25,
世間が悪くて、法律も悪い。世界が悪くて、悲劇も悪い。状況が悪くて、関係も悪い。
それでも、お前が悪くない理由にはならない。
◆◇◆◇◆
セイバーとライダー、そして彼の宝具だという忍野忍に連れられた士郎は目的地に向けて、ただ直走った。
既に日は落ち、絶望の奈落へと向かう道は余すところなく闇色に染まっていた。
しかし彼の表情に迷いはない。代わりに後輩の不幸に気が付かなかったことに対する後悔がただそこにはあった。
「………………っ」
士郎は歯噛みする。
なぜ気が付かなかったのか。何をのうのうと暮らしていたのか。
正義の味方?誰かを助けたい?
ならばなぜ、隣にいる彼女の苦悩に気づいてやれなかった!どうして、気付こうとしなかった!
サーヴァントである彼らについていくため、士郎は全力で足を動かし、心臓を脈拍させ、血を全身に回す。
主の過大な要求に体組織が各所で悲鳴を上げるが、そんなもの桜の苦しみに比べれば些細なものだ。
こんな息苦しさなど、比べるべくもない。
「………えっと、速度落としたほうがいいか―――どうにも、辛そうだぜ?」
前を走るライダーが心配そうに声をかけた。
士郎は無言で顔を横にふる。代わりに言葉を口にしたのはセイバーだった。
「そうだな、少しペースを抑えるか。たどり着いた時には既に力尽きていた―――なんて展開は勘弁したい」
「気に、すんな、セイバー。俺は、大丈夫だ」
「見てるこっちが大丈夫じゃないんだよ」
呆れたように呟いたのはライダーだ。
すでに彼らは全力疾走から小走りへと速度を落としていた。
「そうは言っても、時間が無いんだろ」
ライダーの魔力供給は依然途絶えたままだった。
士郎と再契約して暫定的に魔力パスだけ通すという案もあったが、士郎は素人であり通常での契約方法を知らず、昨日のセイバーのように魔術回路を移植するにはそれ相応の知識を持つ補助者が必要ということもあり、彼の現界期限が増えたわけではない。
そんな状態で、ライダーは士郎たちを信用させるために、金にも等しい内蔵魔力を消費して治癒スキルを使った。
もはや、現世にいられるのは分単位のはずだった。
「―――ざっと計算して、残り三十分ってところかな。けど、急くあまり温存する力を使い果たして、助けられなかったってなるのはゴメンだ」
「………………」
一番焦っているはずのライダーに諭されて、士郎は渋々速度を落とした。セイバーとライダーに並走し、乱れた呼吸を整える。
ふいに訪れる沈黙。
重苦しいそれを破ったのはライダーだった。
「そういえばなにかとバタバタしてて、ちゃんと自己紹介してなかったな―――僕の名前は阿良々木暦。間桐桜のサーヴァントで―――吸血鬼の………まぁ、眷属をやってる。それで、ここにいる金髪幼女がその主人だ」
「と言っても、今の儂は搾りかすの搾りかす―――全盛期の百分の一程度しか力もないし、更に聖杯戦争に限れば、主様の付属品でしか無いがの」
そうつぶやくように言うのは、昨日学園の校舎で士郎をノックアウトした、金の少女だ。
忍野忍と名乗った彼女の姿は、昨日のそれと比べていささか小さく見受けられたが、ライダー曰く忍の大きさは彼の吸血鬼度合いによって変化するから、だそうである。
「だから僕にも忍にも、昨日みたいな力はない。精々一般人に毛が生えた程度ぐらいだ。魔力が底を尽きてるのもあるけど、サーヴァント一騎の戦力として数えるのは、少し無理があるかな」
今後敵になる可能性が高い士郎たちに、そうやって惜しげも無く弱点を晒す彼は、結局これに命を賭けているということなのだろう。
あるいは、桜を助けることそのものが既に最終目標、といったこところか。
そんな背水じみた覚悟を感じ取ったセイバーも彼に習い、また敬意を払い、彼に自分の情報を口にした。
「俺は鑢七花。虚刀流っていう、無刀で戦う剣術家だ。位はセイバー。よろしくな」
