お迎えできたら可愛がってやってください。
土佐さんはいいぞ…
「お兄ちゃーん!おはよー!」
「海美!?今日来るって言ってたか!?」
「言ってないけど来ちゃった!土佐さんに会いたくなっちゃって…」
突然の来客は妹・海美である。
そういえば前に買い物に付き合ってもらった時、お兄ちゃん家に行かなきゃ!なんて話をしていた気がする。
海美と土佐はたった数時間で意気投合していたし、全く凄いものである。
「土佐さんは今何してるの?」
「あー実はだな…」
ガラガラガラッ!バリーン!!
ガシャッ…ガシャッ…
「…何だか物凄い音がしたけど大丈夫?」
「多分大丈夫じゃない…だろうな…」
「貴様ッ!皿を割ったのは私が悪いが、こんな非常時に足元に躓くような物を置くな!!馬鹿っ!!…って、海美が来たのか!?はあ…なぜよりによって私が取り乱している時に…」
玄関まで飛び出してきた土佐。
朝から食器を割った土佐、どうやら躓いてさらに酷いことになったらしい。
「躓くようなものなんざ置いた覚えはないんだがな…それより怪我はないか?派手に転んだっぽいけど…」
「この程度で私が傷を負うものか!…しかし、海美の前でこんな失態とな、なんと恥ずべきことだ…」
海美と面向かって話せないと言った様子の土佐。
俺の前ではこんなことは無いんだが、同性の前だとこうなるのか土佐の奴。
「そんな、気にしないでよ土佐さん!怪我なくてほんと良かった!片付けは私も手伝うから、機嫌直して、ね?」
「ううっ…全く不甲斐ないにも程がある…」
海美の中での土佐のイメージがどのようなものだったか分からないが、今日の訪問ではっきりわかるだろう。
この狐がけっこう抜けているということを。
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「躓いたというより滑ったな土佐?それも自分で使ってた雑巾で」
「…うるさいっ!そもそも貴様が普段やりもしないのに床掃除など提案するからだ!」
割れた食器を片付け終わり、俺・海美・土佐はテーブルでコーヒーを飲みながら一息ついていた。
「お兄ちゃん、土佐さんが慌ててる時に雑巾置きっぱなしは不味いよ!怪我するところだったじゃない!」
「海美もやはりそう思うだろう!?やはりカイト、貴様が…」
「でも、土佐さんも落ち着かなきゃダメだよ!こういう時こそ足元に気をつけないとダメ!」
「むぅ…」
「わかったわかった!今回の件はお互い悪かった!それでいいだろ?」
「ふん、いいだろう。今回は海美に免じて許してやる!」
「結局悪いの俺だけかよ!?…すまん海美、来てくれて早々やかましくて。土佐とはいつもこんな感じでだな」
俺と土佐のやり取りを見ていた海美は、くすくすと笑っていた。
俺も土佐も予想していなかった反応だったため、お互い顔を見合わせることになった。
「何だか新鮮だなって。お兄ちゃんと私は喧嘩なんて全然しないでしょ?熱くなるお兄ちゃん見ることもあんまりなかったし。土佐さん、お兄ちゃんの隠れた面を引き出してる」
「それは褒め言葉とな…?」
「何と言うか…二人はお似合いかもねってことだよ、ふふ!」
楽しそうに微笑む海美である。
何だか顔が熱くなってきた。ちらりと土佐の方を見ると土佐の顔も真っ赤になっている。お互い様である。
「…そんなところでいいだろ、海美?せっかく来てくれたんだし何かほら…やることとかないか?」
「そ…そうだな。海美が遊びに来たのだ。何か遊戯をやるのは…む、そこにトランプがあるな?どうだ、それで何かやるというのは」
どうやら俺と同じく土佐も話題を変えたいらしい。
たまたま置いてあったトランプに目をつけるとはたまには機転が効くらしい。
「トランプ?いいかもっ!もう何年も触ったことないし、やりたいやりたい!」
海美も乗り気で、ほっとする。おそらく土佐も同様にほっとしているだろう。
