別に失敗でもないからね―――ぼくとしては作戦通りに、ことが進みすぎて怖いくらいだ」
「………………どういうことよ」
意味深な言葉にイリヤは不機嫌そうに問いかける。
「どうもこうもない。もともと、今回の目的は哀川さんに敵サーヴァントと戦わせるだけなんだからね」
「いったい、それが何になるというの。アインツベルンが強力なサーヴァントを持ってるっていう情報を教えただけじゃない」
そう。
序盤の聖杯戦争は情報戦でもある。
いかに手札を見せず敵の情報を知るか、もしくは撃破するかが鍵になっているのだ。
そういう点では戯言遣いがたてた作戦は下策と言って差し支えないものだった。
しかし
「別に好きに情報を得ればいい。その程度で哀川さんの最強は揺るがない」
「………………」
他者の信頼に裏打ちされた自信が言葉の端々から漏れる。
よっぽど、戯言遣いは己が策の有効性に確信を抱いているようだった。
「………それでも、相手がひとりの時に強襲を掛ければ確実に片方を脱落させられたわ」
それもまた、真実である。
バーサーカーが拮抗した状態に持ち込まれたのはあくまでセイバーとアーチャーの二騎がいたからである。そうであるなら、ふたりが別れた後で戦いに挑めば言うまでもなく太刀打ちできなかっただろう。
「イリヤちゃんの言うとおりだ。そうすれば、片方は撃ち落せただろう―――しかし、そうすれば、二騎と戦うことができない」
「………………どういうこと?」
戯言遣いの言い様はまるでセイバーとアーチャー二騎と戦うのが目的だったと言わんばかりである。
そして、それはそのとおりだった。
「言ったとおりだよ―――今回の目的は哀川さんにセイバー、アーチャーと戦わせることそのものなんだから―――」
と。
戯言遣いは言った。
さらにわけがわからなくなり、イリヤは首を傾げた。
「イリヤちゃん、最強ってどんなものかわかるかい?」
そんなイリヤに、いきなり関係ないことを戯言遣いは口にする。
「それはもちろん、何にも負けないことでしょ?」
そのことに疑問を抱きつつも、イリヤは己が思う最強を伝えた。
しかし、戯言遣いはその回答に首を横に降った。
「違う、それは不敗なだけだ。最強じゃない―――」
「じゃあ、なんだって言うのよ」
イリヤの言葉に少しだけ苛立ちが混じってしまったのは、非難されることではないはずだ。
戯言遣いの伝えたいことはそれほど難解で―――概念的なものなのだから。
「最強とは、負けてもいい、逃げてもいい―――しかし、最後には必ず勝つ者に与えられる称号だ」
「………それって、私の答えと何が違うの?」
「違う、ぜんぜん違うんだよ、イリヤちゃん。最強は到達点であって、終着点ではないということさ―――つまり、常に成長し続けるんだよ」
「?」
「簡単に言ってしまえば―――」
―――哀川潤は一度戦った相手に負けない。
と、戯言遣いは嘯く。
いや、大言壮語ではない。戯言遣いの知る彼女を伝えただけのこと。
それだけのことなのに、話す戯言遣いの正気すら疑う内容で。
「貴方、何を言ってるの………」
と、イリヤに心配されてしまった。
蔑むような目で。
ご褒美である。
いや、戯言遣いにそんな嗜好はないのだが。
それはともかく。
「いやいや、本心だよ。哀川さんを負ける姿はこのぼくでも何回も見たことがあるわけじゃないけど―――それでも、あの人は一度戦った相手に負けない。すでにセイバーとアーチャーは敵じゃない―――有象無象の草と同じさ―――それは真実だ」
嘘のような真の言葉。
嘘吐きが話す、唯一にして絶対の真実。
しかし、それはイリヤたちに届かない。
彼女たちは未だ知らないのだから。
最強とはどういうことか。
哀川潤がどんな存在なのか。
だからこそ、彼は。
「ま、戯言なんだけどね」
と、そう呟いた。
【CLASS】バーサーカー
【マスター】イリヤスフィール・フォン・アインツベルン
【真名】哀川潤
【性別】女
【属性】中立・中庸
【ステータス】筋力A+ 耐久A+ 敏捷A+ 魔力A+ 幸運A+ 宝具EX
【クラス別スキル】
狂化:A+
全パラメーターを2ランクアップさせるが、マスターの制御さえ不可能になる。
ただし、哀川潤は素のパラメーターがすでにAを超えているため、ステータス的変動には影響しない。
【固有スキル】
専科百般:EX
全方面に発揮される天性の才能。
戦術、学術、隠密術、狩猟術、話術、医術、武術、馬術、エンタメ、
その他数千種類に及ぶ専業スキルについて、ランクB+以上の習熟度を発揮できる。
人類最強:EX
人類の至高にして到達点。およびその称号。
およそ考えうる限りの強さを兼ね備える、彼女のためだけのスキル。もしくは、呪い。
一度見た攻撃を無効化する能力を手に入れる。
【宝具】
???
ランク:―――
種別:―――
レンジ:―――
最大捕捉;―――
【CLASS】キャスター
【マスター】セラ
【真名】***(宝具により判別不能)
【性別】男
【身長・体重】168cm・55kg
【属性】混沌・善
【ステータス】筋力E 耐久E 敏捷E 魔力E 幸運E 宝具???
【クラス別スキル】
道具作成:E
魔術的道具を作る技能。
期待するだけ無駄。
陣地作成:E
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
彼の有する個人主義の発露。
彼ひとりしか入ることの出来ない"結界"を作成できる。
【固有スキル】
戯言:A
言論によって他者の思考を誘導し、自在に操る技術。
戯言遣いの真骨頂。
詐略・口論・商談・コネクション形成まで幅広く有利な補正が与えられる。話術:Aに相当。
ただそこにいるだけで他者を落ち着かなくさせる、魔力によらない精神干渉。
???:E
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【宝具】
決して呼ばれぬその忌み名(けっかんせいひん)
ランク:E
種別:対人宝具
レンジ:1〜99
最大捕捉;1人
「今までにぼくを本名で呼んだ人間が3人いるけど、生きている奴は誰もいない」という逸話が形作られた宝具。
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*************************
????
ランク:―――
種別:―――
レンジ:―――
最大捕捉;―――
サーヴァントのステータスをひとつにまとめるか悩み中。
見難いかな。