ニシオニストによる聖杯戦争、あるいはただの蛇足   作:堂升

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苦戦、あるいはただの経過

31,

 

 覚悟とは、無知と過信の結晶に他ならない

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

さて。

セイバーとアサシンの、戦いとも呼べない泥沼の何かが終わったところで、少しだけ場面転換する。

ちょうど、セイバーが『七花八裂』をアサシンに叩き込んだまさにその時、士郎たち間桐桜救出チームは、マーダーのマスターである封印指定執行者バゼット・フラガ・マクレミッツと対峙していた。

 

執行者という人間の枠を突き抜け、彼らの遥か上をいく戦闘技能を有するバゼットを前にしたした士郎たちだったのだが、敵に相対する姿勢は同じであれその内心は三者三様だった。

 

士郎は直様戦う覚悟を決めたが、ライダーは残りわずかな命を有効に使うため戦うべきかどうか迷っていたし、凛に至っては今すぐここから逃げ出すために知恵を絞っていた。

外面の姿勢はともかく、共闘など望むべくもない状況だったのだ。

 

それが所詮急場凌ぎの協力関係者の限界であり、さらに外見上皆が戦う意思を見せたことと三者の中に特に秀でた戦闘経験者がいなかったことがこの状況をややこしくさせていた。

 

士郎からすれば桜を助けるためという正義を掲げている以上引くつもりはない。

目の前のマスターがサーヴァントに準ずる強敵であることは理解していたが、三人がかりならば勝機もある、と考えた。そして、士郎は戦う姿勢を見せ、他二人も同様の姿勢を見せたことで自身の考えに同調したものと誤解した。

 

ライダーは桜を助けるという一念において士郎と共通していたが、もとより彼は手負い。

士郎という同志とでも言うべき存在がいるため、万が一無念のまま負けたとて保険は残るが、だからと言って無駄死にするつもりもない。さらに言えばこちらの目的は敵を撃破することになく、姫の奪還にあるのも忘れてはならない。

ゆえにライダーが想定したのは先ほどのセイバーのように誰かが残り足止めし、その間に桜を助け出すという方法だった。だからこそ、ライダーは一応戦う姿勢を見せ、そして他の二人も同様の姿勢を見せたことで自身の考えに同調したものと誤解した。

 

凛に至ってはそもそも戦う気などない。

この中でバゼットの実力を一番正確に知っているのは彼女であり、またそんな凛を持ってしても執行者の底は知れない。しかし、封印指定執行者はマスターとしてーーー否、魔術師として戦いを避けるべき相手なのは間違いない。

未だライダーに信が置けず、桜の危機にしても狂言の疑いが消せない以上、並の魔術師をそれ一枚で容易く葬り去る切り札を使い捨てるように切ってようやく勝負になるかどうか、といったほどの実力を持つ相手と、真正面からぶつかり合うのは流石に損益勘定が合わない。

 

であるなら、予め士郎に伝えてあったように撤退するだけだ。

とはいえ、流石に目の前の獲物を見逃すほど執行者は甘くないだろう。なので、一撃いれて撤退。あるいは偽装撤退してから逆撃を食らわせるか。どちらにしても攻撃することには違いない。

だから、凛はやや腰を引き、いつでも退けるように準備しながらも戦う姿勢を見せ、そして他の二人も同様の姿勢を見せたことで自身の考えに同調したものと誤解した。

 

 

と、その前に。

ひとつ誤解なきように言っておくが、事戦闘能力においてここにいる四人の中で最強なのはバゼットであることは周知であるが、しかしその彼女をしても士郎、ライダー、凛の三者を同時に相手取るにはやや不利である。

 

ひとりは、神秘が絶滅しかけた現代における将来の英雄候補、衛宮士郎。

ひとりは、曲がりなりにも間桐の傑物『妖怪』マキリ・ゾォルケンに一太刀入れた手負いのサーヴァント、ライダー。

ひとりは、天才の名を欲しいままにする極東の魔女、遠坂凛。

 

