英雄機ドランノーガ   作:兵庫人

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エレナ・キャンダルという女

「あーーーーー! もう、ムカつく!」

 

 アルベロ達と別れて学生寮の自室に戻るなりエレナは、アルベロを初めとする自分の取り巻き達には決して見せない素の自分をさらけ出して怒声を上げる。彼女が怒っている原因は当然ピオンとの会話であった。

 

「何なのよ、あのホムンクルスは! 何がお断りしますよ! 何がご友人に相応しくないよ! 誰に魅力がないですって!?」

 

 ピオンに言われた言葉を思い出し、はらわたが煮えくりかえる程の怒りを覚えたエレナは、その怒りを言葉にして吐き出す。

 

「大体あのサイって奴もそうよ! 自分のホムンクルスなんだから止めなさいよ! 何、私みたいな美少女に暴言を言っているのをボケっと見ているのよ! そもそも、せっかく私が貴方みたいな地味で影が薄くて見るからに童貞なダメ男に友達になってあげましょうかって言ってあげているのに、何で無反応なのよ!?」

 

 ピオンの次は彼女の主人であるサイに向かって怒りの言葉を吐くエレナ。しかし彼女の怒りはまだまだ収まらず、怒りの言葉にまだ続く。

 

「というかアルベロ達はどっちの味方よ! 全員あのホムンクルスの胸に目を奪われて! 私の弁護をしてるつもりみたいだけど、弁護になっていないじゃない! 正直、貴方達の言葉が一番腹が立ったわ!」

 

 今度はアルベロを初めとする自分の取り巻き達に向けてエレナは怒りの言葉を吐く。彼女の怒りは収まるどころか、言葉にして確認する事でむしろ更に強くなり、怒りの言葉を吐く速さも上がっていく。

 

「あのビークポッドって奴も『貧乳には興味がない』とか言うし! 私は貧乳じゃなくてスレンダー体型なのよ! この完成された体が目に映らないのかあのハゲ! 初めて私と会う奴はどいつもこいつも皆、私の胸を見て残念そうな顔をするし! 乳か! 乳なの!? 胸が小さい女には人権がないとでも言うの! ふざけんな! 胸だけで女の価値なんて決めるな! 乳なんて脂肪なの! 贅肉の一種なの! お腹の贅肉は軽蔑の目で見るくせに、何で胸の贅肉は羨望の目で見るのよ、世の男どもは! 巨乳をありがたがる男なんて全て股間の大事なものが腐り落ちてしまえばいいのよ! 巨乳を自慢する女なんて胸の脂肪が爆発すればいいのよ! というか死ね! 死んでしまえ! 巨乳をありがたがる男や巨乳を自慢する女は全て死んでしまえ! いいや、むしろ『巨乳』という概念を作ったこんな世界なんて滅んでしまえ!」

 

 どうやらエレナは胸に関してかなり思う事があるらしく、巨乳に関係する世間の男女、果てには世界そのものに向かって怒りの言葉を吐く。そうして時計の長針が一周するくらいの時が経った所で、ようやく怒りも収まってきたらしく、彼女は荒い息を吐きながら怒りの言葉を止めた。

 

「はぁ……! はぁ……! ま、まあいいわ……。それにしても本当にあのサイって奴が『ゴーレムトルーパーの操縦士』なのかしら?」

 

 息を整えて気持ちを落ち着かせたエレナは、サイの顔を思い出しながら呟く。彼女が今口にしたのは、このアックア公国と隣国のフランメ王国でも一部の者しか知らない筈の軍事機密である。

 

 エレナがこの情報を耳にしたのは本当に偶然、というか予期せぬ事であった。

 

 この学園で色んな意味で有名人のサイ・リューラン。アルベロ達と同じように自分の「駒」にしておけば何処かで役に立つかと考えたエレナは、サイ達に話をする前にまず彼の隣の席であるボインスキー子爵家の子息にサイの話を聞いてみることした。

