日本 経済特区 東京
姉さんとの約束の日僕は一人で指定されたホテルのレストランに向かっていた。普段あまりタクシーは使わないが今日だけは姉さんからタクシー代を貰っており難なくホテルまで到着することが出来た。
都内でも高級の部類に入るであろう煌びやかな街並みに存在するホテルは僕の目には眩しく既に日も落ち始めている時間帯のため尚更それが強調されていたのだ。
こんなところ使ったこともないから緊張するし姉さんもよりによってこんな場所で食事するなんて...ルイスならこういう場所にも慣れているのかもしれないけど。
赤絨毯が敷き詰められたロビーに天井のシャンデリア...眼が眩みそうになるよこれじゃあ...
「ええと...レストランまではエレベーターか。」
それにしても姉さん一体誰を紹介するつもりなんだ...
ホテルの上階に存在するレストランまでエレベーターで上がる...こういう場所だからドレスコードもある、それが尚更僕を緊張させていたのだ。しかしこんなカジュアルエレガンスな服装は僕にはいまいちだな...
レストランに到着しウェイターに待ち合わせであることを伝える。...店内を見渡すと窓際に姉さんともう一人男性が席についているのが確認できた。
遠目からは何となく様子をうかがうと何やら楽しそうに話している二人の様子がうかがい知れた...正直あまり行きたくないような...しかしそういうわけにはいかない。
意を決して僕は近づいた...それにしても居心地が悪い。
「あ、沙慈こっちよ。こちらアムロ・レイさん...ほら、挨拶!」
「...あ!沙慈・クロスロードです...」
「アムロ・レイだ、よろしく、沙慈くん。」
「アムロさんはね、ユニオン軍の大尉なのよ...」
「はぁ...軍人さんなんですね。」
それからのことは何を話したかあまり覚えていないような...その場の雰囲気もあって僕はずっと緊張しっぱなしであった。せっかくの料理の味もほとんど分からないままでただ姉さんとアムロ大尉の話を黙って聞いているだけだったのだ。
しかしまさか姉さんが軍人と付き合っているなんて...確かにちょっと前アメリカに長期で取材に行っていたことがあったけどまさかそこで誰かと付き合っているなんて思いもしなかった...弟である僕が今まで気が付きもしなかったなんて...
僕が若干上の空になっていた時にアムロ大尉に話を振られてしまった。
「沙慈くんは将来宇宙で働きたいと絹江から聞いたよ...すごいじゃないか。」
「ええ、まぁ...」
「これからはやはり宇宙の時代だからな、君のような若者が宇宙に行くのはとてもいいことだと思うよ。」
「...アムロさんは何で軍に入ろうと思ったんですか?」
「ちょっと沙慈!」
「いや、いいんだ。...そうだな、最初は成り行きみたいなものだった、その後ズルズルってわけじゃないんだが他に食べる方法を知らなかったことだしな。」
その時のアムロ大尉の表情からは何か複雑な感情が現れているようであった。もしかしたら僕には想像も出来ないような人生を歩んでいるのかもしれない...確かに今の日本は平和そのもの、ソレスタルビーイングが活動をしていると言っても日本にはたぶん武力介入なんて行わないだろうし国境を接している人革連も今は彼らのせいで表立ってユニオンと事を構える気は無いようにも思える。これからも僕たちには戦争なんて無関係な日々が続いていくと信じ込んでいたのかもしれない...それは何の根拠もない楽観視...後から思い返せばこの時既に世界は動き始めていたのだ。軌道ステーションでの事故を経験した後ですら喉元を過ぎれば忘れてしまう...それが平和に慣れ切ったこのころの僕であったのだ。
「そうなんですか...」
「しかし後悔はしていないよ、それにやりたいこともまだ存在しているしな。」
ユニオン領内 某ホテルのBAR
スメラギ・李・ノリエガこと本名リーサ・クジョウはこの場所である人物と待ち合わせていた。彼を待つ間グラスに注がれたカクテルを飲み端末でモラリアとAEUとの間で行われた合同軍事演習についてのニュースを眺めている...その時に彼から声をかけられたのだ。
「やはり気になるかい?」
ビリー・カタギリ...彼とは大学院時代の同窓であり久しぶりの再会でもある。
「やあ」
「あ...」
ビリーがバーテンにカクテルを注文するとやはり例の件について聞かれたのだ。
「君ならどう見る?モラリアの動向を...」
「そういうのやめましょ、久しぶりに会ったんだから...」
「大学院以来だよね、何年ぶりかな?」
「言わないで、歳がばれるから...」
「はは...もう知ってるけど。」
「女はね、実年齢を言われるとその分だけ若さが減るの」
「そんな実証データがあるなんて。」
「ふふ、変わってないのねビリー...」
「誘ってくれて嬉しかったよ。しかし驚いたな、いきなり君から連絡が入るなんて...」
自分でもなぜビリーに声をかけたのかは分からない...ただ無性に昔が懐かしく感じたのかもしれない...私はビリーの気持ちに気が付いてはいたのだけれどわかっていない振りを続けていた...やはり私は過去を完全に捨てることは出来ていないし彼のこともいい友人としか思えていないのだ。
「...ところで最近あなたはどうなの?」
「最近は特に忙しくてね、例のソレスタルビーイングの件の調査隊に招集されていてね、その名も対ガンダム調査隊...」
「対ガンダム調査隊...何、そのネーミング。」
「新設されたばかりで正式名称がまだ決まってないんだよ。」
「その部隊にあなたが所属しているの?」
「僕だけじゃないよ、なんと技術主任はエイフマン教授さ。」
「教授が?」
「教授は既にガンダムが放出する特殊粒子の概念に気付いている、しかもそれだけじゃない...実は極秘だけどあのガンダムに対抗できる機体を僕たちの手で開発中なのさ。」
「...!!ソレスタルビーイングが現れてからのこの短期間でMSを開発するなんて流石に信じられないわ。」
「いやいや、あの機体は元々対ソレスタルビーイングを想定した機体では無かったからね、2年ほど前に革命的な技術的ブレイクスルーがあったんだよ。」
「...興味あるわね。それってどんな機体なの?」
「流石にそこまでは言えないよ。我が軍のトップシークレットだからね。」
「そう...残念だわ。」
ガンダムに...GNドライブ搭載機に対抗できる機体を開発できるとはとても信じられない、しかしビリーが嘘を言っているようにも思えなかったのだ。そして先日のエクシアを損傷させたフラッグの件といいユニオンのネットワークセキュリティーの件と言い何かしらの技術的な発展がユニオンで起こったのは事実であろうと思ってはいたけれど...王留美に依頼した月面の鉱物資源の一件ですら結局得られた新しい情報は存在しなかった。彼女は引き続き調査は続行すると言っていたけれどこの件でこれ以上の情報が得られる確率は相当低いだろう。
「その事はともかく君は今何をしてるんだい?」
「まあ、いろいろとね...」
「あの事は...」
「...もう忘れたわ。」
「そう...ならいいんだ。こうしてまた会えて嬉しいよ。」
「...うん」
情報管理が甘すぎるのは原作準規ということで...