ニシオニストによる聖杯戦争、あるいはただの蛇足   作:堂升

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聖杯戦争一日目
助く理由、あるいはただの動機


 1,

 

「誰かを助けるのに理由がいるかい」

「いる。そいつが嫌いじゃない理由が」

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「――――――いや、戯言だろ」

 

 と。

 戯言使いは呟いた。

 大した意味は無い。

 今自分が置かれた状況をつらつらと考えてみたらそう思っただけの事だった。

 どうしようもなく、どうにもできなくて、そしてどうでもいいことだった。

 

「零崎あたりなら傑作だって言うんだろうけど」

 

 ―――ま、ぼくにとってはどこまでも戯言だ。

 

 と嘯き現実逃避をしたところで何も変わらない。

 とりあえずは現状を把握し直そうと戯言使いは考えた。

 

 ―――もしかしたら、新しい発見があるかも知れないし。

 

 心にもないことを考えながら、戯言使いは回想を始めた。

 

 まず、ケチがつき始めたのは聖杯の寄辺に従って召喚したマスターが問題だった。

 よくよく考えてみれば、戯言使いの半生それ自体がケチの付いてる―――もしくは、不幸が憑いてると言ったほうが正確かも知れないがともかく―――ものだったが、彼は極力それについては考えないことにする。

 

 どう考えても、面白い結論は出そうにないし、なによりいまさらの話でもある。

 

 戯言使いが戯言使いとして生きて、そして終わった今、それについて考えるのはナンセンスで、そういったものは老後の楽しみにでもとっておくものだと彼は思っていた。その老後すら彼に存在していたかはわからないのだが。

 

 それはともかく。

 話を戻そう。彼を召喚したマスターについてのことだった。

 

 戯言遣いを召喚した魔術師である彼は憤慨した。まぁ、その理由もわかると戯言使いは同情する。もし自分が、たった七人七騎によるものを戦争と称するほどの激しい戦いに身を投じる時に、自分なんかが召喚されたら怒りたくもなるだろう。

 

「なんたって人類最弱だ。ぼくなんかが、この戦いに首を突っ込むことすらおこがましい」

 

 その言に違わず、彼の能力値は宝具の欄を除いてその全てがE。ことごとく、最低値である。

 そもそもその値でさえ、英霊としてこの場にいるため底上げされており、本来では一般人の域を出ない彼である。もっと言えば、E-が付いてもおかしくはなかった。

 

 たかが、E。されど、E。英霊の能力を数値化したそれは最低値のEですら常人の十倍の力を持つ。

 戯言使いにとってみれば、こと戦闘に関しての状態は過去最高と言っても良かった。

 

「まぁ戯言だけどね」

 

 とはいえ、戦闘に関して全くの素人である彼には大した利点にならない。せいぜい、サーヴァントから逃げる時に心持ち早いかなといったレベルである。

 まぁ、彼より遥かに早く戦闘能力を持つサーヴァントから逃げきれるなんて、戯言使い自身の全く思ってないわけだが。

 

 閑話休題。

 

 それで憤慨した魔術師であるマスターはどうしたのか。

 簡単である。弱いのなら強くすればいい。

 力が足りないのならあるところから持ってくればいい。

 サーヴァント最弱である戯言使いに要求したのは、魂喰いという魔力の補給と強化を同時に出来る方法だった。

 

 なるほど、確かにそれは道理である。

 

 ―――ただし、相手が戯言遣いで無かったらという但し書きがつくが。

 

 そも、強化と一口に言ってもあくまで魔力の増強によりサーヴァントが持つ生前の力に近づくというだけであって、さながらビルドアップのように簡単に力がつくわけではないのである。

 そして、戯言使いは人類最弱。そして、現状の値が最強である。

 魂喰いなどやったところで意味は無いのだった。

 

 戯言使いは魔術師の指示を拒否。とはいえ、以上の理路整然とした理由からではない。

 そんなことをしても勝ち残れるとは到底思えなかったし、自分なんかが誰かを犠牲にしてその上に立つほどの価値もないと戯言使いは考えていた。

 

 そもそも聖杯に賭ける願いなど端から無いわけだし。

 

 せいぜいが彼の周りに集まる騒動の一部が緩和されればいいと願うくらいである。そんなもの、自力でどうにでもなる範疇だったし、彼自身そんな騒動も悪くないと思っていたことだ。

 必死になってまで聖杯戦争を生き抜こうとするほどではなかった。

 

「ぼくを召喚した魔術師さんには悪いけれど」

 

 戯言使いを召喚したのはハズレもハズレ。運が無かったと諦めて欲しい。

 そう魔術師に誠心誠意伝えたのだが、マスターであり聖杯戦争に根源の到達を賭けていた彼は納得しなかった。

 令呪を行使しても、戯言使いに魂喰いを行わせようとしたのである。

 