とにかく話題を変えることができて良かった。
「トランプ…と言っても色々できるぞ。ババ抜き、スピード、ポーカー、大富豪…というか土佐、トランプのルールはわかるんだな」
「重桜発祥のものでは無いが、他陣営の奴らがやっているのを見たことがするるからな。私も少しやったことがある。今の4つは全て理解はしている」
「えー!土佐さん、他の艦船とトランプやったりしたんだ!誰々?気になる!」
「ロイヤルの者とユニオンの者と鉄血の…正直艦船の名前まで覚えていないな」
「そっか〜、色んな陣営の人と交流あったんだね土佐さん!」
「あまり交友関係が広い方ではなかったがな…さて、まずはババ抜きでいいだろう」
「ババ抜きか、了解!じゃあ配るぞ」
トランプをよくシャッフルし、均等にカードを配っていく。
また、数字が同じカードを全て捨てるところまで進めてもらうことにした。
海美は次々とカードを捨てていき、残り枚数は3枚。
俺も残り4枚、まあまあといったところか。
土佐の方は…顔がひきつっている。どうやら全然捨てられないらしい。
「貴様…分配の時に仕込んだりしていないだろうな?」
「してねーよっ!まあ、そのうち減っていくって。じゃあ、時計回りでいくか…」
こうして、ババ抜き対決がスタートした。
ジョーカーは誰が持っているのだろう?やはり枚数の多い土佐だろうか?
なんだかんだで全員手持ちのカードが減っていき、とうとう上がりも現れる。
「やったあ!一番乗り!」
1抜けは海美。何となくそんな気はしていたが。
これで俺と土佐の一騎打ちになったわけだ。
そしてとうとう、残り枚数は俺が1枚、土佐が2枚になった。
やはり土佐がジョーカーを持っていたわけだが…
(これジョーカーが土佐から1回も抜かれてないんじゃないか?海美は上がってるし、俺の手元にジョーカーは回ってきてないし…)
1度もジョーカーを抜いて貰えないとは少し可哀想である。
だからといって、ここで土佐のジョーカーを抜くつもりはない。
「ふん、危ぶまれる戦いこそ面白い。2分の1だ、せいぜいよく考えて引くがいい」
手札を俺に突き出してくる土佐。
土佐の表情を見ながら慎重に選ぶとしよう。
「右か…?」
土佐の顔を少し見る。ニヤニヤ…してるけどこんなにわかりやすいのは流石にブラフでは?
「いや、やっぱり左か…」
土佐、急に無表情になる。
くそっ、表情の変化が露骨すぎて逆にわからん…
「いや、左っ!これだっ!」
抜いたカードはスペードの5。
俺の勝ちだ!よしっ!土佐の方は…テーブルに顔を伏せて倒れているのを海美に慰められていた。なんだこの図は…
「うう…やはり私は表情で相手を騙すことができん…」
「あはは…土佐さん、めちゃくちゃ分かりやすかったもん。トランプ向いてないかもね…」
倒れ伏した土佐の頭を肩を擦りながら苦笑いする海美。
時計回りの順番で土佐からカードを抜いていたのは海美だった。
なるほど、それでジョーカーが動かないわけである。
この狐、分かりやすすぎる。
「土佐さんって何でもそつなくこなす天才肌なのかって思ってたけど、ちょっと抜け…じゃない!人間味のあるところもあるんだね。あ、でも私はそういう所も含めて土佐さんのこと好きだからね!」
「海美、私のことを抜けているといいかけたな!?しかし…はあ…」
土佐も大きくため息をつく。流石に土佐も自覚してきたらしい。
「別にいいじゃない!ほら、もう1回やろうよ!さっきは最初の手札も多かったし、ジョーカーが土佐さんの手元にあったし!」
「くっ…次は負けん!」
「そうそう、その意気だ土佐!じゃあもう1回配るか…」
しかし、何度やっても土佐が先に抜けることはなかった。
表情については気をつけているつもりらしいが、こちらからはバレバレであった。
加賀型戦艦・土佐。本当に素直すぎる戦艦である。