「よろしく、セイバー。敵であるはずの僕を助けてくれて、感謝の言葉もないよ」
「気にすんな―――というより、本当に気にする必要はないぜ。俺はただ、サーヴァントとして当然のことをしてるまでだ。礼なら、あんたを助けると決めたしろうに言ってくれ」
「………………セイバーはああ言ってるけど、俺にも感謝なんて不要だよ。そもそも、本来ならこれは桜と長いこと接している俺が気づくべきことだった。むしろ、俺がありがとうの言葉を述べたいぐらいだ」
「―――いや。それでも、ありがとう。君みたいな人が、彼女の近くにいてくれて―――なんだか、それが無性に嬉しい」
「………………」
ド直球なライダーの言葉に士郎は恥ずかしくなって顔を背けた。
これまでのやりとりでなんとなくわかっていたが、このライダーという男は思ったことを素直に言える、悪く言えば少し恥ずかしい御仁らしい。
自分のことを棚に上げ、冷静に人物評価をすることで顔をほてりを収めながら、士郎は彼が桜のサーヴァントで本当に良かったと、ライダーと似たようなことを思った。
「セイバー。それに………えっと、なんて呼んだらいいかわからないけど―――」
「名前だろうと苗字だろうと好きに呼べよ」
おずおずと変な距離感を保つ彼に、さきほど啖呵を切った時とのギャップを感じなんだか不思議に思う。
「士郎………いや、なんだか馴れ馴れしいか………」
「………………」
「衛宮のほうが………うん………自然というか、友達っぽさが出て………」
「………………」
「じゃ、じゃあ、衛宮!」
「え、あ、はい」
なんだろう、この空気。
なぜ、名前の呼び方でこんな苦悩するんだ、他に考えるべきことがあるだろ、と思う。
敵地に向かう緊迫した状況なのに、なぜだか弛緩する―――そして、違う意味で、さながら告白前の緊張するような雰囲気に飲まれ、士郎はつい敬語で応答してしまう。
同じことを思っていたのか、セイバーも変な顔をして、こそこそとなにやら呟いていた。
「………あんたのマスター、なんというか………少し変なやつだな」
「………あまり触れないでくれるかの。生前、主様は男友達がいなかったからどう呼べばいいか四苦八苦してるのじゃろ………」
「あぁ………。つまりは、可哀想なやつなんだな………」
「なに裏でこそこそ僕の恥ずかしい話を暴露してるんだよ!」
思ったより、可哀想な人だった。
どうにもシリアスが続かない御仁である。
それはともかく、とライダーはぎこちなく咳払いを一つすると、話を戻した。
「僕らは今から、敵の本拠と言ってもいい場所に向かうわけだけど、注意しなきゃいけない相手が一人いる」
「………って言っても、間桐にはもうサーヴァントがいないんだろ?自分でそう説明したじゃないか」
「あぁ、そうだ。間桐家は、僕以外のサーヴァントを保有していない。そして、僕が敵に回った以上、対抗できる戦力はほぼ存在しないと言っていいと思う。けれど―――阻止できる戦力は存在する」
「阻止できる、戦力」
確認するように繰り返す士郎の言葉に、ライダーは深く頷き、その名を口にした。
「間桐臓硯」
「………………」
「今の間桐を統べる、老練で老獪な、実質的な間桐の当主だ」
「でも当主ってことは、魔術師だろ。俺たち、サーヴァントにとってみれば大した障害にもならないんじゃないか?」
そう茶々を入れたのはセイバーだ。その言葉に士郎も頷いた。
魔術師の戦いは、いかに神秘性を保っているかの競い合いでもある。
過去に下り、その身に秘めた神秘が深ければ深いほど扱う魔術の質が上がり、威力も増大する。神秘のヴェールで守られたものにはより強い神秘をぶつけるしか、突破する方法が存在しないのだ。
そして、サーヴァントの肉体は神秘そのもの。エーテル体で構成され、過去の英霊の生き写しである彼らには、現代科学の産物である銃器の類は効かず、程度の低い魔術も無効化する。
