英雄機ドランノーガ   作:兵庫人

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アイリーンという幼馴染み

「あー、そういえばアイリーンさんは? お兄ちゃんに構ってくれなかったのー?」

 

 サーシャが自分と兄の幼馴染みであるアイリーンの事を思い出して聞く。

 

 アイリーンはサイの同郷の同級生で、更に言えば軍学校に誘った本人であるから普通に考えれば学生期間中に何度でも接触しそうだが、サイはそんな妹の言葉に首を横に振った。

 

「サーシャ。アイリーンが俺に気を使うと思うか?」

 

「んー。……ちょっとないかなー?」

 

 サイに聞かれてサーシャは少し考えた後、苦笑して答える。

 

 妹の目から見て兄と幼馴染みの間に友情や愛情といったものはなく(少なくとも幼馴染みの方には)二人の関係を端的に言えば「ガキ大将とその子分」だろう。もちろんガキ大将が幼馴染みで、子分が兄である。

 

 確かにアイリーンはこのイーノ村で生まれ育ったが、彼女の家は祖父の代で没落したかつてのフランメ王国の名門であり、彼女は物心がついた頃から祖父から貴族としての心構えや精神を教えられて育った。そのせいか昔からアイリーンには、村に順応した自分の両親を含めたイーノ村の住民を見下している所があった。

 

 サーシャはそんなアイリーンが同郷の同級生とはいえサイを気にかけるとは思えず、むしろ軍学校の学生と一緒に彼を見下して使いっぱしりにしている光景の方が容易く想像できる。というか軍学校に入学する前のアイリーンは、しょっちゅうサイを連れ回して使いっぱしりにしていたのを覚えている。

 

「アイリーンは没落したとはいえ立派な貴族だったし、異能も完全な戦闘向けだったからな。あっと言う間に軍学校に馴染んで半年くらいすると同学年にいた王族の学生に気に入られて、そこの家の援助を受けて士官学校に進学するのが決まったよ」

 

「えー!? それって凄いじゃない!」

 

 サイの言葉にサーシャが驚いた顔をする。辺境の地から来た没落貴族が王族に気に入られてその援助を受けられるというは充分に大出世と言えた。

 

「そうだな。だからアイリーンはその王族の側にずっといて、俺の事なんか眼中になかったよ」

 

 軍学校に入学して半年までの間は多少は会話をする事があったが、王族の同級生に気に入られてからはアイリーンは常にその同級生と行動を共にして、サイの事など忘れてしまったかの様に接触を取らなくなった。軍学校を卒業する前日に彼女に話しかけられたが二年と半年ぶりの会話というのが、

 

『サイ。私はイーノ村に帰らないから私の荷物を実家に届けておいて。貴方の役立たずの異能でもそれぐらいは出来るでしょう?』

 

 である。この言葉とアイリーンの表情からサイは彼女が自分に何の興味を持っていないことを改めて実感させられた。

 

 その事をサイが話すとそれまで黙って兄妹の会話を聞いていた父親が突然怒って叫ぶ。

 

「ふざけるな! どこまで人を馬鹿にすれば気がすむんだ! あの恩知らずの不良娘は!」

 

「ちょっとお父さん」

 

 怒声を上げる父親を母親がなだめる。

 

 不良娘というのはイーノ村の大人達がアイリーンを影で呼ぶ時の名前だ。彼女は名門の貴族の血を引いている事もあってか外見だけは非常に美しく、若い男にはそれなりに人気があるのだが、サイの父親を始めとする大人達には仕事も村の行事の協力もしない不良娘として嫌われていた。

 

「サイ、不良娘の家にはもう行ったのか?」

 

「いや、この後行こうと思っていたけど……」

 

 サイが首を横に振って答えると父親はまだ怒りが収まらないといった表情で言い放つ。

 

「だったら今の話をあの両親にも聞かせておけ。いいな?」

 

 X X X

 

「「本当にすまなかった」」

 

 アイリーンの実家にと行き彼女の荷物を届けた後、サイは父親に言われた通りにアイリーンの事を彼女の両親に話すと、両親に揃って頭を下げられた。

 

「いや、別にいいですよ。気にしないでください」

 

 サイはそう言うがアイリーンは頭を下げたまま非常に申し訳なさそうな声で言う。

 

「そう言うわけにもいかない。元はと言えばアイリーンがサイ君を軍学校に誘ったというのに……あの子がそこまで身勝手だとは思わなかった。……本当にすまない」

 

「俺は気にしてませんよ。確かにアイリーンに誘われたのもありますけど、軍学校に入学する事を決めたのは俺なんですから」

 

 この言葉は本当である。きっかけはアイリーンに誘われたことであったが「軍人になれば給料が貰えるし、ゴーレムトルーパーを間近で見られるかもしれないし、それに何より出世したら綺麗な女性との出会いがあるかもしれない」といった理由で軍学校の入学を決意したのはサイ自身なのだから。

 

 そこまで言ってようやくアイリーンの両親は頭を上げてくれたのだが、二人は何故か恐れる様な、すがる様な目をサイに向けていた。

 

「そ、それでサイ君? 借金の事なんだが……」

 

「借金? 何の事ですか?」

 

「ああ、サイ君は知らないのか……。アイリーンの軍学校の学費をサイ君のお父さんから借金しているんだよ」

 

「え!? そうなんですか?」

 

 初めて聞く話にサイが驚いた顔をして聞くと、アイリーンの父親は申し訳なさそうな表情をして答える。

 

「そうなんだよ。ウチにはとてもではないがアイリーンを三年間、軍学校に通わせてあげられる貯えがなくてね……。実はアイリーンがサイ君を軍学校に誘ったのも私達が原因なんだ。『サイ君を誘う事が出来たら軍学校に入るのを許す』って言ってね。……その、自分の子供も入学したらサイ君のお父さんに借金のお願いもし易いと思って……」

 

 徐々に声を小さくしながら話すアイリーンの父親の話を聞いてサイは、「あの」アイリーンが自分を軍学校に誘った理由を理解した。それと同時にここに来る前に自分の父親が彼女を「恩知らず」と罵った理由も理解出来た。

 

「……その、借金の話はアイリーンは知っているんですか?」

 

「以前に一度だけ手紙でその事を書いたのだが……。知っていたが無視した、あるいは軍人になってから返せばいいと思っているかもしれないな、あの子のことだから……」

 

(いや、それ以前に手紙を読んですらいないんじゃないか?)

 

 寂しそうに言うアイリーンの父親の顔を見ながらサイは心の中で呟いた。軍学校にいたアイリーンは、王族の同級生の側にいる事以外何の関心も持っていなかったから充分にあり得ると思ったが、流石にそれを目の前の二人に言うことはできなかった。

 

「……とりあえず話は分かりました。さっきも言ったように俺は気にしていませんし、借金の事もすぐに取り立てるのはやめてくれって父さんに言っておきます」

 

「サイ君、ありがとう。それと本当にすまなかった」

 

 サイがそう言うとアイリーンの両親はあきらかにほっとした表情をした後、娘の幼馴染に向かってもう一度二人揃って頭を下げた。

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