突然の予期せぬ来客に面をくらった俺だったが、プリンツ・オイゲンと名乗る彼女も敵意があってやってきた訳では無いことは間違いない。
土佐の方も呆れ顔ながらもこの状況に慌てていないし、大事には至らないことを承知しているのだろう、多分。そんなに土佐を見て、俺も割り切ってこの晩酌を楽しむことにした。
「…プリンツ・オイゲンさん、だったか?加賀と土佐の再会を祝う、ってところは同じみたいだし、晩酌に関しては楽しむといいけど…加賀に無理はさせないでやってくれ。というか加賀はさっきから伏せたまま起きないけど本当に大丈夫なのか…?」
しこたまオイゲンに飲まされた加賀は、机に突っ伏したまま動かなくなっていた。普通に心配である。
「私のことはオイゲンでいいわ。なぁに保護者さん、大丈夫よー?いつもはもっと飲んでるもんね加賀〜?」
オイゲンが突っ伏したままの加賀の背中を笑顔でゆっくりとさする。
すると、加賀が勢いよく顔を上げて一言。
「カイト!!土佐!!わたし、は!まださっきの質問の答えを聞いていない!!」
加賀が突然大声を張り上げて驚く。さっきの質問とは、俺と土佐の関係性についてだろうか?本当に答えかねる質問である。そんな中。隣の土佐をちらりと見ると、やれやれと言った様子で顔が真っ赤に染った加賀を見つめている。
加賀、もしかしてお酒をがぶ飲みしたらうるさくなるタイプか…?
俺が土佐を見返すと、彼女はそんな俺の脳内メッセージを受け取ったらしい。
「酒を飲まされた姉上の相手は難しいぞ、せいぜい普段の私のことをありがたく思うがいい」
(これ、悪酔いした加賀の対処に慣れてるベテランの貫禄だ!?)
この慣れっぷりを見るに、加賀と土佐の晩酌にオイゲンが乱入してくるまでが彼女たちのデフォルトだったのかもしれない。
「土佐と保護者さんとの関係の話?あら、それは私も気になるわ〜、どうやって保護者さんがこのお堅い妹君を更生させたのか…」
オイゲンは泥酔加賀の話題に便乗してくる。勘弁して欲しい。
「奴のことを保護者と呼ぶのはいい加減は辞めろ!私はこいつに対して頼ったことなど1度も…」
「あらあら、お別れの時にはなかなか熱いシュチュエーションだったって聞いてるけど?」
俺の顔が一気に熱くなる。土佐の方も酒が入りまくった加賀やオイゲンよりも真っ赤になっている。あの時の一件に関しては、俺も土佐も振り返らないのが暗黙の了解と化していてた。いや、だってあんな何処ぞのドラマみたいな…思い出すだけで恥ずかしい。
「オイゲン、俺も土佐もその話題に触れたくないんだ…悪いけど勘弁してくれ…」
土佐も無言で酒をグビっと飲む。察しろと言わんばかりである。
「私はカイトと土佐がお互いに…想いあっているように見ているが?」
「加賀!!」「姉上!!」
全く同じタイミングで俺と土佐がたまらず立ち上がった。
タイミングがぴたりと重なったことに気づいて、また恥ずかしくなる。
「息ピッタリじゃない。どう、加賀〜?お姉さん的にはこの2人、くっついてもいいと思う?」
「私は悪くない組み合わせだと思うが。互いに信頼し合い、影響を与え合う関係…実際に土佐は変わったわけだからな。男との関係で顔が真っ赤な土佐など見たことがないし愉快なものだ」
加賀のやつ、酒を飲ませるとフリーダムさに拍車がかかってやがる…
オイゲンが現れた時には怪訝そう顔をしていたものの、今となっては2人の距離も近い。土佐の言う通り、酒の入りまくったこの2人を止めることはできないだろう。…フリーダムなのはいいがこれ以上土佐と俺の距離についての話題には触れてほしくない。そのうちこっちが墓穴まで掘りそうだ。
そんな中、土佐が静かに立ち上がりベランダへと向かう。
この場を離れたい気持ちは俺と同じらしい。
「土佐、どこへ行くんだ?まだお前の口から何も…」
「まあ加賀、いいじゃない?ちょっと夜風に当たってくるんでしょ?」
外へと逃げる土佐を引き止めようとした加賀だが、何故かオイゲンがこれを止める。彼女も流石に空気が悪いことを察したのだろうか?