 

 話を聞かれたボインスキーはサイに対して思うところがあったのか、大の女好きだの、いつもピオン達みたいな美女を侍らせて羨まけしからんだの熱く語り、それを聞いていたアルベロが次のような言葉を呟いたのだ。

 

「ふん。栄えあるゴーレムトルーパーの操縦士がなんと浅ましいことだ」

 

 アルベロが呟いた言葉にエレナだけでなく、彼女の取り巻き達やボインスキーも驚きで声をなくした。

 

 アルベロの実家であるワーキウ家は軍属の名門であり、彼の祖父は現役の上級将校で、サイ達の秘密を知る数少ない人物であった。アルベロは祖父が家族と話す数少ない会話からこの秘密に辿り着いたのだが、それをこのような場で簡単に口するなど迂闊にも程があるとエレナは思う。

 

 ボインスキーとの会話を終えた後、エレナはアルベロが口した情報の真偽を確かめる意味も兼ねてサイに話しかけたのだが、結果は彼に従うホムンクルスの少女の挑発で頭に血が上り、ぼろを出す前にその場を立ち去る事になってしまった。

 

「何だか思い出したらまた腹が立ってきた……。でも何でサイとビークポッドには私の『魅了』の異能が効かなかったのかしら?」

 

『魅了』の異能。

 

 自分に対する好感度を増幅することで相手を魅了する異能。それがエレナの持つ異能であった。

 

 この異能の力でエレナは富豪の養女になってこの士官学校に入学できたし、アルベロ達のようなアックア公国で有数の貴族の子息達の寵愛を婚約者を差し置いて独占する事が出来た。しかしサイとビークポッドは、話をしている間ずっと「魅了」の異能を使っていたのに効果は現れなかった。

 

「私に少しでも好意があれば異能の効果が現れる筈なのに、それが現れないって事は私に全く興味がないってこと? ……………もしかして」

 

 サイとビークポッドに自分の異能が効かなかった理由を考えていたエレナは、ふとある事に気付いて自分の胸に視線を向けて額に青筋を浮かべる。とりあえずエレナ・キャンダル、正解とだけ言っておこう。

 

「……はぁ、ヤメヤメ。あんな近いうちに股間が腐る奴らの事なんて考えるのは止めよう」

 

 そう言ってサイとビークポッドの顔を頭から追い出したエレナは、自分の机にあった物を手に取って見る。

 

「ふふっ♪」

 

 エレナが笑みを浮かべながら見るのは、大粒の宝石のネックレス。宝石だけでなく周囲の銀細工も非常に精巧で、見ただけで高価な品物だと分かる。

 

 そのネックレスは元々、アルベロが婚約者のブリジッタの為に用意していたものだったのだが、異能の力で魅了された彼は「あんな考古学にしか興味を持たない根暗な女より君の方が相応しい」と言ってエレナに贈ったのだった。

 

 見れば彼女の机の上にはアルベロ以外の取り巻き達から贈られた宝石や装飾品の数々が置かれていた。その中に本来は彼らの婚約者に贈られる筈の物が混じっているかと思うと、エレナは何とも言えない優越感を感じて笑みを深くする。

 

「ふふん♪ やっぱり最高よね、私の『魅了』の異能は。この異能のお陰で私は贅沢三昧出来るし、男も選り取り見取り♪ ……あっと、いけない。これからデートの約束があるんだった」

 

 部屋に帰ってきたばかりの時とは真逆の上機嫌になったエレナは、デートの約束をした男に会いに行く為街へ出る準備をする。士官学校の生徒は特別な理由が無い限り、学校の敷地外へ出る事は禁じられているのだが、彼女には関係なかった。

 

 門の警護をしている守衛や当直の教官は既に魅了済みであり、士官学校だけでなく大学の生徒や教師のほとんどはエレナに魅了されていたのだった。

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