 そんな魔術師に戯言使いは説得を諦めた。

 仕方がないので、戯言遣いは持てるその話術をふんだんに使った。

 

 流言諌言虚言妄言繰言暴言無言遺言悪言逸言卑言狂言仮言託言知言飛言進言早言、そして戯言。

 

 戯言遣いの真骨頂と言うべきそれらを駆使し、マスターを死に追いやった。

 

 いや、戯言遣いにしてみれば殺そうと思ったわけではない。

 少しばかり、彼の身の上を聞き助言をしたつもりだった。

 

 なのに、死んだ。

 

 そうなるであろうことを戯言遣いが想定していたとしても。

 マスターが死を選ぶだろうと知っていても。

 戯言遣いには彼を殺すつもりはなかった。

 

「それも戯言なんだけどね」

 

 そうなったのは不幸な事故だった。

 もしかしたら、彼の持つ宝具がそうさせたのかもしれない。戯言遣いが結果的に殺したということなのかもしれない。

 

 だが、彼がふと気になってマスターの篭もる工房に顔を出した時。

 

 ―――それはすでに終わっていた。

 

 もう終わりすぎていて彼ができることはなかった。

 ありとあらゆる死に方を試したような、戯言使いのマスターだったナニカは、それはもう見るに耐えないものだった。

 人が死ぬことに慣れている戯言使いからみても見ていて気分のいいものでは無かった。

 

 ―――まぁ、見ていて気持ちのいい死体というがあれば、の話なのだけど。

 

 しかし、そうなると困ったのは戯言遣いである。

 マスターである魔術師を失った今、単独行動のスキルを持たない彼の命は風前の灯だった。霊体でありエーテル体で構成される戯言遣いが生きていると言うのなら、だが。

 

 そして、今戯言遣いは既に終わった元マスターの工房を後にして、新都を彷徨っていた。

 

 それは、戯言遣いはどうしようもなく、戯言遣いにはどうにもできなくて、そして戯言遣いにとってはどうでもいいことだった。

 

 その生命を繋ぎ止めたいのなら次のマスターを探さなくてはならない。

 そんなことは十も承知である。しかし、新都の町並みを歩く戯言遣いの足取りは重く鈍い。

 

 そんな戯言遣いは今、腹もすいてきたということで、元マスターの工房からかっぱらってきた金を豪勢に使い食べ歩きをしていた。

 

 両手に飯である。

 

 残された時間を有効につかい、次から次へと街頭で売られている食べ物を口に詰め込んでいく。

 生前、清貧だったというより、清貧にならざるを得なかった彼の懐事情を鑑みると、食べ歩きしたことは数えるほどしかなく、その味はもさることながら買い食い特有の雰囲気を楽しんでいた。

 

 もはや、聖杯戦争のことなど頭の片隅にすら無かった。

 結局、回想をしてみたところで新しい発見などいまさらあるわけなく、それならばといっそ開き直ってこの短い余生を楽しむことに決めた戯言遣いだった。

 

 と、そんな時。

 

「………ん?」

 

 美味しそうな鯛焼き屋を見つけ、ふわふわの皮とあつあつの餡のコラボレーションを楽しんでいると、ふと何か聞き覚えがある音が聞こえた気がして戯言遣いは顔を上げた。

 

 りん、と鈴の音のようなものが聞こえた。ただそれだけのことなのに、闇夜に染まる街の様子が一変したような気がした。

 むりやり引き締められたように緊張が高まる空気。戯言遣いはそれを肌で感じながら、辺りを見回した。

 この空気には覚えがあった。

 

 まるで物語の重要人物が現れるような前振り。いずれ訪れる物語の転機。この世がお話ならばそこに出ててくるのはきっと、ラスボスのようで―――。

 

 人類最悪。

 

 そんな言葉が戯言遣いの頭をよぎる。

 因果から追放された『死人』にして、戯言遣いの生涯の『敵』。

 

 もし今が誰かの登場シーンであるなら、彼が出てくるのが必定。

 戯言遣いをして、そう思わせる空気がそこにはあった。

 

 ―――まさか。

 

 まさかそんなわけがない、と思う。

 彼がいるはずがないと。

 そんな示し合わせたように人類最悪が現れるはずがないと。

 しかし、彼のどこか罅割れた直感のような部分は最大限の警報を鳴らしていた。

 震える手で買ったばかりの鯛焼きを握りしめる。

 

 その瞬間。

 

「お兄ちゃん、その鯛焼き食べないの?」

 

 澄んだ声がした。綺麗な少女の声である。

 思わず振り返ると、そこには白い、どこまでも白い少女がいた。

 

 震える手に汗が一筋滴り落ちた。

 それに戯言遣いは、冬なのにもかかわらずまるでサウナに入ったほどの汗を欠いていることに気がつく。

 

 戯言遣いが感じていたある種の『予感』は既にどこかにいっていた。

 この少女が出てきたからなのか。

 それとも、そもそもそんな戯言遣いの杞憂だったのか。

 ぐるぐると巡る思考に区切りをつけると戯言遣いはようやく言葉を紡いた。

 

