ニシオニストによる聖杯戦争、あるいはただの蛇足   作:堂升

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接敵、あるいはただの再認識

 39,

 

「物事を明日やろうとする愚者よ、今日やるのでは遅いのだ。賢者は昨日既に済ませている」

「では、死者は?」

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

夜闇に染まる道を、士郎たちは直走っていた。

凛と士郎を中心にして、先頭にマーダー、左右にライダーとバゼット、後方にセイバーとちょうど弾丸のように展開し、周囲を警戒しつつの移動だった。

衛宮邸を出る前、口頭での確認も無しに、当然のようにこの形に落ち着いた彼らを見て、士郎はひとり取り残されたようにすら感じられた。

 

自分が間抜けにも寝ている間にそれ相応の戦いがあったということなのだろう。

未だ説明を受けていない士郎は、なぜバゼット達と凛が行動を共にしているかは疑問だったが、彼らの間には戦闘におけるある種の信頼と連帯感が確かに存在していた。

それをまざまざと見せつけられた気分だった。

 

「戦闘は極力回避する方向で頼むわ」

「当たり前だろ」

 

確認する凛に、マーダーは振り返らず答える。

やはり、襲撃があることを予見しているのだ。

そのための陣形であり、警戒なのだろう。

 

納得する士郎だったが、しかしそれと同時に疑問も生じる。

 

誰が敵なのだろうか。

 

士郎の記憶にある三日目の時点で、凛と士郎たちにとっての敵はアインツベルンであり、間桐だった。しかし、間桐は壊滅。その主戦力であるライダーは今や凛のサーヴァントだ。

いまいち動きが読めない、もう一つの懸案事項だったバゼットたちもどうやら今は仲間らしい。

 

だとすれば、後残っているのは最強最悪のバーサーカー擁するアインツベルン陣営なのだが…………

 

「なぁ、遠坂」

「なに、士郎――――あぁ、説明ね。一体、何から話して良いのか…………」

「じゃあ、質問していいか?」

「……なるほど、そっちほうが早いかもしれないわね」

「俺達は今からアインツベルンのイリヤって娘を助けに行くんだよな?」

「えぇ、そうよ」

 

凛の肯定をきっかけに場を沈黙が支配し、走る彼女のポケットの中で宝石のぶつかる音だけが鳴り響く。

 

えっと、それはつまり、どういうことだ。

 

アインツベルンが敵であるならばこの警戒も頷ける。あのバーサーカーはサーヴァントが三騎居たとしても十分脅威だ。しかし、凛はアインツベルンのマスターを助けに行くという。

 

バーサーカーのマスターは確かイリヤという娘で間違いないはずだ。アインツベルンにはもう一騎、あの七面倒くさいキャスターがいるが、しかしバーサーカーの前には塵に同じ。例え向かってきたところで、障害にはなりえない。

 

後残っているサーヴァントと言えば、マスター不明のアサシンと凛のサーヴァント、アーチャーぐらいのものだが…………

 

と。

 

「そう言えば、アーチャーはどうしたんだ」

 

士郎は、そこでようやく彼の姿が見えないことに気がつく。

いや、衛宮邸にいないのは気がついていた。大方、外に偵察にでも行ってるのかと思ったのだ。しかし、これほどの警戒態勢を取るというのに彼の姿が見えないのは、少し違和感を覚える。

 

アーチャーの能力は戦闘のみならず、逃走に隠蔽、欺瞞、哨戒と多くのことに向いている。彼の性質は、セイバーのような近接戦闘に特化した専門家(スペシャリスト)というよりも、広く様々なことに通ずる万能家(ジェネラリスト)のほうが近い。いるだけで警戒レベルを一段下げられるほどに、彼は有能なのだ。

 

だから、士郎の疑問は当然であり――そしてその答えは明快だった。

 

「アーチャーは…………もういないわ」

 

答えた凛の声が震えているように聞こえたのは、士郎の錯覚か。

前を向いて毅然と、しかしどこか絞りだすような凛の言葉に士郎は己の耳を疑う。

 