誰一人として喰われるままの弱者ではなく、敵が二線級の魔術師ならば苦もなく相手してのける存在ばかりだ。

それが三人一丸となって向かってきたら、さすがのバゼットも苦戦を強いられただろう。

 

しかし、そうはならなかった。

意思創通が不完全な状況で意思統一のされていない彼らの現状を――彼らの視線や姿勢、そして手足の微細な動きから――バゼットは手を取るように把握していた。

そして、それは執行者であるバゼットに敵対するには致命的な隙であり――どうしようもない失態だった。

 

「…………はっ」

 

と。

誤解が誤解を生む、この奇妙な空間で最初に動いたのはバゼットだった。

呼気とともに大きく三人に向かって踏み出し――しかし攻撃はしない。

踏み込むことそのものが目的だったからだ。

足並み揃わぬ烏合の衆を相手取る方法を、バゼットは豊富な戦闘経験上良く知っていた。

 

そして、その狙いは見事的中する。

 

「っ!」

 

接近する敵に対して三人がとった行動は全くのバラバラだった。

士郎は投影した大太刀・心渡を両手に我先にと迎撃に向かい、それを見て士郎が足止めを買ってくれると思い違いしたライダーは踵を返し間桐家に走り、凛は逃走するため少しだけ距離を取った。

 

「「「………………なっ」」」

 

ようやくそこで三人の思惑が重なってなかったことに気が付き、全員が一瞬思考を停止し足を硬直させた。

それそこがバゼットが狙っていた隙であり、そのための一歩だった。

 

「はぁっ!」

 

彼らの硬直を見て取ったバゼットはまず一番近くにいた士郎に牽制打を打ち軽く吹き飛ばすと、一足飛びに凛に近づきあまりの展開の早さに呆然と立ち尽くし宝石を使う暇を与えず彼女に痛撃を加えた。

遅れながら状況を把握したライダーは影から大太刀・心渡を取り出そうとするが、彼が相手にするのは有象無象の敵ではなく封印指定執行者バゼット。その反応は余りにも遅すぎた。

 

「…………こんなものですか」

 

心渡を取り出す間もなく地に這いつくばったライダーを睥睨しつつ、バゼットはつまらなそうに呟いた。

 

戦況は一変した。

戦力的に曲がりなりにも拮抗していた先ほどとは違い、三人は受けたダメージにその継戦能力は半減している。未だライダーの宝具である忍野忍は無傷で残っているが、魔力供給が途絶えた今のライダーでは満足に展開させることも難しい。もはや体勢を立て直し間桐宅に突入することはおろか逃げ出すことも不可能だった。

 

「結局、寄せ集めでしかなかったということですね」

 

曲がりなりにも聖杯戦争に参加する魔術師やサーヴァント。それなりの強者と戦えると思っていたバゼットの声には少しだけ失望が篭められていた。

そんな彼女の背後でかさりと布擦れの音が響き渡った。

 

「…………まだだ」

 

音の主は士郎だった。大太刀・心渡を杖代わりにふらふらと立ち上がる彼は満身創痍ながらも、その目に灯る戦意は衰えておらず、燃え盛っている。

 

「剣を握れる。傷もない。俺はまだ、戦えるぞ!」

 

しかし、対照的にバゼットの目はどこまでも冷たく冷め渡っていた。

 

「戦えるのは当然です。…………もしや、貴方は気がついていないのですか。私が手加減したことに」

「……なに?」

 

バゼットの言葉に士郎の動きが止まる。畳み掛けるようにバゼットは重ねた。

 

「手加減、というのもまた少し違いますが…………しかし、危険度の問題ですよ。ライダー、トオサカリン、そして貴方。いくら私でも聖杯戦争に参加するだけの人物三人を一瞬で無力化するのは難しい。であるなら、問題は誰を先に倒すべきかです。失礼を承知で申し上げるならば、この中での貴方の優先度は限りなく低い」