いくら、長い年月命脈を保った間桐の魔術師とはいえ、サーヴァントが本気でかかったのなら、大した抵抗もできずものの数分で肉塊になることは自明の理である。
更に言えば、彼らのクラスはセイバーとライダー。
三大騎士クラスであるセイバーはもちろんのこと、騎兵クラスであるライダーも低いながら対魔力スキルを与えられているはずだった。
それに加え、ライダーは反則じみた治癒能力も有している。
対魔力スキルを抜けてきた大魔術であれど、最大限能力を引き出した彼ならば瞬きする間に治癒を完了させてしまうだろう。
「いいや―――それは慢心だよ。現に僕は一度、あいつに負けてる。力を引き出せるだけ引き出して、極限まで吸血鬼に近づいて、出来る手段を全て講じて―――それでも、あいつに負けてるんだ」
だからこそ、彼の言うことが信じられなかった。
彼は言う。
サーヴァントであるはずの自身が全力を持って相手し―――しかし負けたのだと、彼は言う。
「この大太刀で―――この世にあるありとあらゆる神秘のみを寸断する心渡で―――何度もあいつの身体を切り裂いた。だけれど、あいつは倒せなかった。為す術なく、あいつに屈せざる得なかった。だから奴は多分―――」
「―――不死、なんじゃろうな」
不死。
死なないという現象。
あるいは、生命の到達点にして、生物の理を超えたもの。
「不死、ねえ。数百年を生きた仙人とは戦ったこともあるけれど、しかし死なない相手ってのはさすがに経験ないな」
間桐臓硯こそが、それを体現した魔術師だと、彼は語った。
ただそれでも不完全なものなのだろうけど、と実際に間桐臓硯の不死性を見た彼は付け加えるように言う。
「厄介な相手だよ。不完全だろうと未完成だろうと、それでも死なないし―――僕らじゃ殺しきれない。殺せるにしたって、それ相応の準備が必要だろうしな」
本当は間桐家に従ってるふりしてそこのところを探ろうと思ってたのだけど、とありえたかもしれない、しかしもはや叶うことのない可能性を語るライダーは少し憂鬱そうでもあった。
だが、その目に宿る闘志は消えていない。
「だけど、相手が不死だと―――死なない存在なのだとわかっていれば、対処のしようもある」
「対処………」
「あぁ。あいつは不死だし、狡猾だし、陰険だけど―――それでも
発想の転換だ。
厄介ならば、避けて通ればいい。
士郎たちの目的が間桐桜の奪還にある以上、
「だから、僕が十全に実力を発揮できない以上、間桐臓硯とぶつかるのはセイバーってことになるんだろうけど………」
「俺は、臓硯ってやつを相手に殺さずに適度な距離を保って気を引いてればいい」
「そして、その間にライダーと俺が中に侵入して彼女を奪還する、ってことか」
途中で引き継いだセイバーと士郎の言葉に、ライダーは頷いた。
「間桐の邸宅に展開している結界も僕の心渡があれば、難なく破壊できるだろうし、衛宮がいればいざというときに令呪でセイバーを呼べる」
「万が一の事態にも対応できるってことか………いいんじゃないか、特にそれよりいい代案もなさそうだし」
「俺は、しろうがいいって言うならそれに従うだけだ」
その後、彼らは作戦の細部を話し合い、細かな穴を埋めていく。
話し合う間も小走りだったため、すでに間桐家までそう遠い距離ではなかった。
後、五分もしたら屋敷が見えてくるほどの近さである。
その途中、セイバーがふと何かに気がついたように士郎の脇腹を突いた。
「そういえば、しろう。右衛門左衛門のマスターには連絡しなくていいのか?ほら、なんだっけ………携帯電話の番号を教えてもらっていただろ」
「あ………」
今まで為すがままに流されてた士郎は、当然のごとく忘れていた協力者の名前を今更ながらに思い出した。
「………やっぱ、遠坂のやつ怒るだろうな」
「そりゃ、怒るだろ。こっちは連絡もなしに勝手に行動してるんだから」
