ニシオニストによる聖杯戦争、あるいはただの蛇足   作:堂升

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奇跡、あるいはただの予定調和

 6,

 

人間死ぬ気になれば何だって出来る

だから、まず死んでみよう

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「衛宮くん………?」

 

アーチャーに連れられて校庭に凛が到着した時にはすでに遅すぎた。

そこは終わっていた。

 

音ひとつたてない物言わぬ骸。

人体のどこにこれほどの量があったのかとめまいがするほどの夥しい血痕。

膾切りにされたのか幾重にも刻まれた未だ新しい傷跡。

斬り千切られた無残な右腕。

―――衛宮士郎だった存在がそこにはあった。

 

その姿に凛は一瞬忘我する。

死体というにはあまりに無残なそれに手を当てる。

湿った水音を立て付着する血液は未だ温かい。しかし、鼓動はない。いずれ冷たくなっていくだろう。

それは彼の生きていた証拠で―――そして、すでに助からないと確信するに十分な証左だった。

 

「阿呆姫………」

「―――私は大丈夫よ」

 

心配そうな声音で探るように尋ねるアーチャーに凛は答える。

しかし、その声はわずかに震えていた。

纏わりつく後悔を必死で振り払い凛は毅然とする。それこそが自分のなすべきことだと言うかのように。

 

「辺りに敵サーヴァントの反応は?」

「不解(わからず)。しかし、どうやらすでに去ったようだ―――ことここに至って襲撃が無

いのはそういうことだろう」

「―――そう」

 

離脱してから凛が決断するまでのわずかな時間であの少年はこの状況を作り出したというのか。

 

もし。

もし、あの時私の下す決断が早かったら。

もし、マーダーの前に姿を現すなんて失態を犯さなかったら。

 

目の前の惨劇を回避できたのではないか。

そんな考えが凛の中に浮かぶ。

私が。

私がもっと、私がずっと、私がうまく、私が強く、私が早く、私が―――

 

と。

 

「不及(およばず)。阿呆姫、それは傲慢と言うものだ」

 

自虐の螺旋に苛まれていた凛の頭をアーチャーが軽く叩く。

 

「確かにそれは事実かもしれない。あるいは―――もしかしたら―――そんな可能性もあった

かもしれない。しかし、それは阿呆姫のせいではない。過去は変えられぬ。ならば、そのことを悔やむより前を見て未来を変えるしか無いだろう」

 

「―――そう、ね」

 

アーチャーの言葉にしかし凛は顔を晴らさない。

聖杯戦争の原則は暗闘。

しかして、一般人に被害が及ばないという確証はない。

事実、過去行われた聖杯戦争では大きな被害が出ていることを凛は知っていた。

魂喰いをしてまで聖杯戦争に望むマスターが存在するのも知っている。

全て分かっていたつもりだった。

 

だというのに。

心は動かない。

後悔から一歩も動かない。

 

覚悟していたはずなのに、その事実を目にするとどうしても足を止めてしまう。

 

「―――ままならないものね」

 

ああ、本当にどうしようもない。

それは自身の弱さに対する告解の言葉だったが、同時に犠牲を払わずに聖杯戦争を生き抜くと

決めていた凛の強い意志のかけらでもあった。

 

「どうする、阿呆姫?」

 

「どうする、っていうのは………?」

 

「敵が去ったとはいえ、ここは先程まで派手に戦闘を繰り広げていた場所だ。他のサーヴァン

トが来ないとも限らない―――つまり、マーダーを追撃するか、撤退するかということだ」

 

その言葉に凛は疲れを滲ませる緩慢さで顔を上げた。

 

「―――撤退よ。聖杯戦争は長いこれ以上ここにいても得られるものは無いわ。彼のことは残

念だったけどそれは仕方のないこと―――」

 

アーチャーに答えるというよりむしろ自身に言い聞かせるような言葉だったが―――しかし、

それは途中で止められた。

凛の耳に異音が聞こえてきたからだ。

 

()()()()と。

 

まるで硬質なナニカを軋ませるような異音。

 

音源の方向に凛はとっさに振り向いた。

そこにあるのは骸となりはてた衛宮士郎の成れの果て。

 

―――否。

 

「これは―――」

 

