透物語   作:ぎゅうにく

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わかってる、わかってないの応酬

わかってるけどわからないのが浅倉
わかってるけどわかりたくないのが樋口
わからないからわかりたいのが小糸
わかることだけわかっていればいいのが雛菜

って勝手に思ってます


一章 6話

6話

 

後ろじゃない、隣でいつも見てるからわかる

 

 

───代々木で撮影のお仕事の時に試合出てるの、見かけたんだ。

 

半年前、普段聞かないような上ずった声で話してきた。透き通った目をして

 

 

───連絡先げっと。みんなにも渡していいって言ってたよ、いる?

 

その後どうやったのかチェイン交換してた。昔の透を思い出すような顔で

 

 

───ねぇ、樋口も行こうよ。練習試合観に行く人、意外といるんだよね。

 

会いに行くだけなら一人で行って。試合なら一緒に行ってもいいけど

 

 

───久しぶりに今度一緒に帰ろ、あ、樋口も会う?

 

会うのは構わないけどその日はパス、自主練するから

 

 

 

 

────あ、樋口。やっほー。

 

ひどい顔

 

普段は顔には出ない“ノクチルの浅倉透”とは思えない

ただ、なんとなくだけど久我が透に何かした感じじゃない

 

 

 

だって顔に書いてある、怖いって

 

前の私と同じ、顔に書いてある

 

 

 

 

 

「狭くない?」

 

「平気でしょ」

 

「樋口わりとコンパクトだもんね」

 

「……」

 

 

そこからどうして私たちは、一緒に狭いお風呂に浸かってるんだろ…

 

 

 

 

透を連れて帰ってきた私に、お母さんが「ご飯はちょっと遅くなるから先に汗を流してきたら?」って勧めてきた。その時に「久しぶりに透ちゃんも一緒に入っていったら?」とも言われてなきゃ、こんなことにはなってなかった。

 

でも今の透をほっとくと、どこに飛んでくか分からないし、ちょうどいい。

ただでさえどこ見てるかわからない時ばっかりなんだから…

 

 

「……」

 

「………」

 

「ふふっ、いつぶりかな、樋口とお風呂入るの」

 

「さぁ?覚えてない」

 

 

打算と流れで入ったけど、気まずい…

さっきまであんな顔してたのに、もう何もなかったみたいに普通の顔。

 

でもわかってる、透はただただ下手くそなだけ。

顔に出すのがそもそも下手だし、ついでに愛想笑いでごまかして表情に出そうとしないからたちが悪い。でも本当に強い感情だけはわかりやすく出てくる…

 

さっきのを見ちゃうと話題に出すのが透に申し訳ないけど、このままにして仕事に影響したりなんかすれば最悪。

ただでさえノクチルはこれからなんだから。

 

 

「今日さ、試合観たんだ」

 

 

意を決して切り出そうとしたら、透の方から話に出してきた。

 

 

「っ…うん、知ってる」

 

「勝ってた。今日はもう試合ないってトーナメント表で知ってたし、すぐ解散?って送ってさ」

 

「うん」

 

「次の相手の試合見ていくことになりそうな流れって来て」

 

「うん」

 

「じゃあお疲れって返して」

 

「…なんでそれ最初に送んなかったの」

 

「んー…ふふっ、わかんないや」

 

「はぁ…で?」

 

 

天井から滴り落ちる雫が透の髪に落ちる。

 

 

「後半からしか出てないし、ガードでもなかったからそんな疲れなかったって」

 

「………」

 

 

前言撤回

素だとしても、あっちもあっちじゃん…

 

 

「あ、ガードっていうのはボールを運ぶ役割で」

 

「知ってる。浅倉もそれだったでしょ」

 

「そっか、知られてた」

 

「そこはどうでもいい、一緒に帰ろうとしなかったのはなんで?」

 

「えっと、なんていうかさ…」

 

 

透の目が少し濁った気がする。

 

 

「なんか、私と透くんってこんな感じだったっけって思って」

 

「そりゃお互いもう高校生なんだし、多少は変わってるでしょ」

 

「やっぱそういうものなのかな」

 

「面倒だから、一言で言って」

 

「えー」

 

「どんだけ引き延ばしてると思ってるの」

 

「透くんに一緒に帰ろって言えなかった」

 

「………はぁ……言えるじゃん」

 

「ふふっ、樋口のおかげかも」

 

 

やっと言わせられた、透から誘えなかったって

 

きっと自分でも心のどこかではわかっていたはず

透はそれを自覚するのも、自覚するために口に出そうとするのも苦手だから、こうやって無理やりにでも出させてやるしかない、そう言えなかった理由も…

 

 

「言えなかったのはなんで?」

 

「うーん……ちょっと、怖かった…?」

 

「…ま、珍しく顔に出てたからそうなんでしょ」

 

 

久我がどうのじゃなくて、これは透自身の問題。

 

 

「……そっか。私、怖かったんだ」

 

「なにすっきりしてんの」

 

「なんでもない」

 

 

でも透は自覚した。

自覚できたのなら、あとは自分で答えを出せるはず。

 

透は普段から何も考えてない。

でもそれはバカだとか、考える力がないとか、そんなことじゃない。

むしろ透は興味があることには意外と頑固だし、空想好きでロマンチックなとこがある、ちゃんと考える時は深く考え込むタイプ。

だからもう放っておいても大丈夫。

 

 

「仕事の時はちゃんとしてよ」

 

「任せて、いつも通りでいくから」

 

「それはそれで困るんだけど」

 

 

 

「ふふっ、大丈夫。ちゃんとやれるから」

 

 

目の前の私の幼なじみはもう、“ノクチルの浅倉透”だった。

 

 




【Honesty Rhapsody】

『あのさ』
                      『なに?』
『今度休みの日に遊ぼうよ』
                『練習無いからいいよ』
『やった』
『樋口も会いたいって』
                      『円香?』
『言ってないから』
                 『今の絶対円香だろ』

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