土佐さんは少々抜けている   作:さいどら

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#土佐生誕祭2021


番外編
土佐さんと12月18日


12月18日。

 

クリスマスの直前で慌ただしくする者もいれば、今年ももう終わりか、と1年を振り返る者もいるかもしれない。

 

しかし、世間の大半すれば、何の変哲もない日であることに変わりないだろう。

 

「…起きたか。貴様、休みだというのにえらく早起きだな」

 

起きてリビングに向かうと、土佐が今から朝食の準備をするところだった。

 

俺は休日は起きるのが遅く、普段休日の朝食は各自で済ませることがほとんどである。

 

ちなみに、土佐は毎朝早起きだ。健康に気を使う土佐らしい。

 

寝ていたい気持ちもあったが、早く起きたことにはもちろん理由がある。

 

「おはよう土佐、今日は大事な日だから早く起きたんだ」

 

「大事な日?貴様、何か用事でも?」

 

前日に何か言っていたわけではなかったので、土佐は不思議そうな顔をする。

 

パンッ!

 

「土佐、誕生日おめでとう!!!」

 

「な…うわっ!?貴様、驚かせるんじゃない!!」

 

「ははは!サプライズ一発目ってところだ!!今日が誕生日だって海美から聞いてたんだ」

 

俺はポケットにしのばせていたクラッカーを土佐の目の前で発射してやった。サプライズの言葉に加え、クラッカーの大きい音に流石の土佐も驚いたらしい。

 

「進水日…(フネ)と無縁のこちらの世界ではそういう言い方になるか。海美のやつ、余計なことをカイトに吹き込んだな…」

 

口から出る言葉とは裏腹に、土佐も表情を緩めているので満更嫌ではなさそうだ。相変わらず素直じゃない。

 

「いつも世話になってるし、今日ぐらいは祝わせて欲しくて。早起きしたのは買い物に行くためだな」

 

「買い物?一体何を…」

 

「決まってるだろ、誕生日ケーキだ!!」

 

12月18日。俺たちにとっては少し特別な日。

なぜなら、加賀型戦艦弐番艦・土佐の進水日だからだ。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「お兄ちゃん、土佐さん!おはよ!!それと土佐さん…誕生日おめでとう!!」

 

「海美!?あ、ありがとう…今日は海美もいるのか、賑やかになりそうだな」

 

誕生日ケーキの買い物には海美も呼んでおいた。

誕生日を教えてくれたからには呼ばない理由はない。本人も誕生日に土佐と会いたそうにしていたのもあるし、パーティは賑やかな方がいい。

 

「二次元の推しの誕生日を本人を目の前にして祝えるなんて…私ったら恵まれすぎ…」

 

明後日の方向を向いてうっとりする海美。

…海美の趣味からすると祝われている土佐以上に喜んでいる可能性すらある。

 

「…カイト、二次元の推しというのはどういう意味だ?」

 

「…別にわからなくてもいい。海美、ケーキ屋も混むかもしれないしもう行くぞ」

 

「はっ、また私としたことが…ごめんね、2人とも。私嬉しすぎるとすぐこうなっちゃうんだから…じゃあ行こっか、ケーキ屋!」

 

正気を取り戻した海美も引き連れて、商店街のケーキ屋を目指す。

商店街はクリスマス直前の土日ということで、かなりの賑わいを見せていた。今向かっているケーキ屋も、クリスマスケーキの予約などで混雑する可能性がある。

 

その予想は当たっていた。

 

目的地であるケーキ屋は、テーマパークのアトラクション待ちのような行列。この店は地元では有名な店で、ちょくちょくテレビの取材が来るほどだから当然といえば当然か。

 

「朝早く来たってのにこの行列かぁ…流石の人気店…」

 

まあ並んでるものは仕方ない。せっかくなら美味しいケーキを食べたいし、頑張って並ぶこととしよう。

 

ふと自分の後方にいる土佐と海美を見ると、何やら海美がスマートフォンを土佐に見せていた。土佐は興味深そうにスマートフォンの画面を覗き込んでいる。

 

「2人とも、何見てるんだ?」

 

気になって声をかけると、海美は画面を俺にも見せてくれた。

映っているのは、Twitterのタイムラインに載っているたくさんの土佐のイラスト。ハッシュタグには「土佐生誕祭」と書かれていた。

 

「せっかくだから土佐さんの誕生日を祝ってくれる人がたくさんいるんだよーって伝えたくて!向こうの世界じゃたくさんのファンを認識することなんてできないだろうし…」

 

サブカルの情報通である海美らしい。

土佐も自分のイラストがたくさん流れているTwitterには興味津々である。

 

「土佐生誕祭、とな。まさか私を描いた絵がこんなに出回っているとは驚いたぞ」

 

誕生日ケーキのロウソクを吹き消すイラスト、剣を振るうイラスト、加賀や天城と共に描かれたイラスト…種類は様々である。ただ、多くの数を占めているイラストに土佐は着目した。

 

「ただ、少し気になるのは…なぜ私の水着姿が多いんだ!?よもや、邪な発想に取り憑かれている者が多いのではあるまいな?」

 

「あ、あはは…多分、この人たちも土佐さんをお祝いする気持ちは変わらないから、ね?」

 

これには海美も苦笑いする。

俺はイラストを通して土佐の水着姿をここで初めて見たが(当然である)、なかなかに攻めた水着姿で驚いた。この狐、こんな水着着るのか…

 

「一時の気まぐれで命取りになる…貴様、そろそろ目線を変えたらどうだ?」

 

土佐のドスの効いた声で我に返る。しまった、まじまじと見てしまった…

 

「悪かったって!!ほら、もう順番が来るぞ、何にするか決めとけよ土佐!」

 