「ま、待ってくれ。それはつまり…………あいつは死んだ、ってことか?」

「死んだ…………えぇ、そうね。そう、彼は死んだわ」

「そんな……」

 

あっさりと告げられた彼の死に、しかし士郎は言葉で言うほど衝撃は受けてなかった。

それは、アーチャーとの関わりの薄さも要因のひとつだろう。彼は常に凛の影となり、そっと力を貸す、そんな人物だった。彼と一対一で話したことなど士郎は殆どないに等しく、そんな彼のイメージも『凛のサーヴァント』という薄いものでしかない。

 

そう、アーチャーの死は士郎に衝撃を起こすほどのものではない。

しかし困惑は。

あるいは混乱は、確かに与えていた。

 

凛の話と現在の状況。

それらを照らしあわせた時、浮かび上がる事実は残酷なものだ。

それはつまり、彼らが想定する『敵』はサーヴァント四騎を持ってしても抗し切れぬ難敵であるということ。しかもアーチャーという犠牲を出してもなお倒しきれないというもので……

 

士郎は一度深呼吸をし、心を落ち着かせる。

 

「俺らの敵は、何なんだ」

 

そして、ズバリ核心を尋ねた。

 

「それは…………そうね。どう言えばいいのか…………それは多分、過去に起こった愚行の積み重ねだったり、見て見ぬふりをしていた責任、なのかもしれない…………。あるいは、この聖杯戦争そのものが敵と言って過言じゃないわね…………」

「……何を言ってるんだ? もっと簡潔に言ってくれ、遠坂」

「だから……えっと……」

 

どうにも要領が掴めない。

士郎の問いに、言い訳のように言葉を並べる凛の姿は落ち着きがなく、支離滅裂で。

士郎の中にある凛の姿とはどこを切っても重ならない。全くの別人のようだった。

 

「リン。気持ちはわかりますが貴方らしくもない」

 

そう思っていたのは士郎だけではなかったようだった。

 

「もう十分でしょう。エミヤシロウも心の準備が出来たはずです。状況を聞き、彼がどう行動するかが懸念だったようですが、しかし私達にはもう時間が無いのですよ」

「……そう、ね」

「ちょっと待て。それはどういう――」

 

士郎は最後まで言葉を紡がなかった。

凛の顔を見て、それが意味のないことだと気がついたからだ。

 

顔を上げた凛は士郎の知る遠坂凛だったから。

強く、気高く、そして毅然とした、そんな彼女だったから。

 

「士郎。私達の敵は――サーヴァント三騎の能力を活用してまで襲撃に気を配るほどの戦力を持つ私達の敵は…………御三家のひとつ間桐家の息女、間桐桜よ」

「…………な」

 

――言ってる意味がわからなかった。

 

理解できなかった。わけがわからなかった。

 

その答えを発したのが遠坂凛だったから。こういう場面で冗談なんて口にするようなやつじゃないと知ってたから。

 

なおさら、信じられない。

 

信じられなくて、信じたくなくて、信じているからこそ士郎の思考はショートし、理解を放棄した。

 

そして、一瞬の間を置いて士郎の思考回路が復帰した瞬間。

 

「げら。げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら――――」

 

朱色の暴力が、()()()()()

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

士郎が凛から衝撃の事実を聞き及んでいる間にも、マーダー、セイバー、ライダーの三騎は周囲の警戒を怠っていなかった。むしろ、いつもに増して極度の集中と繊細な神経で、襲撃を察知しようと気を張り巡らせていた。会話をするというのは、気が緩んでるのと同義である。襲撃者が来るならばこのタイミングだろうと、ライダーはともかくマーダーとセイバーは想定した。

 

およそ、周囲一〇〇メートル。

 

彼らの知覚範囲を総合した結果、陣形のほぼ中心である士郎の位置からの警戒域である。彼らが小走りに移動していることを踏まえたとて、精々誤差一メートル程度。仮に敵が狙撃という手段を取ったとて、着弾までコンマ数秒前に察知できる距離だ。