「…………っ」

「貴方は、弱いのですよ」

 

だから、牽制程度の攻撃しかしなかった。

ようやく心渡を構えられるまでに回復した士郎にバゼットは突き放すように言い放つ。

士郎は苦悶に顔を歪めバゼットを睨むが、彼女はどことふく風である提案を口にした。

 

「それよりも、エミヤシロウ。貴方のことは調べがついています」

「調べ……?」

「私のサーヴァントによって否応なしに聖杯戦争に巻き込まれた……言わば被害者であること。命を落とす直前で運良くサーヴァントを召喚できたこと。そして、聖杯そのものに執着がないことも、全て調べました」

「…………」

「ゆえに、エミヤシロウ。私から不憫な貴方にひとつ提案があります――――是非とも、聖杯戦争から降りていただきたい。セイバーのマスターを辞めていただきたい。たったそれだけで、貴方は命の危険があるこの戦いに巻き込まれることなく、何も知らない一市民として平和を甘受できるのです――どうです、悪い提案ではないと思いますが」

「…………っ」

 

高みから見下ろすようなバゼットの物言いに、士郎は頭が沸騰しそうになった。しかし、その熱を無理やりにでも抑えこむ。

それは今更ながらの質問だ。

初日、あの冬木協会で戦うことを選んだ士郎に対する侮辱でもあった。士郎のことを調べつくしたというなら、当然バゼットはそのことをわかっているはずだった。

 

しかし、この状況。戦闘を続けることすら困難なここに至って、改めてその質問を繰り出したということにバゼットの無機質な公平さと有機的な状況俯瞰能力を如実に表しているように思えた。

 

「……俺がその提案を蹴ったら、あんたはどうするんだ」

「どうするも何も……敵は殲滅するまでです。負けを認めるまで殴り続ける。それだけですよ」

「……俺が提案を飲んだら」

「貴方の身の安全は私が保証しましょう。聖杯戦争中は少しだけ不都合を感じるかもしれませんが、そこは涙を飲んでもらう他ありません」

「……遠坂たちは」

「彼女たちは敵です。立場上交渉にも応じないでしょう。しかし、貴方が降ってくれるというなら手心を加えるのもやぶさかではありません」

「…………」

 

やはり。

と、士郎は思う。

この三者の中で、士郎が一番与し易いと判断した。

しかし、それと同時に士郎が容易に曲がるとは思ってない。

 

だからこそ、凛たちを人質にとった。

彼女たちの命を盾に士郎に交渉を迫った。

 

――先ほどの踏み込みと一緒だ。

この共闘が急場しのぎのものであると見抜いたバゼットはこちらを崩しにかかった。

それと同様に士郎と凛の同盟も破断させるつもりだろう。

 

此度の聖杯戦争で一番の戦力を保有するのはアインツベルンで間違いないが、しかしセイバーアーチャーを抱える遠坂陣営も侮れない。

間桐からライダーが離反した以上、頼るべき戦友がいないバゼットはマスター間の関係を一度ここで初期状態へ戻そうとしているのだ。

アーチャー単独になった遠坂陣営ならば、脅威は減るし、更にアインツベルンという強敵を引き合いに出して士郎の代わりに同盟を結ぶことだって不可能ではない。

 

小賢しい、とは言わない。知恵を力を策略を、ありとあらゆる技能を費やして勝利を手に入れようとすることは責められることではない。勝者が絶対なのだ。卑怯卑劣なんて言葉は負け犬の遠吠えにしか過ぎないのだから。

 

「…………」

 

だが。

士郎には我慢できなかった。

凛との同盟に罅を入れようとする彼女の策略が気に食わなかった――わけではない。

ただ単純に。

 

「あんた、知ってるのか」

「何をです」

「今この屋敷の中で、ひとりの女の子が助けを求めていることを」

「ライダーのマスター、間桐桜のことですね。聞き及んでいますよ」

「だったら……っ」

「だから、なんだと言うのです? 間桐がどのような手段を使おうと、それは勝つためのもの。個人的な好悪は別にして、その姿勢は間違ったものではありません」

「間違ったものではない…………?」

 

