英雄機ドランノーガ   作:兵庫人

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二度目の搭乗

「それではマスター。訓練を再開しましょう」

 

「ああ、分かった」

 

 昼過ぎの草原でピオンが言い、それに返事をしながらサイは内心で安堵していた。

 

(ピオン……もう落ち着いたみたいだな)

 

 早朝での訓練の時にサイの軍学校時代の話を聞いて、無表情のまま黒い憤怒の炎を燃やすピオンを宥めるのは本当に大変であった。なんとかホムンクルスの少女を宥めた時には日が完全に昇っており、サイは一先ず彼女を家に連れ帰ると、朝食と休憩をとってから訓練を再開した。

 

「今からするのはドランノーガの操縦訓練です。まずは歩かせるなど基本動作から初めていきましょう」

 

「分かったよ」

 

 サイはピオンの言葉に頷いて異空間に収納しているドランノーガを呼び出そうとして……、

 

「そして最終的にはドランノーガでアイリーンを始めとする大した力も無いくせにマスターを馬鹿にした者共をブッコロシニイキマショウ。ドランノーガを見て絶望の表情を浮かべる痴れ者共を、原形が無くなるまで何度も何度もドランノーガの脚部で踏み潰して、そしてその血肉を見下して『ざまぁ』と嗤ってやりましょう」

 

 ホムンクルスの少女から出た物騒極まる発言に固まった。

 

 一応は落ち着きを取り戻したピオンであるが、どうやら彼女の中でアイリーンを始めとするサイを見下してきた軍学校の生徒達は生涯をかけて復讐をする対象となったようだ。

 

「………」

 

 ピオンが何かを期待するような目で見てくるが、サイはそれを無視してドランノーガを呼び出した。これ以上この会話を続けていると、このホムンクルスの少女がまた暴走する危険を感じたからだ。

 

 というか現時点で笑顔のままドランノーガを使った虐殺を勧めてくるピオンが怖かった。怖すぎだった。

 

「冗談はいいから訓練を始めるぞ」

 

「むー。分かりましたよ……」

 

 サイが内心の恐怖を悟られないようにできるだけいつも通りの表情を作って言うと、ピオンは若干拗ねた顔をするが素直に従ってくれた。その事に安心した青年はドランノーガに命令して操縦席がある下半身の竜の胸部装甲を展開させるが、操縦席の様子を見て首を傾げた。

 

「あれ? この操縦席……昨日と違っていないか?」

 

 昨日入ったドランノーガの操縦席は、四角形の空間の中に椅子が一つあるだけだったのだが、今日見ると一つしかなかった椅子が二つ横に並んであった。

 

「二つある椅子のうち、左側がマスターの席で、右側が私の席なんですよ」

 

 昨日とは違う操縦席の様子にサイが首を傾げていると、彼の後ろに近づいてきたピオンが説明をする。

 

「ほら、昨日ドランノーガって私を食べた時に自己進化機能を発動させたじゃないですか? その時にコックピットもこんな感じに進化したんです」

 

 ピオンの説明でサイは、昨日ピオンを吸収したドランノーガが自己進化機能の効果で姿の一部を変化させたのを思い出す。だが変化したのは外見だけでなくコックピットの内部もだったらしい。

 

「成る程。そういうことか」

 

「納得していただいたところで早速乗ってみましょうか、マスター」

 

「そうだな」

 

 サイが左側の椅子に座ると続いてピオンが右側の椅子に座る。すると前方の展開していた胸部装甲が閉まり、それと同時に四方の壁がドランノーガの外の景色を映し出した。

 

「これは……凄いな!」

 

 操縦席の四方の壁が外の景色を映し出したのを見たサイは思わず声を上げて周囲を見回す。そんな彼にピオンが声をかける。

 

「マスター。前の画面を見てもらえませんか?」

 

「前の画面? 前の景色のことか?」

 

 ピオンに言われてサイは前方の壁が映し出しす景色に目を向ける。しばらく前の景色を見ていると、そこに見たこともない文字で書かれた文章が浮かび上がり消えていった。

 

「? ピオン、今のは……?」

 

「まだです、マスター。まだ前を見ていてください」

 

 今の文章の事を聞こうとしたサイだったが、ピオンは静かだがいつになく真剣な声で前を見続けるようにと言う。そして彼女に言われるままに前を見ていると、また別のやはり見たこともない文字で書かれた文章が浮かび上がって消えていく。

 

 文章が現れては消える。そしてまた別の文章が現れてはまた消える。

 

 現れる文章の数は最初のうちは一つだったが次第に二つ三つと増えていき、それと同時に文章が消えて次の文章が現れるまでの間隔も少しずつ短くなっていく。気がつけば何百何千といった文章が高速で現れては消えるのを繰り返し、前方の景色は無数の文章によって埋め尽くされていた。

 

「……………!?」

 

 その時のサイは何故か首を動かすどころか目を閉じることもできず、現れては消えていく何百何千……いや、何万何億といった文章を脳裏に刻み込まれていった。

 

「………! ……はぁっ! はぁっ……!」

 

 文章が現れた時間は僅か数十秒なのだがサイにはもっと長い時間に感じられ、ようやく前方の景色に文章が現れるのが終わると、予想外に体力を消費したようで俯いて荒い息を吐く。そんな彼にピオンは労わるような優しい口調で声をかけた。

 

「お疲れ様です、マスター。これでドランノーガに関する知識の習得は完了しました」

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