後ろからお兄ちゃんのヘンターイ!という海美の声が聞こえた気がするが気のせいのはずだ。というかこんな人混みでそんなこと言わないでくれ頼むから。

 

ようやくレジまでやってきたが、ケーキの注文自体はあっさり終わった。土佐のチョイスはオーソドックスなホールケーキである。土佐曰く、「洋菓子はあまり口にしないから無難なものにした」らしい。

 

受け取りまでの間は誕生日プレゼントを兼ねて土佐の洋服を買ったり、商店街をぶらぶらした。振り返ると、こうして一緒に商店街を歩くのは初日以来か。初日と違うのは、海美が一緒なことと、土佐の表情が明るいことだ。

 

どちらもポジティブな変化であり、俺も嬉しくなった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

ケーキや洋服などたくさんの持ち物を抱えて、俺たちはマンションへ帰還する。

 

「土佐悪い!両手が塞がってて鍵が開けれないから開けてくれないか?」

 

「…仕方の無いやつだ。貸せ、開けてやる」

 

鍵を土佐に渡し、解錠を待つ。

 

ガチャっと音がし、土佐が扉を開いて中に入ると…

 

パンッ!パンッ!

クラッカーの音が2回鳴り響く。

 

「なっ!?誰だ、なぜ家の中に…空き巣か!?」

 

「進水おめでとう、土佐」「ふふ、驚いてくれましたね…空き巣じゃありませんよ?」

 

「姉上、天城さん!?」

 

クラッカーを発射したのは戦艦・加賀と天城。

この2人も、俺が土佐へサプライズしたいということを事前に話しておいたので来てくれている。

 

「俺が呼んだんだ。クラッカーの奇襲はまた成功、ってところか?」

 

「くっ、してやられたというわけか…貴様程度にこの私が二度も…」

 

悔しそうに自分の頭を小突く土佐。

貴様程度って…相変わらず舐められてるなぁ俺。

 

「カイト様も粋なことをお考えになりますね。この天城、感服いたしましたわ。カイト様はきっと指揮の才もあるのでしょう」

 

笑顔で俺のサプライズを肯定してくれる天城さん。全く、土佐と違って本当に優しい人である。…指揮の才は言い過ぎな気がするけど。

 

「妹の進水日を大々的に祝う…母港でもやっていたことだが、ここまで大規模にやると、より楽しくなるものだな。呼ばれた者は全員揃ったんだ、中に入って宴を始めたらどうだ?」

 

付き合ってやっているんだから早くしろと言わんばかりの加賀。

少々面倒くさそうな態度の割には尻尾がゆらゆらと揺れている。この姉妹は揃いも揃って素直じゃないのである。

 

「よし、買ってきた物を片付けたら土佐の誕生日会本番といこう!」

 

買った洋服を整理し、手分けしてケーキを食べる準備をしていく。

5人もいればすぐに準備は完了し、テーブルの中心にはケーキ、そして皿とフォークも並ぶ。

 

そして、ケーキに刺されたロウソクにチャッカマンで火を灯していく。

土佐の年齢(彼女達風にいえばカンレキ、というのか?)はわからないので、とりあえず付属していた5本を刺した。

 

この様子を加賀、土佐は不思議そうに眺めている。

 

「これは…何をしているんだ?火がついていては食べるのに危険では?」

 

「この火を土佐、あなたが吹き消すんですよ。重桜以外ではよくある慣習…吹き消す際には願いを念じるのです」

 

流石天城さん、博識である。

土佐は言われた通り、ロウソクの火を吹き消す構えに…待て、構え?

 

「土佐、そんなに張り切って吹き消さなくていいから!軽く吹きかけるだけでいいから!!」

 

俺の制止も、集中状態に入った土佐の耳には入らない。

土佐は風船を膨らませるような勢いで息を吹きつける。凄まじい風量に火はもちろん消え、あろう事か立てていたロウソクそのものが四方に吹っ飛んでいく。

 

「…これでいいのか?5本とも吹き飛ばしてやったぞ」

 

済ました顔で…いや、やってやったぞ感が隠せていない土佐。

どうやら、ロウソクを全て吹き飛ばしたことを自慢したいらしい。

 

「なるほど、こちらの祝い事では火をつけたロウソクを息を吹きつけて処理してから食べるのか…興味深いな」

 

何か納得してる加賀。

 

「いや違うだろ!!!」

 

俺のツッコミに笑う海美と天城、間違いに気づき遅れて笑う加賀。

吹き飛ばした張本人…土佐はただ赤面するばかりであった。

 

機嫌直しに、と天城は何枚かの手紙を取り出して土佐に渡す。

それは土佐の友人たちからの祝辞。横から見た海美曰く、陣営問わずたくさんの艦船からメッセージが来ているらしい。

 

「凄い凄い!!この人も、あの人も!!」

 

静かに微笑んで喜ぶ土佐より、脇にいる海美の方が喜んでいるように見えてしまう。海美、ちょっと落ち着け。

 

「…カイト」

 

喜びまくる海美を傍目に、土佐が口を開く。

 

「…なんだ?」

 

「それに海美、姉上、天城さん。そして伝言をくれた友人たちに感謝したい。…悪くない気分だ」

 

「そりゃ良かった。いつまでこっちにいてくれるか分からないけど…今後もよろしくな、土佐」

 

「ふん、仕方ないからまた世話を焼いてやるさ」

 

こうして、俺たちの12月18日は楽しく、平和に過ぎていった。

 




土佐さんの誕生日に何かしたいと思って一筆。
本篇にしても良かったのですが、あまりにも本篇の季節感をすっ飛ばすのも良くないと考えて番外編としました。

土佐さん、誕生日おめでとう!!

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