日本 経済特区 東京
先ほどまでの静寂が嘘のようにそこに存在した平和は一瞬で崩れ落ちた。
かつては僕たちを救ってくれたソレスタルビーイングがどうしてこんなことを...
彼等の目的は戦争根絶だったはず...それならば何故日本を攻撃するんだ...
沙慈・クロスロードにはそれが理解できなかった...今までの武力介入を全て肯定しているわけではないがそれでも今までの彼等の行動にはなにか信念や理念、清廉さが感じられたのも事実である...しかし今目の前で繰り広げられている光景はそんなものなど微塵も感じられないものであったからだ。
ガンダムから発射されたビームが街路樹を掠めアスファルトに着弾する...ビームの熱が街路樹の葉をその熱量で燃やし尽くし、地面に着弾したビームはその粒子をまき散らし逃げ惑う人々に襲い掛かった。
東京の街を戦火が包んでいた...見上げれば赤い光を纏ったガンダムが発射したビームにより倒壊を始めたビル群が目に入った。
ビルが崩れ落ちる...黒煙を吐きながら、それはまるでこの世の終わりのような光景に見えたのだ。
その時に沙慈は見た、崩壊するビルから何かが零れ落ちるように無数に落下していくのを...
それは熱から逃れようと、息をしようと、最後まで生存をあきらめない人々がビルから身を乗り出す姿であった...
それを見て僕は立ち止まってしまった、人々が死から逃れるために自らの意志でビルから飛び降りていたのだ...
なんてことを...それが現実に起きていることであるとは信じられないような光景であった。
悪魔だ...あれは悪魔の力だ。
その光景を見て僕は体の力が抜けてしまうような感覚に襲われたのだ...一瞬立ち止まるだけのはずが暫く足を止めてしまった。
「沙慈!ねえ沙慈!」
ルイスが僕に呼びかける、なんだか時が止まってしまったような感覚に僕は陥っていた。
戦争...これが戦争...いや、これは戦争ですらない。
そして僕はその空間に君臨しているガンダムと目が合った気がしたのだ...あのガンダムは僕たちに銃口を向けようとしていた...
その時、あのガンダムが衝撃を受けよろけた、発射されたビームは明らかにぶれて僕たちが今いる地点の真隣あるビルに着弾...凄まじい轟音とともに瓦礫が頭上に降り注いだのである。
その時になって僕はようやく正気に戻ったと言えるかもしれない。
「ルイスッ!!」
僕は精一杯叫んだ、そしてルイスに覆いかぶさったのだ。
日本 経済特区 東京
日本国防軍はユニオン、米軍から大気圏を突入する物体に関する報告を受け、首都圏防衛のため小松、百里ベースからすぐさまスクランブルがかけられていた。
しかし国防軍の想定では日本に対する進行があるとして、それは洋上からであり、まさか大気圏を突入しての東京への直接攻撃があるなど想定外の事態であったのだ。
百里ベースに編成されている首都圏防空を担う第3航空団305飛行隊所属のリアルド編隊は、東京上空へ今まさに到達しようとしていた。
12機の編隊が東京上空へ到達したその時、彼等リアルドのパイロットが見たものはまさに地獄絵図そのものであった。
東京の街が戦場へと変わっていた...そしてそれは国防軍軍人として到底許しがたいものであったのだ。
この時点で既に攻撃許可は下りている...しかしガンダムから放出される特殊粒子の影響で通信が途絶しており、コマンドポストとの連絡はおろか同じ小隊の各機との通信すら困難になってしまっていたのだ。
困惑する各員であったが、ガンダムが地上に向けてビーム攻撃を行っており、既に状況は決定的なものとなっていたのである。
攻撃許可は下りている、すなわちオールウェポンズ・フリー
305飛行隊各員は各自の判断でガンダムに対して迎撃行動を開始したのだ。
発射されたリアルドのリニアライフルがガンダムに着弾し、のけぞらせることに成功する...しかしやはり予想されていた通り、目標に対してダメージを与えることは出来なかったのだ。
「リニアライフル命中...しかしターゲット健在、目標にダメージ認められず...」
隊員は通信が出来ないにも関わらずそう報告する...目標のガンダム各機を追い抜き旋回行動に入った3機のリアルドは再びガンダムを正面に捉えようとしたのだ。
しかしそれは叶わなかった、自らの視界の外、完全に死角から未知の攻撃がリアルドに襲い掛かったのだ。
ミサイルではない、まるで空中を縦横自在に駆け巡り、自らの刃でいとも簡単にリアルドを撃墜に追い込んだそれは、GNファングと呼ばれる全く未知の兵装であったのだ。
そして回避行動を取る各機のその行動むなしく次々撃墜されていくリアルド...
飛行隊の隊長がリアルドのコックピットで最後に眼にしたのは、コントロールを失いクルクルと回転しながら接近してくる東京の街並みであったのだ...