その時間は、サーヴァントである彼らにとって無限にも等しい。

 

どんな手段を取ろうともすぐさま即応できる。

 

それだけの自信が彼らにはあった。

 

「ぎゃはは」

 

だが、そんな彼らでも空から降ってきた『彼女』に対して対応が一歩遅れた。

 

空から降ってきたということが想定外だった、というわけではない。

証空からの奇襲に備えてもちろん周囲と同じよう、上空一〇〇メートルまで警戒網を広げていた。飛んでる鳥一匹、飛来する銃弾ひとつ見落とすはずもない。

 

朱色の『彼女』の存在を忘れていた、というわけでもない。

ここにいるものは士郎を除いて、敵が誰だかしっかりと理解している。敵として『彼女』が出張ってくることなど当然のこと。だからこそ、これほどの警戒をしていた。

 

 

『彼女』の規格外さを認識してなかった、というわけでもない。

今次聖杯戦争に置いて『彼女』を除けば近接戦最強のセイバーと多彩な技術と技量を持つアーチャー二騎を相手して、赤子同然に扱った『彼女』を甘く見ることがどうして出来ようか。その厄介さの認識は三騎に共通していた。

 

だが、しかし。

 

「きししししししし」

 

敵本体が新幹線に比する速度で落下して来るなど、誰が予想し得ただろうか。

 

「うそ、だろ…………ッ!?」

 

ライダーが動くよりもまず驚愕を口にしたことを誰が責められよう。

 

それは生身の人間が出していい速度ではない。

単純に新幹線と同じと言うが、それだけの速度を出すのに必要な高度とは一体どれほどのものなのか。一〇〇メートルや二〇〇メートルでは桁が足りないはず。最低でも一〇〇〇は必要なはずだ。

 

想像を絶する高さからの単身フリーフォール。

 

あまりに予想外の攻撃に、彼らの対応が遅れたのは致し方ないことだろう。

彼らは一瞬顔色を驚愕に染め――しかし、次の瞬間には冷静に思考を回し始めた。

 

『彼女』の速度は確かに信じられないほど早いが、それはあくまで人間が出す速度にしては、という話。速度にしてマッハにも届かぬのでは、拳銃弾の初速にすら大きく劣る程度。

インパクトはでかいが、想定した速度を遥かに下回る。

 

ゆえに、驚愕から立ち直った彼らに与えられた時間は比較的多いものではあった、のだが。

 

(…………どうしろって言うんだ、この状況)

 

空から落ちてくるのは小さな拳銃弾ではない。大質量の人間である。

 

普通ならば、降ってきた本人が見るに耐えない死体になっておしまいなのだが、相手は『彼女』。落下エネルギーをそのまま攻撃に転用しかねない。簡単に言えば、このまま地面に直撃した場合それは質量兵器に成り、ここら一帯に爆弾でも落ちたかのような惨状になるということ。

 

落ちてくる――いや、放たれた『彼女』は半歩動けば躱せる銃弾と違い、その分安全圏へ退避するのに時間がかかる。

 

「………………」

 

この瞬間、彼らには大きく分けてふたつの選択肢があった。

 

すなわち、マスターを連れて逃げるか、マスターだけでも逃がすか、である。

 

そこにはもちろん迎撃なんて考えはない。これは隕石をいかに受け止めるかという類の問題だし、仮にできたところで満身創痍になるのは必定。その前に立ちはだかるは、きっと無傷の『彼女』である。

 

無謀にもほどがあるというものだ。

 

だから、彼らはその取りうる二つの選択肢をわずかな時間で吟味を重ねた。

 

