透物語   作:ぎゅうにく

7 / 11
ちょこ先輩を狙っても狙っても浅倉しか来ません
来てくれるのはありがたいんですがちょこ先輩を狙ってるんです
でも浅倉が来るんです
なんなんすかねこれ



一章 7話

7話

 

その日は朝から快晴だった。

天気予報も日本の夏にしては珍しく湿気が控えめになると予想を出していて、快適な一日になるそう。こんな日には広い野外コートでイアホンから曲でも流して、ドリブルを衝くのが気分転換にいいと決まっているが、今日はチームの決まりでもある「オフデー」だ。

 

身体的、精神的ともに人間には休むという行動が必須であり、体に休暇を与えないというのは逆に効率を下げ続けるという研究結果が今は普及している。もう努力量のみで勝敗が決まるなどという根性論は廃れた時代だ。

 

うちの監督は厳しく、そして鬼畜である。

だが強豪チームを率いるだけの手腕があるのは確かな事実だ。

『休暇を正しく取るというのもれっきとした練習メニューの1つ』と言って、このチームを率い始めた頃から選手に徹底させているらしいこのオフデー…何をするのかというと、「バスケを始めとする運動を禁止する」のだ。

買い物や軽い観光といった日常生活を除いて体に休暇を与える。

それによって筋肉には回復を促し、精神はリフレッシュさせ、選手がバスケに凝り固まることを防ぐことが目的なんだとか。

 

実際、俺みたいにバスケばかり目に映るタイプには大いに効果があった。こういった勝利のために一歩引いた判断も下せる…俺は監督のそういうところに尊敬を抱き、指示に従っている。

 

 

 

つまり俺は今日、ゆっくり過ごす時間を得た。

 

 

得たのだが…

 

 

 

 

「えっと、君が透の幼なじみの久我透くん…で、あってるかな?」

 

 

透に指定された河川敷で、

 

 

 

「俺は283プロダクションの、ノクチルのプロデューサーだ。あ、これ名刺」

 

 

 

知らされていない相手と出会っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ノクチルと幼なじみでした、久我透です。高校2年生です」

 

「君のことは聞いてるよ、主に透から…あ、透って呼ぶとわかりにくいかい?」

 

「いえ、慣れているので大丈夫です、そのままで」

 

「いや、浅倉もうちのアイドルだ、外での呼び方にするよ」

 

 

とりあえず舗装された道から外れ、川岸まで降りて挨拶を済ませる。

 

この人は透たちの所属事務所、283プロのプロデューサーと名乗った。

特に嘘をついている様子もないし、名刺も本物なんだろう。

黒髪をワックスでかき上げた姿と白いワイシャツが誠実さを表しているようだ。

 

 

「今日、浅倉にここに来いって呼ばれたんだが…もしかして君もか?」

 

「こんなことするのは透しかいませんよ」

 

「はぁ、やっぱりか~…まいったなぁこれは…」

 

「あの…透はアイドル、やれてますか…?円香がいても、透は結構自由なので…」

 

「もうすっかり一人のアイドルだよ。ノクチルはみんな頑張ってくれてるし、浅倉はセンターとしてしっかり3人を引っ張ってくれてる」

 

「…それほんとに引っ張ってます…?引きずり回してません…?」

 

「…幼なじみってのは本当なんだな…まぁ、たまにそういう時も…たまにな?」

 

「…まぁ、上手くいってるなら…」

 

 

透から聞く限りでは、みんな小学校の頃から特に変わってないそうな。今も俺には、透が先に行き、雛菜が続き、小糸が止め、円香が諦めるのが見える。

しかし結果としてユニットが有名になっているのだから、それは奇跡的に状況が噛み合ったか、このプロデューサーの手腕かのどちらかなんだろう。たぶん後者だろうけど。

 

 

「いや、ほんとに迷惑とかは無いんだ。むしろスカウトしたのは俺の方で…そうだ!浅倉の幼なじみの久我くんに相談してみたいことがあるんだけど、どうかな…?」

 

「俺にですか?そんな、アイドルの話とか全然知りませんけど…」

 

「ああ、アイドルの話というより浅倉本人の話なんだ。今は君以上に適任が見つからなくて…」

 

「ちなみに円香たちには…」

 

「一応聞いてみたんだが、雛菜はちょっと抽象的過ぎてな…小糸には分からないって言われたよ」

 

「小糸は俺と同じで別の私立に行きましたからね、透に関して知らない事もあると思います」

 

「円香には…実は聞いてないんだ。プロデューサーなら自分で聞けって言われそうでな…」

 

「…円香が?なんだかんだ付き合ってくれるやつだと思いますけど…」

 

「俺じゃまだまだ心を開いてもらえてないんだろうな、今は仕方ないさ」

 

 

円香は別に冷たいわけじゃない、それは俺が幼なじみだからとか関係無く。

あいつは自分が頑張るべき時と場所を間違えないようにしているだけだ。それは昔からそうだった。だからって自分勝手ってわけでもなく、本当に困っている相手は見捨てず、最後まで手を貸してくれる優しくて面倒見がいいやつだ。多少言葉に棘があるけどそれは気恥ずかしさを隠すため。

 

冷たい言葉に熱い心、それが俺の知る樋口円香。

何か機嫌を損ねることをしなければ普通の女子だ、それは誰だってそうだけど。

 

 

「…わかりました、俺でよければ」

 

「そうか!助かるよ!」

 

 

その反応から、かなり悩んでいたみたいだ。

さっき聞いた話だと、283プロは業界大手ではあるが、なんと所属アイドルをプロデュースしているのはこの人だけらしい。ノクチルを知ってから少しは知識がついたが、それ以前の俺でさえ283プロのアイドルユニットを3つくらいは知っていた。

という事はこの人は一体何人のアイドルを同時に担当しているんだろうか…?

283プロに入社してからずっとプロデューサーは自分1人だと聞いて驚くと同時に、この人となら4人もしっかりやっていけるだろうと思った。

 

そしてもう1つ、円香の苦手なタイプだろうな…とも。

 

 

 

 

 

 

「相談は浅倉…透が、最近気になる人が出来たと話してきたんだ」

 

 

 

止まっていた灰の時間は、彩を与えられ、再び熱を帯びる。

 

 

 

「それが恋愛的な意味なら、Pとして少し介入しないといけなくなるかもしれないんだが…」

 

 

 

 

 

「幼なじみの君は何か知らないか?」

 

 

 




【パレット上のパステルコード】

P 「なぁ円香、透の気になる人って誰なんだろうな?」(シミュレーション)
樋口(私に聞かないで下さい。なんでそういう時に持ち前の暑苦しさを発揮できないんですか?そういうところがまさにミスター・不純物ですね、王子様でも気取ればいいんじゃないですか?)
P 「いやなんかキツくね?」(シミュレーション)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。