2年後...西暦2307年 AEU軌道エレベーター 軍事演習場
ターコイズブルーに塗装されたMSが無人の機関砲群から射撃を受けていた。しかしそのAEU軍の新型MSイナクトは軽々とその弾幕を避け、また時には左腕部に装備されているディフェンスロッドから発生させたプラズマフィールドで防御することによってその機体の性能の高さ及びパイロットの技量の高さを誇示しているようであった。
AEU軍の新型MSお披露目、公開軍事演習がAEUの関係者のみならずユニオンなどの他国からの来賓を大勢受け入れまたマスメディアにも大々的な宣伝をして行われていた。
その軍事演習に来賓として招かれた二人のユニオン関係者がイナクトを観客席から眺めていた。
「モビルスーツ、イナクトAEU初の太陽エネルギー対応型か...」
「AEUは軌道エレベーターの開発で遅れを取っている、せめてMSだけでもどうにかしたいのだろう。」
イナクトを観察していたビリー・カタギリ技術顧問にブロンドの男性が語り掛ける。
「おや、いいのかい?MSWADのエースがこんな場所にいて?」
彼こそがユニオンが誇る米軍のMS運用部隊、MSWADのエースであり同軍の最新鋭機フラッグを駆るフラッグファイター、グラハム・エーカー中尉その人であった。
「もちろん良くはない。」
「ふっ...しかしAEUは剛気だよ。人革の10周年式典に新型の発表をぶつけてくるんだから。」
「どう見る?あの機体を?」
「どうもこうもうちのフラッグの猿真似だよ、独創的なのはデザインだけだね...まあ彼が見たらあのデザインは気に入るかもしれないけど。」
「彼?」
「いや、何でもないよ。忘れてくれ。」
その時だった、あの機体、イナクトから拡声器で拡張された怒号が飛んできたのは。
「そこ!聞こえてっぞ!今何つった?え?こらー!」
「集音性は高いようだな。」
「みたいだね...」
暫くするとあのイナクトのパイロットが何やらヘルメットに手を当てて通信しているようだった。そして彼が不意に空を見上げる。
その視線を追い僕も空を見上げるとそこには謎の光を発して降下してくる何かが存在していることに気が付いた。
「モビルスーツ?すごいな、もう1機新型があるなんて。」
「違うな...あの光...」
距離が近くなるにつれあのMSの全貌をはっきりとこの目で捉えることが出来た。そして僕は驚愕した。その機体は...正確にはその機体の頭部のデザインが僕にとって見知った機体と類似していたのだ。
「...あの機体は!!ガンダム!?」
「カタギリ、知っているのかあの機体を?」
「ああ...しかしあれはガンダム?そんな馬鹿な...一体どこの機体だ?」
イナクトのパイロットは再びコックピットに入り戦闘態勢に入った。当然の判断であろう。...しかしあれが僕の知っているガンダムと同じだとすれば...新型とはいえAEUのMSイナクトでは歯が立たないであろう。
もっともあれはνとはかなり異なった技術体系の機体ではないかと僕は考えていた。似ているのは頭部だけで...いやよく見ればその頭部もそこまで似てはいないようでもある...がとにかく相違点が多すぎるように見受けられる。
するとイナクトがソニックブレイドを取り出して周囲に高周波が響き渡る。周囲の人たちが思わず耳を手で塞ぐが僕とグラハムはそれどころではなかった。
それからのことはやはり僕の想像した通りであった。ガンダムと思われるMSに切りかかったイナクトは大型の実体剣で腕を切り落とされリニアライフルで応戦するも敵わず撃破されてしまった。
しかしその瞬間僕はあのガンダムがビームサーベルと思わしき兵装を使用したのを見逃さなかった。どうやらガンダムとだけあってビーム兵器を実用化しているらしい。
「んっ...失礼。」
グラハムが不意に前の双眼鏡を除いている人からそれを取り上げてた。
「な、何を?」
「失礼だと言った。」
双眼鏡を覗き込んで機体を観察していたグラハムが暫くして言葉を発した。
「ガン...ダム...やはりあのMSの名前はガンダムか?」
「ガンダム...なんという事だ。まさかこの世界にν以外に...至急エイフマン教授とレイ大尉に報告しなければ!」
「エイフマン教授...レイ大尉?カタギリ、一体なぜ君はガンダムを知っている?」
「...軍の極秘事項だ。今はまだ君にも話すことは出来ない。」
「なるほど。ならば仕方ない...どうやらガンダムが立ち去るようだ。またあの光...」
「推進力もなしでどうして...あのガンダムはやはりνとは異なる存在...」
立ち去ろうとしているガンダムを眺めていると撃破されたイナクトのコックピットからパイロットがはい出てきて何かを喚き散らしているようだ。その声が拡声器なしでもこちらに響いてきたのだから彼の声量はかなり高いと言えるだろう。
「なるほど、最新鋭機イナクト...パイロットの安全性は確かなようだ。しかしあのMS...軍備増強路線を行くAEUへの牽制...いや、警告ととるべきか。だとしてもここまでされてAEUが黙っているわけがない。」
同時刻 宇宙 ソレスタルビーイング輸送艦 プトレマイオス
「トレミーの周辺濃度、ミッションモード接続。エクシア、ファーストフェイズの予定行動時間を終了しました。セカンド・フェイズに入ったと推測します。」
「ちゃんとやれてんのか刹那は?」
「でなきゃソレスタルビーイングはそれまでって事で...」
「無駄口叩かないで!もうすぐサード・フェイズの開始時間です。」
トレミーのクルーがついに始まったソレスタルビーイングの活動の状況を報告している。スメラギ・李・ノリエガことリーサ・クジョウの仕事である作戦立案は今日よりソレスタルビーイングが全世界に武力介入することにおいてなくてはならない存在でありその責任も重い。
しかし彼女には気がかりなことがあった。それは本作戦の要、ソレスタルビーイングが活動するにあたってならなくてはならない存在である量子型演算処理システム、ヴェーダを用いてもユニオンに対する情報をハッキングすることが1年ほど前から困難になっていたことだ。
ヴェーダは2300年代においても世界最高の性能を有している量子コンピューターでありその情報ネットワークは世界中に張り巡らされている。
つまりはやろうと思えば世界中の端末にハッキングすることが可能なのである。ただしもちろんヴェーダといえどスタンドアローンで運用されている端末にはアクセスすることは不可能であるのだが。
しかし1年ほど前からユニオンの...特に軍事施設や軍事産業の極一部ではあるのだがそれらに対してハッキングすることが不可能になってしまっていた。理由は不明...ならばとエージェントを送り込んだりもしたのだがそれも空振りに終わってしまっていた。特に対象となっていたユニオンの軍事施設の警戒レベルは異常なまでに高く、エージェントが入り込む余地が無かったのである。
もちろんその施設に勤務している軍人などに対する様々な諜報活動...ハニートラップなども駆使されたのであるが接触できるレベルの職員や軍人は大した情報を持っていなかったようだ。
最も全くの空振りに終わったというわけではない。その施設において何らかの研究が行われており恐らくはそれが何らかの新素材...複合材料の研究らしいというのは分かったのだが得られた情報はそれまでであった。
彼女にとってそれはかなり気がかりであった。それに対してヴェーダからの明確な返答もない。もっともヴェーダ自体は高性能だがあくまで機械...自我などは存在せず判断は機械的である。
しかしたったそれだけのために計画を止めることは出来ない、ソレスタルビーイングとして全世界に私たちの主張を...イオリアの主張を宣言するために戦術予報士とはいえ私の独断だけで計画を止めることは出来ないのだ。