英雄機ドランノーガ   作:兵庫人

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剣術訓練

「はああっ!」

 

「やあっ!」

 

 サイがアックア公国の士官学校に入学してから三ヶ月が経った頃。フランメ王国王都リードブルムにある士官学校の校庭では、何人もの学生達が気合の入った声を上げていた。

 

 今日、フランメ王国の士官学校では全兵科合同の剣術訓練が校庭で行われていた。生徒達は教官に指名された者同士で二人一組になると、お互い相手に向かって訓練用の木剣を振るい練習試合を行う。

 

 剣術の訓練はどの兵科でも行われている必修科目の一つである。その上、今日のような全兵科合同の訓練では軍の人間が視察に来る事があり、訓練の成績次第では士官学校卒業後の軍の配属に影響が出る事もある為、生徒達は皆真剣に訓練を行っていた。

 

 そんな生徒達の中で好成績を修めているのが槍兵科と騎兵科の生徒である。

 

 槍兵科は長槍を構えて敵が自軍の陣地に侵入してくるのを防ぐ防衛戦であり、剣を使った近接戦を行う機会が他の兵科よりも多い為、剣術の訓練に力を入れていた。

 

 そして騎兵科は剣と銃を装備し、騎馬の機動力をもって戦場を駆け巡り戦う遊撃部隊で、槍兵科と同じくらい剣を使う機会が多い為、こちらも剣術の訓練に力を入れている。

 

 ちなみに騎兵科は軍内で最も人気のある花形とされている。これは騎兵科が敵陣への強襲から偵察や伝令と様々な場面で活躍出来る事と、惑星イクス最強の兵器ゴーレムトルーパーと同じ「動物に乗って戦う姿」が縁起がいいとされているからである。その為、騎兵科を希望する者は非常に多く、自然と騎兵科は大勢の希望者の中から選ばれたエリート揃いとなる。

 

 そして訓練で好成績を修めている槍兵科と騎兵科であるが、そのほとんどの生徒が人間離れした速度で動き剣を振るっていた。

 

「超人化」の異能。

 

 自身の肉体を強化して人間離れした身体能力を発揮できるようになる異能。槍兵科と騎兵科の生徒のほとんどはこの「超人化」の異能の使い手であった。

 

「よお」

 

「ああ、お疲れ」

 

 練習試合で試合相手の生徒をほんの数十秒で倒した槍兵科の生徒が、同じく試合相手の生徒をすぐに倒した騎兵科の生徒に話しかけて、彼もそれに返事をする。彼らは三ヶ月前までは同じ軍学校に通っていた同級生であった。

 

「余裕だったな」

 

「当然だろ? 俺達には『超人化』の異能があるんだ、同じ『超人化』の異能を持つ奴以外にはそうそう負けたりしないさ。……もっとも」

 

 槍兵科の生徒に騎兵科の生徒はそう答えると、ある方向に視線を向けた。騎兵科の生徒の視線の先には練習試合を行っている男女一組の生徒達がいた。

 

 男子生徒も女子生徒も「超人化」の異能の使い手で、人間離れした速度で凄まじい戦いを繰り広げているのだが、戦いは女子生徒の方が優勢であった。男子生徒の剣を危なげなく防ぎ、やがて相手の剣を弾き飛ばして自分の剣を相手の喉元に突きつける女子生徒を見ながら騎兵科の生徒は呟くように言った。

 

「それでもアイリーンに勝てる気は全くしないけどな」

 

「同感」

 

 騎兵科の生徒の言葉に槍兵科の生徒も頷く。今男子生徒に勝った女生徒、アイリーン・クライドもまた三ヶ月前までは騎兵科の生徒と槍兵科の生徒と同じ軍学校の同級生で、アイリーンと同じ学年にいた生徒で彼女の実力を知らない者はいなかった。

 

 最初、軍学校に入学したばかりのアイリーンは「クライド家の生まれ」という理由で周囲から遠巻きにされていたが、彼女はすぐに自身が持つ「超人化」の異能の力と剣の腕で、自分を侮る生徒達を黙らせた。その軍学校では戦闘能力が高い者が優遇される風潮があり、力を示して見せたアイリーンは同級生だけでなく教師からも一目置かれる存在となったのだ。

 

「……そういえばアイリーンで思い出したけど、サイの奴はどうしたんだ?」

 

 槍兵科の生徒が口に出したのはアイリーンと一緒に入学した彼女と同郷の同級生の名。

 

「さあな? アイツの家、貧乏男爵家だしアイリーンのように援助を受けられるはずなんてないから、さっさと軍に入隊したんじゃないか?」

 

 槍兵科の生徒の言葉に騎兵科の生徒が答えるが、彼の言葉と表情には強い嘲りの色が見えた。

 

 先にも言ったが、この二人の生徒とアイリーンが通っていた軍学校では戦闘能力が強い者が優遇される風潮がある。その為、使える異能が戦闘に向かず、何の後ろ盾もないサイは軍学校の同級生達に下に見られていた。そしてこの槍兵科の生徒と騎兵科の生徒も軍学校時代にサイを馬鹿にしていて、それは今も同じであった。

 

「ははっ! 軍学校から軍に入隊したんじゃまだまだ下っ端だろ? 俺達が卒業したらサイの奴を部下にしてやるってのはどうだ?」

 

「ああ、それはいいな」

 

 軍学校を卒業して軍に入隊しても一番下からではないが、下から二番目くらいの階級からのスタートになる。それに対して士官学校を卒業した者は軍に入隊すると最初から少尉の階級が与えられる。

 

 槍兵科の生徒と騎兵科の生徒は、将来自分達の部下になっているサイの姿を想像して嘲りの笑みを浮かべた。

 

 X X X

 

 槍兵科の生徒と騎兵科の生徒が笑っていた頃。アックア公国の士官学校でも生徒同士の剣術訓練が行われていた。

 

「ぶひぃいいっ!?」

 

「馬鹿なボインスキーがやられただと!?」

 

「ボインスキーは『超人化』の異能の使い手で上位の剣の使い手なのに!」

 

 一対一で行われる生徒同士の練習試合で一撃で倒された男子生徒、ボインスキーの姿に練習試合を見学していた生徒達達が驚きの声を上げる。

 

 そしてボインスキーを一撃で倒したのは、アックア公国の隣国フランメ王国からの留学生サイ・リューランであった。彼は自分が今さっき手に持っている木剣を腹に叩き込んで気絶させたボインスキーを見て、驚いた顔をしていた。

 

「まさか、『超人化』の異能を使った相手にあっさりと勝てるだなんて……」

 

 サイは自分の体が、ドランノーガに初めて乗った時にナノマシンによって強化されている事を理解していたが、実際に「超人化」の異能の使い手と戦う事で自分がどれだけ強くなっているかを実感することになった。

 

 

 

 フランメ王国の士官学校でサイの事を嘲笑っていた二人の生徒は知らない。

 

 今のサイが自分達が知るかつてのサイ・リューランとは全く違う存在となった事を。

 

 サイが「超人化」の異能の使い手すらもあっさりと倒せる力だけでなく、ゴーレムトルーパーという一国すらも滅ぼせる力を手に入れた事を。

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