何言ってるんだ、というセイバーの呆れた目に、士郎は少しだけ連絡することに躊躇しながらも、しかしけじめはしっかりとつけなきゃな、と思い、携帯を取り出し最近入れられた真新しい番号を選んで通話ボタンを押した。
そして、電話越しに急ぎまくし立てる士郎を横目に見ながら、ライダーは短く嘆息した。
「………なんか、悪いな。僕が助けを求めたせいでこんなことになって」
「ん?いや、別に謝ることでもないだろ。確かにあんたは助けを求めたのかもしれないけど、結局助けると決めたのはしろうなんだからな。自分で決めたことだ。その責任をきっかけを作った程度のやつに持ってかれるなんて、恥ずかしいを通り越してただ惨めなだけだぜ」
「………セイバー。あんたはどうなんだ?」
「俺?」
「あぁ。その協力者に裏切りと取られて敵にまわる―――つまり、聖杯を手に入れづらくなるかもしれないっていうのに、どうしてあんたは衛宮に従うんだ?」
「そりゃ、なんつぅか………それこそ今更って感じの質問だ。聖杯戦争において、俺はしろうをマスターと認めた。俺の主に決めたんだ。だったら、迷うことなんてどこにもないはずだろう?」
そう言って笑うセイバーはマスターへの信頼に満ち溢れていた。
信用、とも違う。
非力で、未熟で、不理解なマスターであろうと、そうと決めたならとことん信じて頼る。
彼の心のうちにあるその純粋さに、ライダーは眩しそうに目を細めて―――
「………………」
「どうした、ライダー?」
「―――いや、少しだけ。羨ましいな、と思っただけだよ」
そして悔しいような、恥ずかしいような。
どう表現していいかもわからない複雑な感情を胸にライダーは思わず目を逸らした。
「ふぅん」
そんなライダーの感情に察したのかはわからないが、セイバーはひとつ呟き
「けど、あんたも凄いと思うぜ」
と、言った。
「………僕が凄い?」
「あぁ。自分のマスターのためとはいえ、敵である俺らに自身の情報を明かしたんだ。これが丸く収まっても、勝ちの目は限りなく薄い―――つまり、あんたはそういう覚悟を持って、この戦いに挑んでるってことなんだからな。そりゃ凄いって俺は思うぜ」
そんなことを平然とセイバーは宣う。
ただ卑屈に、敵の力を借りなければマスターひとり助けられないライダーを、セイバーは凄いといった。
その一言に、ライダーはなんだか救われたような気がして。
「―――ありがとう」
「だから、感謝なんていらないって」
「それでも、だ。君たちに声をかけて良かった。君たちが敵じゃなくて本当に、良かった」
「………………」
素直に謝意を表するライダーに、セイバーは少し照れくさくなって視線を逸らし―――
「あぁ、本当に―――あの
「………………っ」
―――聞き逃せぬ言葉を聞き、弾かれたようにライダーを見た。
「おい、ちょっと待て―――俺らを頼ったのは、その、
それは取りも直さず、狐面の男が全てを掌握しているということで………
さきほどの互いに対する敬意も、ひとりの少女を助けに行くと誓った黄金のような勇気も、認め合った信頼関係すらも、彼の思惑通り。僅かな時間ながらも確かに培ったそれら一切合財が意味のないようなものに思えてきて―――
認めたくない、そんなことを認められない。
否定して欲しいとどこか心の中で思いながら、凄まじい剣幕で尋ねるセイバーに、僅かにたじろぎながら―――それでも、ライダーは首肯した。
肯定、した。
「あぁ、そうだけど。だって―――
「っ! おい、しろう!」
セイバーがとっさにあげた声は。
突発的な奇襲を警告するものでもなく、ましてや敵サーヴァントが現れたことを知らせるためのものでもなかった。
ただ単純に。
手のひらで踊らされているという漠然とした不安感から―――直感から出たものだった。
が、しかし。
セイバー。剣のサーヴァント。虚刀流七代目当主。
