3話で言えばちょっと哲学的な話が多すぎたので削ったりとか
良かったこのまま哲学系にならなくて…
いやシャニマスなんてもう哲学みたいなもんだし別にいいか
3話
今日の試合は、結果から言えば予想通りの展開になった。
うちのチームがリードを保ち、相手が少し点差を詰めてきたら紺野にスリーを撃たせ突き放す。
後半は3年生が2年生と交代し、俺は1年生のガードにゲームメイクを任せて外からのシュートに徹した。
そのまま試合は終わり、特に苦戦した場面も無く勝利。
引退が決まり、嗚咽を堪える相手チームの選手の横を黙って通り過ぎた。
諸々の支度を終えた俺は、寄り道もせずに紺野と電車に乗っていた。
陽が伸びる夏はこの時間でも夕日は出ていない。
「そいや透、お前浅倉さんどうしたんだよ?」
「どうしたって?」
「いや、一緒に帰んなくていいのかって」
「まぁ…別に帰る約束とかしてないし」
「あー、そう…」
紺野らしからぬ歯切れの悪さに引っ掛かりを覚える。
「ん、なんかあるのか?」
「いや、無いって訳じゃないんだけどさぁ…まさか聞かれてねーのか…?」
夏の湿気を吹き飛ばす車内空調が、紺野の短い前髪を揺らす。
「一応さ?俺はお前と浅倉さんの関係を直接聞いてるから、俺が首突っ込むような話じゃないってのは理解してんだよ、ガキみたいに冷やかしていいもんでもないって」
「ああ、まぁ…その方がありがたい」
「その上で話すけど、俺、今日の試合前にスポドリ買いに行ったじゃん?あん時に浅倉さんと会ったんだわ」
そうか、確かに透が来てすぐ紺野も戻って来てた。
アップ前に紺野が自販機を探しに行ったけど、透と会ってたのか。
あの謎オーラは耐性無いとついていけないと思うが…
「上手く話せなかったんじゃないか?」
「あー…流石幼なじみ、口パッサパサでマヌケ面してたわ」
浅倉透というのはそういう人間だ。
生まれ持った空気感と動じない態度、淀みのない所作は人の視線を無意識に惹き寄せる…
その実は普段から何も考えていないし、動じないのは相手の話をよく聞いてないだけ。話をそれっぽく締めて後回し、後に回した事を思い出すのはいつも手遅れになってから。
とにかく、知れば知るほど透明度が下がっていくものだ。
「で、そん時さ、お前と同じチームかって聞かれて…その後、」
『えっと、久我透、って人さ、試合出るかってわかる?』
「…って」
「間違いなく透だ、聞いた相手が紺野で良かった」
「それどういう意味だ」
「良くも悪くも」
「あっそ…ほんで、出るって言ったらよ、」
『あ、そうなんだ。じゃあ、試合終わるのって何時?』
なんだ、透は何を聞いているんだ…?
それより、紺野も何を言いたいんだ?
2人とも普段は単純なくせに、こういう時には歯切れ悪いな。
「細かいことはいいから、お前が言いたいことを言ってくれ。別にお前にキレたりしないし…」
「はー…伝わんねぇ野郎だな…だから浅倉さんは、こんなクソ暑い中お前の応援に来て、お前にお疲れって言って一緒に帰りたかったんだろって…言われなかったのか?」
「…透が、一緒に…って?」
「いや一緒にとは言ってねーけどさ!お前が出るか聞いて、終わりの時間も聞いてきたってことはつまりそういうことだろって!」
それはどうだろう…
そもそもあの透のことだ、思いつきさえすればその止まらなさなんて紺野の比じゃない。
そんな、俺と一緒に帰るなんてことを透が考えるか…?
「無いだろ。お疲れって内容のチェインなら試合後に来てたし」
「…ちなみにお前、なんて返したんだ?」
「え、あれしか出てないし別に疲れなかったって」
「っ…はぁっ…お前ってやつは…!ほんとによぉ…!!」
「何がダメだったんだ…?」
「…全部だよバカ」
あの紺野がここまで落胆するなんて…俺が相当やらかしたっぽいけど、ぶっちゃけよくわからない。普段から透とはこんな感じだったし、今日が誕生日だとか、そういうものもない。普段といっても再会した半年前からだけど。
「…勘違いしないでほしいんだけどよ、別に俺はお前と浅倉さんが付き合えば~とか、そういう事は言ってねーんだ、それこそお節介ってやつだし」
「アイドルが恋愛すんのって良くないんだろ?」
「まぁそれは事務所とか、そういうとこ次第なんだろうけど…そうじゃなくてさ…」
「透、お前なんか浅倉さんとの間に妙な線引きしてねーか?」
線引き
一線を引いている
その自覚はある
俺は透と再会してから、踏み込まないように、そして踏み込まれないようにしている。
それはお互いにもう子どもではなくなって、昔のように接するのが小っ恥ずかしいのもある。
だが本当は、怖いのだ。
あの日の透の、どこまでも深くどこまでも透明だった瞳の奥を、今でも覗き込みたいと思っている
透明の先を望んで、望んで、どこまでも深みに落ちていった先の景色に恋焦がれている
経験した人ならわかるかもしれない
自分を魅了する芸術と出会った時、理想の相手を見つけた時、この世で唯一の救済を得た時…
人が何かに狂った時に、自分が自分でなくなっていってしまうと自覚した時の恐怖が。
このまま進めば、悩み苦しみながらも進んでいく人間ではなく、ただ望む物を求めるだけの獣のような存在へと堕ちてしまう…そう思うと正常な危機察知の感覚を持っていれば手や心が震えて止まらない。
あの透の…透明だった透の、あの日の濁った半透明の小さな泉の先には何があるのだろう?
