中東 スイール王国 王宮
スイール王国は中東の中でも随一の国力を保持しており太陽光発電実用化以後の中東においては唯一衰退することなく現在までその栄華を維持していたのだ。経済力、軍事力双方において三大国群以外の国を凌駕する国力を有しているのである。このような存在は中東以外を含めても珍しい存在であったのだ。
そして今スイール国王の要請によりアザディスタン王国の第一皇女、マリナ・イスマイールはスイール王国に訪問していたのである。
今回の訪問は本来なら国賓待遇で盛大に行われる予定であったのだが現在の情勢を踏まえ極秘に行われている...そのため側近であるシーリンと少数の護衛のみでスイール王国に訪問していたのである。そして何より会談自体はさらに厳しいセキュリティーが実施されており側近であるシーリンですら同行を許されなかった。
アザディスタンの方が国家としての格は下とはいえそのような事は本来であればあり得ない事でありシーリンは会談自体に反対していたが...それを私が押し切った形である。王族として楽観的な判断なのかもしれない、だけれど相手を信じられなければ話し合いなど不可能であると私は考えているのだ...それにスイール王国が私の命を狙うとも考えにくい。(シーリンから言わせればアザディスタン内部の保守派とスイールが関係している可能性がある以上危険であると言っていたが...)
しかしそれにしてもスイール王国はセキュリティーという観念が私達とは比べ物にならないほどに発展していると私は感じていた...至る所でバイオメトリックスによる認証が行われIDの確認はもちろん何の確認なのかは不明だが脳波検査すら行われていたのだからその力の入れようは流石情報産業で世界に君臨するスイールだと感じられたのである。
そしてスイール国王との会談の前にもう一人、ある人物との会談を行うことになっていたのである...その人物はスイール王国の顧問として雇われたと説明を受けていたがなぜ私と彼の会談を国王が希望したのかは謎である。
「皇女陛下に拝謁を賜りましたこと誠に我が身の幸運を祝福したい心地であります。」
目の前に跪き語り掛けてくるこの男性はどう見ても中東の人間では無いように見受けられるが...
「そんな...頭を上げてください...」
しかしこの男性は一体何者なのであろうか...何かこの人物からは不思議な雰囲気を感じるのである。それは危険な香りを伴っているようであり同時に好奇心をそそられるような感覚も感じたのである...
宇宙 ソレスタルビーイング輸送艦 プトレマイオス
私はその後例の件について専門家であるイアンに尋ねてみたのであるが...やはりと言うかその回答はあり得ないという言葉であった。
「...確かに月面には相当量のヘリウム3が埋蔵されていることは確かだ、そしてそれを利用したエネルギー機関である核融合炉を製造することは不可能ではないかもしれない...しかしMSの動力機関として採用できるほどに小型化するのはどう考えても不可能だ。」
イアン曰く極秘にユニオンが核融合炉の研究、開発をしていたとしてたった数年でMSに搭載できるほどに小型化するのは不可能であると断言したのである。そのイアンの判断はヴェーダとも一致したものであったのだ...ビリーの言葉を信じるのなら2年前に起こったとされる技術的ブレイクスルーはイアンとヴェーダの判断ではたとえそれが核融合炉関連の技術であったとしてもその規模は発電所を建設しなくてはならないほどの規模と予想されており艦艇ならまだしもMSのような機動兵器に搭載することは不可能であると結論づけられたのである。
しかし私はその答えを聞いて全く納得できていなかった、そして何より従来では考えられないことが実用化出来たからこそビリーは技術的ブレイクスルーなどと言う言葉を用いたのではないのだろうか...
ある程度の強硬策に打って出るべきなのか否か...私が思考を巡らせていたその時その情報は入ってきたのである。
それは中東情勢に関する情報であったのだ...なぜ今までその兆候を掴めなかったのか不明だがそれはとてつもなく重大な動きであり核融合炉の件に対応するのが先送りになってしまうことを意味していたのである。
もしこの時、中東情勢と同時にこちらの件にも対応出来ていたらと思う時がある...しかしこの時点で実在性が不明瞭な核融合炉などよりも確実に目の前に存在する問題に対処する事を優先してしまったことは当然の判断とも言えるのだ...もちろん後からではなんとでも言える、タラればを言い出したらキリがないことは自分自身が一番わかっているはずなのだ...しかしそれでも私はあの時の判断を後悔している。