英雄機ドランノーガ   作:小狗丸

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朝の名物

 朝。日が昇り始めた頃、サイは士官学校の学生寮の自室で目を覚ました。

 

「……もう朝か」

 

「おはようございます、マスター♩」

 

「おはようございます、マスター殿」

 

「愛しのマスター、おはようございます」

 

「おはようございます、マスターさまー今日もお元気そうで何よりです」

 

 目を覚ましたサイが呟くと、それに気づいたピオンとヴィヴィアン、ヒルデとローゼが朝の挨拶を言う。四人のホムンクルスの女性達は衣服を全て脱ぎ捨てた裸の姿のままサイと同じベッドに寝ており、ピオンとヴィヴィアンはサイの体の上に自分達の裸体を乗せて、ヒルデとローゼはそれぞれサイの右腕と左手に抱きついていた。

 

「……ああ。皆、おはよう」

 

 サイは自分のすぐ目の前に広がっている極楽のような光景に心から幸せそうな笑みを浮かべてピオン達に挨拶を返すのだった。

 

 X X X

 

 早いものでアックア公国の士官学校と大学が新入生を迎えてから二ヶ月の時が過ぎた。

 

 二ヶ月も経てば新入生同士や新入生と先輩との間に交流が生まれ、生徒達は学生寮から士官学校もしくは大学に行くまでの間、挨拶と共にたわいない会話を交わしていた。しかし一人の生徒が「それ」に気づくと、それをきっかけに他の生徒達も「それ」に気付いて知らない間に視線を「それ」にと集中させる。

 

「サイだ……」

 

 生徒の一人が自分達の注目を集めている「それ」の、一人の士官学校の男子生徒の姿を見て呟く。

 

 サイ・リューラン。

 

 アックア公国の隣国であるフランメ王国から留学してきた留学生で、入学初日から様々な噂を持つ彼を、学園内で知らない者はいなかった。

 

「アイツ、今日は出てきたのかよ……」

 

 サイの姿を見て士官学校の生徒達、主に今年彼と同じ砲兵科に入学した生徒が不機嫌そうな表情となる。

 

 サイは入学二日目を最初に、時折授業を無断欠席する事がある。しかし砲兵科を始めとする士官学校の全兵科の教官達は、その事についてサイを注意する事がなく、もししても軽い注意のみである。

 

 教官達はサイに話しかける時には必ず緊張した表情となっており、その態度を見て彼の無断欠席には何か事情があるのは分かるが、それでもこうあからさまな特別扱いを見せられてはいい気がしない。それにサイの姿を見て生徒達が不機嫌そうな表情となる理由は他にもあった。

 

「いつ見ても綺麗だよな。何であんなヤツと……」

 

 顔を赤くした生徒がサイを、正確には彼の周囲にいる四人の女性を見ながら、彼女達に囲まれているサイへの妬みの声を漏らす。

 

 サイの右側で興味があるものがあればそれに近づき、そしてすぐにサイの元に戻るのを繰り返すヴィヴィアン。

 

 主人である青年の鞄を代わりに持ってサイの右斜め後ろについて歩くヒルデ。

 

 自分に視線を向けてくる男子生徒に色香を感じさせる微笑みを返しながらサイの左斜め後ろを歩くローゼ。

 

 そしてサイの左腕にまるで恋人のように体ごと抱きつきながら歩くピオン。

 

 四人とも非常に整った顔立ちと体型をしており、絶世の美女と呼んでも過言ではない。その為、男子生徒達に一部の女生徒達がピオン達を憧れの目で見て、それと同時に彼女達四人を侍らせているサイに嫉妬の視線を送るのは無理がない事であった。

 

 しかもサイの周囲にいる美女四人は、彼に強い親愛の情を懐いているのが見るだけで分かり、特にピオン。入学初日からサイの側にいた彼女は元から彼に愛情を見せていたが、ある日を境にその感情が更に強くなったみたいで今の様により密着するようになり、恋する乙女の様な表情は彼女の美貌をより際立たせて、それが周囲の嫉妬を強くしていた。

 

「なぁ、彼女達ってホムンクルスなんだろ? あの前文明の遺産の?」

 

「ああ、何でも曾祖父さんが見つけたやつを実家の蔵で見つけてマスター登録したみたいだぜ」

 

「いいな~。俺の家の倉庫にもホムンクルスが眠っていないかな?」

 

「確かに羨ましいよな……。ホムンクルスって、体は人間と同じなんだろ? マジでハーレムじゃないか」

 

「俺はそれより無断欠席しても怒られない方が羨ましいよ。普通無断欠席なんてしたら死ぬほどの罰をくらって最悪退学なのに、サイはお咎めなしなんだからさ」

 

「そうだよな。いつもだったら鬼のように厳しい教官達もサイには強く言わないしな……」

 

 学生達がピオン達四人を引き連れて歩いて行くサイを見ながら話す。その言葉はサイやピオンの耳にも届いていたのだが、もはやいつもの事なので彼らの反応は特になかった。

 

 本人達が何も言わないのをいい事に、生徒達はサイ達の噂を口にする。そのほとんどは彼を羨み、嫉妬する内容であったが、最後には全員同じ言葉を口に出す。

 

 結局、サイって何者なんだ?

 

 隣国のフランメ王国の貴族ではあるらしいが、サイの実家は貴族とは名ばかりで平民と同じ暮らしをしている貧乏男爵家だという。しかしこの、比較的裕福な家の出しか入学出来ないアックア公国の士官学校に留学し、教官達から明らかな特別扱いを受けている。

 

 更にサイが連れているピオンを始めとする四人のホムンクルスなのだが、今動いているホムンクルスのほとんどは感情が希薄な「生きている人形」といった感じのもので、彼女達のように感情豊かなホムンクルスなんて聞いた事もなかった。

 

 これらの情報は、生徒達に嫉妬の感情と共に好奇心を懐かせるには充分で、気がつけば生徒達は士官学校の校舎へ向かうサイ達の背中を見送っていた。

 

 サイと彼に従う四人のホムンクルス、ピオンとヴィヴィアン、ヒルデにローゼ。彼ら五人の登校は、この士官学校と大学が一つになったアックア公国の学園の名物になりつつあった。


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