何を、言っているのか、わからない。

 

勝者は絶対だ。

そのためにありとあらゆる努力をするのを責めることは出来ない。

卑怯卑劣なんて言葉は負け犬の遠吠えにしか過ぎない。

 

それは知っている。そんなことわかっている。

だけど。

それでも。

 

「…………っ」

 

許せないものは、確かにある。

譲れないものは、きっとある。

 

「悪いけど、あんたの提案は飲めない」

「……本気ですか」

「あぁ、本気だ」

「この状況をわかっていない……というわけではありませんよね」

「もちろんわかってる」

「それならばなぜ?」

 

怪訝そうに顔を顰めるバゼットに、士郎は身体の緊張を解く。脱力して、今一度自分の心に問いかけた。

その問いは幾度と無く繰り返されて来たもので。

であるなら、その答えも変わるはずがない。

 

「俺が正義の味方に憧れたからだっ!!」

 

――――誰かが切に助けを求めた。それに答えないのは、きっと嘘だ。

そこを間違えたら、ここまで貫き通してきた芯が、心を保ってきた支柱が折れて砕けてしまう。

正義の味方を、汚してしまう。

 

「いくぞ、執行者。あんたを倒して桜を救うっ!」

「慈悲のつもりでしたが、良いでしょう。当初の予定通り、敵である貴方達を殲滅します」

 

そして、士郎は気勢を上げ。

再び、封印指定執行者バゼット・フラガ・マクレミッツと衝突した。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「色とりどりの四季を持つこの国において、いったいどの季節が最も良いかという問いは尽きることのない難問だけど、しかしここで私は表明しておきたい。冬こそが最高なのだと。冬こそ至高なのだと、声高に主張しよう。スキーにボード、炬燵にみかん。鍋に焼き餅、正月クリスマス。冬の利点はそれこそ星の数ほど数多くあれど、しかし私が言いたいのはそこじゃない。伝えたいのはそういうことじゃないんだよ」

「………………」

「ふらりと。朝、近くの駅に向かってみるといい。そこにはこの世の至上が存在する。かじかむ手にか細い吐息を吹きかけ、赤くなるまで擦り合わせる女子中学生。もこもこのマフラーに顔を埋め、寒いというならスカートの丈をほんの少しでも下ろせばいいのに、それを頑なに拒み、太ももまで伸びたニーソックスとの間に絶対領域を覗かせる女子高生。そこに、寒さに負けず子供らしさをこれ以上なく魅せつける元気な女子小学生の姿を加えてもいい。ニーソ派? タイツ派? よろしい。私はそのどちらも愛でる準備がある」

「………………」

「夏の開放的な服装や汗で張り付きうっすらと浮き出る肌色を味わえる夏のほうがいいという人もいるだろう。寒さゆえに肌を覗かせなかった女の子たちが、春の陽気に誘われて徐々に露出を増やし美しい花々へと変化する春こそ至高なのだと譲らぬ輩もいるだろう。しかし。しかし、だよ。私はこういった問題に直面する時、同時にあるひとつの難題に頭を悩ませる――――――すなわち、人はなぜ服を着るのだろう、と」

「………………」

「人はなぜ服を着るのか…………。これは有史以来、ありとあらゆる賢人たちにより語り尽くされてきた問題だが、しかし一向に結論が出ることはなかったように思える。あるものは人という種族が社会的動物になった証拠であると、さも鬼の首を獲ったように語り、またあるものは着衣することによりさらなる魅力を引き出すためだと、当り障りのない結論に終始する。寒いから服を着るのだなんて、温泉に浸かる猿と混同してるかのような服を服としか思えないどうでもいい言葉しか並べられない愚か者さえいた…………。しかし、今日ここである一定の答えに、私は辿り着こうと思うんだ――――――服とは想像力の結露であるという答えを、ね」