凛は急いで駆け寄った。

もはや助からないと確信していた士郎の身体。膾切りにされ、心音は止まり、右腕は後は脳死を持つだけだった死に損ないというのも憚れる人体。

そのはずだった。

しかし―――

 

「なに、これ………」

 

―――先ほどまで夥しいほどの血痕が漏れでていた傷口が塞がっていた。

しかも通常のふさがり方ではない。

士郎の身体の傷口から大量の刃が意志を持っているように這い出ていた。

体内から―――湧き出る銀色の刃。

それが互いに噛み合うようにして傷口を塞いでいた。

 

擦れて()()()()と。

互いの刃を削り合いながら傷口を塞いでいた。

 

「――――――」

 

身体を治しているはずのそれは、しかし凛の目にはむしろ傷を抉っているようにしか見えなか

った。

 

「これって、魔術による治癒なの………?」

 

それにしたって異常だ。

治癒と一口に言ってもその方法は千差万別。

魔術師として有能を通り越して天才の域にある凛からすれば、その数は―――不効率で不十分なものも含めればの話だが―――両の手で数えきれぬほどある。

 

それだけの魔術を知っていた凛だからこそ、目の前の回復しているというより刃に侵食されているような現象が治癒だと気づけた。

 

才に乏しい三流魔術師でもまだマシな治癒魔術を使える。

 

それほどの無駄。

比べるまでもない不効率。

呆れるほどの徒労。

 

しかし、実際目の前で士郎は『再生』している。

作り替えられていると言い換えてもいい現象だったが、表皮に刻まれた細い傷口はすでにその後すら見えなかった。

 

もしかしたら、彼が生きているのではないか。

その疑念とともに凛は震えながら士郎の胸に手を当てる。

―――鼓動は動いていなかった。

 

「――――――ッ」

 

しかし、魔術は発動している。

今なら助かるかもしれない。

 

その感情に押されるまま、凛は首元から虎の子の宝石であるペンダントを取り出す。

そして、それを翳して士郎を治癒しようとして―――

 

「待て、阿呆姫」

 

―――アーチャーに止められた。

 

「―――離しなさい、アーチャー」

 

「不離(はなさず)。冷静になれ」

 

「冷静になるのは貴方のほうよ!今ならっ!まだ今なら衛宮くんを治せるかもしれないのよ!」

 

「………冷静になるのは貴方だ、阿呆姫。この男は魔術師なのだろう。ならばマスターの可能

性がある」

 

「――――――」

 

凛ははたと止まる。

―――わかっていた。彼が魔術師であると気がついた時からその可能性を考えない訳がなかった。

だけれど―――

 

凛の心に浮かぶはとある日常のワンシーン。

それは学校風景。

いつもの日常のなかで互いに楽しそうに笑う妹である桜と士郎の姿があって。

それは酷く尊いもので―――そして決して壊してはいけないもののように凛には思えた。

償えるとは思えない。

いまさらお姉さんぶるつもりもない。

 

しかし、だからこそ凛は―――

 

「―――そんなこと言われなくてもわかってるわ。それでも私は衛宮くんを治療するの。だか

ら―――その手を離しなさい、アーチャー」

 

「………………了解した、阿呆姫よ」

 

言葉は同じだったが、そこに篭められた決意の色は違う。それを感じ取ったアーチャーはひとつため息をつくとおとなしくその手を離した。

すぐさま、凛は士郎に駆け寄る。

そして、首にかけたペンダントを取り出した。

 

「――――Anfang《セット》……!」

 

凛の持つなかでも一番に魔力を篭めた最大最強の宝石が燐光を散らす。

―――かくして、正義の味方候補は復活を果たしたのだった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

時は駆け回る。

あれから。

なぜか助かっていた士郎はひとり家に帰ると荷物を片付ける気力もなく、リビングに投げ出した。

朝は賑やかなはずの衛宮宅も今は静かで、人の気配はしない。暗い部屋の電気をつけ、士郎は大きくため息を付いた。

 

酷く、頭が痛い。

気を落ち着けるため―――そして、考えを整理する時間を欲したため、やかんを火にかけお茶を入れいることにした。

 

「………………」

 

それを待つ間、学校であったことについて思いを馳せる。

 