「………食べるよ。ただ、買いすぎたかなとも思ってる。少し食べる?」

 

「要らないの?ありがとう!」

 

 それは感謝の証だった。もしかしたら、彼女の存在があの人類最悪との遭遇を阻止してくれたのかもしれないという恩に対する善意の押し付け。

 

 額に浮かぶ玉のような冷や汗を拭い、戯言遣いが差し出す鯛焼きを少女は無邪気に笑って受け取った。

 それを両手で大事そうに抱えると店の近くにある人気のない公園に歩いて行き備え付けられた椅子に座り一口ずつ食べていく。

 その隣に腰を降ろした戯言遣いは餌を保持するリスのようだと思ったが口には出さなかった。

 

 よく見ると、雪の妖精のような可憐な少女である。

 

 年は十代中頃だろうか。

 全身をもこもことした防寒着に身を包み―――というよりも埋もれているようであった。街灯の光を受け絹糸のように光るその銀髪は、流麗な川のように腰まで伸びている。その目は真紅に輝き、少女が現す多彩な感情表現をあますところなく伝えていた。

 

 ぼうっと戯言遣いが観察していると、鯛焼きを食べ終えた少女は立ち上がりスカートの裾を少し持ち上げると綺麗な礼をした。

 

「ごちそうさま。ありがとう、お兄ちゃん。私の名前はイリヤ―――イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。お兄ちゃんはどうしてこんなところにいるの?」

 

「ぼくは―――そう家主と反りが合わなくてね。家出をしてきたんだ」

 

「家出?ふぅん………。なかなかおもしろいことを言うのね」

 

「戯言だよ。それより、君はひとりなの?親御さんの姿が見えないけど」

 

 戯言遣いの言葉に少女―――イリヤはきょとんとするとなにが面白いのか大きく笑い出した。

 お腹を抱え大口を開けるのも気にせず、大きく笑い転げる。もし、これが街中であったなら奇異の目で見られたに違いない。戯言遣いは今いる公園が人気がないことに感謝した。

 

 イリヤはひとしきり笑うと、頃合いを見計らい戯言遣いが差し出した飲み物を受け取り一口含む。

 

「………………はー、笑った。こんなに笑ったのは久しぶりよ。お兄ちゃんってやっぱり面白いのね」

 

「そりゃ、どうも。それで、親御さんは?」

 

「こうみえて私、十八歳なの。親もいないわ」

 

「そう………。それは悪いことを聞いたかな」

 

「いいえ、全然!それに私には彼女がいるもの――――――出てきなさい、バーサーカー!」

 

 彼女の言葉に従い、はたしてそこには新たなサーヴァント現れた。

 

 どうやら霊体化していたようである。彼女はイリヤの言葉に唯々諾々と従い姿を表し、咆哮をひとつ放った。その衝撃波だけでガラスが割れるのではないかと思う暴力。

 バーサーカーの姿を認めると戯言遣いは驚きに大きく目を見開いた。

 

 ―――それはあってはならないことだった。

 想像すらしたことが無かった。

 空想することすらおこがましい。

 思考の一片すらもそれに傾けたことがなかった。

 それは戯言遣いの中にある彼女に対する神聖さを失わせる行為だったのだ。

 

 まさかこんなことがあるなんて。

 凶悪な雰囲気と狂気をまき散らすバーサーカーを前に、戯言遣いにあったのはただただ驚愕のみだった。

 

 そして、納得もした。

 先ほど感じたある種の『予感』。そしてそれが急に無くなったわけも、その『予感』が彼の杞憂でないことも。

 

 イリヤはそんな戯言遣いを満足そうに眺めると、バーサーカーを従えて彼に指を突きつけた。

 

「お兄ちゃんがサーヴァントなのは見ればすぐに判ったわ。内蔵する魔力量が少なすぎるから少し迷ったけどね」

 

 その目に映るは僅かな敵意と、自身の召喚したサーヴァントに対する信頼。

 イリヤは横に絶対的な強者を従えて戯言遣いを睥睨する。

 

「もう一回聞くわ。お兄ちゃんはどうしてこんなところにいるの?偵察?索敵?それとも、襲撃の前準備かしら?」

 

 イリヤは不敵に笑った。そのどれだとしても、問題無いとそう言わんばかりである。

 

 事実、その通りだった。イリヤ単体ならいざ知らず、隣にいる彼女―――バーサーカーの存在

 は戯言遣いにとっては強烈過ぎた。

 

 ―――熱烈、すぎた。

 

「婉曲的な自殺だよ」

 

 ゆえに戯言遣いは偽ることなく事実だけを述べる。

 しかし、イリヤにとってそれははぐらかしにしか聞こえなかったように、少しだけその表情を曇らせる。

 

