色々と簡単になって嬉しい反面、今までの苦労を思い出すとつらいところ
9話
一緒に行ったアパレル店で透の選んでくれた服を買ってその場でタグも切ってもらい、今っぽい装いになってから他の店も回っていった。
この辺りは俺が通学に使う駅とは反対側にあるからしばらく来てなかったけど、随分と店舗のリニューアルが激しかったようだ。子どもの頃に見た覚えのある建物の多くが開発の波を受け、真新しい外壁ばかりになっている。
「ね、あのクレープさ、食べたくない?」
「…甘そうだなぁ」
「ふふっ、そりゃそうでしょ」
「いくか…無理だったら俺の分も食べてくれ」
「えー…うん、いいよ。明日ダンスレッスンにしてもらおうかな」
甘かった
けどどこか爽やかな味も見え隠れするトッピングのオレンジチップ
「こんなところに本屋できてたのか」
「入る?」
「ちょっと涼んでいこう」
「あ、283の他のユニットの秋コーデ雑誌、出てるかも」
「他…アンティーカとか?」
「知ってるんだ」
「ちょっとはアイドルに興味持つようにしたんだ、幼なじみ達がいるんだし」
「へー…ね、アンティーカなら誰が好き?」
「…特にいないかな」
綺麗だった
柔らかく微笑む笑顔、試すようなアイドルの笑顔
「今度の撮影、海に行くんだ」
「夏らしいな、みんなで?」
「私だけだって、雑誌の撮影」
「撮影ってどんな風にやるんだ?でかいカメラとか使うのか?」
「えーっと、意外とそうでもないよ。思ってたより…コンパクト?」
「ふーん…『HOT LIMIT』みたいに撮るのかと思ってた」
「ふふっ…あれはあの人だけ…っ…ふふふっ…くくっ…」
「知らなくて悪かったな…」
涼しかった
商店街を背景にくだらない話で勝手にツボっている幼なじみ
「今日はありがと」
「こっちこそ…いつもオフデーは一人で過ごしてたから、まぁ…」
「あ、そうなんだ。じゃあ、また行こうよ」
「……ああ、また」
「うん」
「じゃあ」
「うん、じゃあね」
この気持ちは、なんだろう…?
いつも一人だった休日を一緒に過ごしてくれた透
そうか、寂しかったのか
だから今日はいつもオフデーに感じていた寂しさを感じなかったんだ
寂しくなかったから、特別な休日ってことを忘れていたんだ
その一日にバスケがなくても、透と過ごした一日は大切な一日なんだ
─────俺の幸せはバスケだけ
でも今日の透とのデート?は確かに楽しかったんだ
─────あの目は俺からバスケを奪ってくる
─────あの日のミスを忘れたのか
あれはもう終わった いつまでもここに居続けることはできない
進まないと
俺はあの半透明の泉の先を知りたいんだ、透が透明でいられなくなった先を
───迷ってないで
一直線に
『でさ』
『透』
『…ん?なに?』
『今度は少し遠いとこにも行こう。鎌倉とか、江の島とか』
『……うん、いいね、それ。箱根とか行ってみたい』
『千葉の方にも綺麗な自然があるってさ』
『へー……透くん』
『ん?』
『行けるとこ、全部行こうよ。二人でも、みんなでも』
『…あぁ、いいな、それ。全部行くか』
涼しい夜風も今は夏
一緒に浴びた熱と混ざって、俺たちの隙間を埋めていく
【トランスペアレンツは追憶を終えた】
小糸「ま、円香ちゃんはプロデューサーさんから何か相談とか…された?」
樋口「されてないけど…内容、聞いてもいいやつ?」
小糸「だ、ダメじゃないと思うけど…と、透ちゃんの気になる人って誰?って…」
樋口「……はぁ…」
樋口(変なところに気を遣うくせに……ほんと、ダメな人)
樋口「小糸、気にしなくて大丈夫。ほっといても勝手に先に行くから」