「貴様、もし暇を持て余しているなら将棋でもどうだ?」
「将棋?これまた急だな…将棋なんてやるんだな土佐」
「姉上の相手を散々させられていたからな。とはいえ、頭を使って戦場を支配するあの手の遊戯は嫌いではなくてな。久しくやっていないと恋しくなるものだ」
ソファーにどかっと座って腕を組む土佐。
以前にトランプで酷い目(?)にあって以来はあまりゲームの類の話をしないようにしていたのだが、土佐の方から持ちかけてくるとは意外だった。
この狐、意地を張って普段はあまり言わないがこの手の遊びが結構好きなのだろう。
しかし、だ。
「将棋なんて俺の身内だと誰もやらないからなぁ…幸い俺はルールだけは分かるけど、将棋盤なんて家に置いてないぞ」
将棋をしよう、などという知り合いなどいなかったので、将棋をするセット一式など当然家に置いていない。知り合いにルールを教えてまでやろうとも思わなかったし。
「そうか…それなら仕方あるまいな」
土佐は仕方ないといいつつも、その目はどこか悲しげな表情であった。
…そういえば以前、姉や仲間と将棋をしていた話を聞いたことがあったことを思い出す。
こちらに来て数ヶ月経つが、彼女も故郷が恋しくなってくる頃なのかもしれない。それに、向こうの世界に戻る手がかりのようなものが突然降ってくるようなこともなかった。
「暫く会っていない母港のお姉さんや仲間が恋しくなってきたのか…?」
口に出してからしまった、と思った。
自分の弱さを見せる事が嫌いな土佐が、このような質問に大して気分を害してしまうかもしれないからだ。
そんな訳があるか、斬られたいか…そんな罵声が飛んでくるかもしれないと思ったが、帰ってきたのは苦笑いだった。
「ふふ…貴様にまでそう言われるならばそうなのかもしれんな。恋しくない、と言えば嘘になる。母港を離れて数ヶ月。戦線はどうなっているのか、仲間たちは無事なのか…彼女たちの実力は私が1番知っている。きっと何も起きていないとは思うが、長期間離れると多少心配にもなるさ」
自嘲するように母港への思いを語った戦艦。
普段俺の前では気高く振舞っている彼女も、やはり辛いのだ。
「…あっちでも仲間がお前を心配してると思うし、お前を探す努力をしているはずだ。きっと、何かしらのアプローチがあるはずだよ
「…そうだな。今こそ、仲間を信頼するしかあるまいな。すまない、しんみりとした話になってしまった」
顔をこちらから背け、俯く土佐。
いいじゃないか、たまに弱音を吐くぐらい。
「いつもお前は無理しすぎなんだって。たまには楽にしてもいいんだぞ?ここは戦場じゃないんだし」
「ふん、貴様が何もできぬから、私が無理をしているのだ」
「…そりゃどーも。憎まれ口を言えるぐらいなら大丈夫だな」
お互いに軽く笑って、この話は終わった。
土佐のこの世界への来訪は、正直言って俺にどうすることもできない。
やれることは、土佐のメンタル面のサポートぐらい。
向こうに帰るまでの面倒を見ることを決めたのだから、それだけでも全力でやりたい。
「…りがとう」
「…?今何か言ったか土佐?」
「…なっ!何も言ってなどいない!!」
「そうか、今日は早く寝ろよ。残りの家事は全部やっとくからさ」
「…すまん、貴様に残りは任せよう」
「おやすみ、土佐」
「ああ…また明日だ。カイト」
そうして土佐は自分の寝室へと入っていった。
土佐のやつ、今日ぐらいはぐっすりと寝て欲しいな。
(さて、片付けの方を…)
ピンポーン!
玄関のチャイムが鳴り響く。
誰だこんな時間に?もう夜の10時なんだが…
この時間の訪問者には流石に俺も用心する。
ドアを開けたらいきなり家に押し入ってくる強盗とか…だったら困るからだ。
静かに玄関へと向かい、小さな覗き窓から外の様子を確認する。
人気はある…怪奇現象の類じゃなさそうだ。
会話も聞こえてくる。…2人いるのか?