「…そうだ、すぐに戻る。少し飲みすぎたかもな」
そう言い残し、土佐は湯呑みを持って外へと出ていった。
さて、俺はどうしようか。加賀とオイゲンの相手を今度は俺が引き受けるのか…そんなことを考えていると、オイゲンから意外な言葉をかけられる。
「貴方も少し外に出た方がいいんじゃない?さっきから顔色良くないわよ?」
プリンツ・オイゲン、気が利くのか利かないのか…
酔いながらも、周りの状況は見えているらしい。
加賀の方はというと目が細くなりつつあり、オイゲンの肩に寄りかかっていた。急に飲まされた彼女の体力も限界といったところだろうか。
俺が加賀へ視線を向けていることに気づいたらしいオイゲンは、「やっておくから」と言わんばかりにウインクした。
こいつ…悪酔いしたフリして実は理性を残して楽しんでたな?
…まあ加賀もダウンしたし、オイゲンの暴走は済んだことだ。お言葉に甘えて俺も夜風に当たってくることにしよう。
ベランダへ向かうと、土佐は無言で深夜の街を見下ろしながら、ゆっくりと酒を口に運んでいた。自室のベランダは割と高い階なこともあって風はよくあたる。街の灯りに関しては深夜なこともあってほとんど消灯されており、美しい夜景とは言えないが。
「…なぜ貴様が来る?」
「オイゲンにが貴方も風に当たってくればー?って言われたからお言葉に甘えて」
「姉上は?」
「今頃オイゲンに膝枕でもしてもらってるんじゃないか?」
土佐は今日何度目かわからないため息をつくと、再び酒を口へと運ぶ。
「姉上とオイゲンは酒の席だととんでもないコンビネーションを発揮する。タチが悪いのはオイゲンの方はわかってこれをやっていること、とな」
「オイゲン、やっぱりか。…ちなみに、俺も飲みすぎた日はあんな感じになってるのか?」
「ああ。貴様の場合は次の日には何も覚えていないから、オイゲンより悪質だろうな?ん?」
横目で睨んでくる土佐。
こればかりは反論の余地はない。酒の席の介護役というのは毎度苦労するもので、今日は身をもってそれを学ぶことができた。俺も酒を飲む時は気をつけると土佐に頭を下げる。申し訳なかったよホント。
その後は俺も土佐も何も話さず、ただただ空を眺めて酒を飲む。
…正直少し気まずい。
空には満天の星と月が煌めいていた。
夜風に当たりながらこれを眺めているだけで、時間は溶けるように過ぎていく。気づけば外に出てから20分程度は経ったらしい。
そろそろ中へ戻るか…土佐の肩を叩いて合図をした時だ。
「ああ、それともう1つ」
「…なんだ、そろそろ戻らないと風邪ひくぞ」
「わかっている、だから少しだけだ。…そうだな」
何故か言葉選びに迷っているらしい土佐。暗くて顔はよく見えないが、どんな表情をしているのだろうか。
「先程、貴様に頼ったことがないと言ったが…アレは訂正しておきたい。姉上たちが来る直前は貴様に頼っていたところもあったからな。それだけ…謝っておく」
土佐が…俺に謝った?
俺が酔いすぎて聞き間違えたのか…?
「貴様、なんだその顔は!私も筋は通す。それだけだ!!」
「…別にそんなに気にしてなかったのに。謝ってくるからただただ驚いた」
「なっ!?くそっ…また私は1人空回りしたとな!?」
「あー何だ…頼る頼らないとか気にしないからさ。いつも通りの土佐でいてくれ」
これは素直な気持ちである。
意地っ張りで自信家な土佐、それは彼女のいい点であり、悪い点でもある。
人に頼る頼らないといった細かいところなど本当に気にしなくていいのだ。どんな自信家でも苦しい時は人に頼ればいいし、悩みを乗り越えたならばそれが新たな自信になるだろう。
土佐は数秒間沈黙した後。「…善処するさ」とだけ言い残して屋内へと入っていった。
善処するって何だよ…土佐の最後の言葉を心の中にしまいつつ、俺も部屋へと戻る。
寝て起きた時にはリビングで加賀がオイゲンに詰め寄る一幕。
俺も土佐も横目で見ながら朝の作業をしていたが、オイゲンの「外に出てからラブラブだったじゃない?全部聞いてたわよ」という衝撃の一言。
「オイゲン、まさかお前…その一幕を見るためにわざと俺を外に…?」
「なんの事かしらね?」
その瞬間に土佐は剣を抜き、俺も剣を抜いた土佐にやっちまえと煽る。絶対に許さんぞこいつ…
その瞬間、オイゲンはキューブを使って光の中へ。
こうして、加賀・土佐姉妹の再会の祝杯は怒りの熱が篭ったまま終了…
結局、本来の目的であった「再会の祝杯」だったのかは謎である。