あの後。

校庭で目を覚ました士郎は全身に走る痛みを自覚しつつ、しかし先ほどの戦いは夢だったのかとまず疑った。

死んだと思っていた。

それほどの怪我だったのである。

怪我というより、死因と言ったほうが的確かもしれない。

全身は膾切りにされ、漏れでた血液はおおよそ人体に蓄えられている量と相違ない。

そう錯覚するほどの流血。

あまりの激痛に意識を失う直前でさえ、それだけの血が溢れでていた。

士郎が死んだと思っても無理は無いだろう。

しかし、自分は生きている。

随所に響く、今すぐに意識を手放したくなる激痛にこらえながら、身体を起こした。

未だに生の実感がわかず、両手の握力を確認するようにわきわきと動かしていると、士郎はそれに気がついた。

 

右腕が付いている。

 

「――――――」

 

骨半ばまで断ち切られ、神経すら切断されていたはずのそれ。

しかし、今では士郎の自由に動かせた。

動かすたびに響く鋭い痛みがあるが、無視できる範囲だ。

 

さらに調子を確認しようと、断ち切られたはずの腕の部分に手をやり―――さらに士郎は驚愕した。

 

傷口には金属で出来たナニカが張り付いていた。

最初は士郎の気が付かぬ間に鎧の一部でもかぶせてあるのかと思った。

しかし、すぐに違うと確信する。

引っ張っても剥がそうとしても、びくともしない。

どうやら、完全に士郎の身体に癒着しているようだった。

―――いや。

むしろ、士郎の身体であるかのようだった。

 

「――――――」

 

不思議な感覚だった。それは明らかに人の身体の一部ではない。

しかし。

士郎にはソレが自分の一部だと確信していた。

なぜだと問われても答えは出ない。

そうだと、感じたからとしか言い様がない。

 

それは奇妙な直感でしかし言いようのない自信にあふれていた。

 

「………………」

 

しかし、いったいどういうことだろう。

士郎は今にも寝そうになる頭を叩き起こし、全力で回転させた。

もし、士郎に起きたことが現実ならば、その現場である校庭は血の海になっていなければおかしい。

だが、士郎の周りには血痕の一滴も溢れていない。

これならば、いっそあの全てが夢だったというほうが信じられるぐらいである。

 

わからない。

いったいどうして――――――

 

考えても答えの出ない思索に没頭しそうになった士郎の耳に甲高い笛のような蒸気の鳴る音が聞こえた。

士郎は現実に立ち返る。

どうやら、茶を入れるため火にかけていたやかんが沸いたらしい。

 

思考を中断し、湯呑みに茶を注ぐ。

ほんのり香る日本茶の匂いは士郎の心を落ち着かせた。

それとともに止まっていた考えが動き出す。

 

しかし、考えても答えは出なかった。

 

「―――だけど証拠はあるんだよな」

 

そういって士郎は学生鞄から取り出したのは刀身半ばで叩き折られた短刀の柄。

丁寧に布で包み持って帰った唯一と言っていい士郎の戦った証拠は鈍く光を反射し、確かにそこにあった。

士郎の魔術で創りだした逸品。

あれが現実であるなら、この他に壊れてない長刀と短刀の二振りがあるはずだが、それは発見できなかった。

ただ、その変わりに発見したものもある。

 

「これって、誰のなんだろうな………」

 

更に取り出したのは血のように赤い綺麗なペンダント。

光を乱反射し見事に輝くそれはしかし首にかけるだろう鎖の一部が千切れ飛んでいた。

なぜあの場に落ちていたのかはわからない。士郎が戦った少年もこれをつけていたように見えなかった。

そも、このペンダントは女性用である。

確かに白斑の少年は中性的な容貌をしていたが似合うとは思えなかった。

 

矯めつ眇めつ眺めるが答えは出ない。

 

「やっぱり、あれは夢だったのかな………」

 

検証を諦めて士郎が時計に目をやるともうすでに午前二時に迫ろうという時間だった。

弓道場を出たのが午後八時であることを考えると、おおよそ五時間強、学校の校庭で寝ていた

ことになる。質の悪いナルコレプシーかなにかを疑うほどだ。

 

