「えー!?お兄ちゃん、ここ最近連絡くれないと思ったらそんなドタバタしてたの!?」
「仕事はともかく、ここ最近の土佐関連は激動だったな…」
今日は大学の定期テストを終えたという海美が久しくやって来た。
海美の方から「久々に行ってもいいか」という連絡を受け取った時に、彼女への連絡をすっかり忘れていたことに気づいた。
…しかし、土佐との別れの一幕などを妹に見られでもしたらしばらくは顔も合わせられなくなっていただろうし、彼女があの場にいなくて良かった、と胸を撫で下ろすような気持ちではあるが。
「じゃあ今土佐さんは…」
「母港に帰ってるな。演習だ、とか言ってたか」
「久しぶりに土佐さんと喋りたかったのに〜!残念…」
土佐は現在、母港へ帰還中である。
何でも合同軍事演習とやらで忙しいらしい。「軍事」というワードを聞くと、彼女は本当に戦艦なのだと実感する。
「もうそろそろ帰ってくるんじゃないか?夜には戻ってくることがほとんどだし…」
「うわっ、もう7時過ぎちゃってるの?今から帰るのもめんどくさいしなぁ…ねえお兄ちゃん、今日泊まってもいい?」
「土佐が帰ってくるまで待つ気か?」
「正解!あと、土佐さんにご飯作ってあげようかなって。演習で疲れてるだろうし、喜んでくれるんじゃないかな」
「流石に気が利くなぁ、海美は…」
「もちろん、お兄ちゃんも手伝ってくれるよね?」
「…まあ、そうだな。土佐に作ってもらってばっかりだし」
「そう来なくちゃ!冷蔵庫、見てみるね!」
何があるかなと呟きながら、海美が台所へと向かう。
演習明けの土佐を気遣うことができるあたり、流石は自慢の妹といったところだろうか。
土佐がやってきてから自分で料理をする機会もめっきり減り、「家に帰れば料理が出てくる」ことがもはや当たり前となりつつあった。
しかし、家に帰れば料理が出てくることは当たり前ではないということを肝に銘じなければならない。
彼女は母港での仕事をこなした後に、こちらへ戻ってきて食事の用意をしてくれていることも多いのである。きっと彼女も疲労があるだろうに。
(…土佐が料理を作ってくれることが当たり前になりつつあったのは良くないよな)
こうして自分が彼女よりも早く家にいる場合は、恩返しをするいい機会である。海美の機転が大切なことを再確認するきっかけになった。
そういうことなら、気合い入れて何か作ってやろう。
心の中で気合いを入れながら台所に向かうと、困惑した様子の海美の姿があった。冷蔵庫をゴソゴソとしながら顔をしかめている。
「お兄ちゃん、冷蔵庫の中身が寂しいね…あまり気合いの入ったご飯は作れないかもね」
冷蔵庫は調味料と、余った少量の野菜が残っているのみ。メインディッシュになるような代物はどうやら残っていないらしい。
「俺が買い物行く機会も減ったからなぁ。土佐が買い物もこなしてくれるようになってからは特に…」
「お兄ちゃん、土佐さんに負担かけすぎ!!そんなんじゃ愛想つかされちゃうよ!!」
「うっ…全くもってその通りだと思う…」
彼女だって忙しい合間を見つけてまでこちらに来ているのだ。
彼女への感謝を忘れた日はないと自負しているが、行動で示す日も必要であることは間違いないだろう。
「あっ、開けてないパスタ…これならいけるかも」
ダメな兄を叱りながら冷蔵庫以外も漁るデキる妹。
どうやら未開封のパスタを発見したらしい。そういえばいつか買って放置してたような気がする。
「それで行こう!今から買い物行ってる時間もないしな。日頃の行いは…よく反省するさ。今からの料理がその第一歩ってことでだな」
「頼むよ、お兄ちゃん!2人ともせっかくお似合いなんだから!!」
「だから俺と
というわけで、俺と海美は土佐の帰還までにパスタの準備に取り掛かった。
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「…できたはいいけど」
なんとか土佐が帰宅するまでに準備は完了…したのだが。
「量が多すぎないかこれ!?」
「あはは…ちょっと気合い入れすぎたかも…」
大皿には山盛りのミートソースパスタ。
3人で取り分けるにしてもなかなかの量になってしまった。
「別に残り物のパスタを全部使う必要はなかったんじゃないか?」
「賞味期限ギリギリだったから、勿体ないなと思って全部茹でちゃった…」