「お兄ちゃんは私のことを馬鹿にしてるのかしら。確かに私のバーサーカーに挑むのは確かに自殺行為だと思うけど」

 

「いや、違うよ。確かにぼくなんかがこの聖杯戦争最強だろう君のバーサーカーに挑むのは事実、自殺と変わらないと思うけど、そうじゃない」

 

「じゃあ、なんなのかしら」

 

「今のぼくははぐれサーヴァントだってことさ。ぼくはマスターを殺したんだ。その内、霊体を維持できなくなって分解される。それを知っていながら、特に対策をうつわけでもなく、食べ歩きに舌鼓を打ってるんだ。それは、遠回りだけど自殺だろ?」

 

「―――へぇ。じゃあ、ここで私のバーサーカーにやられても問題ないわよね?」

 

 イリヤはそう言うとバーサーカーに指示を出そうと新たに口を開こうとして―――戯言遣いはその手を止めた。

 

「―――と思ってたんだけど、少し状況が変わった」

 

「………………それは私のバーサーカーと戦うってこと?」

 

 言っていることが一貫していない。

 イリヤは訝しげに戯言遣いを見た。

 

「いや、そうじゃないよ、イリヤちゃん。ぼくは君の手伝いをしたいんだ。聖杯戦争。七騎七人による聖杯の奪い合い。そのために駒を2つ用意するのは策として悪く無いだろう?」

 

「命乞いにしては品がないと思うわ」

 

「そんなもんじゃないよ、イリヤちゃん。別にぼくとしてはここで死んでもいい。というよりも、生き残るべきではないのかもしれない。そもそも、どう考えても役者不足だ。これじゃ、主人公にだってなれはしない――――――」

 

 戯言遣いは滔々と語る。イリヤはその言葉の大半を理解できなかったがなすがままにした。

 どうせ、いかようにもなるのである。それならば、最後かもしれない瞬間ぐらい好きにさせてやろうと、そういう気持ちだった。

 

 それは慈悲と言い換えても良かった。

 

「―――だけど、暴くことぐらいできるさ。どうやら、この物語の名探偵は現在休業中のようだしね」

 

 そして、戯言遣いは最後に決意するように呟いた。

 

「なにを言いたかったのか、私にはカケラも伝わってこなかったのだけど。―――それで、お兄ちゃんは何が出来るの?」

 

「そのバーサーカーを制御する方法を、ぼくは知ってる」

 

「――――――」

 

「イリヤちゃんはどうやら優秀なマスターであるようだけど、しかし彼女を使役するのは酷く大変なんじゃないかな。そう後ろにたたせているだけでも消耗が激しいだろう?」

 

「――――――」

 

 戯言遣いの言葉にイリヤはそうと気付かれぬように歯噛みした。

 

 それは真実だった。こうして立っているだけでバーサーカーはぐんぐんと魔力を吸い上げていく。

 

 アインツベルン家が研鑽してきた技術の結晶であり、その成果であるホムンクルスである彼女は普通の魔術師とは文字通り桁違いの魔術回路を持っている。しかし、そんな彼女を持ってしても制御しきれない。

 

 最初に姿を表した際も本来、バーサーカーに咆哮をさせる気は無かった。今現在だってイリヤと戯言遣いの間にバーサーカーを配置させようとしてるが動く気配はない。

 

「――――――あなたにはできるの?」

 

 それは不信の言葉。

 それも当然である。戯言遣いがサーヴァントであり過去の英霊だとしても、その身に内包している神秘はイリヤが感じる限り僅かしか無い。

 ともすれば、イリヤのほうが優秀であるように見えた。

 

 だからこそ、信じられなかった。

 

 彼の言葉を、ではない。

 

 戯言遣いそのものが、である。

 

 彼にも自身が英霊として落第であるとイリヤに判別がつくことに感づいているはずだった。

 それなのに、この大言壮語。

 

 嘘をつくなら大きくつけというが、これはさすがに大きすぎだ。

 いや、そもそも露呈している以上嘘にすらなっていない。お為ごかしの類である。

 

「ああ、できる。というより、ぼくにしかできない」

 

「――――――ホントに?」

 

 なればこそ、逆に真実なのではないかと疑う。

 イリヤは外見年齢にそぐわぬ頭をフル回転してありとあらゆる可能性を考えつくす。

 

 ―――そして。

 

「いいわ。あなたの言うこと。信じてあげる。ただし、裏切ったら承知しないから」

 

「まさか。そんなことしないよ。ぼくはこれでも地元では誠実で通っているんだ」

 

 イリヤは信じることに決めた。もしできなければ、バーサーカーの圧倒的な力をもって排除してしまえばいいのである。簡単な事だった。

 しかし、その前にイリヤはひとつだけ試験をすることにした。

 

「じゃあ、まずあなたの真名を教えて。いつまでも『お兄ちゃん』や『あなた』じゃなんだか変でしょ?」

 