彼の持つ心眼(偽)スキルはランクB相当であり、その能力は第六感、虫の報せとも言われる、天性の才能による危険予知であることを考えれば、その直感は彼の意図したものとは違う意味合いを帯びてくる。
すなわち。
「っ!! 前だ、避けろ―――!」
実際の
セイバーの警告と同時に降り注ぐは、釘の―――否、巨大な螺の嵐。
一本一本がおよそ成人男性の腕ほどの太さを持つそれらが空を裂き、間桐宅まで戦いはないと油断しきっていた彼らを螺伏せた。
未然に察知したセイバーは無傷なれど、避け残ったライダーの腕に一本。電話に集中していた士郎の身体には無数の螺が突き刺さり、貼り付けのごとくコンクリート塀に縫い付けられていた。
「『ここから先は通さないぜ―――って、さながらジャンプの噛ませ犬みたいな言葉、一度使ってみたかったんだ』『いかにも、僕みたいな雑魚キャラが使いそうだろう?』」
そう言って間桐宅に続く道から現れたのは、ひとりの少年だった。
詰め襟の学生服に、淀んだ瞳。闇よりもなお深い色の黒髪と黒目は、正しく彼の性質を表しているよう。そんなにも救いがたい気配を発しているというのに、彼の顔には張り付くような笑みが浮かべられていて、一際気持ち悪い。
先ほど放たれたものと同型の巨大な螺を両手に抱き、仄かに立ち上る気配にはわずかに魔力の薫りがした。
「………サーヴァント」
「まさか、ここに来て七騎目のサーヴァントが現れるなんて………」
バキリと。
いつの間にか士郎の腕から飛んでいた携帯を踏み壊し、絶句する両者に少年は一歩近づいた。
「『おっと』『携帯踏んづけちゃった』『ごめーん』『そんな顔しなくてももちろん弁償するよ』『あ、けど、お金持ってないんだった』『悪いけど、ライダーちゃんお金くれない?』『変わりに三十分ばかし君が死ぬまで遊んであげるからさー』『決意も熱意も覚悟も思い入れも、誓いも勇気も願いも心がけも』『全部が全部、君の自己満足の自己完結の自己陶酔でしかないって懇切丁寧に讃えてあげるからさ』」
「『―――その命で購ってくれよ』」
「………………っ」
そう言って笑う彼は、酷く気味の悪い存在に思えた。
ぞんざいに世界を扱い。一切合切余すところなくこの世全てをうやむやのめちゃくちゃの台無しにしてしまうような。
そんな、存在に。
「『そういえば、自己紹介がまだだったね―――』『初めての方ははじめまして。見覚えのある方もはじめまして』『僕こそが
彼は―――アサシンは吐き気を催すオーラを伴って、更に一歩踏み出した。
「『だから、僕は悪くない』『君たちが可哀想な女の子を助けに行く誇り高い勇者のごとき存在だったとしても』『僕がそれを邪魔する悪役だったとしても』『それでも、僕は悪くない』『だって』『僕は悪くないんだから』」
なんだこいつは。
なんなんだこいつは!
彼らの頭を占めていたのは生理的忌避感と拭いきれぬ不快感だった。
ただ彼が目の前に存在する。ただそれだけで、心が落ち着かない。不安になる。排除したくなる。
言い知れぬ、敵愾心。
それも
そして、張本人たるアサシンは張り付いた笑みを浮かべ
「『じゃあ、そろそろ始めよう』『泥沼のような殴り合いをして、無駄にページを使って、最後には友情なんかも生まれるような』『そんな、凄惨な殺し合いを始めようじゃないか』」
不意打ちじみた戦いの火蓋は切って落とされた。
◆◇◆◇◆
第五次聖杯戦争三日目。
第五戦。
旧日本最強にして虚刀流七代目当主鑢七花および鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼に憑かれた少年阿良々木暦VS全てを台無しにする混沌より這いよる『
改め、セイバー、ライダーVSアサシン。
誰もが予想し得なかった突発的な戦いは、確かに望んだ希望の欠片をあざ笑うかのように、容赦なく開幕した―――