「………………」

「この際、その結論に至るまでの考察は除外しよう。語って見せても支離滅裂な内容になるだろうし、結局この類の問いは各々の心のなかにこそあるものだしね。さて。しかし、そんな結論ありきで考えると冬が最高の季節であることがわかってもらえたんじゃないかな」

「………………」

「――――――裾からちらりと覗く白いたおやかな指先。暖をとるためだけならば、短くする必要すらないスカートの丈。そして、垣間見えるは絶対領域!! 必然薄着を強いられる夏には見ることのない光景だ、もはや言葉にすることすら憚れるね! 隠されるからこそ想像を掻き立てられる、秘するからこそ奥を見たくなる。その感情はもはや人類の業と言っても過言じゃない。だから――――――」

「………………」

 

 

と。

長々と。

それはもう尽きることなく永々と、字数にするなら一千字を超すほど話していた男は、一度言葉を切った。

長身痩躯という言葉がこれ以上なく似合う、針金のような男である。

その触れれば折れてしまいなほど細い体は地面に投げ出され、そこらに点在する死体の山と同化さえしていた。

 

「――――――だから、私がすぐさま『彼女』にブチのめされ、そこにいる魔術師の少女にただ見惚れることしか出来なかったのは誰にも責められることではないと思うんだが」

「御託はいいからさっさと手伝え、レン! なんで零崎一賊の特攻隊長であるてめえが一番に脱落してんだよ!」

「かはは、突っ込む余裕があるなんて大将も割りと余裕なんだなッ――――っと、危ねえ!」

「間違っているぞ、よく聞け。アスの語尾がブレてる。キャラ崩壊というやつだな」

「あぁもう! どうでもいいっちゃね! だいたいそんなこと話してる場合じゃないつぅの!」

 

弄られた零崎軋識――もしくは大将、アスというアダ名もある――は振り下ろされる朱色の暴力を掻い潜りながら、器用にキレた。

どうでもいいと言いつつも、口調を直しているところ彼にとってキャラ付けは重要なことだったのかもしれない。

 

が、それはともかく。

軋識の言うとおりそんな場合じゃないことは、状況を見れば一目瞭然だった。

 

マーダーの宝具により召喚された『零崎』は都合四柱。

内一人である零崎舞織は彼方で、メイド姿の従者と一対一で殺りあっている。

となると、『狂った人類最強』バーサーカーを相手取るのは、マーダーである零崎人識と零崎三天王である零崎双識、零崎軋識、零崎曲識の仕事なのだが…………

 

四対一。

字面にすればこれ以上なく有利であるはずの戦いは、しかしバーサーカーのワンサイドゲームに終始した。

言葉にするのも憚れるほどである。

 

まず初め。

零崎一賊の長兄、零崎双識が落ちた。

名乗り終えた瞬間のバーサーカーの特攻。目にも留まらぬ早さで接近したバーサーカーは初撃で、獲物である鋏を取り出そうとしていた零崎一賊の特攻隊長である彼を狙い撃ちにしたのだ。

 

強撃を加えられた双識は一時戦線離脱。

先ほどまで長々と語っていたのは彼の趣味ではなく――いや、趣味ではあるのだから、趣味であっただけでなく、という方が正確であるがともかく――バーサーカーから受けた負傷を癒やすためのものでもあったのだ。

 

ということで、散開して四方から痛撃を加えようとした零崎たちの思惑はあっさりと砕け散ることとなる。

初っ端から零崎一賊きっての特攻隊長であり長兄でもある彼の脱落は、残る三人の精神を折るのに十分な効果だった。

 

先手を取ったはずの零崎一賊がいかに敵が人類最強といえど後手後手に回っていたことからも、その衝撃が伺えるだろう。

 