 イリヤは当然のように真名を要求した。聖杯戦争において真名は重要である。それを差し出せというのは、ひとつ弱点を見せることに等しい。

 もし、戯言遣いがイリヤを裏切る気なら口にしづらいだろう。

 

 拒否するようならバーサーカーで叩き潰す。

 そう言外込めて、戯言遣いを見る。

 それがわかっているのだろう。戯言遣いは額に汗を浮かべながら、しかし否定の言葉を口にした。

 

「悪いけど、それだけはできない」

 

「――――――へぇ。じゃあ、交渉決裂ね。やっちゃえ!バーサー」

 

「待った待った!ぼくとしては言えるのなら言ってもいいんだけどね。無理なんだよ」

 

「………無理ってどういうこと?」

 

 焦り、バーサーカーへの命令を遮る戯言遣いの言葉にイリヤは眉を潜めた。

 そのあまりにあまりにもな言い訳にである。言えないとは、もう少しマシなものは無かったのか。

 しかし、イリヤは気を取り直すと戯言遣いがどんな言い訳を連ねるのかという余興に興じることにした。

 

「元マスターに令呪で命令されたとでも言うの?それなら、もう一度令呪で解除するけど?」

 

「いや、令呪じゃないよ。ぼくのマスターだった人は令呪を一度も使ってない。まだ、工房にある死体の腕に全部残ってるはずだ」

 

「じゃあ、なによ」

 

 苛立ち紛れに吐き捨てるイリヤの言葉に戯言遣いは一瞬だけ迷うとその解を告げた。

 

「ぼくの――――――宝具の効果だ」

 

「宝具?」

 

「そう、宝具」

 

 不思議なこともあったものだと、イリヤはその言い訳に嘲笑した。

 

 名を隠す宝具というにはわからなくもない。事実、今までの聖杯戦争ではそういったものがあったと聞いている。

 しかし、名を告げられない宝具とはいったいどんなものか。どんな恩恵があるものなのか。

 それを戯言遣いにそのまま伝えると彼は僅かに苦笑した。

 

「たしかにこれは宝具と言いかねるものなのかもしれないね。けど実在する。その効果はまだ言えないけど、ぼくの名前を相手が知ることで発動するものなんだ―――そして、その代わりぼくは名前を告げることができない」

 

「変な宝具ね。じゃあ、どうやって敵に名前を知らせるの?」

 

「ちょっとしたクイズを出すんだよ。それに答えられたら発動するんだ」

 

「到底信じられないわ」

 

「そうだろうね。だけど信じなければ、バーサーカーはそのままだよ」

 

 戯言遣いの言葉をイリヤは吟味する。

 嘘か真か。はたまた、何が狙いか。

 しかし、考えても結論は出ない。

 そもそも、イリヤがバーサーカーを握っている時点で絶対的に優位なのである。それは揺るがない。それよりも、万が一戦闘になりこの男を逃した時のことが問題だった。

 

「………………いいわ。といっても信じるわけじゃないわよ。もし、あなたがバーサーカーを制御できなかったらグシャってしてポイだから!」

 

 いったいなんの音なんだろう。

 戯言遣いはそう思ったが追求はしなかった。

 怪しげに赤い瞳を光らせる少女が怖かったわけではない。けっして。

 

「で、真名を教えてくれないなら、私はあなたのことをなんて呼べばいいの?」

 

「そうだな………………」

 

 イリヤのそんな質問に戯言遣いはいくつか浮かんだ候補を打ち消し、最後に残った名前に決めた。

 

「立てば嘘吐き座れば詐欺師、歩く姿は詭道主義―――。知らない人はぼくのことを『戯言遣い』と呼び、ぼくの鏡写しの存在は『欠陥製品』と呼ぶ。ぼくの敵からは『人類最弱』と呼ばれ、通りすがりの策士さんには『生きるだけで害悪』と言われたことすらある」

 

「――――――」

 

「そんなぼくだけど、今日この物語のぼくの役割は―――そう」

 

 ―――キャスターが妥当だろう。全く、戯言だけどね。

 

 戯言遣い改めキャスターはそう嘯いた。

 その言葉にイリヤはわずかに肩を落としため息をつく。

 そして

 

「………?どうかしたかな?」

 

「―――キャスター、私、あなたを信じられなくなりそうだわ」

 

 イリヤはそうひっそりと呟いた。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「信じられん!この程度の凡骨が英霊の位に座するかッ!」

 

 ライダーを召喚した間桐桜という少女の祖父であるという間桐臓硯がそう吐き捨てて姿を消してから随分になる。

 

 その反応にライダーは少しだけ落ち込みそうになったが、期待はずれというのならこちらも同じだと崩れかけたハートを立て直す。

 

