リニアトレイン公社 会長別荘
「事は全てあなたの予測通りに進んでいますな、Mrパプテマス。」
窓辺に佇む彼に対してラグナ・ハーヴェイはそう問いかける、恐ろしいほどに彼の予測は正確であり何よりも彼のその手腕、あらゆる分野に精通した才能...どれをとっても天才的と言わざる負えない。
「AEU議会において議長選出の動議が提出され恐らくは可決されましょうな...最も非常時大権まではやはりこれもあなたの予測通り英仏が難色を示しているようですが。」
「一応の纏まりがあるとはいえヨーロッパ各国は未だに己が国家に縛られ続けているということだ...この状況を変革させることこそが魂を重力から解放する一段階であるという事なのだよ。」
「俗人の私には少々難しい事柄でありますな。」
彼はAEUにおける権力掌握に動き出し遂にそのプランの最終段階が実行に移されようとしていたのだ...
そのプランはAEUという陣営の弱点を突いたものであったのだ。
AEUは文字通りヨーロッパ各国の集合体であり元首は存在せず、各国代表による協議制を採用した超大国である。同じく民主主義国家であるユニオンはアメリカ一国が絶大的な権力を有しており、そういう意味ではAEUはユニオンより民主的と言えるかもしれなかった。
しかしその裏を返せば経済規模による多少の発言力の差はあるにしても加盟各国がほぼ同等の力を有しているという事でもあり、それが宇宙開発やその他の政策でユニオンや人類革新連盟に対して後れを取っている最大の原因でもあったのだ。
既にドイツ・スペイン・イタリアやその他多数のAEU加盟国において我々の協力者は相当数存在している、さらにAEU出身であるソレスタルビーイングの監視者の何人かはこちら側に協力することを確約しているのであった。
それも当然の事である。
ソレスタルビーイングの監視者とは理念上中立の立場を取っておりその存在は監視者同士であっても互いの個人情報は秘匿されているのである。最もアレハンドロの件から分かるようにその理念が完全に守られているわけでは無かったのだが。監視者はお互いの素性を探り合っており完全匿名と言う建前は既に崩れ去っていると言っていいだろう。
その性質上監視者のメンバーは様々な分野の権威や著名人が多数存在しており先祖代々監視者を務めているような家系も珍しいものではなかった。
そして監視者はヴェーダへのレベル3までのアクセス件を保有しており全会一致という厳しい条件ではあるが拒否権や計画の中止に対する決定権を保有していたのであった。
そう、計画への拒否権...これがある意味では我々に有利に働いたと言ってもいいだろう。
イノベイター...いや、アレハンドロ・コーナーを裏で操っているイノベイド、リボンズ・アルマークが計画の主導権を握れば既に形骸化しているとはいえ人間に計画の拒否権を握られるということを許容するはずはない。そうなれば我々は排除されるのが必定であろう。
もはや監視者に崇高な理念を抱いている者は極少数、殆どの者は自らの権益や保身を最優先に考えており日和見主義的な者が多数を占めていたのだ。積極的に計画に介入しようとしているアレハンドロや私のような者は少数派と言えるかもしれなかった。
そういった日和見主義的思考の者をこちら側に引き入れることはさほど困難な事では無かったのである。危機感を煽りこちら側に着くメリットさえ提示すれば殆どの者は形ばかりの中立を捨て我々に協力することは当たり前のことであろう。
「イギリスにしてもフランスにしてもアレハンドロが操るスローネがAEUに武力介入を行えば態度も変えましょう。恐らく次の連中の武力介入は宇宙に存在するユニオンのコロニーに対して行われる可能性は高い...であるならば宇宙へスローネを輸送するためラ・トゥールまでの移動途中、ついでという形にAEU領内へ武力介入を行う筈ですな...アレハンドロやイノベイド連中は事を急いでいるのでありますから。」
非常時大権がAEU議長に付与されれば文字通り表裏全ての面でAEUを掌握することが可能である。
「ふっ、しかし時の運の動きと言うものもある。ある意味では障害はイノベイドではなくユニオンかもしれん。」
「ユニオン?確かにここ数年の彼らの動向は不明な点は多いですがな。彼らのコロニー内部は完全に秘匿されておりヴェーダですら状況を把握できてはおりません。」
「何事にも訳というものが存在するということだ。理屈もそうだがユニオンからは何か特別なプレッシャーを感じるのでな。」
「あなたがそうまで言うのなら対応を検討しなくてはなりませんな。最もアレハンドロがユニオンの秘密のベールを剥いでくれるやもしれませんが。」
「いずれにせよ計画の第一段階は終盤を迎えている。例の機体は準備出来ているな?」
「GN-Xα30機は1機のカスタム機も含め最終調整を完了しております。ご指示を頂ければ明日にでも配備を開始できましょう。」