しかし、そこで終わらないのが彼ら。

血で血を洗い、血脈でなく血流で繋がる、殺人衝動だけは立派な一般人と卑下される殺し名『零崎一賊』の中でも戦闘能力に努力値を降ってる強者である。

三者三様の戦い方で頭のないバーサーカーを翻弄し、どうにか時間を稼いでいるのだった。

 

と言っても、それはあくまで焼け石に水。骨折り損のくたびれ儲け。主人公にモブを当てるかの如き無意味さでもある。

そして、そのことは誰もが先刻承知だ。だからこそ待っていた。機が訪れるのを。我らの長兄が本気を出すのを。

 

「さて。そろそろ、狂犬を相手にするのにも疲れたんだが…………やる気になったっちゃか、レン」

 

と、全鉛製の釘バット『愚神礼賛』(シームレスバイアス)を背負った軋識が底意地の悪い笑みを浮かべて言う。

 

「ふむ。狂犬、とは言い得て妙だな。たしかに今の『彼女』は美しくない」

 

と、両手にマラカスを持った曲識が品のいい笑みを浮かべて言う。

 

「なんでも良いけどよ、俺の負傷を考えてくれ。正直、腕の一本でも千切れちまいそうなんだぜ?」

 

と、折れ曲がった薄い刀子のようなナイフを弄ぶ人識――マーダーが凶相じみた笑みを浮かべて言う。

 

言葉の矛先を向けられた双識はゆっくりと立ち上がりニヒルに笑うと

 

「やれやれ、誰か私を休ませようなんて殊勝なことを思う奴はいないのかいっ、っと!」

 

人識にトドメの一撃を放とうとしていたバーサーカーに横合いから蹴りを叩き込む。

いきなりの奇襲を喰らい中空に投げ出されたバーサーカーは、しかし器用に体勢を立て直すとさきほどから傍観に回っていたイリヤの側に着地した。

油断なく零崎たちが気を張り視線が集中する中、バーサーカーを掌握しひいてはこの戦場を支配しているイリヤは不敵に笑った。

 

「へぇ。すぐに死んじゃうかと思ったけど、貴方達なかなかやるのね」

 

直ぐ様攻撃に移ろうとしたバーサーカーを制し、警戒が多分に含まれた四対の双眸をイリヤは余裕を持って受け止める。

その言葉に対応するように一歩前に出たのは、零崎一賊の長兄である双識だった。

 

「お褒めに預かり光栄、と言ったところかな」

「別に褒めてないわ。むしろ、苦しみが増える分哀れに思うだけよ」

「なるほど、随分とキツイね」

 

無邪気な、それでいて小馬鹿にした笑みを浮かべるイリヤに、人好きのする笑顔を崩さない双識。

追い込まれているはずの彼らだったが、しかし彼らの顔には悲壮の色がない。

それがイリヤには理解できなくて、不満気に鼻を鳴らした。

 

「……まぁ、いいわ。どうせ、貴方達なんて私のジュンに一捻りにされちゃうんだから」

「『彼女』を所有できる者なんて、この世界にはいないよ。もし出来たとしたのなら、それは既に『彼女』なんかじゃない」

「ただの言葉遊びね」

「純然たる真実さ」

 

余裕混じりに双識は嘯く。

 

もはや時間稼ぎもこれまで。

際は投げられ、細工も流々、あとは仕掛けをご覧じろ。

 

「さて――誰が喚んだか零崎一賊。生きるために人殺し、話すために人殺す。立てば惨殺座れば死骸、歩く姿は殺人鬼。『理由なく人殺す』殺し名第三位零崎一賊の本領を見せてやろう――老若男女、容赦なし、だ」

 

そして、先ほどまで保持していた『自殺志願(マインドレンデル)』を――――彼の代名詞でもある大鋏を放り捨て――――

 

殺人鬼たちの狂宴(共演)が幕を開けた。

 

 

 




また、一週間越してしまった。プロットは出来上がってるんですが、ここらへんをどういう順番でどのように描くかがまだ固まってないんですよね。同時並行の戦いって初めて書いたのですが、想像以上に厄介なものです
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