 湿気た薄暗い地下。蟲の這いずる召喚の間で目を開いたライダーが最初に抱いたのは、嫌悪だった。

 光の届かぬそこが、人道に反する行いの実行現場であることは凡骨なるライダーの目に明白であり、その痕跡を隠そうともせず―――むしろ見せつけることによって次なる犠牲者に抵抗の意思を失わせようと意図しているのも、吐き気がする。

 

 結論から言ってしまえば。

 ライダーは今すぐにでも、聖杯戦争を降りたい気分であった。逃走したかった。自害したかった。ナイフで首を掻っ切って死にたかった―――いや、やっぱり死ぬのは痛そうだから嫌である。

 

 ともかく。

 そうまでして、ライダーはこの間桐という家に居たくなかったのである。

 

 しかし、ライダーはそのどれもを実行しなかった。

 それは彼の小市民的精神がそうさせた、と卑下することも出来るが―――しかし彼の名誉のためにも、それは違うと心の底から否定させて頂きたい。

 

 そう、ただ単純に彼は―――

 

「―――で、つまりだ、要するに僕は気がつけば桜ちゃんの胸にタッチしたいということばかり考えているわけなんだが、これは恋でいいんだな」

「えーっと………あの、その………」

「良いわけあるか、それは変じゃ」

 

 マスターが可愛い美少女である―――ただそれのみが、滲み湧く嫌悪感を押し堪えライダーが間桐家にとどまり続ける理由だった。

 

 漢で―――男だった。

 いろいろな意味で。

 

「性欲丸出しの思春期真っ盛りの変態である主様らしい、考えじゃがの」

 

「行間を読むな、忍。こっちとあっちじゃルールが違うんだ」

 

「なんのことを言ってるのかの、我が主様よ。儂は主様のセクハラじみた質問に注釈しただけなのじゃが」

 

「きたねえ!―――桜ちゃん、これは違うからね!僕は変態じゃないからね!?おら、忍。お前からもなんか言え!」

 

「汚いのは主様の性根のような気がするがのう………」

 

 ライダーは必死だった。

 必死過ぎて引くまである。お祖父様が見限るのも無理はないと思ってしまう桜だった………。

 

 ちなみに、彼らが今いるのは桜の個室である。

 実質的なこの屋敷の支配者である間桐臓硯に失望され嫌われた彼らは、自然とこの場所に集まっていた。

 ライダーは桜が用意したお茶を啜りながら不平を漏らす。

 

「だいたい、なんで僕がライダーなんだ? 聖杯戦争に呼ばれる七騎のうち、その殆どがその逸話に纏わる英霊が召喚されるんだろ?」

 

「え、ええ………。セイバーは剣に、アーチャーは射出兵装に、ランサーは槍に、キャスターは魔術に―――そして、ライダーは騎乗に纏わる英霊が召喚されるはずです………。全てのサーヴァントに適性のあるバーサーカーと、クラスそのものを触媒にするアサシンはそういった逸

 話が少ないものがいますが………」

 

「騎乗なんて言われても、僕はなにか特別なものに乗ったことなんて無いぜ。精々、自転車ぐらいだ」

 

「あれじゃろ。主様が女をとっかえひっかえ乗り回してたとかじゃろ」

 

「まじで、そんな理由!? しまいには僕が自殺するぞ!」

 

「早まるでない、たらし様!」

 

「まるで僕が言葉巧みに誘惑して、真剣な風を装いながら次々と女性を弄ぶ男のように言うな!僕は清廉潔白だ」

 

「失礼。噛んだのじゃ」

 

「違うわざとだ………って、それは八九寺の芸風だ!」

 

「しかし、清廉潔白と自分でいうものは大体穢れているものじゃよ」

 

「飽きたのかよ!パクるなら最後までやり通せ」

 

「噛みまみた」

 

「わざとじゃない!?」

 

「かーんーだー、のじゃっ?」

 

「可愛く言ってもダメだ」

 

 ライダー、意外とボケに厳しい男である。

 

 と。

 ライダーが他愛もない会話をしていると、くすくすと可愛らしい忍び笑いが聞こえてきた。

 笑っていたのは桜である。

 

「おふたりは仲がいいんですね」

 

「まぁ、忍と僕は一心同体、可分にして不可分の表裏一体だからな」

 

「不本意ながらの」

 

「ええっと、忍ちゃんはライダーさんの宝具、なんですよね………?」

 

「どうやら、そうみたいじゃの」

 

「僕からすればそっちのほうが不本意なんだけどな。僕はあくまで忍の従僕で―――」

 

「―――儂は我が主様の奴隷じゃからの」

 

 奴隷で、従僕。

 その言葉にあるのは信頼と切っても切れぬ関係性。

 自身には持ち得ぬ強固な関係性に桜は少しだけ―――ほんの少しだけ羨ましく感じて………

 そのことを呪う自分に嫌な気持ちになる。

 

 そんな強固な関係に降って湧いた自分という異物な存在。

 それこそが、自分。

 

「………あ、お茶が切れてますね。私、入れていきます」

 