海美は陽気でお洒落な女子大生だが、実に倹約家な一面も兼ね備えている。
「勿体ない」ことは避けているので、賞味期限を逃して食材を廃棄するなど彼女にとってもってのほかである。
そんなわけであったパスタを全部茹でたら、予想以上の量になってしまった。
「…まあ、残れば明日食えばいいだけだって」
「えー!?パスタはやっぱりできたてじゃないと!」
「気持ちはわかるけど、この量を3人で食べ切れるかと言われるとなぁ…」
山盛りのパスタを見て、土佐はどれぐらい食べるのかと考えていたその時、リビングのドアが開かれる。
「…すまん、今帰った。演習後の会合が長引いてな…悪いが今日の夕飯は楽なものに…なっ!?この麺は…」
土佐がちょうど帰ってきた。
声色から疲れが感じられる。演習とやらはかなり過酷なものだったのだろう。
「土佐、お疲れ様。今日は俺…いや、俺たちが用意しといたから。…量が多いのは気にしないでくれ」
「なっ!?貴様が…待て、貴様が気を利かせるなどありえるのか?誰かが入れ知恵をしたのか!?」
到底信じられないといった様子の土佐。
…まあ、最近は彼女に気を利かせたことなどなかった気がするし、この反応も致し方ないか。
「実は今日来客があって…」
「そんなことないよ土佐さん!お兄ちゃんが日頃の感謝を伝えたいって…」
「「海美!?」」
俺も土佐も、海美の突然の登場で腰が抜けそうになる(土佐側からすれば久しぶりの海美との邂逅なのでそれもあるだろうが)。
「土佐さん、久しぶり!アズールレーンの世界に帰れるようになったんだって?本当に良かった!!それでもお兄ちゃんに会いに来てくれて…本当にありがとう!!」
「あ、ああ…こんなことは大したことではないさ。今は戦況も落ち着いているからな…しかし、海美とこのタイミングで再会するとは、な」
土佐も久々の海美との再会に興奮が隠しきれていないらしく、尻尾がゆらゆらと揺れているのがわかる。が、どこか困った様子である。
「…土佐さん、どうかした?」
「海美は、私の母港の同志とは会ったことはない、よな?」
「同志…?同志って仲間ってことだよね?そりゃ土佐さんと会えてるだけで奇跡みたいなものだけど、まさか?」
この土佐の口ぶり、どうやら今日は向こうからの来客がいるらしい。
…そうか。海美は土佐以外では向こうの世界の存在にはまだ会っていないんだった。土佐からすれば、初対面で耳を引っ張られたりした記憶がまだ残っているのかもしれない。
演習後、ということは土佐に近しい者だろう。
となると来客はおそらく…
「加賀が来てるのか」
「嘘っ!加賀さんもこっちに来ることあるの!?しかもその口ぶりだとお兄ちゃんはもう会ってる!?」
「…一応、な」
海美のテンションがどんどん上がっていく。
海美は俺と違って土佐たちの世界の知識をある程度持っているので、土佐の世界の他の住民と触れ合うことは俺以上に喜ばしいことだろう。
「海美、あんまり羽目を外すなよ…相手もまた人だから…」
「はっ、私はまた…反省反省」
とりあえず予防線は張っておく。
いきなり耳を触りだしたりされたら加賀も困るだろうし。
「実は、姉上ではなく…」
「ふふふ、皆さんお元気ですね」
微笑みながらリビングのドアの奥から現れたのは、土佐や加賀と同じく狐の耳と尻尾を持つ女性。しかし色が土佐や加賀とは異なり、毛並みは黒みのかかった茶色ものだ。
「じ…巡洋戦艦天城さん!?本物だっ!!凄い凄い!!」
「…?おや、私のことをご存知で?」
「知ってます知ってます!!頭も切れて、戦いも強い…加賀さんにも認められている凄い艦船だもん!!」
「別世界では、私は有名人なのでしょうか…?こういうの、嫌では無いですね。ふふふ」
優雅に微笑む、天城と呼ばれた狐。
俺は当然のごとく彼女のことをよく知らないが、「強者」だということは彼女の放つオーラで何となく伝わった。
土佐や加賀もオーラはあるが、彼女らが放つものとはまた別物。
隙を見せれば一瞬でやられてしまいそうな…そんな威圧感が彼女にはあった。
「そんなわけで、天城さんがこちらの世界に興味を持ったらしく…まあ、失礼のないようにしてくれ」
土佐がこの場をとりあえず締める。
そういえば、土佐の話にも「天城さん」というワードは度々出てきたような…?俺は海美が大興奮する隣で過去の記憶を掘り返しながら、天城を見つめるしか無かった。