自動販売機から10分と少し歩き、俺たちは商店街までやってきた。
休日ということで、なかなか賑わっている。
「流石に人も多いな。土佐、はぐれるんじゃないぞ」
「私を子供扱いするな!仮にはぐれたとしても貴様の家にまっすぐ帰ればいいだけだ」
(帰れるか心配なんだよなぁ…)
彼女が方向音痴かどうかは定かではないが、何となく悪い予感はしている。
「私の母港と同じぐらいには賑わっているかもな。子供が走り回ったりはしていないが、ここにも活気がある」
「そりゃ良かった。ついでだし晩飯の材料でも買って帰ろうか…今日はどうしようか」
決して料理が得意という訳では無いが、せっかく人数が増えるならいいものを作りたい。まして今日は初日である。
「そうだ、餃子とかどうだ?土佐…っていない!?」
少し目を離した間に隣にいた土佐の姿が忽然と消えていた。
「本当にはぐれると思ってねえよ俺も…」
人混みに紛れてどこかに消えた土佐。興味のある店の前で立ち止まったりしたのだろうが、彼女が立ち止まるようなところはあっただろうか。
「あんまり大声で呼ぶのも恥ずかしいし、どうしたものか…ん?」
視線の先には、何かの展示を食い入るように見る土佐の姿があった。
「見つけた!…全く、子供扱いするなとか言ったそばから迷子に…」
「ふん、貴様が私を置いて先々歩いていくのが悪い!私は迷子になどなった覚えはないぞ!…少し心細かったが」
顔を逸らしているが安堵の表情が伺える。
意地を張ってはいるがやはり少々不安だったらしい。
「立ち止まる時はちゃんと一声かけてくれると助かる…で?何を見てたんだってここゲーム屋か」
土佐が見ていたのはゲームのデモプレイだった。
見るからに堅物の彼女がゲームに興味を示しているのには驚いた。
「いや、綾波…駆逐艦の子が夢中でやっていたことを思い出してな。私は特に触れる機会はなかったのだが…」
「へえ、土佐のところでもゲームはあったんだな」
「私たち戦艦だとあまり流行っている印象はなかったが、綾波を筆頭に駆逐艦の周辺では流行っていたのかもしれないな。私は姉上の付き合いで囲碁や将棋を嗜む程度だったから…」
ここで立ち止まったのはそういうことか。
「要するに、やってみたいってことだな?ん?」
少しからかうような口調で土佐に聞いてみる。
「わ…私は別にそういう訳で立ち止まった訳では無いぞ!単に仲間がやっていたのを思い出しただけであって…行くぞ!夕飯の買い物をするのだろう?」
慌てて踵を返して歩きだそうとする土佐だが、前に立って静止する。
本当にわかりやすい狐である。
「顔が赤くなってるぞ土佐。素直にやりたいですってい言えばいいのにさ」
「貴様…次に顔が赤いことでからかったら砲弾を喰らわせるぞ?」
「待て待て待て、そんな危険なこと言うんじゃない!このデモプレイでやってるやつがやりたいならウチに置いてるぞ。帰って落ち着いたらやってみるか?」
「最初からそう言え!…貴様がやりたいと言うなら付き合ってやらなくもない。いいだろう、帰ったらやってみるとしよう」
俺がやりたいなら仕方ないし付き合ってやるというが、ニット帽の下の耳が嬉しさを隠せないのかもぞもぞしているのが見える。
尻尾も隠していないならばブンブン振っていそうである。
…指摘するとまた怒られかねないので今回は黙っておくことにした。
「まあ、そうと決まればさっさと夕飯の材料買って帰ろう。で、さっき聞こうとしたんだけど晩飯なんだけど…餃子とかどうだ?」
「餃子とな。東煌の子が作って配っていたのを見たことがあったな。いいだろう、私も気になっていたしな」
「お、乗り気で良かった。そこのスーパーで材料調達だな」
土佐を連れてスーパーに入り、餃子の材料を集めていく。
「土佐は料理とかに興味はあるのか?」
「興味自体はある。挑戦したことも何度かあるが…何故か周りから止められてな。姉上からも私がやるから休んでいろ、と言われたか」
(めちゃくちゃ周りからも心配されているのが面白いな…)
「しばらく世話になるだろうから、手伝いくらいはさせてもらう。私に遅れをとるんじゃないぞ」
「…お手柔らかに頼む」
「模擬戦をする前みたいに言うんじゃない!私の腕がそんなに心配とな?」
「…心配だな」
「今に見ているんだな!貴様の手を煩わせるまでもない!」
声を張り上げる土佐。周りの視線が痛い。
「大声出すな出すな!めちゃくちゃ見られてるぞ…」
「ん…少々取り乱した、すまん…とにかく!さっさと買い物を終わらせて帰るぞ!」
レジで精算を済ませて歩き出す。
ゲーム屋で立ち止まったり、料理の話で取り乱したり…
どこか抜けた堅物だと思っていた節もあったが、年相応(いくつか知らないが、たぶん俺より少し下ぐらいだろう)の反応を見ることができた。
「買い物、楽しかったか?」
俺的には彼女を連れ出してよかった。
彼女の家にいるだけでは見えなかった一面を垣間見ることができたからだ。
「まずまず…といったところか。だが、いい暇潰しにはなったんじゃないか?」
ニット帽に隠れている耳が相変わらずぴこぴこと動いているのが見える。
彼女なりに楽しんでくれたらしい。…相変わらず素直じゃないが。
「帰ったら飯を作って…ゲームもやるのか?まだまだやることがたくさんあるからな!」
「ふん、上等だ…暴れさせてもらう!」
加賀型戦艦二番艦・土佐。
彼女といることは、一人暮らしの俺にとっていいアクセントになりそうだ。