独断と偏見に支配されたこんなものを読んでいただいて本当に感謝です。
「ただいまー」
「任務完了、といったところか?風呂と食事はできているぞ」
「本当か、助かるよ。…今日の料理はトラブルなくできたのか土佐?大丈夫?」
「貴様、私を馬鹿にしすぎていないか!?前回は多少手元が狂ったとはいえ、同じ失態を繰り返すのは愚か者のすることだ!」
土佐との出会いから数日。
平日は当然、俺は仕事に行かないといけないし、土佐が家で1人で過ごさねばならない時間も出てくる。
初日の朝に留守番できるか?俺は心配なんだけど…と聞くと刀を抜かれそうになったが、彼女も何もせずにいるのは嫌らしく、様々な家事をこなしておいてくれる。
これは冗談抜きでありがたいことだ。…しばしば見られるポカがなければ最高なのだが。
まずは洗濯物。
「洗濯物わざわざ手洗いしたのか…洗濯機使い方教えとけば良かったな…」
「ボタンを触るだけで洗濯が終わるだと!?貴様、そんな便利なものを何故教えなかった!」
「いや知ってると思ったし…」
それはそれだ。
それと料理を作って待ってくれていたのは嬉しかった。
「おっ、味噌汁作ってくれたのか!なかなか美味そうだしちょっと味見を…なあ土佐、これ出汁入れたか?」
「出汁?味噌はちゃんと溶かしたが…」
「ウチに置いてるのは出汁入り味噌じゃないから出汁入れないと…飲んでみろ土佐、味見したか?」
「私に限って味見など必要ないだろう?私が手順を間違えるなど…」
「まあ飲め」
「そこまで言うのなら少し…何か味が薄い気がしないでも…」
「そういうことだ…出汁はここにあるから…」
「貴様、そういうことは先に言えと何度も言っているだろう!?」
土佐の顔は真っ赤になっており、こっちを見るのも恥ずかしいらしい。
「来てまもないし仕方ないって!何にせよ色々やって待っててくれることは凄くありがたいことなんだから!」
「くそっ!自惚れすぎたとでもいうのか…?」
いつもは凛々しい土佐だが、流石に今回は凹んだらしい。
まあこれも経験である。
そんなハチャメチャな初日からも数日経ち、土佐もある程度家事に慣れてきたらしい。初日ほどの大きなやらかしはほぼほぼ無くなっている
相変わらず天然を発揮してテレビをつけようとエアコンのリモコンを連打してつかないつかないと涙目になったりするが、それは良しとしよう。
「…何はともあれ、家に帰ったら誰かが待っててくれるのが凄くありがたいよ」
「貴様の任務の詳細は知らんが、楽なものではないだろうからな。ここに住まわせて貰う以上、この程度は当然だろう?」
得意げにドヤ顔をする土佐。ぶんぶん揺れる尻尾が背中からはみ出ており、気持ちが隠しきれていない。
狐だから当たり前だが、動物を見ているようで土佐は見てて飽きない。
「今日は…シチューなんかよく作れたな。土佐の故郷の重桜ってところの話を聞く限り、和食がメインなのかと思ってたけど」
「調理本があったから真似て作っただけだ。それに、和食ばかり食べていた訳でもないからな…」
「なんだ、そうなのか?」
「重桜の他にも大きな勢力がいくつかある。いがみ合うこともあれば、共に食卓を囲むこともある…考えれば奇妙な関係だな」
「この前言ってた土佐より奇抜な服装の人達か。土佐より奇抜って全く想像つかないけど…」
「私もそんなに詳しくはないが、ロイヤルの者でメイドと名乗っていた者は多かったな。メイドと、その目上のような存在だ」
「…:メイドが海で戦うなんて信じられないんだが」
「彼女らは強力だぞ。私たち重桜の艦船と比べても劣らない実力の持ち主だった」
「土佐の世界、謎に包まれてるなほんと…」
「ふん、それはこっちのセリフだ!それよりも早く食べたらどうだ?せっかく温めたのに冷えるぞ」
「あーすまん!頂きます!」
見た目よし、香りよし。
甘くてクリーミーなシチューが口の中に広がる…
はずだったのだが。
「なんかしょっぱい気がする…?土佐、今日こそは味見したんだろうな?」
土佐の顔を見ると、顔を咄嗟にずらす。
(…変なところでプライド高いなほんと)
仕返しに、少しからかってやっても良いだろうか?
「俺にはなんとなーく原因わかる気がするけど…当ててやろうか、土佐さん?」
「…き、貴様の舌が私の料理と合わんだけじゃないのか!?」
垂れ耳は忙しなく動くわ、目線は泳ぐわ…明らかにおろおろしはじめた。
どうやら思い当たる節があるらしい。
「おいおい、俺の舌を舐めてるぞ?とりあえず1口食べてみろ、ほら」
スプーンで1口分掬って土佐の口に持っていく。
土佐はスプーンをぶんどると、勢いよく口に突っ込んだ。
土佐の顔がどんどん赤くなっていく。
俺は刺激物には割と耐性があるためにまだ耐えれたが、実はこのシチュー、普通の人からすればとんでもないしょっぱさである。
敢えて土佐に言わない、ちょっとした意地悪である。
土佐が水をよこせ、というジェスチャーをしたので、ニヤニヤしながら水をコッブに注いで置いてやる。
彼女に激辛のラーメンなんかを食べさせた時の反応も見たいものである。
水を一気に飲み干した彼女がぜえぜえと息を漏らす。
「…砂糖と塩、間違えちゃったな?」
「同じ白い粉なんだから!見分けがつくように何か書いておくぐらいしておけ!この馬鹿ぁ!!」
顔を真っ赤にする土佐を見て、思わず吹き出してしまう。
凛々しく生真面目な彼女だが、どうしてこうもどこか抜けてしまっているのか?
このギャップこそが、彼女の真の魅力かもしれない。
「重桜」にいるであろう土佐の姉や仲間たちも、どこか放っておけない彼女が可愛くて仕方なかったのではないだろうか。
…土佐が家事をそつなくこなせるようになるのには時間がかかりそうだ。
だが、どこか不完全な土佐の方が、俺は好きかもしれない。
ハチャメチャだが、毎日退屈しないことは間違いないからである。
「きっと上手くできるようになるって。要領のいい土佐なら」
「あ、当たり前だ!今に見ていろ、貴様にまとめて謝罪させてやる!」
…艦船の家事修行はまだまだ続く。