茶を口に含み、ほぅと一息つく。

はたと士郎は未だ夕食を食べていないことに気がついた。

なにか食べ物は無いか冷蔵庫を開ける。急いで帰ってきてため、大したものは入ってなかった。

それでも、今日と明日の朝の分は足りるだろう。

 

「さて、なにを作ろうかな………………」

 

士郎が台所に立ったその時だった。

一斉に家中の電気が消えた。

 

「停電………?ブレーカーが落ちたのか………?」

 

辺りを照らすのは月明かりとガスコンロの灯火のみ。

そのわずかな明かりを頼りに士郎はとりあえず中庭に出ることにした。

停電だとしたら周囲の電気も落ちているはずである。すでに午後二時を時計は差しており、寝ている家主も多いかもしれないが、街灯は別だ。

停電かどうかを確認した後でブレーカーを上げに行こう。

 

そう決意して士郎はふすまを開け、中庭に出るガラス戸に手をかけた瞬間―――

 

「かはは―――みぃつけた」

 

―――身体に怖気が走った。

 

その声を耳にした瞬間、士郎の中にある魔術回路が鎌首をもたげるのを感じた。

その勢いに逆らわず、士郎は己が魔力を回路に充実させる。

 

―――投影、開始。

 

暴走しそうになる魔術回路をむりやり抑えつけつつ、その魔術を顕現させる。

投影するは二度投影した大小二刀の日本刀。すでに一度振るったことのあるそれは吸い付くように両の手に収まった。

 

ガラス戸を勢い良く開け、中庭に出る。

 

「なぁんだ―――逃げると思ったぜ」

 

―――そこには予想通りの人物がいた。

白斑の少年。

校庭で死闘を繰り広げた、士郎の敵。

 

―――いや、少年にとっては死闘ですら無かったのだろう。

士郎では手も足も出なかったのだから。

もしかしたら、戦闘とすら。

思っていなかったのかもしれない―――

 

そんな折れそうになる心を必死で鼓舞し、ナイフ片手にゆっくりと近づいてくる少年を睨みつける。

しかし、少年はそれを飄々と受け流した。

 

「―――傑作だぜ。全く、他のサーヴァントが近づいてくる気配があったから殺さずに―――

半殺しで放置したのに―――しれっと生きているんだからな。それでも、後十分もあれば死ん

でたはずなんだが………………見たところ、両断した右腕も治っているようだし、もしかして

あんた、治癒も使えたのか?」

 

「お前には関係ないだろ」

 

ピシャリとはねのける士郎の言葉に少年は呆れるように肩を竦めた。

その仕草を見て、どうやら学園での戦闘は士郎の夢では無かったようだと確信する。

あの戦いは確かにそこにあった。

だとすればそう―――

 

「つれねえな。殺す相手のことを知りたいと思う俺の気持ちを汲み取ってもバチは当たらない

と思うぜ?」

 

「――――――」

 

「だいたい、その両手の武器はなんだよ。俺と殺るつもりか?」

 

「――――――」

 

「あれほどぼろぼろにされたのに? その気力に俺は呆れるぜ」

 

―――目の前の殺人鬼(しょうねん)正義の味方(えみやしろう)は認められない

顔半分を覆う刺青が歪む凶相じみた笑顔を向ける少年に、士郎は吐き捨てる。

 

「―――これ以上喋るな、殺人鬼」

 

「―――あんたには呆れるぜ、魔術師」

 

それが開戦の合図だった。

もしくは虐殺の。

どちらであろうが、ともかくそれは始まった。

 

少年の殺気が膨れ上がる。

少年が発した言葉が士郎の耳に届いた瞬間、すでに彼は士郎の目の前にいた。

急所を的確に狙い振るわれるナイフ。

 

さきほど防ぎきれなかったそれをしかし、士郎は防いた。

それは運が良かったと言う他ない。

もしかしたら、一度見た攻撃だったため心の準備ができていたという可能性もあるだろう。しかし、所詮はその程度。士郎が身体能力と反射神経だけで防げるほど少年の攻撃は甘くはない

―――だとしたら、やはり士郎は運が良かったのだろう。

 

しかし、ただで済んだわけではない。

勢いを殺しきれず、中庭に吹き飛ばされた。

たたらを踏みなんとか体勢を崩さず着地する。

ナイフを受けた短刀は砕け散り、無用の長物に変わっていた。

 

