海へはもう少しゆっくりできる時に船出してこようと思います
3章 ニュアンステーマ 倉木麻衣「key to my heart」
11話
俺の仕事はアイドルの魅力を最大限に引き出し、それをコントロール出来るように導き、自分の翼で羽ばたいていけるアイドルにすることだ。
それは学校教育とは違う、スポーツ選手の育成とも違う。
魅力の引き出し方なんて星の数ほどあるのに、それでも引き出せないような秘められた魅力も存在する。そしてアイドルたちの魅力も千差万別…1人として同じ子なんていないのだから当然だ。
1人1人に最適な引き出し方を模索する毎日…
そんな無理無茶無謀な仕事に日々挑んでいるのも、アイドルたちの輝きを間近で見れるという役得のようなものを考えれば安いものだ。
たった一人で数万、数十万、数百万…もっとたくさんの人間を魅了する彼女たちの力…その助けになれる、そんな光栄な仕事なんだ。
彼女たちの魅力を引き出すためなら、法律の範囲内のどんな奇想天外な手段でも使ってみせる。
アイドルに害が及ばずに最大限魅力が引き出せるのであれば…
そう、毎朝自分を鼓舞するルーティーンをこなす。
今日も頑張ろうと意気込んだ俺のスマホにチェインが届き、
『あのさ、次の撮影に透くん連れてっちゃダメかな。あ、一応知ってるよね?』
被ったPヘッドをデスクにぶつける勢いでヘッドバンキング。
「やっぱりお前か久我透ぅぅぅ!!!!!!」
「プ、プロデューサーさん!?大丈夫ですか!?」
午後の事務所、学校帰りの透と向き合って話していた。
「流石にダメだ、彼は関係者じゃない」
「まぁわかってたけど、そこをどうにか…さ、ダメ?」
「…彼とはこの前話したけど、怪しい真似をするような人じゃないのは俺もわかってる。けどこれは透に依頼された仕事なんだ。撮影にはたくさんのスタッフが関わっている…」
「ん…じゃあ遠くから見てるだけなら平気だったりする?」
「………妥協するならそこまでだ。けどその場合、撮影が終わって現場が完全に撤収するまでは話しかけたり、目線をやったりはしないって約束を守れるか?」
「うん。お仕事はきちんとやって、全部終わったら話しに行くから」
「……」
透の真剣な目を見て、俺は目を閉じて考え込む。
(本当は事務所に帰ってくるまでしてほしくはないんだけどな…俺が二人の関係にそこまで口を出すのも気が引ける。うちは特に恋愛禁止というわけではないけど…ノクチルとしても透個人としても、やっと仕事を頂けるようになったんだ…)
ようやく踏み出せた一歩、ここでつまづいてなんかいられない。
自分はただの透の知り合いじゃない、浅倉透というアイドルのプロデューサーだ。
彼女の人生をこの世界に、風の止んでしまった世界に誘ったのは自分だ。
この世界を去ると告げられるその時まで支え続ける責任がある。
だが…
「透」
「ん、なに?」
「久我くんに撮影を見てもらいたい理由を聞いてもいいか?」
返答次第では断ろう。
そうなった時は、透にもその意味が伝われば…いや、伝わると信じよう。
「今の私を見てもらいたいんだ。透くん、昔の私しか知らないと思うから」
「それは仕事中でないといけないのか?ライブや雑誌でも今の透は見れるだろう?」
「ダメなんだ、アイドルの私だけじゃなくて、今の“とーる”を見てほしい」
「そしたら私もわかるかもしれないから。どっち行けばいいのか、さ」
「………わかった。その代わりさっき言った約束は必ず守ってくれよ?」
「うん、約束する。…ありがと、プロデューサー」
透は、変わろうとしているのか。
こうはっきりと自分を見てほしいと主張したのは、花火大会でのミニライブ以来か?
それに自分の行く先がわかるかもしれない、か…
アイドルが自分で変わろうとしている、それを邪魔するプロデューサーなどどこにいる。俺がやるべきは変化を邪魔することじゃない、変化を誤らないように支えることだ。
『自分の意志で変わる』
それが本人たちにとってどんなに大変なことか、今までのプロデューサーとしての経験の数だけわかっているつもりだ。それを自分から、変わりたいからこうしてくれと言ってくるように成長した透…さすがはノクチルのセンターだな。
「じゃあ久我くんには別で来てもらってくれ、帰りは一緒でも構わないから」
「場所とかどうしよ…見えないところって言えばいいかな」
「まぁ彼なら察してくれそうだし、撮影の邪魔にならない所、で大丈夫だろう」
「ん、了解。じゃあ予定空いてるか聞くね」
「ああ」
「…ん?」
「?」
「……透、もしかして、今から誘うのか…?」
「え、うん。だってこういうのって先にプロデューサーとかに聞いた方がいいと思って」
「……はぁ…透はやっぱり透だな…」
「え、なに」
【Central Fate】
浅倉「ねぇ、センターってなにすればいいの?」
P 「思い出アピールを5にするんだ。Me以外のステータス50%アップ補正もつくぞ!」