 そう考えるとなんだかこの場所に居づらくなって桜は席を立った―――否、立とうとした。

 

 

「あ、お構いなく」

 

「そうだ、サーヴァントごときに遠慮することは無いんだぜ、桜」

 

 と。

 逃げ出そうと腰を浮かせた桜を留めたのは、桜の居室入り口から響くライダーに似た声を持つ少年の言葉だった。

 

 間桐慎二。

 

 ライダーのマスターである桜の兄である。

 慎二は嫌らしい笑みを浮かべると、睥睨するようにライダーたちを一瞥すると、何が不満なのか舌打ちをし、桜に向き直った。

 

「コレがお前の召喚したサーヴァントか………ふん。随分と間抜けそうな顔じゃないか。お祖父様も期待はずれだってお怒りだったぜ、桜」

 

 ピクリと震えるように桜の肩が跳ねる。そして、それっきり俯き顔を上げることは無かった。

 そんな桜の姿に慎二が嗜虐心をそそられたように満足気な笑みを浮かべるのを、ライダーは見逃さなかった。

 

「何しに来たんだよ、お前」

 

 苛立ち混じりの声でライダーが吐き捨てるが、しかし慎二の耳には届いていないようだった。

 

「ふーん、へえ、なるほどな」

 

「………………」

 

「いや、なに。僕が使ってやるサーヴァントがどの程度のものか確かめてやろうと思ったんだよ」

 

 否、届いていたようだ。無視していただけである。この男は性格が悪いとライダーは確信した。

 

 しかし、そんな些細なことに目くじらをたてるライダーではない。というより、彼の言葉に含まれていた意味を理解するのに気を取られていたという方が正確だろう。

 たっぷり三秒沈黙しライダーは我に返り

 

「………はぁ!?」

 

 素っ頓狂な声を上げる。

 

「ちょちょちょ、ちょっと待て!それっていったいどういうことだ? マスターは桜ちゃんなんだろ?」

 

「ええ、そうですけど………」

 

「簡単な事だよ。お前が召喚される前から、桜はこの僕にマスターの権限を譲ることを宣言していたのさ。どうせ、戦い嫌いな桜じゃ聖杯戦争は勝ち残れないからね」

 

「―――そう言ったところで、お前には肝心の魔術回路が無いだろう」

 

「代理とはいえマスターであるこの僕にお前だって………? ふん………まぁいい。そういうところもおいおい矯正させてやるさ」

 

「………………」

 

 黙りこくるライダーに慎二は忌々しげに舌打ちをした。なお、忍は慎二が登場してから一度も顔を向けず我関せずとばかりにそっぽを向いている。

 

「とはいえ、そう。サーヴァントの言うとおりだ。残念なことだけど、僕には魔術師たる所以の魔術回路がない―――だからといって、サーヴァントが従えられないというわけじゃないさ」

 

「それはいったい………」

 

「令呪、だよ。………おいおい、僕が使うサーヴァントはそんなこともわからない愚図なのか?これじゃ、先が思いやられるな」

 

「くっ………」

 

 ライダーは何やら言い返そうとしたが、必死で我慢する。

 ここで慎二を言いくるめたところで、溜まった怒りの矛先がなまじ一般人より力を持つサーヴァントの自分ではなく、非力で太刀打ちのできない桜に向かうことは明白だったからだ。

 ゆえに、ライダーは何もできない。

 

 そんな彼の姿に慎二は、ライダーをやりこめたと勘違いしたのか、侮蔑の視線を向けた。

 

「全く、マスターが屑ならサーヴァントも屑か………。仕方ない、才能あふれるこの僕がお前を上手に使って聖杯戦争に勝ってやるよ」

 

「………………」

 

「おい、桜。お祖父様からの伝言だ。『義臣の書』とやらを作るから今日の夜、蟲蔵に来いってよ。来なかったら―――わかってるんだろうな?」

 

「………………」

 

「まぁ、僕はそれでもいいけど」

 

「………はい、わかりました」

 

 下卑た笑いを浮かべ、桜の身体を舐めわすように見る慎二に桜はただ素直に頷いた。

 そして、慎二は一周り桜の部屋を見渡すと今更ながら気がついたように忍に目を留めた。

 

「おっ、君、可愛いねえ。ライダーのお供か何か? 今日、僕の部屋に来ない? そんな愚図のサーヴァントより僕のところにおいでよ。ずっと、楽しい思いが出来るからさぁ」

 

「………………」

 

 慎二の問いかけにしかし忍はぴくりともしない。まるで外界の様子を絶っているかのようであった。

 それをいいことに慎二は更に忍との距離を詰めた。

 

「………だんまりかよ。おーい、聞こえてる? もしかして、声が出せなかったりする? 大丈夫、僕はそういったことに偏見なんてないから。とりあえず、下に行ってお茶でも………」

 

「―――おい」

 

「………ちっ。なんだよ、ライダー」

 