「やるな、受け止めたのか」

 

口笛をふき少年は戯けたように士郎は賞賛した。

 

あれは挑発だ。

―――いや、少年は本気で褒めているのかも知れないが、しかし士郎にとっては挑発だった。

 

自分から少年に動くのは下の下だ。

もとより、士郎と少年の力量差は一度戦った結果で知れている。

正面から向かったところで一蹴されるのが関の山。

士郎の持つ武器は両手に握る投影魔術で編まれた大小二刀の刀。そして、その刀が伝える本来の持ち主の経験だけ。

その経験も未熟な士郎が全てを使いきれるわけではない。

 

であるなら、防御。

それも、士郎が一度見た二刀を器用に使い、斬撃の檻を作り出す剣戟の極地。その一端を――

―十全に扱えなくとも、一部でも再現してみせる。

 

その決意とともに二刀を少年に構えて―――

 

「だから、それはあんたには無理だって」

 

―――真横に吹き飛ばされた。

知覚も直感も出来なかった。

予兆すら掴めなかった。

瞬間的に加速した少年の蹴りが叩き込まれ、掛けてあった鍵をブチ壊し土蔵の中に士郎は吹き飛んだ。

 

「―――ぁぐ………ッ」

 

背中から受け身も取れず落下し、呼気を乱す。

随所に激痛が走る。頭が朦朧とする。まるでむりやり直した玩具が壊れたように士郎の身体が悲鳴を上げた。

しかし、痛みに蹲っている暇はない。

 

少年は一歩一歩踏みしめるように―――そしてその音を士郎に聞かせるように足音を鳴らす。

敵はすぐそこまで来ていた。

 

「―――ッ―――ッ―――投影、開始ッ!」

 

いつの間にか砕かれていた両手の刀を再投影。

再び立ち上がろうとする。

が。

 

「――――――ぁ」

 

再構成されたはずの刀が砕け散る。再び投影魔術を使用するが今度は形にすらならなかった。

ザッと。

足音が土蔵の入り口からする。

顔を上げればそこには白斑の少年が、いた。

 

「―――限界、だな。戦ってわかったがあんたは未熟な魔術師だ。その魔術だって理論や原理

を吹き飛ばしていきなり発動させたもんだろ? それが続けて三度―――細かく言えば四度か?

―――まぁ、それはともかく」

 

「―――ッ―――投影ッ、開始ッ!」

 

「よくそれだけ続いたもんだぜ。さながら、自家用車にジェットエンジンと翼を付けて空飛ばすようなもんだ―――むしろ、ここまで持ったことを誇れば良い」

 

「―――くそっ!どうして創造《で》きないんだ!投影、開始ッ!」

 

「あー………………。だから無駄なんだって。ま、魔術に片足突っ込んだぐらいの一般人がよくやったほうだぜ。褒めてやる―――」

 

「―――投影!開始ッ!」

 

「―――だから、俺の賞賛を胸に死んでいけ」

 

少年がナイフを振るった。

その軌跡が士郎には手を取るように判る。死を感じる際の走馬灯。わずかな時間が無限に感じるほどに伸ばされた世界。しかし、士郎にはどうすることも出来ない。

 

ここで死ぬのか。

俺は無為に―――ただ徒にその生命を散らすのか。

そんなのは嫌だ。それは駄目だ。それこそ、嘘だ。

 

―――いや。

死ぬのはいい。誰かのために死ぬなら本望だ。正義の味方に殉じるなら本懐ですらある。

 

しかし。

しかし、ここで死ぬのだけは―――この殺人鬼に殺されるだけはゴメンだ。

 

そう願う。

強く―――ただひたすらに願う。

 

かくして、聖杯はその願いを正しく汲み取る。

懇願こそが、立ち向かえぬ脅威に対してできることのただひとつであるのだから―――

 

「――――――なッ!?」

 

―――瞬間、土蔵に光が溢れた。

少年はその事態に危機感を覚え、大きく距離を取る。

膨大な光の奔流。滂沱のごとく生み出る光源。その源には―――

 

「―――あんたが俺の持ち主か」

 

―――ひとりの英霊の姿がそこにはあった。

 

 

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