英雄機ドランノーガ   作:小狗丸

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図書館での会話

「なるほど。それはとても興味深い話ですね」

 

 サイが学生寮の自室でピオン達が使えるようになった新機能の実験をした次の日。授業と訓練を終えた夕方に、図書館にいたブリジッタに昨日の実験の話をすると、彼女は非常に興味深そうな表情となって頷いた。

 

「ブリジッタはピオン達が使えるようになった機能について知っている事はないか?」

 

「ええと……」

 

 サイに聞かれてブリジッタは少し困った顔になって首を横に振る。

 

「ごめんなさい。私もホムンクルスについてはいくつかの文献で知ってはいますけど、ピオンさん達にも分からない事はちょっと……」

 

「そうか。じゃあやっぱりこのまま実験をして効果を確認するしかないか」

 

「そうですね。それにしても本当に興味深いことです」

 

 詳しい情報は得られなかったがあまり落胆していないサイの言葉にブリジッタは頷くと、もう一度ピオン達の新機能を興味深いと言う。

 

「ピオンさん達、ホムンクルスの額にある金属製の角は、脳の情報処理を補助する機能だけでなく周囲の情報の感知する機能があるというのは、前文明の文献や現存するホムンクルス達の証言から知られていましたが、まさかそんな機能まであったなんて……。これはピオンさん達だけが使えるようになったものなのか、それとも今まで知られなかったものなのか……」

 

 学者のような顔になって自分の考えをまとめるブリジッタを、サイ達は少し驚いた顔で見てピオンが話しかける。

 

「ブリジッタさんは本当に私達ホムンクルスを、というか前文明について詳しいのですね」

 

「え? ええ、そうですね。私、子供の頃から前文明に興味があって……。ですからピオンさん達から前文明の詳しい出来事を聞けるのはとても興味深いです。特にモンスターは前文明が開発した生物兵器だと知った時は本当に驚きました」

 

 ピオンに声をかけられて自分の世界に入っていたブリジッタは我に帰って返事をする。

 

 本人が言ったように前文明に強い興味を持っているブリジッタは、子供の頃から前文明について調べていた。最初は家にある前文明について書かれた書物を読む程度であったが、時が経つにつれて調べる内容は深くなっていってもはや「調べる」ではなく「研究する」と言った方が適切なレベルとなり、今では前文明を専門に扱っている歴史学者と同等の知識を持っていた。

 

 ブリジッタが大学の授業が終わると必ず図書館に来るのも、大学の勉強の為ではなく前文明の研究の為で、前文明の詳細な情報を持っているピオン達との会話は非常に有意義なものであった。

 

 その後もピオン達から前文明の事を楽しそうに聞くブリジッタに、サイは以前より気になっていた事を聞く事にした。

 

「なぁ、ブリジッタ?」

 

「何ですか、サイさん?」

 

「何でブリジッタはゴーレムトルーパーと操縦士を怖がっているんだ?」

 

 以前ブリジッタの叔母でありアックア公国のゴーレムトルーパーの操縦士であるビアンカは、彼女がゴーレムトルーパーとその操縦士である自分を怖がっていると言っていた。

 

 しかしゴーレムトルーパーもまた前文明の遺産の一つで、他の遺産と同様に前文明の研究をする重要な資料である。それを前文明の研究をしているブリジッタが怖がる理由がサイには分からなかった。

 

 だからサイはこの場でブリジッタに聞いてみたのだが、彼女から返ってきたのは予想もしていない返事だった。

 

「え? 私がゴーレムトルーパーを怖がる? そんな事あるはずがないじゃないですか?」

 

 何を言っているのか分からないという顔をするブリジッタに、サイもまた訳が分からないという顔となる。

 

「何? だってビアンカ様はブリジッタがゴーレムトルーパーと自分を怖がっているって言っていたぞ?」

 

「……ああ、その事ですか」

 

 サイの言葉にブリジッタは一瞬気まずそうな顔をしてから彼の目を見る。

 

「重ねて言いますが私はゴーレムトルーパーを怖がってはいません。ゴーレムトルーパーは現存する前文明の遺産で最高の状態を保つ資料であり、人類が作り出した最高の芸術品です。そしてそれを操ってこのアックア公国を護るビアンカ叔母様も尊敬する事はあっても怖がる事などあり得ません」

 

 サイの目を見ながら言うブリジッタの声は真剣なもので、その言葉に嘘偽りなどない事が分かる。だがだからこそ余計に分からない事があった。

 

「じゃあ、どうしてビアンカ様を避けているんだ? 俺やピオンの時だって最初は中々話しかけてこなかったじゃないか?」

 

「それはゴーレムトルーパーの操縦士であるサイさんとピオンさんに気安く話しかける事が畏れ多かったからです。この図書館で初めて声をかけた時だって勇気をふりしぼったのですよ? ビアンカ叔母様の件は、その……」

 

 そこまで言うとブリジッタは顔を赤くして顔を伏せる。

 

「子供の頃、ビアンカ叔母様と一緒にヴァイヴァーンに乗せてもらった事があったのですが……その時に色々ありまして……。その事が忘れられず……合わせる顔がなかったと言いますか……」

 

 言っている内にブリジッタは、ビアンカと一緒にゴーレムトルーパーに乗った時の出来事を思い出して、赤かった顔が更に赤くなり言葉も徐々に小さくなっていく。

 

「と、とにかく! 私がゴーレムトルーパーやビアンカ叔母様を怖がっているなんてあり得ませんから! それでは失礼します!」

 

 やがてブリジッタは自分の中にある羞恥の感情に耐えきれなくなって、それだけを言うと逃げるようにサイ達の前から去って行くのだった。


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