土佐さんは少々抜けている   作:さいどら

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第1部 土佐さんとの出会い
土佐さん、現代社会にやってくる


「…なんだ貴様は」

 

「全く同じ言葉を返すぞ!?」

 

しがない会社員の俺は残業を終わらせ、マンションの自室の鍵を開け、玄関に足を踏み入れた。

 

俺は一人暮らしである。

 

この後カップ麺を食べ、シャワーを浴びて、少し動画サイトで動画でも見てから寝ようかと考えていたのだが…目の前にはグレーの髪色をした女性が立っていた。頭には青い狐面を付けているのも確認できる。

 

一瞬空き巣じゃないかと疑ったが、空き巣は家主と鉢合わせして「なんだ貴様は」なんて言わない。

服装もどうやら和服を着ているようだ。帯刀…までしているがそれに手を掛ける気はないらしい。

 

「空き巣…じゃなさそうだな」

 

「なっ!?誰が空き巣だ!私は加賀型戦艦二番艦・土佐だ!」

 

「か…加賀型戦艦、土佐?ちょっと待ってくれ、何が何だか…」

 

残業の疲れもあるのに、様々な情報が一気に脳を駆け巡る。

 

なぜ鍵を閉めたはずの俺の部屋に人がいる?

なぜ彼女は自分のことを戦艦と名乗る?

加賀型ってそもそもなんだ?

なぜ彼女は狐面を付けている?

和服を着ている理由も理解できない。

 

「勘弁、してくれ…」

 

耐えきれなくなった俺は、その場で倒れ込んでしまった。

 

_________________________

 

目が覚めると、俺は布団に寝かされていた。

 

「…!確か玄関で倒れたような…夢?なんか銀髪に狐面まで付けた…」

 

「それは私だ、悪いが夢じゃない」

 

寝室の扉を開けて入ってきたのは、昨夜玄関に立っていた女性だった。

 

「うわっ!びっくりさせるなよ!」

 

「うるさい!私だって右も左もわからないんだぞ!」

 

「はあ…」

 

どうやら、倒れた俺をわざわざ寝かせてくれたのは彼女らしい。

俺が混乱して卒倒してしまったことを彼女なりに申し訳なく思っているのかもしれない。

 

(まあ、間違いなく悪人ではなさそうだ。格好は変わってるけど…)

 

「…今日は休みだし、お互い現状を整理するためにもちょっと話さないか?」

 

俺の提案に対して、彼女も軽くうなずく。

 

「よし、じゃあリビングでゆっくりコーヒーでも飲みながら話そう。あ、そこに掛けて待っててくれ」

 

寝室となりのリビングにあるテーブルの椅子に座るように促す。

お湯を沸かしている間に、俺から名乗っておくことにした。

 

「俺は海斗。端島 海斗(はしま かいと)っていう。社会人3年とちょっとだけどようやくまともに仕事がこなせるようになってきたところだ」

 

「カイトとな、それが貴様の名か。私は加賀型戦艦…」

 

土佐だろ、と声を掛ける。彼女は覚えていたのか、という様子で俺を見ると、そのまま話を続ける。

 

「そう、土佐だ。私のことはそれで呼べばいい。セイレーンとの戦いで私は気を失い…気がついたらここにいた。外に出ようとしたら貴様が現れたわけだ」

 

「なるほどな、ですんなり頭に入るほど頭が柔らかくないんだよな俺。なあ土佐、戦いっていうけど戦えるのか?そんなタチには見えないけど」

 

「ふん、私を侮るなよ。(フネ)である私は仲間たちとともにセイレーンと戦い、母港を守っていた」

 

「艦、セイレーン…聞き慣れない言葉ばっかりだ。お、丁度湯が沸いたしコーヒーができるぞ。土佐、おまえの事情をゆっくり聞かせてほしい」

 

和服を着て狐面を付けて腰に帯刀までしているこの女性は素っ頓狂な話をしているわけで、信憑性のかけらもない。

だが彼女の目から嘘は感じられず、とりあえず最後まで話を聞きたくなったのだ。

 

「コーヒー、とな。ロイヤルの者がこぞってこれを飲んでいたが、私はあまり好きではないな」

 

土佐の目の前にコーヒーを出すと、彼女は苦笑いする。

 

「そうだったのか、ごめん…じゃあ何か別の飲み物を用意するよ」

 

「いや、いい。せっかく出してもらったのだからありがたく頂戴する」

 

そう言って土佐はマグカップの取っ手を掴み、一気に口に流し込む。

 

「待て待て待て!まだかなり熱いしそんなに急いで飲まな…」

 

「あ、熱っ!き、貴様!こんなに熱いなら先に言え!!」

 

「…なあ土佐、周りにおっちょこちょいだとか言われないか?」

 

「私がおっちょこちょいだと!?そんなことはありえん!どうして周りはこぞって私を…」

 

図星かよ。

 

それもそれだが、この猫舌土佐を見てもう一つ気づいたことがあった。

 

「それともう一つ。その耳は何だ?付け耳…じゃなさそうだ」

 

コーヒーの熱さで飛び上がった土佐の頭上には、2つの狐耳がピンと立っていた。

どうやらさっきまでは耳が垂れており気づかなかったらしい。

 

「これか?我が重桜の者達では当たり前のものだ。確かに他陣営の者たちはほとんど付いていなかったが」

 

土佐曰く、和服に隠れているが尻尾もあるらしい。

 

「重桜…ってのが土佐の仲間か。お前はその重桜の仲間とセイレーンってやつと戦っていたと」

 

「まあそれぐらいの理解でいいだろう。この世界は私の世界とは明らかに違うようだし、色々話しても貴様を混乱させるだけだしな」

 

明らかに本物の狐耳やこの格好に説明をつけるには異世界から来ました、という説明ぐらいしか説明できないだろう。

わからないことだらけだが、とりあえず納得するしかない。

 

(フネ)、って言ってたけど空母とか戦艦のことか?」

 

「ああ。そして私は戦艦だ。姉上も戦艦…空母の姉上もいるが」

 

どうやら彼女らの世界は空母や戦艦が人型になって戦う世界らしい。

 

「まだまだわからないことだらけだけど、何となくお前の事はわかったよ。で、これからどうするんだ?」

 

「私は戦うために生まれた存在。この世界にはおそらく居づらそうだし、戻れるなら戻りたいところだ。ここにずっと居ても貴様に迷惑をかける」

 

「しかし行くあてもないだろ。何か方法を見つけるまではここにいてもいいんじゃないか?ここは俺一人だし、別に迷惑がる必要は無いよ」

 

「…すまない。長居する気はないが、世話になる」

 

どこか抜けている土佐だが、ここは理性的だ。

何かの縁だが知り合った以上、俺も放っておくことはできない。

 

「じゃあそういう事で。少しの間よろしく、土佐」

 

「ああ、よろしく頼む…迷惑をかけるな」

 

こうして土佐との共同生活がスタートすることになった。

生真面目で少し高飛車な戦艦、土佐。しかし彼女は…

 

「コーヒー、感謝する。洗い物は私がやろう」

 

「ありがとう、洗剤はそこに…って待て!それは調理酒!」

 

「なっ!?貴様、ボトルの色が似ているのに洗剤の隣に置くんじゃない!」

 

…少々抜けているところがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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