(最善なのは前者――マスターを連れて逃げることだ。ふたりとも無事なら、奇襲は失敗に終わったってことだし、陣形は崩されたものの被害は最小限に抑えられる……。願うべくもない現状最良の選択肢だ。問題は二人揃って逃げられるかだ――これがただ垂直に落ちる爆弾ならいい。優先する対象を見極められない追尾ミサイルならいい。しかし、落ちてくるのはあの『人類最強』だ。狂っているとはいえ、戦闘における本能は消えてないと考えるべき…………)

 

マーダーはさらに思考を深めた。

 

(もし、やつに空中で進路を変えることが可能だとしたら? もし、ある目標を持って降ってきているとしたら? …………その可能性を否定できない。いや、あの化け物じみた存在を間近で見て感じて知ってしまったのなら、誰にだって口をそろえて「あの女ならやりかねない」っていうに決まってる。つまり、俺が採るべき――いや採らざる負えない選択肢は)

 

マーダーは決断した。

それに遅れて、残りの二人も同じ結論に至った。

 

その結論は、マスターたちを一メートルでも遠くこの()()()から遠ざけること。

 

ゆえに彼らが取った行動は単純。

 

少しでも遠く距離を稼ぐために。

少しでも被害を受けないように。

 

彼らは三騎同時に、各々のマスターを掴み各方面に力いっぱい投げた。

 

そして。

 

『――――――ッ』

 

三騎がその場を退きつつ防御態勢を取ったその瞬間。

 

「げら。げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら――――」

 

冬木に激震が走った。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

――頭が揺れている。

視界がぼやける。

気持ち悪い。

まるで、急な制動を繰り返す下手な運転に付き合わされた際の車酔いのような、三半規管の不調が士郎の身体を襲っていた。

いや、それだけではない。身体の各所が痛みを訴えている。

 

うつ伏せになっていた士郎は左肩を動かした。立ち上がるためである。

しかし、反応が鈍く、痛みが返ってくる。どうやら、脱臼しているようだった。

しかし、いつまでも蹲っているわけにいかない。

士郎はふらつく身体をどうにか起こし、左肩を拙い動きで嵌めなおしている間に、何が起きたのかを思い出せる程度に冷静になっていた。

 

――そうだ、俺はセイバーに投げ飛ばされたんだった。

 

常人の何十倍もの筋力で投げ飛ばされた士郎は宙を舞い、ここに着地――というより墜落したのだ。通りで身体が痛いわけである。

 

士郎は周囲を見回した。

そこは冬木教会からほど近い墓地だった。セイバーの投擲により、随分と飛ばされたらしい。目的地である冬木教会は目と鼻の先だった。

 

「セイバー! 遠坂! 誰かいないのか!?」

 

見える範囲では士郎の他に誰もいなかった。ゆえに声を張り上げた。士郎の声は深い闇に薄れ溶けていき、寒い冬の風と時節聞こえる強大な力が凌ぎあう音だけがこの夜を支配していた。

 

ふと、士郎は音のする方向へ行くべきか迷った。

宙で数瞬気を失ったらしい士郎は今この状況を正確に掴んでるというわけではなかったが、それでも音の先には誰か戦っていると知れた。

 

味方はわからない。

しかし敵はまず間違いなく、落下してきたあのバーサーカーだろう。であるなら、今から救援に駆けつけたところで士郎程度では足手まといにしかならないのは考えるまでもない。

 

「…………よし」

 

幸いと目的地は近い。

士郎は僅かに逡巡すると、イリヤが待つ冬木教会に向かうことに決めた。

 

他に人がいないか周囲を注意深く見ながら移動し始めた士郎だったが、その歩みは一分と続かなかった。

公園にある電柱の上に器用に立つ一人の男の姿に絶句したからだ。

 

「アーチャー、なのか……?」

 

電柱の先端で器用にバランスを取り、士郎たちを睥睨していたのは、紛れも無くアーチャーだった。

ひょろりと長い頭身。忍者というにはあまりに奇妙な、スーツのような洋装。両手には彼の武装のひとつであり、見覚え深い二挺一対の『刀』炎刀・銃が握られていた。

 

見間違えようもない。彼は、凛のサーヴァントだったアーチャーだ。

 

