英雄機ドランノーガ   作:兵庫人

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ホムンクルスの少女

 美しい。綺麗。可憐。愛らしい。妖艶。

 

 サイの脳裏にそんな言葉の群れが浮かび上がる。それは目の前にいる水槽の中の少女を見た彼の率直な感想であった。

 

 水槽の中の少女は外見の年齢は十代後半くらいであったが、小柄な体格と幼さを残している顔立ちもあって十代前半にも見えた。

 

 顔立ちはまるで作られたかのように整っており、鮮やかな赤紫色の髪も目を引いた。そしてサイより頭一つ低い身体は胴体や四肢の長さが完全な黄金比を保っていて、胸部には彼女の頭部くらいはありそうな大きさの乳房が二つ豊かに実って母性を象徴していた。

 

 そんな「一糸纏わぬ姿」で水槽の中で眠っている少女をしばらく無言で見つめていたサイは……、

 

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

 と、頭を勢い良く下げて水槽の中の少女にお礼を言った。

 

 サイは今日までサーシャとアイリーン以外ろくに女性と話した事がなかった。しかもサーシャは妹だし、アイリーンは命令をするだけでまともな会話をした事なんて数えるくらいしかなく、そんな彼に水槽の中の少女の裸体は少々刺激が強すぎたらしい。

 

「はっ!? そ、そうじゃなくてこの子生きているの? この水槽、どうやったら開くんだ!」

 

 正気に戻ったサイが慌てて少女が入っている水槽に駆け寄ろうとする。その時に彼の手が偶然、水槽の前に設置されていた台座に触れ、それと同時に水槽がうなり声のような駆動音を出す。

 

「……え? 何だ?」

 

 足を止めるサイの目の前で水槽の中の水が瞬く間になくなっていき、少女の体が水槽の底に力なく降りて水槽のガラスにもたれかかる。そして中の水がなくなると今度は水槽のガラスがゆっくりと上に上がっていき、支えをなくした少女の体が地面に倒れそうになったところをサイが慌てて受け止めた。

 

「危ない! おい、ちょっと君! 大丈夫?」

 

「………」

 

 水槽の中から解放された少女を受け止めたサイは、何度も少女に呼びかけて体を揺すってみる。すると少女はゆっくりと目を開いてそれを見たサイが安堵の息を吐く。

 

「よかった。目を覚ましたんだね」

 

「……貴方が、私のマスターですか?」

 

「マスター? 一体何のこと?」

 

 無表情のままで言う少女の質問にサイが訳が分からないと首を傾げると、少女はもう一度質問をした。

 

「……質問を変えます。保存カプセルを解放して私を起動させたのは貴方ですか?」

 

「保存カプセルってあの水槽のこと? ……それだったら多分、俺だと思う」

 

 サイがためらいながら質問に答えると、少女は相変わらず無表情で感情が見えない目で彼の顔を見てから一つ頷く。

 

「そうですか。分かりました」

 

「分かったって、何……んむっ!?」

 

「……ん」

 

 少女に今の言葉の意味を聞こうとしたサイだったが、少女は両手で彼の顔をつかまえると自分の唇をサイの唇に重ねた。

 

「…………!?」

 

 突然の出来事に驚いたサイは反射的に少女から離れようとするが、少女の手の力は異様に強くて逃げることは許されなかった。そしてサイと少女が唇を重ねてから一分くらいの時間が経つと、ようやく少女はサイを解放する。

 

「き、君は何を……!?」

 

「あら? そんなに怒らないでください。唾液からマスターの遺伝子情報を読み取ってマスター登録をしただけですよ」

 

「……え?」

 

 何か言おうとしたサイだったが、先程までの無表情とはうって変わって愛想のいい笑みを浮かべる少女に意表を突かれる。

 

「何だか雰囲気変わってないか? それより遺伝子情報? マスター登録って……?」

 

「はい。私は『ホムンクルス』ですから。起動してまず最初にマスター登録を行うのは当然のことです」

 

「ホムンクルス……?」

 

 サイは少女の言葉に一つ気になる単語が混じっていたことに気づく。

 

 ホムンクルス。

 

 それは前文明の技術によって作られた人造人間のことである。ホムンクルスは機械の骨格と人と同じ血肉を持ち、人間を遥かに超える身体能力をもって己の主人を守り、また主人には絶対服従であると言われている。

 

 そしてこれは噂だが、今も前文明の遺跡ではごく稀に休眠状態のホムンクルスが見つかっており、一部の王族や貴族は自分の護衛としてホムンクルスを側に置いてあるという話を聞いたことがあった。

 

「君がホムンクルス? ……本当に?」

 

「本当ですよ。その証拠にほら」

 

 信じられないといった表情をするサイにホムンクルスだと名乗る少女は自分の前髪をめくって額を見せた。するとそこにはホムンクルスの証である金属製の小さな角が一本生えていた。

 

「ホムンクルス……初めて見た」

 

 知識では知っていたが実物を見るのは初めてのサイに、ホムンクルスの少女は姿勢を正し、深々と頭を下げながら挨拶をした。

 

「私はここで作られた『ペオーニエ・タイプ』のホムンクルス。そして私を起動させてくれた貴方様は今この瞬間から私の所有者となりました。どうかこれから先、私を存分にお使いくださいマスター」

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