「それ以上、忍に手を出したら―――殺すぞ」

 

「―――ひっ」

 

 ライダーから漏れ出る殺気に気圧されて、慎二はか弱く情けない悲鳴を上げた。

 

「くそっ、くそっ、くそっ!バカにしやがって、僕に使われるだけの道具の分際で! ………覚えてろよ」

 

 思わず後退り、出口までたどり着くと、小悪党さながらの捨て台詞を吐いて慎二は桜の居室から逃げ出した。

 

「………………」

 

 先ほどとはうってかわって居心地の悪い沈黙が三者の間に流れる。

 

「………あっ。そ、そういえば、お茶がなくなっていましたね。私、今すぐ取ってきます」

 

「え?別に気を使わなくても………」

 

「主様」

 

 と、そう言い残す桜に声をかけようとするが忍に止められる。その隙に桜は居室から出て行ってしまった。

 その後姿をライダーは見送り、常人より遥かに研ぎ澄まされた五感で桜が十分に離れたことを確認する。

 そして、小さい声で話せば聞き取れない距離になったと確信すると、ライダーは口を開いた。

 

「………忍」

 

「うむ、気がついておる。あの娘御、なにやら嫌な臭いがしてるの」

 

「あぁ………。あの爺さんを見た時、もしかしてこの家はそういう特異な家系なのかとも思ったけど―――」

 

「それは違うの。あの娘御の兄だという輩にはそれが無かった―――全く、失礼な男じゃ。次寄ってきたら、その股間を噛み切ってやろうか」

 

 どうやら、そう見えずともご立腹だったようである。

 忍の物言いにライダーは思わず、自分の相棒がそこにあるのを確認し、ほっとする。

 

「まぁ、あの胸糞悪い兄のことは置いといて―――」

 

「うむ、そうじゃの。仕返しは後じゃ」

 

 仕返しするのかよ。ライダーはそう思ったが口には出さない。

 

「そう考えて間違えはないじゃろう。つまり………」

 

「あの狸爺が桜ちゃんになにかした」

 

「そうじゃな。それしか考えられん………」

 

 その言葉にライダーは先ほど談笑していた自分と忍の姿を見ていた桜の姿を思い返す。

 

 桜は笑っていた。

 しかし、その笑いは力なく、まるで強大な何かを前にして諦めているものの笑いで。

 その影にはライダーが想像しえぬ闇があった。

 

 さらに慎二が登場してからの桜を思い出す。

 その姿は何かに怯えるようにただひたすらに縮こまっていた。

 

 慎二、そのものに怯えているようではなかった。

 話してみてわかったが、彼は小物である。環境に流され、状況に甘んじ、変化を是とする弱い、どこにでもいる小悪党のひとりにすぎない。

 

 そんな彼に怯えるほど、桜が弱いとは感じなかった。

 となれば、そう。その恐怖の対象はもっと大きな―――それこそ、家そのものと言えるもので………

 

 と。

 

「しっかし、何なんじゃこの家中に蔓延る臭いは。鼻がひん曲がりそうじゃぞ」

 

「………………」

 

 それはライダーも感じていたことだった。

 現状、最低限の吸血鬼性しか有さないライダーの嗅覚を持ってしても、ここにいるのは一分一秒でも御免したい。

 そう感じるほどの悪臭。

 今まさに人が腐っていくような腐乱臭。

 それがこの間桐の屋敷全体を覆うように臭っていた。

 

「これ、やっぱり怪異か?」

 

 ライダーの質問に忍はわずかに首を傾げた。

 

「………わからぬ。儂の知識は専門家のそれではなく、あくまで受け売り。もしかしたら、漏れてる知識の中にそういう怪異がいるかもしれんが―――それも危ういの」

 

「………………」

 

「そも、今の状況でさえ、儂にはとんと見当もつかんのじゃ。更には魔術じゃと? 呪いに多少の心得はあるが、しかし人一人を召喚する呪法なぞ心当たりのひとつもありはせん」

 

 ―――ま、あったところで今更驚きはせんがの。

 嘯く忍を横目にライダーは沈黙する。

 

 どうしてここに自分がいるのか。どうやって喚ばれたのか。

 そんなことはライダーにとってはどうでもいいことだった。

 ただひとつ、ライダーが考えていたこと。

 それは―――

 

「忍………」

 

「なんじゃ、主様よ」

 

「桜ちゃんを助ける。お前の力が必要だ」

 

「………まぁ、そう言うと儂は思っておったよ。可愛い娘御を見ると助けないではおられん正義漢らしいからな、我が主様は」

 

「そんなのじゃないって。ただ、僕は自分ができることを―――したいことをするだけだ」

 

「変わらないの、主様は」

 

「変われないんだよ、人は簡単に」

 

 ―――ライダーは可憐な少女を助けると心に誓う。

 

 それはそう。

 きっと、ひどく漢らしい決断だったに違いない。

 

 

 

 

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