視覚情報に限って言えば、三日前の彼とほとんど変わりはしない。自分のマスター以外に対して無口であるのも、彼の特徴らしい特徴のひとつに数えたって問題はない。

 

……ただ、ひとつだけ。

 

彼の特徴でもある、『不忍』と書かれた仮面だけは違っていた。

 

アーチャーの顔を一部の隙間もなく隠し、傷ひとつない真っ白だったそれは、今やヒビ割れ朽ち果ていた。割れた面の隙間からわずかに覗かせるは彼の素顔、のはずだが、そこにあるのは洪水のように渦巻くどす黒い闇。それが月光を遮り、彼の第二の仮面と成す…………

 

そう見えてしまうのは、想定外の事態に士郎が動揺しているためか。はたまた、闇夜のいたずらか。

 

「………………」

 

しかし、これはいったいどういうことなのか。

 

凛は確かにアーチャーが死んだと言った。

にも関わらず、彼は五体満足で士郎の目の前に現れた。

 

状況がつかめない。知り得たはずの情報と現実が決定的に食い違っている。

困惑する士郎とは対照的にしかし高みから睥睨するアーチャーは一言も言葉を発さず、外から見る限りでは冷静そのものだった。

 

「…………どうしたんだよ、アーチャー」

 

ゆえに、だろう。

士郎は、無性に腹が立った。

 

彼のことを知っていると吹聴できるほど、同じ時間を過ごしたと士郎は決して言えない。しかし、それでも彼は遠坂凛の忠実なサーヴァントであることぐらいは理解していた。

それと悟られないよう付き従い、決して主の期待に沿わない。忍者というよりは優秀な執事のような、サーヴァント。

 

だからこそ、理解できない。

あの遠坂凛が疲労の色を他人に見せるほど余裕がない状況であるにも関わらず、アーチャーが彼女の側にいないことが。

 

そして。

 

「…………なんで」

『……………………』

「なんで、お前が()()に立ってる! まるで、俺達の目指してる場所を塞ぐように立ってるんだッ!」

『……………………』

「それじゃ、まるで――」

 

――敵みたいじゃないか。

 

士郎の言葉は最後まで続かなかった。いや、続けられなかったという方が正解かもしれない。

その言葉を肯定されることを士郎は無意識に厭った。

どこまでも凛の忠実なサーヴァントであるはずの彼の口から、否定の言葉が出るのを恐れたのだ。

 

壊れかけなのか揺らめく街灯が照らす墓地で、瞬間、沈黙が流れる。

途切れた言葉の穂を士郎が掴みかけてると、アーチャーが動いた。

 

『………………』

 

アーチャーはゆったりとした動作で、炎刀・銃を士郎に向ける。

そして、カチリと撃鉄を上げた音が士郎の耳に届く。

 

それは言葉以上の明確な拒絶だった。

 

それと同時に、士郎にとっての敵味方識別行動のひとつでもあった。

 

「………………っ!!」

 

瞬間、熱くなっていた士郎の頭が音を立てて冷えきっていくのを感じた。

 

撃鉄を起こす。

今すぐにでも五体を引き裂き、心臓へ鉛弾を叩き込むことが出来るという示威行為。あるいは、予備動作。

直裁的に死をイメージさせるその行動は、奇しくも彼の魔術を発動する際に行うイメージとほぼ同等のものだった。

 

その光景に端を発し、『人間』衛宮士郎から『魔術師』衛宮士郎に置き換わっていく。

驚くほど冷静に世界を観察できる。惜しまれるほど非感情的に状況を把握できる。

もはや、彼の心に迷いはなかった。

 

「――――――――――」

 

走馬灯のように引き伸ばされた世界で、士郎がまずはじめに認識したのは、アーチャーの動きだった。

 

炎刀・銃のトリガーかけられていたアーチャーの指にほんの少しだけ、しかし確実にトリガーを弾ける十分な力が加えられ始めていることがわかる。当然、彼がトリガーを弾き終えたならば、撃鉄は落ち、照準された士郎の身体を違うことなく撃ちぬくことだろう。