「明石、本当にここで間違いないのだろうな?」
「大丈夫にゃ!明石の作り上げたこの異次元ジャンプマシーンに死角はないにゃ!」
(語尾に「にゃ」とか付けてるぞ…やっばり不審者か?出ない方がいいのでは…)
「土佐、いるなら返事をしろ!時間がかかってすまなかったが、お前を連れ帰る!」
こいつら、土佐を知っている!?
連れ帰るってまさか…
ドキドキしながら、俺はドアを開ける。
ドアの前には白髪で長身の女性と、緑髪で小柄な女の子?が立っていた。
そして2人とも
間違いない、土佐の仲間だろう。
「なんだ貴様は!?土佐はどこにいる!?」
白髪の方が俺を睨む。
なんだ貴様は…土佐と会った時と全く同じことを言われるとは。
「待った待った!土佐の仲間…なんだろう?とりあえず外だとアンタ達は目立つから中に入ってくれないか?土佐も中にいるからさ…」
獣耳少女が夜に外に立っているといやでも目立つ。
白髪の方はまだ警戒しているようだか、小さい方はとことこと部屋の中に入ってくる。
「土佐は無事なのかにゃ?もしかして貴方が土佐の世話をしてくれていたのかにゃ?」
小さい方がどうやら俺と土佐の関係を察してくれたらしい。
それなら、話が早くて助かる。
「まあそんなところ。…土佐はここに急に飛ばされて来てだな。数ヶ月経って、そろそろホームシックになっていたところだった。アンタたちは最高のタイミングで来てくれたよ。土佐なんだけど…疲れてたから先に寝たんだ。そこのドアの先で寝てる。もうぐっすりかもしれないし、無理に起こさないようにしてくれよ」
土佐、迎えが来たぞ…
小声で呟きつつ、静かにドアを開ける。
電気は消えており、静かだ。
ベッドには、すやすやと寝息を立てて寝ている土佐の姿があった。
土佐の寝顔を見るのは、実は初めてだったりする。
何はともあれ、ぐっすり眠れているようで良かった。
「…土佐がこんな顔で寝ている所は初めて見たな。これもお前が土佐の面倒を見ていてくれたお陰…か」
白髪の方が安心した眼差しで眠っている土佐を見つめる。
口調といい、土佐への心配といい…どことなく土佐の話に出てきた「ある人物」ではないのか、と思い始める。
「間違ってたら悪いけど、あんたが土佐のお姉さん…加賀か?」
「…!よく分かったな。私が加賀型一番艦の加賀だ」
やはり。姉妹だけあって雰囲気も似てるなぁと感じる。
土佐はグレーの狐だが、姉である加賀は真っ白な狐だった。
「で、そっちの小さい子は?」
「小さい子って言うんじゃないにゃ!工作艦の明石にゃ!!」
工作艦…聞き慣れない名前である。
名前の通り何かを作ることが得意なのだろうか。
…よく見たら彼女の袖からはスパナなどの工具がたくさん顔を出している。体どうなってんだこの子?
「加賀と明石…だな。土佐を迎えに来てくれてありがとう…だが土佐が起きるまで待っててくれないか?こんなにぐっすりの眠っているのを起こすのは少し…その間に、アンタたちのことを聞かせて欲しい。俺は端島 海斗、海斗でいい。」
「カイト、か。さっきは敵対した目を向けて済まなかった。土佐の寝顔を見ればわかる。お前が私の妹を大切にしてくれていたことをな」
加賀が申し訳なさそうに呟く。
筋は通す、か。とても真面目で、できた姉である。
「加賀も落ち着いたかにゃ?なら、カイト!土佐や明石達がどうやってここに来たか、それを聞いて欲しいにゃ」
明石は垂れた袖を振り上げて今回の事情を説明し始めた。
結局、一部の土佐さん以外の艦船も。
小説の方向性はブレません。
土佐さんとほのぼのするだけです。