それを知りたくてたまらない
透が透明でいられなくなった、なにがそうさせた?
聞けるなら今すぐにでも聞きたい、問い詰めたいほどに…
そんな俺を人の道の崖際で引きとめてくれたのがバスケだ。
透の目に惹かれたあの時、俺の手からボールが離れた…バスケが俺の手から離れた瞬間に俺の意識は透から引き剥がされ、手放さずに済んだ。
幸せを失うのが怖かったんだ、俺にとっての幸せはバスケしか…
もしも狂うなら、俺は透より…バスケの方が「おい、透?」
「ぁ…なんだ?」
「だからさ、恋愛的な意味じゃなくて、浅倉さんと一回ちゃんと向き合う事を考えてもいいんじゃねーのって。お前が平気ならさ」
思考の嵐から抜け出す。
そうだ、今は紺野と話していたんだ。
勝手に一人で没頭していた。
「一緒に帰りたいってことは、向こうも何かあるからそう言ってんじゃね?たぶんだけど…幼なじみなら一緒に帰るとか、別に不思議でもねーだろ?」
「…昔は毎日一緒だったから、まぁ」
「今度どっかで正面から会ってみろって。良くも悪くも何か変わるかもしんないぜ?」
「悪くはダメだろ」
「このまんまよりはマシだと思うけどな」
「……」
こいつのこういうところは本当に羨ましい。
グダグダするくらいならまず行動、か…
「…考えとく」
「ここまで言っといてなんだけど、口出して悪かったな」
「いや、こういう時は助かる」
「助かってねーのはいつだよ」
「いつもだよ」
こうやって支えてくれる存在が自分にいることも俺の幸せなんだ、それを忘れるところだった。
まだ少し怖いけど、あの瞳と向き合ってみよう、落っこちない程度に。
そこに広がる景色は、どんな色をしているんだろう?
大丈夫───きっとおもしろいよ
【どこまで知ってBuddy?】
紺野「あ、一緒に帰ってないってことは…浅倉さんワンチャンまだ会場…?」
久我「いや、遅くなるかもって言ったら、見たいドラマあるから先に帰るってさ」
紺野「あぁ良かった…置いてけぼりとかしたらマジギルティだかんな」
久我「流石にそんな事はしないぞ」
紺野「でもお前さ、ほんと自分が恵まれてるってこと自覚しろよ?」
久我「え、なにが?」
紺野「幼なじみ」
久我「そんな特別でもないだろ、今年入ってからアイドル始めて少し有名になっただけで」
紺野「…お前それ鷲の前では言うなよ…?」
久我「鷲崎…?あいつがどうした」
紺野「透が浅倉さんと幼なじみってだけでも大騒ぎだったんだぞ…しかも樋口円香とも」
久我「…ああ、そういえばあいつ、円香のファンだったな…」
紺野「俺だってこれでも羨ましがってんだぜ? かー!俺も浅倉透と一緒に帰りてぇなぁ!」
久我「話しかければいいだろ。どうせ俺のとこに来るだろうし、また会えるぞ」
紺野「いや彼女にバレて機嫌悪くなってもさ?」
久我「…ああ……うん?」
紺野「お…?」
久我「いたのかよ」
紺野「まぁ」
久我「はぁ…知らなかった」
紺野「ありゃ、言ってなかったか。一応な」
久我「なら透と話せなくても十分幸せだろ」
紺野「そういうもんじゃねーんだよ、アイドルは別枠だわ。透はいんの?」
久我「いたら透と帰るかなんて悩んでない」
紺野「そりゃそうか…この際どうよ?同じ透同士じゃん」
久我「子どもか…さっきの自分の発言思い出せよ…タイプじゃないんだよ」
紺野「ま、だろうな。お前は櫻木真乃ちゃんみたいな子がタイプだもんなぁ?」
久我「…………何で知っt」
紺野「自称相棒なんで」