 

――――このままなら死ぬ。

 

それを士郎は純然たる事実として弄ぶ。

 

なるほど、状況はわかった。ならば、次は打開策だ。

 

士郎が次に注視したのはアーチャーの構える銃だった。

 

否、それは銃ではない。

 

刀だ。

二挺一対の刀。四季崎記紀が作りし完成形変体刀が一振り、炎刀・銃。

回転式連発拳銃と自動式連発拳銃を模して作られた、ただの刀。

 

士郎はその刀から引き出せるだけ情報を引き出し、現状における最適解を見つけ出さんとしていた。

 

回転式連発拳銃の初速はおよそ秒速四四〇メートル、自動式連発拳銃の初速はおよそ秒速三八〇メートル。アーチャーのいる位置から士郎の身体までおよそ二〇メートル。

着弾までコンマ一秒もかからない。

 

飛んで逃げるのは無意味。あれは連発拳銃。自動で次の銃弾を送り込むダブルアクション。先の撃鉄を上げる動作すら本来必要な動作ではない。逃げたとて、次弾が命中してそこで終了。

 

――ならば、全てを防ぐ。

 

そう決めた士郎は己の内にあるストックから最適な『刀』を見つけ出す。

 

神経が裏返り魔術回路と化した全身を大いに活用。コンマの世界で士郎はそれを投影し――――そして。

 

「――――――ッ」

 

銃弾の雨が降った。

総数およそ十七発の弾丸が士郎のいた空間を抉り、穿つ。

一撃一撃が容易く人を死に至らしめる攻撃。音速以上で死を運ぶ、人類が生み出した殺人兵器。

 

「……あぁ。やっとわかった」

 

しかし、その攻撃を受けてなお、士郎は変わらずそこにいた。

彼が身に纏うは、四季崎記紀が作りし完成形変体刀が一振り、賊刀・鎧。

全身くまなく『刀』で覆う、弱点を見せない防御に特化した最強の鎧。

本来のものより幾分か劣化しているが、その役割を大いに果たし崩れ落ちてく。

 

そしてその中から怪我一つない士郎が姿を表した。

 

どうしてなのかはわからない。

経緯なんて知る由もない。

 

だが、これだけはわかる。

 

「――――アーチャー。お前は敵だ」

 

『魔術師』として機能し始めた士郎はそのことを事実として己の内に落としこむ。

敵と判ったならば、後は戦うだけのこと。ただ、それだけの話。

冷静な部分が判断し、士郎は現状取りうる打開策を模索し始めた。

 

――しかし、士郎は知っていたのだろうか。

そう言った彼の表情がわずかに苦痛で歪んだことを。

 

『………………』

 

それを知るものは、未だ黙して語らぬアーチャーのみだった。

 

 

 

 




すみません……更新が滞りました。
色々な作品のプロットを練っていたのが原因です…………まぁ、結局どれひとつ大した形にならならかったのですけど。
更新を待っている方が居らっしゃるかはわかりませんが、取り敢えず体裁が整ったので投稿を…………




以下、士郎の使用した宝具の説明


 賊刀・鎧(ぞくとうよろい)
   ランク:C
   種別:対人宝具
   レンジ:1
   最大捕捉;1人


 四季崎記紀が作りし完成形変体刀が十二本のうち一振り。守りに主眼が置かれた、巨大な防御力を有する、甲冑を模した刀。
 使用者が着こむことにより、すべての攻撃を防ぐ鎧にも衝突するもの全てを切り裂く刀とも成る。ただし通常の甲冑より巨大なそれは普通の体格では使うことが叶わず、非常に人を選ぶ宝具だと言える。
 士郎は改良を加え、自分の身体に合うよう調整したことにより使用を可能にした。しかし、その分機動力を犠牲にしたため移動することが出来ない。
 本来Bランクだが士郎が投影したことよりランクダウンしている。


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